第27話 鋼の守護神
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押し迫る夕闇の中で議事堂の前にずらりと並んでいた銀色の壁が、どんどん薄くまばらになっていることに、トナカンダーもアモクも、そしてゴリアントすら気づいていないようだった。そして盾の持ち主が濃紺の防護服から迷彩服に徐々に変わってきていることも‥‥。

2匹の怪物は前より容易く障害物を除去していた。入れ替わり立ち替わり目の前に出てくるのだが、捕まえようとすると逃げてしまう。だが彼らの目的は目の前にある建物に入ることだったから、そんなことはどうでもかまわなかった。
人垣の弱い処、弱い処と押し込んでいきながらトナカンダーとアモクは中央部分に寄っていった。ゴリアントは二人の部下のあとからのったりとついていく。左右にいる地球人の群れはもはや何もしかけて来ない。大勢の敵を両脇に平伏させて最重要拠点にいざ踏み込まんというお定まりのシーンに、ゴリアントの両の口角がにいっと吊り上がった。

トナカンダーが建築物の入り口に手をかけた瞬間、いきなり周囲が明るくなった。ゴリアントは驚いて振り返ったが白さに目が眩んだ。強烈な光に包まれて周囲が何も見えない。と、左右から何かが飛んできて爆発し、3体は爆風に煽られるようにぶつかりあった。ゴリアントが足元にころりと転がった2つの固まりに気づき、蹴り返したら爆発音と人間の悲鳴が上がった。かっとして叫んだ。
「後ろだ、やっちまえ!」

ゴルリンたちがぴんっと跳ね起きると巨体に似合わぬ敏捷さで都庁方向に走り出す。ゴリアントは光に向かって得物を思いっきり投げた。正面でがしゃん!という音がして光が少し淡くなる。アモクの左手が一閃し、何人もの苦痛の声があがった。だが、その時は既に次の号令が出されていた。

3体の真っ正面から、5.56mmの弾丸がシャワーの様に降り注いだ。




議事堂を背にして立てば正面には半円型の低いステージがある。その北側の11号線高架の下あたりに風間たちは移動していた。"カナリア"経由の俯瞰映像は警察にとって極めて貴重だった。西条がすぐ脇で外部とのチャネルを担っている。風間は赤星の状況報告を聞き、西条と調整しながら機動隊に指示を飛ばし続けていた。風間はトランシーバーに徐々に撤退するように指示を出しながら、時々拡声器に向かって「議事堂を絶対に守れ!」と檄を飛ばすのだった。

そこに一人の迷彩服の男がやってきた。がっちりした身体にかっちりと礼儀正しいその男は、第一普通科連隊の中山二等陸尉と名乗った。既に機動隊員と自衛隊員の無線の帯域は合わせてあった。議事堂側でスパイダルの怪人たちを惹きつけている機動隊員が徐々に「A隊」と入れ替わった。都庁側では数人でなければ運べないような大型の火器が続々と準備されていた。既に機動隊の手で11号線上やステージの付近に投光器が準備されている。

風間と中山は"カナリア"のモニターをじっと見ていた。3体の怪物が都庁前広場の最深部、議事堂の中央入口に到達した瞬間、中山がトランシーバーに向かって怒鳴った。
「アタック!」
同時に投光器のスイッチがはいり、怪人の周囲にいた自衛官が手榴弾を投げつけながら後退した。タイミングの悪かった数発が投げ返されて被害が出たが、周囲の人間が避難する間、3体の怪物に足止めを食らわせることに成功した。

「来るぜ!」
怪人たちの姿をアップで捉えているのは黄龍の"カナリア"だった。
「B隊!」
中山が叫んだ。中央の投光器はステージの上に置かれており、機関銃が2機、その背後で準備に入っている。"カナリア"の高度を取り状況を広角で俯瞰している赤星が叫んだ。
「まっすぐです!」
「左右0.5度以内に抑えろ! 撃‥‥」
がしゃんという音がして中央の投光器が消えた。中山が少しだけトランシーバーに耳を傾け、がなった。
「かまわん、撃て!」
黄龍のモニターの中で最初の数発を浴びたゴリアントが身を翻して他の2体の背中に回った。本能的に赤星と輝が声を上げた。
「向かってくる!」
「逃げて!」

銃口から流れ出る毎秒15発の銃弾の圧力は、それぞれが2体の怪物を食い止めて後ろに押し倒した。だがゴリアントは既に火線から逃げていた。南側の地面を蹴り、ステージに突進した。
「B隊待避! A隊援護に入れ!」
中山二尉はそう指示すると、赤星たちに向かって低く叱責した。
「カメラを動かすな!」
反射的に腰を浮かしていた三人が我にかえって座り込んだ。今の自分たちには、敵を受け止めることすらできない。機関銃の連続音が止んだ代わりに怒声と悲鳴が聞こえてきた。

「これでもまだ生きているのか‥‥?」
中山の注意は既にトナカンダーとアモクに集中していた。
「すぐ起き上がるって!」
"カナリア"のカメラをズームした黄龍が怒鳴った。声に少しだけ苛立ちが混じっている。仲間の安全より敵の撃破に集中するのは正しいのだろう。だが訓練を受けていない人間にとっては、ついて行くのが難しい。

中山はモニターを見つつトランシーバーを口元にあげた。
「待避完了。C隊。確実に補足できるなら仰角ゼロでいい。撃て!」
腹の奥から揺さぶられるようなそんな振動音が響いた。ステージのすぐ北側から2門の無反動砲が火を噴いた。3kgの榴弾がトナカンダーに水平に命中する。そのまま怪物のボディを背後の議事堂にめり込ませた。怪物をアップで捉えようとしていたカナリアの映像から一瞬で怪物がアウトした。見ていた輝が悲鳴を呑み込んだ。

「このっ!!」
機関銃の操者に襲いかかっていたゴリアントが罵声をあげて駆け戻ろうとした。
「近寄らせるな! まだストーンが!」
赤星のモニターにはディメンジョン・ストーンを示す三つの緑色の輝点が残っている。
「C隊。建物の中央より3M南だ!」
今度は11号線の後ろから放物軌道を描いた砲弾が飛んだ。本来こんな近距離で使う装備ではないのだが、なんとか計画通りのラインを描いたようだ。

それはまさに"爆撃"だった。機動隊員達でさえ多くが音と振動に身をすくめた。2体の怪物が叩きつけられた場所で次々に爆発が起こる。黄龍の"カナリア"が巻き込まれて信号が途絶えた。それより上空にあった赤星のカナリアも、もうもうと上がる埃と煙でカメラの役には立っていない。それでも‥‥。
「消えた‥‥。ストーンが‥‥」
赤星の呟きに風間が振り返った。モニターにある緑の輝点は3つとも確かに消えていた。赤星はオズベースに確認してから風間を見上げた。
「複数の機関でストーンの電磁波が消えたことを確認しました。ゴリアントは逃げたみたいだけど、アモクとトナカンダーは消滅したと思われます」

風間がトランシーバーに何か話しかけた。11号線や広場のあちこちに用意された全ての照明が灯った。広場全体が昼間のように明るくなる。怪物たちだけを照らし出した先程の光とうってかわって、とても柔らかく感じられた。次の風間の言葉でしばしの静寂が訪れ、それが歓声に変わった。


===***===

サーベルが空を切り、少女の右手首の装置が跳ね飛んで河原に落ちた。
「もう逃げられんぞ、アラクネー」
シェロプが一歩前に踏み出す。右手首を押さえた少女が数歩後退した。飛ばされたのは瞬間移動装置だ。あれが無ければ空間を自由に移動することはできない。
「一度は四天王の地位にあったお前だ。私が手ずから引導を渡してやろう。光栄に思うがいい」

シェロプがそれなりの使い手であることは判っている。嫌な男だがこと剣にかけては極上の腕を持っているのだ。移動する手段が無い今、この男から逃げおおせるのか‥‥。 アラクネーはせり上がってきた恐怖をごくりと呑み下した。ブラックリーブスにいきなり斬りかかられた時のことを思い出した。もう二度と、あんなみっともないマネはしないわ‥‥‥‥。

少女は形のいい顎をすっと上げると、悠然と微笑んでみせた。
「侯爵様がこんなゴミ掃除みたいなことをやるとはね。それで四天王にのし上がったの?」
「‥‥この、小娘が‥‥」

シェロプの左手が懐に入り小さな装置を取り出した。その瞬間、アラクネーの右の手甲から放たれた透ける糸がシェロプの左手に巻き付く。
「う‥‥あ、つ‥‥っ!」
白い手袋の上からアラクネーの糸が食い込み、シェロプは思わず持っていたコントローラーをとり落とした。少女が糸を引き絞るがままに魔神将軍の長身が前に泳ぐ。ヘタに引っ張り合ったら手首がすぱりと切り落とされる可能性があった。

アラクネーの左手が空を切った。シェロプが落としたコントローラーに真珠色の淡い糸が何本もからみつく。わずかな手首の動きでコントローラーはぽんと少女の手元に引き寄せられた。だがシェロプも一瞬の隙を見逃さなかった。すっと前に踏み出すとサーベルで糸を薙ぐ。二人の身体が、互いを引き寄せていた張力から解放されて数歩後ろに後退した。

アラクネーは奪ったコントローラーに向かい、なんの躊躇いも無く叫んだ。
「マルキガイナス! 隣にいる男を殺しておしまい!」
異形の怪物がくるりと主に向き直る。
「と、止まれ! マルキガイナス!」
慌てたシェロプが叫ぶ。だがマルキガイナス・ゴルリンは、シェロプの怪人ではない。所詮コントローラーのままに動く人形だった。



一概に「怪人」と言っても4つの軍団それぞれで色々なパターンがあった。だが「怪人」は、たとえ自我のある者でも軍の兵器であることに変わりはなかった。製造または改造を行うには軍の正式な許可が必要であり、個人で「怪人」を作ることは謀反と見なされた。普通の存在から怪人に変化した者は生殖能力を奪われる。また損傷の修復が滞りなく行われるようにその形質を遺伝子に固定されるので、基本的に元の身体には戻れない。「怪人になる」とはスパイダルのために自らを捨てることを意味し、英雄的であるが故に「怪人」のステータスは高かった。

スプリガンの機甲軍団は外人部隊や平民たちが主な構成員だった。大量の武器を保有した四軍団で最大規模を誇る軍団だ。その「怪人」は人間の頭脳を生かしたサイボーグの延長のようなメカ怪人と、人工知能を使った完全なロボットの2種類があった。それでも人工知能には自ずと限界があり、怪人として役に立つのはやはりヒトの頭脳を搭載した存在だった。

シェロプの魔神軍団は俗に言う「中流以上」の出身者から構成されている。戦況が有利になり政治的な色合いを帯びてきた時に投入される軍団だ。他国の出身者であっても上流階層でスパイダルに居住権の有るものでなければ入れなかった。魔神軍団の「怪人」はそのような構成員に身体改造を加えた存在だ。スパイダルの貴族達は好んで身体を作り替えるがそれは実用とファッションを兼ね備えたケースが多い。また他国の出身者には少々変わった外見を持つものもいる。そのせいか身体改造がどんどんエスカレートしていく傾向にあった。

ゴリアントのモンスター軍団はスパイダル中央の「ヒト」の基準からは少々異形に見える者達の集まりだった。ゴリアントのようにスパイダルの辺境に居た種族もいれば、征服してきた他の次元における人間達も多い。軍の中では特殊部隊の役割を担い、過酷な環境で活躍するケースも多かった。生まれつき特殊な特性を持っている者が多く、そこに遺伝子操作をメインに既存能力の強化や新たな能力を加えたものが「怪人」となった。

アラクネーの部隊は諜報の担当だった。自分に直接指令を与えてくる者しか知らない構成員が多く、それらを管理するのはコンピューター及びロボトミー手術により人格を失った者たちだった。最終的に出てきた情報の取捨選択は夢織将軍に一任される。率いる部隊の規模は小さくともその発言権は非常に大きく、故に夢織将軍は四天王の一翼を担うのだった。

加えて夢織将軍の位置づけは他の将軍とはだいぶ変わっていた。心理学や社会行動学、戦局の見方などの知識の他に、自他共に認める特殊な直感力が要求された。ある意味巫女のような役割を担っていたのである。アラクネーの前任者はアラクネーの資質を見定め他の者がそれを認めると数日後に死んだ。こういった能力ばかりは訓練で得られるものではない。ブラックインパルスを始め多くの幹部たちから一目置かれ、愛情を込めて「おばば」と呼ばれた老女は後継者をずっと待っていたのだった。

諜報部隊では生体盗聴器や生体カメラのような諜報用の疑似生命体を多々生み出しており、それを戦闘用に仕上げたものが「怪人」と呼ばれた。そのため記録の能力や音波や電磁波を操るといった少々変わった能力を持った者が多かった。口の悪いシェロプは、アラクネーの手駒は所詮アセロポッドの延長などと陰口を叩いていたが、それでもアラクネーの怪人もまた有益であった。



アラクネーが瞬間移動装置を拾い上げて動作を確認した時、シェロプのサーベルはゴルリンの右耳に軽く突き入れられていた。
「マルキガイナス!」
アラクネーがもう一度コントローラーに叫んだが、もうその身体はぴくりとも動かない。

「ムダだ。体内に仕込んだチップを破壊した!」
激しい怒りを含んだ声と同時に何かが飛んできて、座標を合わせようとしていたアラクネーを殴りつけた。シェロプの手甲から長い鞭が伸びている。倒れながらもアラクネーは背中の剣を外し、鞘ごとのその剣で次の打撃を受け止めた。それはほとんど本能的な動きだった。

不思議なことが起こった。
弱々しいものではあったが、ソニックブームがばちりと衝撃を放ったのだった。
「うっ?」
びりりとした衝撃が鞭を伝わってシェロプの右手が痺れた。シェロプが手首を押さえてあたりを見回した時、アラクネーの姿は何処にもなかった。


===***===

赤星と黄龍、輝の3人は、少し放心したように議事堂に近づいた。そこには凄まじい破壊の跡があった。議事堂の中央部から南側にかけて、前面ががしゃがしゃに削げている。広場に振りまかれた硝子の破片がキラキラと投光器の光を反射していた。

「すげ‥‥。俺達の出る幕、ねーじゃん‥‥」
黄龍がぼそりと言った。自衛隊法第76条第1項による防衛出動。スパイダルに対して、初めて自衛隊がその防衛力を振りかざし、2体の怪人をあっさりと葬り去ったのだった。
「‥‥でも‥‥凄すぎるよ。こんなになるなんて、思ってなかった‥‥」
輝が小さく呟く。黄龍は長い腕で畳んだPCを抱きしめるように持ち直した。
「まあ‥‥だだっ広い演習場とこーゆートコじゃ、全然違って見えるからナ‥‥」
赤星がゆっくりと周囲を見回して言った。
「それに何より‥‥連中を引きつける囮になった人達が‥‥」


「そう‥‥。大きな犠牲だ‥‥」
いきなり後ろから声がして、3人は驚いて振り返った。
「風間さん?」
「赤星。スターバズーカの射程距離はどのくらいだ?」
近寄ってきた風間にいきなりそう聞かれた赤星は、目をぱちくりさせて答えた。
「適正距離は15Mから80Mです。130Mを越えたらリーブ粒子の減衰が激しくて効果が激減します」

「今日怪人を沈めた無反動砲は、この手の火砲の中で最も適正距離が短いものを選んだそうだ。それでも射程は700M〜1キロ。元々戦車や装甲車を攻撃するためのものだから当たり前だが。機関銃とて大量に攻め寄せる敵を掃射するのが本来の機能で、こんな状況に適したものではない」
3人が頷いた。時々戦争映画で見るいくつかのシーンが頭を掠めている。風間が続けた。
「自衛隊の装備は他国の‥‥同じ人間の敵国からこの国土を守るためのものだ。人間程度の大きさで、かつ装甲車並に頑丈な化け物を想定したものではない」

「‥‥スパイダルの怪人と戦うには、帯に短し襷に長し‥‥と‥‥」
赤星の言葉に風間が頷く。
「そう。連中には普通の対人兵器では効かない。だがその上をと言えばこうなってしまう。たとえば怪人を装甲車で追いかけ回すようなことにな」

「ご冗談。あいつら障害物だってへーきで乗り越えるし、狭い道やビルにも入ってくんだからさ」
黄龍の馴れ馴れしい物言いに、風間は面白そうに笑った
「まったくだな」
「じ、じゃあ、ホントはオレたちみたいな戦い方のほうが、いいってこと‥‥?」
大きな瞳でおっかなびっくりそう尋ねてきた輝に、風間はやさしく微笑み、大きく頷いてみせた。
「その通り。周囲に影響を与えないためには接近戦がいい。だがあの怪物たちの攻撃圏に生身で居るのは危険すぎる。そう考えていくと強化スーツが最も理想的な武器ということになるね」

風間は硝子の欠片をパシャリと踏みしめて少し前に出ると、悲惨な様相を呈する建物を見上げた。
「オズリーブスがいない今、ここで叩かなければ一挙に攻勢に出られる危険があった。今だけと思うから、こんなムチャを敢えてした‥‥」

風間がくるりと振り返り、3人の顔を順に見た。
「赤星竜太君、黄龍瑛那君、翠川輝君」
君付けで呼ばれた赤星も、初めて風間から名前で呼ばれた黄龍と輝も、驚いて姿勢を正した。
「今回は‥‥いや、"今回も"よくやってくれた。昨日からのあれだけの作戦行動のあとに、それでもこうして来てくれた君達に、君達のその思いに、私は感謝している」

輝はかすかに頬を染めて少し面を伏せたが、すぐに風間の顔を見上げて子供のように嬉しそうな笑みを浮かべた。黄龍は黄龍で視線を宙に彷徨わせ、髪を掻き上げる風を装いながら、ひょこりと軽い礼を返す。そして風間は赤星の視線を捉えた。
「そして、黒羽健君、桜木瑠衣君‥‥。君たち5人がいると信じているから、他の誰でもなく、君たちがオズリーブスだから、"今"をこうして乗り切った。判ってくれるか?」

赤星は、びっくりしたようなドングリ眼のまま、風間を見つめていた。
昼に警察庁の会議室で、風間に食ってかかるまでに動揺したワケがわかった。

ずっと前から顔見知りだった自分は名前で呼んでくれるが、あとの4人のことはいつも色で呼ばれた。副長やブラック、イエロー、グリーン、ピンクと‥‥。違和感はあったけど役職で呼ぶようなもんなんだろうと、自分に言い聞かせていた。

だけどあの時。オズリーブスでないから来るなと言われたあの時。世の中の沢山の人と同じように、この人にとっても自分たちが人形になってるみたいに思えた。オズリーブスという象徴としての虚像‥‥‥‥。それがすごく寂しかったんだ‥‥‥。

‥‥ガキみてーだったな、俺‥‥‥‥。

赤星は視線を落とすとぽりぽりと頭を掻き、ふう‥‥と息をついてから顔を上げた。
「判ります。本当にありがとうございました」
そのあと男はぎゅっと唇を引き結んで議事堂を見上げた。
「ただ、何もできないで見てるの‥‥。苦しかったです。もう二度と、こうなりたくねえ」
黄龍と輝が同感というように何度も頷いて赤星の視線を追った。
風間は満足そうな表情で、そんな3人の青年を見ていた。


2003/9/25

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