第23話 甘い誘惑・夢織姫の紡ぐ夢幻の罠
(1) (2) (3) <4> (戻る)

戦場は荒野に移動している。スピンドルに苦戦する3人。ブラック、チェリーをつがえる。
ブラック「ブラック・チェリー!!」
強烈なフラッシュの中で、チェリーがスピンドルの身体をそれて爆発。
ブラック「くっ 狙いがっ」
スピンドル「リフレクト・ビーム!」
ブラック「ぐあっ」
スピンドルのビームをくらうブラック。助けに入るイエローとグリーン。

イエロー「大丈夫かよっ?」
ブラック「くっ だ、大丈夫だ‥‥」
グリーン「せめて曇ってくれるといいのにっ」
ブラック「そうか! オズブルーン!」
飛んでくるオズブルーン。
ブラック「人工雲発生!」

グリーン「およ‥‥。曇った‥‥」
イエロー「ザマーみろ! これで反射できないっしょ!」
スピンドル「甘く見るなよ。ウィーヴィング・ショット!!」
スピンドル。大きめのガラス玉のようなものを投げつけてくる。1つが沢山の小さな爆弾に分離して3人に降りかかる。慌てて避ける3人。

イエロー「チャクラム・ストームシュー‥‥このっ」
スピンドルのフラッシュ。イエロー、撃つのを止める。
ブラック「くそっ 目くらましは別クチか!」
続く戦い。


===***===

夢の中。
両親に向かって歩いていく瑠衣。一歩前に出て娘を迎える綾。どちらからともなく手を上げて、しっかりと抱き合う。瑠衣の背、もう綾とほとんど同じくらい。しばらくそうしているが、瑠衣、母親からそっと身体を離す。
瑠衣「‥‥心配しないでね‥‥。でも‥‥ちゃんと見ててね‥‥」
にっこりと頷く桜木と綾。
瑠衣「‥‥またね‥‥」
桜木と綾、光に包まれて消える。


両親の消えたあたりをじっと見ている瑠衣。その背中から赤星が声をかける。
赤星「瑠衣‥‥」
瑠衣(涙を拭いて振り返る。笑顔)「あ、大丈夫。これで、データってとれたの‥‥」
赤星(瑠衣を遮って)「無理すんな、瑠衣!」
瑠衣、すこし驚いた表情。赤星、悲しげ。
赤星「‥‥‥無理しないで、くれよ‥‥‥。戻らないものは戻らない‥‥。けど、悲しい時は、悲しいでいいはずだ! 泣きたい時だって‥‥。そう‥‥茂君にも言ったじゃないか‥‥」

瑠衣(微笑んで)「‥‥‥うん、そう言った‥‥‥。でも‥‥。でもね、あたし‥‥。あたし、今は、少し無理しなきゃ駄目な時なんだと思うの」
赤星「え‥‥?」
瑠衣「もっと自分に、自信、持ちたいの‥‥。もし泣いちゃっても、これは今だけって安心できるぐらいに、強くなりたい。だから‥‥今は‥‥‥‥」

赤星「‥‥瑠衣‥‥」
赤星、辛そうにそらした視線を、再び瑠衣に戻す。
赤星「確かに強くなるには無理も必要だよ。でもな、身体も心も時にはラクさせなきゃダメだし、ラクできる場所があるってわかってなきゃ、きっと続けてらんなくなる‥‥。そんな時は逃げでも甘えでもいいんだ。俺でダメなら誰でもいい。誰か‥‥。どこか‥‥」

瑠衣「‥‥ありがと‥‥。ほんとにありがと‥‥。あたし、赤星さんにも黒羽さんにもほんとに感謝してるの。小さい時からずっと‥‥。だから、赤星さんと黒羽さんのためにも、あたし強くなるの。だから赤星さん、先に帰って? あたし、ここから一人で帰ってみる」
赤星「‥‥‥わかった‥‥」
赤星。瑠衣に背中を向けると歩き出す。

瑠衣「ね、赤星さん?」
赤星(振り返って)「ん?」
瑠衣「ひとつだけ聞かせて。パパとママは、あたしに仇を取って欲しいって思ってると思う?」
赤星、瑠衣に向き直ると、まっすぐに瑠衣の顔を見つめる。
赤星「いや‥‥。俺の知ってる桜木博士と綾博士は、そんな風に考える人じゃなかったと思う」

瑠衣「‥‥そう‥‥だよね‥‥。あたしも‥‥そう思う‥‥」
赤星「瑠衣‥‥?」
瑠衣「あ、気にしないで。それとね。あたしの夢、戻らないことばっかりじゃないんだよ」
瑠衣、少し後を見やる。赤星が視線を上げると遠くに立っている長身。シルエットだけで顔は見えない。髪をかきあげて手を振る。瑠衣、左手首のポケットチーフをするりととると、それを風に乗せて手放す。黄色いチーフが長身に向かって流れていく。
驚いて目を見張る赤星。だが、瑠衣の笑顔に、ちょっと苦笑気味の笑顔を返すと、向きをかえて歩き出す。その身体が光に包まれ、消えていく。それを見送る瑠衣。

一人に残った瑠衣、目を閉じて仰向き物思いに沈む。目尻から涙。
瑠衣「‥‥パパ‥‥ママ‥‥」

赤星の声『桜木博士と綾博士は、そんな風に考える人じゃなかったと思う』
瑠衣(独白)「‥‥そう‥‥。パパとママは‥‥きっと‥‥。‥‥でも、あたし‥‥まだ‥‥‥」

瑠衣。目を開いて前方をじっと見る。決意の表情。
瑠衣「‥‥あたしは‥‥強くなる‥‥‥‥」
瑠衣の身体がきらきらと光に包まれていく。


===***===

目覚める瑠衣。視界に洵の優しい笑顔が入る。
洵「お疲れさま、瑠衣ちゃん」
瑠衣「あ‥‥、洵先生」
起き上がる瑠衣。部屋の中は二人だけ。
瑠衣「あの‥‥うまくいったんですか?」
洵「うん。ばっちりだって。博士と田尾博士、二人でもう西都病院に向かってるよ?」
瑠衣「茂くんたちは?」
洵「博士たちと病院に帰ってもらった。一応検査しとかないとね。秋山先生に連絡してあるから大丈夫。美雪ちゃんのお母さんが、茂くんのことは心配しないでって伝えてくださいって」
瑠衣(ほっとしたように)「よかったぁ!」

洵「竜太さん、なんか、約束したから隣の部屋で待ってるって言ってたけど‥‥」
瑠衣「あは‥‥。なんか、赤星さんらしい‥‥」
瑠衣の笑顔がすっとひきしまり、とんとベッドから下りる。
瑠衣「じゃ、洵先生。行ってきます」
洵「気を付けて」

部屋を出る瑠衣。笑顔で迎える田島と赤星。
赤星「お帰り、瑠衣。よくやったな!」
瑠衣「うん!」
赤星「早速だけど、行くぞ!」
瑠衣「はい!」
田島に軽く挨拶して、部屋を出ていく赤星と瑠衣。満足そうな笑顔で見送る田島。


===***===

スピンドル「これで最後だ! ウィーヴィング・ショット!!」
非常に広範囲に大量の爆弾を浴びせかける。避けきれない。そこに飛び込んでくるピンク。
ピンク「マジカルスティック・リボン・トルネード!」
3人の前に立ちはだかるピンク。マジカルスティックの一端からリボンが伸びてくるくると回っている。電磁気の傘のようになって大量の小型爆弾をはね返す。
グリーン「ピンクっ」
イエロー「すっげーぜ!」

レッド「待たせたな!」
駆け寄ってきたレッド、ブラックに2つの大きめのカプセルを渡す。
レッド「特殊塗料だ。塗ったくればバズーカが効くだろうって。これしかねえから外すな!」
ブラック「そりゃ、ヤツのフラッシュを止めねえと難しいぞ!」
レッド「まかせとけって! いっくぜーっっ」
グリーン「ちょ、ちょっと、目くらましが‥‥!」
構わずつっこんでいくレッド。
レッド「リーブライザーッ」

スピンドル「これでもくらえっ」
スピンドルの背中と胸の発光体から強力な目くらまし。が、レッド動じず飛び込む。驚くスピンドルの腕をかいくぐり強烈なパンチを浴びせる。右ストレートが胸の発光体を直撃して破壊。スピンドルよろめいて後退。
スピンドル「な、なぜ‥‥!?」
グリーン(追いかけてきたグリーン、レッドと並ぶ)「ど、どうやったの!?」
レッド「目ぇつぶってただけ! もう開けて平気かよ?」
グリーン(がくっとなりながら)「れ、レッドってば‥‥」


ブラック「ようし! ブラックチェリー!!」
チェリーがスピンドルの胴体に2発命中。塗料がスピンドルの身体を染める。
スピンドル「なにいっ」
イエロー「じゃー、お試しタイム! リーブラスターッ」
リーブラスターが黒く染まった部分に命中。
スピンドル「ぐわあっ!」
イエロー「ばっちりだぜ!」

ピンク「スターバズーカ!!」
5人バズーカにリーブレスをセット。
5人「スターバズーカ! ファイヤ―――ッ」
破壊されるスピンドル。物陰からアラクネー。
アラクネー「おのれっ オズリーブス!! 目覚めなさい、スピンドル!!」
アラクネー、籠手の石を操作。破壊されたスピンドルのディメンジョン・ストーンが光り、スピンドル巨大化。

レッド「みんな! リーブロボだ!」
ブラック「ランドドラゴン、GO!」
イエロー「カモン・ターボドラゴン!」
グリーン「ラガー! 出番だよっ」
ピンク「スタードラゴン、発進!」
レッド「いくぜっ、ジェットドラゴン!!」

飛んでくるメカ。それぞれに吸い込まれる戦士達。メカが合体してリーブロボとなる。
5人「チャージアップ!! リーブロボ参上!!」

大きなウィーヴィング・ショットを投げつけてくるスピンドル。ロボにぶつかって爆発する。
レッド「こんのやろ! いきなり龍球剣だっ」
グリーン「みんな、目を閉じてっ 光るよっ」
巨大スピンドルの胸部フラッシュ。リーブロボ、立ち止まる。そこにスピンドルのリフレクト・ビームが命中!

5人「わああっ」
イエロー「壊れたんじゃなかったのかよ、アレ!」
グリーン「また目つぶってやったらだめなのっ?」
レッド「あーゆーの生身だからできんだよ! これじゃわかんねーっ!」
ピンク「ねえ! オイルでカメラを汚したら!?」
ブラック「そうか! 名案だぞ、ピンク!」
ピンク「スターのお掃除した時、苦労したもんね!」

リーブロボ、自分の関節部のオイルでカメラを汚す。もう一度龍球剣を構え直す。
レッド「よーし、龍球剣!」
スピンドル、再度目くらまし。だが、煤けたモニターでまぶしさ半減。
レッド「おー、なんとかなんな! いくぜーっ!」
5人「リーブ・クラッシュ!!!」

龍球剣で切り伏せられて爆発する巨大スピンドル。陽の光を浴びるリーブロボの雄姿。


===***===

「森の小路」カウンターの中にいる黄龍と瑠衣。カウンターに寄りかかっている黒羽、嬉しそうにクルミケーキを食べている輝。
瑠衣「でもよかったぁ! みんなちゃんと目覚めて!」
黒羽「今回の一番のお手柄は瑠衣ちゃんだな」
輝「うん! オレもそう思うよっ ほんと凄かったよっ」
瑠衣「ほんと!? ほんとにそう思う?」
黒羽「ああ。たいしたもんだよ」

奥のボックス席に向かい合って座っている赤星と有望。有望が熱心に赤星に何か説明している。一方の赤星は有望の顔を見て生返事ばかり。
有望(声、オフ)「‥‥で、そろそろバズーカの本格的なパワーアップを考える時期だって、田島博士もおっしゃってるのよ」
赤星「うん‥‥」(心の声)『あんな夢、久しぶりだったなー。有望ってやっぱ、きれーだよなぁ』
有望(声、オフ)「それで、リーブ粒子の臨界状態を少し変動させてるんだけど、なかなか安定した準位が見つからなくて‥‥それでね‥‥」
赤星「うん‥‥」(心の声)『‥‥結婚できたら‥‥‥‥あんな感じなのかぁ‥‥』
有望「ちょっと、赤星。マジメに聞く気、ないの?」
赤星「うん‥‥」(いきなり頭をはたかれる)「いてっ 何すんだよっ」
有望「人が一生懸命説明してるのに、その態度は何よ!」
赤星「へ? なんの説明?」(空の灰皿を持ち上げる有望)「わっ ちゃんと聞くからっ!」

黒羽「‥‥に、ひきかえ、あっちはまだミイラになってるようだな。しょーもない隊長さんだ」
瑠衣(ニコニコ笑って)「でも、スパイダルもたまには役に立つのねー!」

カランカランとドアベル。
瑠衣「いらっしゃいま‥‥、あ、理絵さん! ど、どうしたんです?」
両手に二つのゲージを抱えている理絵。輝ぱっと近寄ってゲージを持ってあげる。瑠衣と輝、ゲージを覗き込む。
輝「トラジャだ! でっかくなったねーっ」
瑠衣「こっちはマンデリンとモカマタリ!」
赤星「理絵さん、どうしたんだ?」
理絵「はい‥‥。ちょっとお願いがありまして‥‥」
赤星「なに?」

理絵「実はしばらくの間、この場所を離れなければいけなくなったのです」
赤星「え? またえらく急だなー!」
理絵「はい。昨夜急に‥‥。ひと月ほどで戻ってこられると思うのですが、それまでこの子達を、預かっていただけないでしょうか?」
赤星「そりゃ、なんてことないけど‥‥」
輝・瑠衣「やったー!」
輝と瑠衣。ゲージを開ける。おそるおそる出てくる黒猫3匹。トラジャを抱え上げる輝。モカマタリを抱く瑠衣。マンデリン、なにげに座り込んだ黒羽の手に頭をこすりつけている。

有望「理絵さん、じゃあ、大学も?」
理絵「しばらく休学です。それでバイトのほうも‥‥」
黄龍「問題ないないって。理絵さん戻ってくるまで、誰も雇わないで待ってるからさ〜」
赤星(仕切られてちょっとコケつつ)「あ、ああ。理絵さんがまた来てくれる気あんならな」
理絵「はい。用が終わったらまたこちらでお世話になりたいと思います」

黒羽(マンデリンを抱いて近寄ってくる)「やれやれ。じゃ、理絵さん戻ってくるまで、オレは旦那の淹れたコーヒーでがまんしなきゃいけねえってわけですかい?」
赤星「文句あんなら、自分で淹れ‥‥‥‥おわ?」(いきなりマンデリンを押しつけられる)

黒羽(手袋をとって右手をさしだす)「お帰りをお待ちしてますよ」
理絵(ちょっと目を丸くするが、かすかに笑んで黒羽の手を取る)「ありがとうございます」
黄龍(黒羽を押しやって)「ちょっと待った。一番お待ちしてんの俺様よ? 忘れないでよね〜」
理絵「はい。今度来たら紅茶の淹れ方、教えてください」

理絵(赤星に近寄りマンデリンを撫でる)「すみません、店長」
赤星「心配すんなって。裏のアパートでちゃーんと面倒見っからさ」
有望「迷子にならないように首輪に発信機つけとこうかしら」
赤星「おっ それ、いいかもな」
理絵「店長も、怪談と幽霊の克服、頑張ってください」
赤星「え‥‥あ‥‥はい‥‥」
赤星、まいって頭を掻く。笑う一同。

輝と瑠衣、それぞれトラジャとモカマタリを抱いて瑠衣の側に。
理絵(二匹の猫の頭を撫でながら)「この子たちのことよろしくお願いします」
輝「理絵さんも元気でねっ」
瑠衣「早く戻ってきてくださいね!」

理絵、ふと瑠衣を見つめる。
理絵「あの‥‥瑠衣さん‥‥」
瑠衣「はい?」
理絵「貴女は亡くなったご両親を今でも愛していますか?」

場、一瞬固まる。瑠衣も少し驚くがすぐに応える。
瑠衣「はい、とっても!」
理絵「人は必ず親を愛するものなのでしょうか?」
瑠衣「‥‥あ‥‥それは‥‥よくわかりません。でも、パパとママはあたしのことを凄く愛してくれたんです。だからあたしは、今でもパパとママが大好きなの」
理絵「この世にいなくても、愛する気持ちは持てる‥‥と‥‥?」

瑠衣「‥‥好きって気持ちは自分の心にあるものだから‥‥。きっと相手がこの場にいるとかいないとか、関係ないと思うんです‥‥。‥‥ただ‥‥」
理絵「ただ‥‥?」
瑠衣(目を閉じて)「ここに居るみんながあたしをすっごく大事に思ってくれて‥‥。みんながあたしの中でどんどん大きくなって‥‥それは嬉しくて、大事にしたいなあって‥‥。‥‥‥あれ? 理絵さんの聞きたいの、こーゆーことじゃないですね?」

呑まれたように二人のやりとりを聞いている5人。しかし瑠衣の言葉が嬉しい。
理絵は目を見開いて瑠衣を見つめている。
理絵「‥‥‥いいえ‥‥」(薄く微笑んで)「‥‥いいえ‥‥きちんと答えになっています」
理絵、少し視線を逸らすが、また顔を上げる。
理絵「では、みなさん。これで失礼いたします」

皆、口々に別れの言葉を言って理絵を送り出す。
輝「‥‥はあ‥‥。理絵さんって、相変わらずちょっと不思議なとこあるよね」
瑠衣「‥‥でも、あんな寂しい感じがあるなんて、今まで気付かなかったな‥‥」
瑠衣、ふと黄龍を見上げると、黄龍が真剣な顔でドアを見ている。瑠衣の視線に気付いて照れ笑い。
黄龍「‥‥ま、人には色々ってね」

瑠衣、微笑む。と、急に思い出したように目を丸くすると、モカマタリを黒羽に押しつける。ポケットからきれいに折り畳んだポケットチーフを取り出す。
瑠衣「瑛那さん。これ」
黄龍「あー、忘れてたよ。役、立った?」
瑠衣、受け取ろうとする黄龍の手をかわすと、黄龍の胸ポケットにチーフを入れる。
瑠衣「うん。とっても! どうもありがとう!」

トラジャを抱いたまま黄龍に体当たりのマネをする輝。ひゅーと口笛を吹いてモカマタリに頬ずりする黒羽。有望とちょっと視線を交わすと、瑠衣と黄龍を微笑んで見つめる赤星。


===***===

ある山腹の洞窟の前に立っている理絵。洞窟の中に入っていく。人工の薄暗い光のなかで、その姿が一瞬ぼやけ、黒衣を纏った姿に変わる。そのまま洞窟の奥に入っていく。

大きな部屋のような空間。アセロポッドたちが、何かカプセルのようなものを設置している。それを監督しているスプリガン。入り口に背中を向けている。

スプリガン(背中のままで)「なんの用かね、アラクネー?」
アラクネー「昨夜、司令官から指令をもらったわ。機甲将軍のフォローに入るようにと‥‥」
スプリガン「やれやれ‥‥。このオレに嬢ちゃんの手を借りろとは、司令官殿も人が悪いぜ」
アラクネー「任務ならば礼儀をわきまえない機甲将軍のフォローも我慢する。それが軍人よ」
スプリガン「はいはい。お前さんはマジメだよ」

アラクネー、呆れた一瞥をスプリガンに投げてから働くポッドたちを見やる。
アラクネー「で?」
スプリガン「科学者どもが、"ここ"用のレシピを送ってきた。あとはやってみるだけさ」
アラクネー「そう‥‥」

アラクネー、踏み出してスプリガンと並ぶ。前を見たまま。
アラクネー「それから、言っておくわ。余計な手出しは無用よ」
スプリガン「なんのことかね?」
アラクネー「昼間のロボットバードよ。あんなことしなくたって、わたしは‥‥」
スプリガン「勘違いとは光栄だがね。アレはちょっと制御系がおかしくなってたのさ。オレは他のヤツをかまう気なんぞねえ。いかな司令官お気に入りの夢織姫のためでもな」

アラクネー(少しいらついて)「その呼び方はするなと言っている!」
アラクネーの手からいきなり放たれる糸。が、糸は空を切り、スプリガンは既に消えている。
スプリガンの声「ハハハ‥‥。じゃあ、まずはそいつらの監視を頼むぜ。よろしくな、夢織姫!」

アラクネー、舌打ちして空を見やるが、すぐに無表情な視線を、働くポッドたちに戻す。
アラクネー(心の声)「‥‥この身体はあの方のためにのみ存在する‥‥。この気持ちは‥‥わたしの中だけにある‥‥。あのお方は知らずとも‥‥知らぬからこそ‥‥‥‥」


===***===(The End)===***===
2002/6/15
(1) (2) (3) <4> (戻る)
background by Studio Blue Moon