第8話 A Tender Soldier
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暗黒次元の物よりも、3次元の物はあまり頑丈に作られていない気がする。
それは今まで見てきた戦いで、感じていたことなのだが、その考えは正解だったようだ。
マリオネ程度の力を持っていなくても、押しつぶすことくらいは出来そうだ。
彼の手のひらを見ると、破壊された遊具のカケラが粉々になっている。指を開くと、砂のようになって空気に広がった。
砂に広がったかけらを見て、スプリガンはくすくす笑う。
「そうだ、マリオネ。その調子だ。もう少し暴れていろ・・・。そうすれば向こうからやってきてくれるさ。」
「ハイ・・・スプリガン様」

公園の中はすでに爆弾でも落とされたような状態になっている。遊具は潰されて、電灯はひしゃげて折れ曲がっている。
その中に、ひとり表情を変えずに立っているマリオネの姿は、驚くくらい現実感がなかった。
今までも、現実離れした怪人が自分達を襲ってきたが、自分達とさほどかわらない姿の者が非常識な行動をとると、どうしてここまで違和感があるのか。
茶色の髪の毛はすらりと整ったまま。瞳も口元も歪むことなく自分が作った、戦場のような光景を映している。
か細い指が何かのカケラをにぎると砂のように粉々になった。
「ひ、ひどい・・・。」
「グリーン。」
イエローはマスク越しにグリーンを見つめた。マスク越しの彼の瞳は、多分、とっても険しかったんだろうけど。
「近くで見てどうだった・・・?あいつ?」
「あ、あ・・・。手のひらから、すごい力が繰り出されてるって感じだった。座っている姿勢から、ベンチを粉々にできたんだよ・・・。」
「とんでもない握力の持ち主かあ・・・。ヘタな小細工かまされるよか、タチ悪イな・・・。」
『捕まれたら、きっと「ぐしゃり」だぜ〜。』と、イエローは物を潰すマネをしてみせた。

「リーブラスターで撃ってみるか、効くかどーかわかんねーが・・・。」
「う、うん。」
「グリーンはいーよ、オレにまかせとけって。」
グリーンの「え?」という声が重なる前に、イエローはリーブラスターの引き金を引いた。

がつんっ!!

映画と同じくらい、いやそれ以上の音が響く。
額にくらったはずだがケロっとしている。
「・・・・・・」
マリオネは地面に転がっている遊具のかけらを、指でぴんっと弾いてみせた。黄龍が今さっき撃ったリーブラスターをめがけてかけらが戻ってくる。
「イエローっ!」
「ばか、こっち来んじゃねーよっ!!」
イエローはグリーンの頭を地面に押しつけた。瞬間にかけらが頭をかすめる。
銃口から出る弾丸とは比べ物にならないくらいトロイスピードだったが、それでも当たったら自分の体をえぐり取られるぐらいは予想できる。
「冗談じゃねえよ〜マジかよっ!!」

「イエロー、オレ行くよっ!スピードだったら負けないよっ!」
「ふざけんな、捕まえられるだろ!」
「捕まえられないよっ!!」
待てバカ!!というイエローの叫び声を背中にして、グリーンは身をひるがえしてマリオネに向かって駆けていく。マリオネはというと、クレーンゲームみたいにゆっくりアームを伸ばして、獲物をがしりと捕ろうとする。
彼の長い腕のリーチ寸前に腰をかがめて一旦後ろへ下がり、遊具の残骸を蹴り飛ばして宙を走った。
「背中だったら腕の自由はあまり利かないよねっ!いっくよーっ!」
そのままトンファーで首の後ろに一撃を食らわす予定だった。
いや、トンファーから刃を出して首を切ってもよかった。そうしなかったのは一撃で倒れてくれるという幻想と、切った首をみたくないというのもあったけど。
彼はすぐに後悔した。
「うわっ!」
マリオネの腕が、通常ならあり得ない方向に曲がったのだった。
関節を無視した腕は背中から打撃を加えようとしたグリーンの足を軽く掴んだ。
恐怖映画で、首が一回転する人間とかいうのを見たことがある。その時に感じた違和感と恐怖が足から伝わってくる。
「そ、そんな・・・。」
「っグリーン!!!」
イエローの叫び声と恐怖の狭間で聞いた彼の音。少々だが機械の音がする。

きゅいいいー・・・

機械のような音と共にこちらに首をムリヤリ向けて、マリオネが見つめる。薄氷の瞳に自分の苦しむ様子がうつっている。
焦点のあわない目は、他人の恐怖も自分の恐怖も知ることはない。

場違いな風がふわりと2人を包んだ。

マリオネの華奢な体を覆っていた白いシャツは、彼の力についていけないらしい、風に連れられていってしまい体の線が剥き出しになっていた。
肩と関節部分に操り人形・・・『マリオネット』のような関節をつなぎ止めるビスが見えた。

「・・・・・・キミ!あのネコと同じ・・・ロボット・・・?うわっ!」
グリーンがつぶやいた答えに返事を返すように、マリオネは手の力を少しずつ加えていく。ゆっくりゆっくり、骨がきしむ音を聞いているかのように。

ぎゅし・・・ぎゅし・・・ぎゅっ

「う・・・があっ。あ・・・!」
足が潰されちゃう・・・っ!
なんてこと。なんてこと・・・。
潰される・・・っ!
イエローの声が遠くに聞こえる。

やばいよおっ・・・!!



(グリーン・・・何回も言っただろうが、焦るなってな!)
「え?」
リーブレスから聞こえてきた声と同時に、矢がひゅんと音を立てて飛んできた。
マリオネの手首に1本、左肩のつなぎ止めてある部分に3本、正確に突き刺さる。
(・・・・・・引け、マリオネ。)
「ハイ」
主の声を聞き、マリオネはグリーンを吹っ飛ばすと一旦その場から数歩引いた。
(おでましだな。)

マリオネごしにスプリガンの目に映った者は、赤と黒とピンク色。
OZの残党、龍球戦隊オズリーブスだ。
「ブラック!」
「ピンク!」
「レッド参上っ!・・・グリーン!」
レッドの怒声の前にイエローがまたグリーンの胸ぐらを掴んだ。
「お前バカじゃねーの!!少しどたま使えってんだよ!!バカ!!」
「だって、ロボットだってわからなかったんだよっ!」
「わからん相手に不用意に近づくな。」
「ハイ・・・。」
タダでさえ説得力のあるブラックの静かな声。スーツを着装している時の彼のテンションはいつもより少し上がる。それなのに、着装前の姿とあまり変わらない声を出すということは、相当怒っている証拠だ。

「グリーン!ブラックの言うとおりだ。なんでそんなに焦ってんだ?」
「・・・・・・ご、ごめんなさい。」
焦ってる・・・?なぜ焦ってるのかって?
さっきまでしゃべっていたひとと、長く戦うなんてイヤだからだよっ!
できることなら・・・戦わないで終わらせたい。
それがムリなら早く終わってしまいたい。

・・・ダメかな。こんな考え・・・・・・?

「レッド、グリーンの言うことも合ってるよ!ねえ、あたし作戦考えちゃいました!」
場の空気が悪くなった事を感じたピンクは、右手に持ったマジカルスティックをぶん!と風を切るようにして弧を描くと、多分、マスクの下でにっこり笑った。
「大工さんグリーン!あたしこの間技術の時間に『くさび』って習ったの。ブラックの刺さったままになっている矢、かわりにできないかな?」
細い左肩に刺さったままになっている矢を、マリオネは抜こうともしない。
ロボットなので痛みがない分、自分が制御不能になるまで体の破損はあまり気にしてないようだ。
「・・・!あ、そっか。ちょうど関節の・・・つなぎ止める部分に刺さっているんだ!さっすがブラック!」
「くさび?」
理解できてない3名にグリーンが口早くして説明した。
「くさびってのは・・・楔は木や石の割れ目に金属片とかを打ち込んで、割ったりすることなの。ブラックの刺さった矢を使って・・・多分きっと・・・あの、とんでもない力を出す腕を切り離せるかも。」

「ブラックチェリーがくさびがわりって事か・・・?右は?」
「俺様のマグナム弾が役に立たねーか?」
イエローはリーブラスターをしまい、小さなリボルバーを取り出した。弾は6発。
シリンダーをかしゃかしゃと回して、おどけてみせる。
「さっきリーブラスターで眉間を撃ってみたんだけどよ。あの調子だと多分貫通するこたねえ。俺様がくさびがわりにあいつの右の肩関節にブチこんでやるぜ。けど、くさび撃ちこむのはいーけどよ〜。捕まれないように打撃なんて、加えられんのか?」
「できる・・・多分。」
レッドは少しだけ、いつもの「格闘を教えてくれる先生」のような口調になり、マリオネの動きを解説してくれた。
「遠くから見ていた限りだと、あいつの動きは妙なんだ。確かにとんでもない握力だが、いつも数秒ほど動きが遅れている。」
「それって・・・?」
ピンクの答えに目線でうなずく。

「うん、あいつはロボットなんだろう?あいつの動きをどこかで誰かが制御しているんだろうな。」
誰かが制御・・・・・・。


「なるほど、操作しているのなら一定の時間、確かに遅れが出る!ぎこちない動きなら、オレ達で困惑できるぜ。」
ブラックはグリーンの肩をぽん、と叩いた。
「ブラック?」
「オレのブラックチェリーとミドの素早い動きでかく乱する。」
「え・・・?」
「できないとは言わせん。鬼コーチの仕込み、見せてもらうぞ。」
「は、ハイ!」
「よし、オレとピンクはくさびを叩く役だ!フルパワーで行くぜ!」
「はい!」

オズリーブス達は、作戦通りそれぞれの働きを精力的にこなしていった。
ブラックがまるで銃弾のように次々と矢を放つ。その間をグリーンが上手に駆けめぐり、マリオネの腕の動きを一定に保つ。
「さっきは捕まれちゃったけど、今はブラックチェリーが守ってくれるもんねっ!合間縫って,オレのこと捕まえてみるっ!?」
マリオネは腕を限界まで伸ばして彼を捕まえようとするが、降りかかる矢にジャマされてつかめない。何本も腕や体に刺さり、痛覚はないが動く時のジャマになっているようだ。
グリーンは左肩に刺さったままの矢を鏃(やじり)だけ残して、トンファーの刃でたたっきる!
「くさびの事を『矢』っていうんだよっ・・・よくいったモンだよねっ!レッド!」
「おっしゃあっ!」
レッドはくさびめがけてリーブライザーを付けた拳を振りかざす。相手は自分を見ているが、何でもかんでも握りしめる手の動きは、グリーンとブラックの矢にジャマされているせいもあってとても遅い。
自分の拳を振りかざして、その後に彼の左腕が後ろから動いた。

「リーブライザー・マックスモードっ!!!」
左肩関節に強烈な音を立ててめり込む拳が奇妙だった。
リーブライザーをプラスして、なおかつレッドの腕力で殴られたら生身の人間ならたまったモノではない。それはこの、強力な握力を持った怪人も同様のようだった。
関節からヒビが入り、左肩が腕と一緒にガレキの上に転がった。
「ピンクの作戦は成功だなっ!イエロー!」
「よっしゃ、まーかしとけって!」
とは言ったものの、不規則に動いている人形、しかも仲間達という名のオプションがいっぱい周りにいる状態で、右肩関節のつなぎ目だけをねらえる・・・のか?

「・・・・・・ニヤリ。」
できるぜ、拳銃は集中力と・・・冷静さ。
彼は不敵に笑って、銃に口づけた。
俺様だったら、できるぜ。
「なーんつって!いくぜえ、お人形さんよ!」
イエローはガレキを蹴り飛ばして宙からマリオネを見た。銃をかまえたその瞬間に、マスクごしに見つめる空気と時間が凍り付く。
左腕をなくしたマリオネはバランスをくずしてよろめく。
ちょこまかとしたグリーンの動き、宙でくるくる動くピンクと、ブラックが放つ雨あられの矢。全ての動きを把握して・・・右肩にターゲットを絞り込んで、あとは皆の動きを予想する。
レッドは・・・ブラックは・・・グリーンは・・・ピンクは・・・。
「そ・こ・だ・ぜえっ!」

ドンドンドンドンドンっ!!

5発発砲した。
イエローは空中で身を一回転させながら、成功を祝うかのように硝煙の煙をふっと吹く。
自分の右足のつま先がガレキについた瞬間、電撃を喰らうマリオネの音がした。
「マジカルスティック・稲妻アターックっ!!!」
ピンクが両手で大事に掴んだスティックが右肩に炸裂する。
マグナム弾を使ったくさびは全て右肩関節に命中していた。有望がパワーアップさせたマジカルスティックの威力は、弾丸を押し込み・・・もくろみ通り腕ががらりとはずれ、両腕を失ったマリオネは初めて膝をガレキについた。
ようやく天気予報が当たったらしい。遅い雨が降り始める。



「はあっはあっ・・・。」
みんなの歓声が遠くで聞こえる。

やったあ!くさび作戦大成功っ!技術の先生に感謝しなくっちゃ!
俺様の腕も最っ高―によかったな。さっすがオレv
バカ、両腕もいでも何するかわかんねーぞ!倒れているうちにさっさとトドメを刺すぞ!
やはりスターバズーカか? レッドっ!?


「・・・・・・マリオネ。」
両腕を失って倒れているマリオネは、瞳を閉じない。雨が降っているというのに。
瞳に水がかかっても起きてこない。
しかし、グリーンは起きてこない事を心の中でずっと願っていた。

お願い・・・
お願い・・・
お願い!もう立たないでっ!!
これ以上戦ってもしょうがないでしょっ?

喜んでいる仲間の中で、グリーンはひとり誰かに祈っていた。
神様に祈っているのか、それとも倒れているマリオネに祈っているのか、誰に祈っているかまではわからなかったけど・・・。


2002/2/13

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background by Atelier N