第20話 さらば瞼の母!哀しみの健
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夜中。鶴間邸。
外からかすかにギターの音色。カーテンを細く開けて、窓の外を見やる雪子。

鶴間邸の庭。
繁みに隠れているアセロポッド。後ろから肩を叩かれて振り返る。
後ろに立っていた黒羽。慌てるアセロポッド。

黒羽「(指を唇に当てて)シ〜、静かに」

アセロポッドの顎を蹴り上げる。倒れるアセロポッド。


カーテンを閉めて冴の前に立つ雪子。

雪子「お母様」
冴「・・・・・」
  
椅子に座ったままうなだれている冴。

雪子「黒羽さんは、お母様にあんな酷いっことを言われたのに、ああやってギターを引いて黒服の男たちから私たちを守って下さってるわ・・・・お母様、本当の事を仰って。あの黒羽さんは、本当にお母様の・・・」
冴「お黙りなさい!」

雪子の頬を平手打ち。が、きっと冴と見つめる雪子。

雪子「いいえ、黙りません。お母様がお父様と結婚なさる前にあの黒羽さんを産んでいたとしても、私なんとも思わないわ。でも、本当の事を隠しているお母様は私、軽蔑します」




朝。

事務所のような部屋。
隅に座っている男、カメラを整備している。
電話が鳴る。立ち上がって受話器を取る男。

男「あい藤尾レーシング・・・なんだ瞳か?」


佐原探偵事務所。
レーシングスーツ姿で電話をしている瞳。

瞳「あれ笹木さん?なんでいんの?」
笹木の声『なんでってお前、撮りに来たんだよお前らを』
瞳「ちょっと来るの早いんじゃない。レース3日後だよ」
笹木の声『どうしたんだよ朝っぱらから』
瞳「藤尾さんは?」
笹木の声『あいついねえんだよ、本選出っからもうコースに出てんの・・・今日はお前も稽古つけてもらえんかもしれんぜ。呼んで来っか?』
瞳「じゃあいいや笹木さんで。今日さあ、ちょっとそっち行くの遅れますって言っといてくんない?」
笹木の声『なんだ、用事か』
瞳「まあ、ちょっとね。んじゃあ」

電話を投げるように切る。
テーブルに置いた大きな弁当箱を掴んで出て行く瞳。
ドアから半分身体だけ出して中に声をかける。

瞳「じゃあ行ってくるわー」

奥から佐原の声。

佐原「早いねえ」
瞳「うんちょっと健さんとこー」
佐原「頼んだよー」
瞳「分かったー」



朝の鶴間邸、調理場。
数人のコックが働く隅で、雪子がおにぎりを握っている。

コック「どうしたんですかお嬢様、そんなことは私たちが・・・」
雪子「いいんです。私が作ってあげたいの」
コック「いえ、それじゃあ旦那様に叱られますよ。お友達にですか?」
雪子「おにいさま」




早朝の道路を走る瞳。バイクのリアシートに弁当箱を縛り付けている。

瞳「たくもお、余計な事ばっかしやがってんだから・・・」

走りながらポケットに手を突っ込み、小さな地図を取り出す。

瞳「鶴間の家、は・・・・(顔を上げて見回す)こっちか」
  
膝すれすれのハングオンでカーブし、走り去る。




鶴間邸の門の前でエンジンを吹かしたまま停まっている瞳。
広い庭園の向こうに白い屋敷が見える。

瞳「(メットをとって)うわっちゃー、こんなお城だったとはね・・・(舌打ち)行きづらいなあ」

バイクから降りかけるが、門の中から少女の悲鳴。
咄嗟にその方角を向き、メットをかぶってバイクに乗りなおす。



同時刻、庭園内で悲鳴を聞きつける黒羽。
悲鳴の方へ走り出すが、生垣の中からアセロポッドが大挙して現れる。
その数数十名。立ち止まり、一瞬焦った表情を見せる黒羽。




庭園の地面に落ちる弁当箱。中身が飛び散る。
雪子を捕らえている黒服の男数人。
  
男「大人しくしろ鶴間雪子!貴様は人質となってもらう」
雪子「あなた方は一体・・・!?」
男2「我々は・・・」

後ろから体当たりしてくる青いバイク。
空中に投げ出された雪子を横抱きに抱きとめて、アセロポッドを踏みつけて急ブレーキで停まる。

男3「貴様何者だ!!」

メットを取る瞳。

瞳「そりゃあ〜こっちの台詞なのよ黒いの・・・・カッコつけてグラサンなんかしやがってさ。鬱陶しいんだよこの時期!どっちみちアセロポッドなんだろう!!」
 
次々と服を脱ぎ捨てる男たち。アセロポッド出現。

瞳「ふん!見え見えなのよお前ら」
  
雪子の頭にメットを押し付ける。

雪子「あのっ・・・」
瞳「つかまっててよ、こんな所いないに限るわ」
雪子「・・・・・・はい!」

スロットルを一杯に開けて走り出す。

瞳「落っこちてもほっとくわよ!今バカなケガはしたくないからね!」
雪子「大丈夫です!」

進行方向に10人程度のアセロポッド。

瞳「ゴキブリかよっての・・・・」

グリップを回し前輪を跳ね上げ、段差を利用してジャンプ。
壁を横に走ってアセロポッドの壁を飛び越す。

瞳「ったくもう門が遠いわねえ〜・・・今度庭狭くしてってお父さんに言っときなさい!」
雪子「はい!」

ドリフトをきかせて角を曲がる。
ふと顔を上げる瞳、その表情が強張る。
凄惨な衝撃音。




アセロポッドと戦いながら走る黒羽。
最後の一体を消して、庭の突き当たりまで走る。
辺りを見回し、何かを発見する。

黒羽「・・・・瞳・・・・・・」

クラッシュして壊れたバイクと、地面に転がっている瞳。
脇腹の辺りに血溜まり。

黒羽「瞳!瞳しっかりしろ!!大丈夫か!!」
瞳「健さん・・・・・・」
黒羽「大丈夫か!すぐ医者を」
瞳「ひ、一足、遅かった・・・・・」
黒羽「なに?」
瞳「女の子が、怪人にさらわれた・・・たぶん、ここのお嬢さんだ・・・・」
黒羽「何だって・・・・」
瞳「人質とか言ってたから殺されはしない・・・でも早くしないと」
黒羽「分かった、もう喋るな!」
瞳「ん・・・・」
黒羽「・・・・・・・・」

黒羽、憎しみと怒りの表情。




OZベース。
  
田島「オズブルーンが帰投します!」
葉隠「黒羽君はどうした?」
田島「分かりません、全機能自動操縦で・・・・・妙だな、人が乗ってます」

格納庫。カタパルトから着陸するオズブルーン。
機体が静止し、走り寄る赤星ら。

赤星「どうなってんだ?誰か・・・・」
  
ハッチが開き、ずり落ちるように降りてくる瞳。
応急処置はしてあるが、青と白のレーシングスーツが血で染まっている。

赤星「瞳ちゃん!」
黄龍「瞳ちゃん!おいどーなってんだよっ!!」
葉隠「こりゃいかん・・・早く洵を呼ぶんじゃ!」



山間のスパイダルアジト。
警報が鳴り響き、ところどころから煙があがっている。
慌てふためくアセロポッドたち。

アセ「止めろ!隔壁を閉め・・・・・・ゲッ!!」
  
後ろから白いギターで思い切り殴られ消滅。
壁の向こうから現れた黒羽。

黒羽「こうなりたくなきゃあどくんだなあ。ええ?」
アセ2「こ、ここから先は通さん!」
 
発砲するアセ2。その後ろから援護射撃する数人。
黒羽、転がりながら避けて倒れているアセロポッドから銃を奪い取って援護射撃隊を撃ち殺す。
硝煙を吹いて立ち上がり、一人残ったアセ2に歩み寄る。

黒羽「おおおっとぉ、何を考えているかわかるぜえ。6発撃ったか、まぁだ5発かだ。
   実をいうとオレも数えるのを忘れちまったんだぁ・・・・」

最後の一発でアセ2を撃つ。消えるアセ2。
が、また次々と現れるアセロポッド。両手を広げて口笛を吹く黒羽。

黒羽「おやおや、オレの言ったことがま〜だ分からんようだな。オレは今日はすこぶる機嫌が悪い・・・」

黒羽を遠巻きに取り囲むアセロポッドたち。
黒羽「オレが爆発しないうちに消え失せろ!!!」


   
アジトの奥の部屋。椅子に縛り付けられている雪子。
その横に立つ怪人。
テロップ(暗黒機甲兵 シザージャガー)

シザージャガー「騒がしいな。何事だ・・・・ム!!」

壁が爆発し破られる。
黒煙の中で黒い粒子が煌き、その中から飛び出す黒い影。
飛び蹴りを喰らい吹っ飛ぶシザージャガー。

シザージャガー「貴様はブラックリーブス!!」
ブラック「雪子さんを返して頂こう。ブラックチェリー!!」
  
矢をつがえ、シザージャガーに連続で喰らわせる。
シザージャガーが気を失っている隙に、雪子の縄を解く。

ブラック「大丈夫ですか」
雪子「はい、ありがとうございます・・・・あなたは」
ブラック「・・・さ、つかまって下さい。早く逃げましょう」
  
雪子を抱きかかえて窓から飛び出すブラック。



鶴間邸。
窓辺に立って空を見上げる冴。
椅子に座って目を閉じている鶴間隆三。
 
隆三「雪子・・・!」

突然、バルコニーへのドアが開く。
雪子を連れて入ってくるブラックリーブス。

冴「雪子!」
隆三「雪子!無事だったのか!」
雪子「はい、この方に助けて頂きました」
隆三「あなたは確か、OZの特殊部隊の・・・・・」
ブラック「申し訳ございません。スパイダルからあなた方を守るべき私の不注意で、お嬢さんを危険な目に会わせてしまいました」
隆三「いや、ありがとう!ありがとうございます、何とお礼を言ってよいか・・・・!!」

一礼を残し、背を向けてバルコニーへ出て行くブラック。
と、振り返る。
ブラック「お嬢さんは・・・雪子さんはあなた方の大切な、たった一人のお子さんです。いつまたこんな事が起こるか分かりません。今度はあなた方が、雪子さんを守ってあげて下さい」
隆三「は、はい・・・・」

ブラック「雪子さん」
雪子「・・・・・」
ブラック「お父様と、お母様を・・・大切に」

バルコニーに飛び出すブラック。
追って出て行く雪子。
雪子「待って下さい!」
ブラック「・・・・」

リーブレスを入れて叫ぶ。
ブラック「オズブルーン!オートコントロール・ゴー!!!」

旋回しつつ飛来するオズブルーン。空中でハッチを開け、ジャンプして搭乗するブラック。
飛び去っていくオズブルーンを見つめる雪子。
雪子「おにいさま」

窓にもたれかかる冴。
冴「・・・健・・・・・・・」



OZの病室。
TVでオズリーブスのニュースをやっている。
アナウンサー『・・・という事でしたが、巨大化した怪人をリーブロボが撃破、今回もオズリーブスの活躍で平和は守られました』

ニュースを見ている瞳、もう普通の服に着替えて、小さな手荷物を持って帰り支度ができている。

アナウンサー『今回の事件に巻き込まれた鶴間家の長女、雪子さんにインタビューをお願いしました。VTRです』

画面が切り替わる。
雪子『私にはOZやスパイダルのことはよく分かりません。でも、私が捕まった時、ブラックリーブスが助けて下さいました』
キャスター『その時のことで一言お願いします』
キャスター2『オズリーブスの正体は未だ公開されていませんが、ブラックに何かメッセージはありませんか?』
雪子『ブラックの方にですか?』
キャスター『何か一言』
雪子『では・・・・。ありがとうございました。あなたのことは一生忘れません。・・・お体を大切に』

画面が切り替わる。
アナウンサー『今回の事件で、雪子さんは「自分を助けようとして負傷したバイクに乗った女性がいたのでお礼がしたい、探して欲しい」とのことでした。当局ではその女性を‥‥』
  
消えるテレビ。リモコンで消した瞳。
瞳「いいわよ。どうだって」

リモコンを置いて出て行く瞳。ドアを閉めながら、脇腹を押さえる。
瞳「てててて・・・」



数日後、快晴。
モトクロスのサーキット。「日本GP関東予選」の垂れ幕がかかっている。
ピットで準備している瞳と数人のスタッフ。
瞳、真っ赤なレーシングスーツ。
脇腹の傷の上を押さえる。ゆっくりと離す。何もついていない手に安堵。
気遣うスタッフ、笑って手を振る瞳。

瞳ナレーション「そのあと・・・」

客席を見やると、最前列に佐原と瞳の友人ら、笹木カメラマン。
その後ろに赤星らOZの面々。心配そうな洵。
 
瞳ナレーション「鶴間の家と健さんがどうなったかはよく知らない」

黒羽と目が合う。軽く手を振る瞳。いつもどおりの敬礼もどきの挨拶を寄越す黒羽。
準備に戻る瞳。

瞳ナレーション「事件はいつものように大きく取り上げられ、鶴間家の様子も多少なり知ることができたが、そこに健さんの影は見当たらなかった」
  
メカニック「藤尾さーん、ちょっと」
奥から男の声。
藤尾「今行く」

奥から出て来た男・藤尾がタイヤの辺りを見ている。
瞳「どうですか?」
藤尾「大丈夫だ。問題ない」
  
立ち上がる藤尾。
藤尾「瞳」
  
瞳の肩に手を置く。
藤尾「優勝したらヨーロッパだ。・・・行けるな」
瞳「はいっ!」

少し慌しくなるピット。
手袋をはめ直す瞳。

瞳ナレーション「赤星さんなら顛末を知っているかもしれない。いやその前に、聞けば健さん本人から話してくれる、私にだったら・・・・だが、不思議とこれ以上のことをあえて知る気は起こらなかった」

スタート地点でグリップを持つ手に力を込める。
メットの中で呟く瞳。

瞳「さよなら兄貴」

シグナルが変わり、並んだオートバイが一斉に走り出していった。


===***===(了)===***===
2002/7/2
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