Special Luster!
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ぱすっ

映画やドラマで聞き記憶していた銃声音よりも、迫力はない。
その音は実際に聞いてみると、とてつもなくまぬけな音がした。

「あたった・・・!ねえ黒羽さん、見ててくれたっ?」
リーブスの射撃ルームにそのまぬけな音が響いた瞬間、それを嬉々として喜んでいる者がひとりいた。輝だ。
付けていたヘッドギアを首にかけて、満面の笑みで黒羽を見る。

黒羽はそんな輝を帽子ごしに見つめてニヤリと笑う。
「ああ、見てたぜ・・・。瑛ちゃんに銃を押さえてもらって、ねらいを定めてもらってな。」
「補助輪つきの射撃ってトコかなあ、テル?」
「イジワルっ。生まれて初めてあたったんだよっ!」
黄龍は輝が手にしている少し重い拳銃を、彼の手ごと後ろから上手に支えている。黄龍は輝ごしに黒羽とくすくす笑い、楽しそうだ。

不機嫌そうな『補助輪付き』の輝は、まだ煙がくすぶっているマトをみた。
ど真ん中に命中している。
黄龍ごしに初めて撃った銃の反動は予想以上のものがあり、彼が支えてくれなければ後ろに飛んでいたかも知れない。両手はまだじーん・・・と痺れが残っている。

片手で銃を軽々撃てる『エイナ』を輝は素直に見直した。
「やっぱりすごいぜ、エイナは・・・。これだけは尊敬できるぜ、オレっ。」
「そりゃどーも。お、もうそろそろじゃねえか? 赤星リーダーが道場でお前を待ってるぜ〜。」
「うん。それじゃいってきますっ 黒羽さん! エイナっ!」
輝は指先だけで手を振るマネをする黄龍と、帽子をちょっと傾ける黒羽に敬礼まがいの挨拶をして、乱暴にヘッドギアを外し彼らの方に放り投げると、ディパックをかついで赤星の元へ飛んでいった。

「やれやれ、せわしないな〜・・・。黒羽さんよお、ホントにあいつハタチなんだろーな?」
「お前、何回目だその質問?」
「だってよ顔も女っぽいし、背だって瑠衣ちゃんとぜんぜん変わんねえだろ?体つきだってガキだしよ。・・・・・・けどよ。」
黄龍は持っていた銃をくるりともてあそんで、シリンダーから一発の弾丸を出した。輝を連れてきた時に発砲した弾丸と同じものだ。
そしてその弾を上着のポケットに突っ込むと自分の視線を、マトに照準を合わせる。

・・・ちゃきっ

「あいつの手に触った時、正直驚いたぜ・・・。ごつくてさ、ちゃーんと男の指をしてるんだ。細いカラダに不釣り合いなくらい、な。」
右手で銃を支えて左手は高い位置の腰にあてている。ラフなスタイルだが、相当の腕力がないとこの格好で銃を撃つのは難しい。

「オヤジさんは宮大工っつってたな。・・・色々やらされたんだろうな。」
「アキラも言ってたな〜、見たものを一度で覚えないと出来る出来ないは別にして、怒鳴られたってよ・・・。」
「・・・おい?」
黄龍はマトに視線を合わせて、そのまま左手で『ホイっ』と黒羽にヘッドギアを投げつけると自分はするりと頭につけた。

弾を込めて、また照準を合わせて、信じられないくらいの集中力を指先と視線に込めて、
・・・トリガーを引く!

がごおっ!!!

ひゅうっ・・・
黒羽の口笛が硝煙の香りに溶ける。

人型のマトは粉々に崩れていた。こっぱみじんになったと言った方が良い。
「エクスプロージョンブリットだ・・・。コレ一発でヘリでも落とせるぜ〜。ま、ヘリは落とせても怪人さんには歯が立たないけどなあ。やっぱり博士や有望さん頼りかな?」
「・・・っつ。」

黒羽は乱れている襟元を直してヘッドギアをまた頭から外した。取り付けるのが一瞬でも遅かったら、耳の痛い思いをしていたところだろう。
あわてて取り付けたために少し乱れた白いマフラーを定位置に戻して、黄龍にため息を付いてみせた。
「ゴメンな〜、黒羽。イキナリ物騒な弾撃ってよ。」
「どっちもガキだぜ、お前らはよ。」
「あー・・・。」
黒羽は目を細めて唇の端をちょっと上げると射撃ルームから出ていった。


黄龍は自分の手のひらにすっかりなじむ銃を、ゆっくり握った。
自分の手のひらは(ちょっとは)気を使っている分、輝よりも綺麗な手だ。女の子の手を握る時はやさしくして、体に触れる時はちょっとだけ爪を立てて、拳銃とチャクラムを取る時は力強く握りしめて。

それでも俺の手はあいつよりもごついワケじゃねえよなあ・・・。

かしょっ・・・

シガレットに火を付ける。今度は硝煙にタバコの煙が混ざる。煙のベールごしに自分の手をみつめ、ぎゅっと握ってみる。

ちょーっと羨ましかっただけだって・・・。
オヤジさんに怒鳴られまくった輝の手が、な。




「うりゃあっ!!」
「よーし、間合いを考える事が出来るようになってきたなっ。その調子だっ!もっと矢つぎ早に攻めるんだっ!!」
輝の拳が、蹴りが赤星の顔と胴ギリギリに空を切る。

最初に型を教えて組み手をした時は、赤星の体に拳がかすることすら出来なかったのに、彼の成長ぶりはめざましい。飲み込みが早い彼にものを教えるのは赤星自身、楽しいらしく彼に無理な要求ばかりを突きつける。
輝はそれに応えようと必死に追いつこうとする。
顔をかすめる拳の空気が心地よい。

「よーし、もっと打ってこいっ!」
「はあっ!!」
どすっ!
輝の拳が初めて空ではなく肉の感触をとらえた。自分の拳が少しだけなま暖かくなる。
「え? り、リーダーっ? どうして・・・。」
「ひゅうっ。」

輝がひるんだ瞬間、赤星の拳が彼の腹にめり込んだ。喉の奥がすっぱくなるのを感じる。
「うえっ・・・あう。」
胃液が逆流するのをなんとかして押さえたがバランスがとれない。床に手が付き、宙を遊んだかかとが付き、そして肩が触れるのがわかった時、目の前にまた赤星の拳が見えた。

やられるっ!!
ビッ!と自分の前に空気が集まるような音がした。

彼の拳を自分のまつげが触れている。
顔に打ち込まれるかと思った鉄拳は寸止めされたのだとようやく理解した。
赤星は一瞬だけ瞳がまるくなったが、すぐに険しい顔となり拳を輝の顔につけたまま怒鳴りつけた。
「一発打ったくらいでひるんでどうするんだ!すぐにつけこまれるぞ!それにお前は体が小さいから、こうやって組み敷かれたら最期だ!!」
「は・・・は、はい・・・。」

『体が小さい』という言葉は輝にとってはタブーだったが、今の状況とリーダーが言ったのとで素直に納得できていた。腕のリーチも不利だし、バランスの整った体型をしているが、背が低いというのは変わらない。
自分の最大のコンプレックスを突きつけられて、素直に納得して受け入れた輝は心臓が重くなるのを感じた。
「オレの背・・・。・・・オレ。」

「けど、ひとつわかった事もある。」
「え?」
赤星は拳を戻して立ち上がると、自分の右手を瞳が丸くなったままの彼に差し出してすっと立たせ、そしてまた自分の手を握りしめる。
「お前は、俺の拳を顔で寸止めされたとき、目をぱっちり開いていた。普通なら『怖い!』と思うと反射的に瞳を閉じるものなんだ。輝、お前にはそんなことがない。・・・驚いたよ。」

「え、す、すごい事なの・・・?」
「ああ。立派な武器だよ。」
輝の顔にじわじわと笑顔が戻るのがわかる。彼は両手のひらをぎゅっとにぎりしめると「くう〜っ!!」と床を見て、赤星の顔を見た。

「えへへっ・・・ありがとう、リーダーっ!」
「そこは礼をいうトコじゃないだろ?」
「あははっ!」
赤星は輝の頭に手をぽんぽんと置いてニッコリ微笑んだ。いつもならあまり面白くない顔をする輝も今回は黙ってされるがままになっている。

「ねえっ? オレもっと強くなるかなっ?」
「それは、お前次第さ。さて・・・もうすぐ時間だな。」
カベに取り付けられている時計に目をやると、もうかなりの時間が過ぎている。組み手をしていると時間がたつのが異様に早い。
「もう、おしまいなの?」
「イヤ、違うよ。輝にプレゼントがあってさ。」
「えっ。」

なにそれっ?と言葉を続けようとした輝だが、トレーニングルームのドアの開く音にかき消されてしまった。ひゅうんっと風に似た電子音が鳴り、ドアの前にいたのは有望主任と黒羽、それに葉隠博士だ。
「主任っ!ハカセも!どうしたんですかっ黒羽さんも!」

輝は3人のそばに駆け寄って、有望、博士、黒羽の順に手をとる。日本人には多少オーバーな愛情表現だが、彼がするとイヤミがない。
「元気が良いのお、輝君は。竜から聞いておらんのかいな? プレゼントを持ってきたんじゃ。」
「え、え、な・・・?」
有望と黒羽は顔を見合わせてくすくす笑うと、持っていたケースを輝に差し出した。
「あけてごらんなさい? 輝君。」

銀色のケースは抱えるとけっこうな大きさだと言うことがわかったが、不思議に軽い。目の前にいる主任の笑顔の様に、ふわりとして軽いのだ。
輝はそれをフロアにそっと置いて、まるで宝箱を開けるようにケースの留め金を指ではじいた。



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background by Atelier N