第38話 夕張より愛をこめて!君は黒羽健を見たか
<前編>
(後編)
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青い空。
雲の上を滑空するオズドリーン。
操縦席の黒羽。助手席にギター。
黒羽「夕張山地上空か」
操縦桿を切って、斜めに降下。雲の層の下に出る。
黒羽「悪い風だぜ」
ナレーション(声:中江真司)「北海道・夕張において、一瞬ではあるが膨大な暗黒電磁波が感知された。ブラックリーブス黒羽健は調査のため、新戦闘機オズドリーンで夕張へ飛んだのである!」
タイトルin『夕張より愛をこめて!!君は黒羽健を見たか』
通信機から通信。
赤星の声『こちら赤星!どうだ、なんか異常あるか』
黒羽「どうだかな。ただ吹いてる風はど〜もいけ好かねえ」
赤星の声『そうか。よし、なんかあったらすぐ連絡しろよ!お前すぐリーブレス切っちまうんだもんなあ…』
黒羽「便りのないのは善い報せってね」
赤星の声『ったく。そんじゃあな、一旦切るぜ。ヤバくなったらすぐ連絡入れろよ』
黒羽「構いすぎですぜ、隊長」
赤星の声『バッカやろ…んじゃな!』
黒羽「おう」
通信が切れる。
黒羽「やれやれだぜ。お前さえいなかったらオレは、このまま飛んでっちまえるんだがな」
オズドリーン、怒ったように発信音を鳴らす。
黒羽「ははは。はいはい、分かってますよ。冗談だよ…しかしお前の姉さんは、もう少し話の分かる奴だったぜ」
操縦桿を切る黒羽。
高度を下げるオズドリーン。
雲の下に出ると、雲がかかる山地が拡がっている。
操縦席の黒羽、山の向こうの市街地を見渡す。
黒羽「夕張か…夕張市は北海道のほぼ中央、空知地方の南部に位置し、東西24.9キロメートル、南北34.7キロメートル、面積763.36平方キロメートルの街だ。夕張市一帯は夕張山地の豊かな森林や清流に育まれた丘陵で、標高1,668mの夕張岳から流れる夕張川とその支流が市内のほぼ中央を貫き、流域に沿って帯状に街が形成されている。山や丘陵に囲まれた地形的特徴から、四季の変化や昼夜の気温の変化が大きく、また、風はまわりの山々にさえぎられて弱められている。降水量は本道の平均的な量で積雪は近年少なめだな…」
山上を旋回しながら電磁波検知器を稼動させる。
映像はオズドリーンからの俯瞰のまま、
黒羽「さらに人口15,173人、世帯数は7,412世帯。市名の由来はアイヌ語で『鉱泉の湧き出るところ』を意味する『ユーパロ』の転訛したものといわれている。市章は石炭の街を象徴して外側の六角形は黒ダイヤ・石炭を現し、内側の丸と点は夕張の『夕』の字をデザインしたもので制定は昭和12年8月だ。そして石炭の街としての夕張は…」
操縦席の黒羽、突然カメラ目線になり、こちらを指差す。
黒羽「画面の前の君!今オレの夕張ガイドを飛ばして読んでいたな?」
オズドリーンの人口知能の発信音。
黒羽「何?観光ガイドをしないとダメだ?しょうがねえなあ…(咳払い)…むっ」
黒羽、何かを感じ取る。
次の瞬間、機体が大きく揺れる。
黒羽「どうしたオズドリーン!」
パネルのスイッチを次々に入れるが、反応なし。墜落し始める。
黒羽「まずい!」
計器類が狂い、コンソールから火花が散る。
黒羽「いかん、どこからか強力な妨害電波が…… しっかりしろオズドリーン!」
知能ランプは反応するが、機能不全。
黒羽「安心しろ、オレが必ず不時着させてやる!」
操縦桿を握り、何とか機首を上げる。
が、目の前の山から赤いビーム発射!
黒羽「しまっ……!!」
翼の付け根に命中、墜落。
スパイダル夕張岳基地。
アセロポッド1「所属不明の民間機1機を撃墜。確認は不要と思われますが…」
謎の声「手ぬるい」
アセロポッド2「は、はっ!」
鋭い靴音がゆっくりやってくる。
カッ、と立ち止まる。
ファントマ「害虫駆除は徹底せねば無意味だ」
アセロポッド1「はっ!ただちに確認のため小隊を出動させます!」
ファントマ「当然だ」
夕張の原野をアセロポッドたちが走り回っている。
一箇所に集合し、やがて去って行く。
少し離れた所にある茂みが動きだし、ズルズルずれて落ちる。
ブッシュのカバーだった。出てきたのは半壊のオズドリーン。
木の陰からボロボロの黒羽。帽子とジャケットを脱いで、赤いシャツを腕まくり。
帽子を拾ってかぶり直す。
黒羽「あばよ、労働者諸君」(投げキス)「さーて、お前をどうするかな」(半壊状態のオズドリーンの機体を撫でる)
ハッチを開けて何とか操縦席に入り込む。
コンソールをいじってみるが、全く反応なし。
黒羽「だろうな」
横の席のギターを持って立ち上がる。
1コード弾いて、無事を確かめ背中に担ぎ、足元の岩に片足を乗せる。
黒羽「しかしこれじゃあどうにもならんな。オレはともかくドリーンを治してやらないと…」
リーブレスを顔の前に持ってくる。
通信スイッチを入れるが、これも反応なし。
黒羽「…」
まじまじとリーブレスを見つめる黒羽。
着装スイッチを入れるが、また反応なし。
黒羽「参ったな。こいつはあとでうるさいぞ…」
リーブレスを取って、ポケットに突っ込む。夕張岳を振り仰ぐ。
黒羽「それはそれとしてだ、夕張で何かが起こっているのは間違いなさそうだぜ」(ジャケットを羽織る)「今回はオレ一人で……片をつけなきゃならんようだな!ああ、そうするとも!」
山中のロープウェイ乗り場。鉄柵が張り巡らされ、『閉鎖』の看板が立てられている。
その中で蠢くアセロポッドたち。
ブースの中に入り、ロープウェイを起動。乗り込む数人のアセロポッド。
アセ1「聞いたか?新しく来た幹部の話」
アセ2「あれだろ、暗黒機甲兵団の新作だろ。参ったよなあ…」
アセ3「しかしこのロープウェイってのは、人間の作ったものにしてはなかなか便利だ」
アセ4「適当に時間のかかるところがまたいいじゃないか」
ロープウェイの外側から、談笑するアセロポッドたちの姿。
カメラが上に移動。ロープの接点のタワーの上に立つ黒羽。強風が吹き荒れている。
高度100m強、眼下には山の緑を渓谷が広がっている。
飛びかけた帽子をつかまえて、バランスを崩して落ちかける!
黒羽「あっ、あ〜…」
咄嗟に手を伸ばすが指の差でスカッ。
慌てて片足を引っ掛けてぶら下がり、助かる。
黒羽「…ふぅ、サービスサービス…」
足掛け回りの要領で態勢を立て直して、帽子を深くかぶり直す。ついでに手袋もはめなおす。
ゴンドラが近づいてきたところでジャンプ!ゴンドラの上に着地。
ゴンドラ内部。
大きく揺れるゴンドラに驚くアセロポッドたち。
アセ2「ど、どうした」
アセ4「何かぶつかったか?」
アセ5「何を驚いてんだ。これだけの風が吹いてるんだ、さっきから多少は揺れてるじゃないか」
アセ1「それもそうか…」
ゴンドラ屋根の黒羽、ニヤリ笑い。
ロープウェイから降りるアセロポッドたち。
アセロポッドたちが去ってから、屋根から飛び降りる黒羽。
崖の切れ目にあるアジト入り口。
周りを警備するアセロポッド。後ろから肩を叩かれ、振り返る。
そこに黒羽!黒羽、手振り。
見張りアセ「き、貴様は黒羽健!!」
黒羽「おっ、これは光栄ですネ♪」
(ウインク)
黒羽、蹴り。伸びるアセロポッド。
アジト内。
アセロポッドたちが働いている。そこへやってきたロボット。
テロップ(暗黒機甲兵 ガンガディン)
ガンガディン「貴様ら!真面目に働いているか」
全員敬礼を返すアセロポッドたち。
ガンガディン「今日はファントマ参謀長殿が視察に来られる。落ち度のないようにしろ!」
再び敬礼。
数人のアセロポッドを伴なって去って行くガンガディン。
コンピュータをいじっていたアセロポッド、その列の最後尾に加わる。
廊下を歩くガンガディンたち。急に立ち止まる。
ガンガディン「…妙だ。足音の違う者がいる…」
振り向くガンガディン。顔を見合わせるアセロポッド。
ガンガディン「貴様だ!!」
腕の先からビームを発射。1番後ろのアセロポッド、それを避けてバク転。
着地するやスーツを握り、回転しつつ思い切り剥ぎ取る。ギターを担いだ黒羽登場!
黒羽「足音か!」
(指を鳴らす)「こいつは気付かなかったぜ」
アセロポッドをギターでなぎ倒し、走り出す黒羽。
ガンガディン「追え!!奴を捕らえろ!!」
どこからともなくアセロポッドが湧き出て黒羽を追う。
前方からもアセロポッド現る。黒羽、天井のパイプに掴まり、勢いをつけて蹴りつける。
そのまま飛び上がり、アセロポッドを踏みつけてさらに走る。
廊下の角、T字路の両側からアセロポッドの大群。
黒羽
(口笛)「フッ、ここまで大人気とはね…」
黒羽、ギターを1コード弾いて背中に背負い、右側に走り出す。
両側の壁を見ながら走る。
前方のアセロポッドとの距離が詰まる。
黒羽、突然止まり、壁についた小さなフタを開け番号のついたボタンを押す。
黒羽「1.5.2の4.2.9と」
壁の一角が浮き出て、隠し通路が現れる。
アセ「な、なぜその通路を!!」
黒羽「所属のハッキリせんアセロポッドに、コンピュータはいじらせないことですね。バイバイ♪」
敬礼もどきの挨拶を残し、隠し通路に消える黒羽。扉が閉まる。
アセ「しまった!」
アセ2「ここは一度開けると番号が変わるのだ」
アセ3「誰か調べに行け!」
走り出す数人のアセロポッド。
追いついてきたガンガディン。
ガンガディン「何をしている!!」
アセ3「逃げられました!」
ガンガディン「分かっとるわ!」
振り返るガンガディン(カメラ目線)
ガンガディン「しかしここに逃げ込んだとは、かえって好都合だ。司令室に行く、ついてこい!」
隠し通路を走る黒羽。やや暗い。少し急な坂になっている。
立ち止まり、振り返る黒羽。
黒羽「新しい番号を調べるのもそろそろか。だがこれだけ距離をとっておけばオレの足なら充分…」
遠くで震動。ゴゴゴゴゴゴ、という低い音。
黒羽「いかんな、さっさと出ちまう…か……」
音がどんどん近くなる。震動が増す。
黒羽「まずい!!」
弾かれたように走り出す黒羽。
通路ギリギリの大きさの鉄球が迫る!
黒羽「くっ…」
どんどん距離が詰まる。さらに走る黒羽。
すぐ背後に迫ってきている。前傾姿勢で走る黒羽。
通路の先に光が見えてくる。しかし、
黒羽「ああ…」
走りながら上を向いて、額を叩く黒羽。
険しく高い渓谷の上に一人分くらいの細い橋がかかっているだけ。
谷底には激流が流れている。
黒羽「くそっ!」
速度を上げて、橋に出る黒羽。すぐ後ろに鉄球。
鉄球に追われながら橋を渡りきる黒羽。
再び通路の中に入る。が、突然振り返る。
鉄球が迫る。背中のギターのフレットを掴む黒羽。
黒羽の上を転がる鉄球!
アジト司令室。
ガンガディン「はっはっはっはっは!奴め、今頃渓谷にでも落ちている頃だろう」
アセ「しかし奴はブラックリーブスで…」
ガンガディン「とは言え要するに中身はたかが人間!鉄球が目晦ましとは気づくまい。鉄球に気をとられている時にあの橋に追い込み、あの渓谷に落とす作戦よ!あの谷底の川には剣山のように岩が切り立っていて、あそこから落ちたらたとえオスリーブスとは言え串刺しだ」
橋を転がりきる鉄球。
鉄球の前に黒羽はいない。
が、橋の中央で立ち上がる黒羽!
黒羽「やれやれだぜ。鉄球で混乱させてこの橋に追い込んで落とそうって策だったようだが、この橋が仇になったようだな」
手に刀を持っている。柄がギターの頭。
それをフレットに収める。
黒羽「鉄球そのものにはさすがのオレも驚いたぜ。だがオレは気付いた、この橋に差し掛かって!『鉄で出来た球がなぜ!こんな細い橋を転がることが出来るのか』?…答えは勿論『中身が詰まってやしない』ということだぜ」
ギター刀を再び抜き、一回転させる。
黒羽「しかしそれに根拠はない…連中のやる事だどんな事が起きても一つも不思議に思わない。だが鉄球を避けることも、逃げ切ることも出来ないというなら仕方がない――潰されるかも――という危険を、いやッ!『敵陣において自分の世界の定規で物を測る』という危険を侵す事になるが… 今…この場でやるしかないって事だ……」
刀を血振りし、フレット鞘に収める。
黒羽「『転がる鉄球』と『自分の位置』を計算し…自分が『潰される』部分をくり抜いて鉄球を通過させる!もしオレの『中身が…』って三次元の法則にあまりに則った仮説が正しければの話だが、オレは今…」
帽子を目深にかぶって立ち去る黒羽。
黒羽「無傷のまま橋の上に立っているって事になるが、どうだい…?」
謎の声「そこまでだヘル・黒羽!」
黒羽「んん〜?」
立ち止まり、振り返る黒羽。
橋の袂に、ガンガディンとアセロポッドたち。
前方にもアセロポッドの大群。
黒羽「誰だ?」
囲んでいる敵をゆっくりと見回す黒羽。
黒羽「オレを呼んだのは…お前らじゃあなさそうだな…ええ…?」
ガンガディンらが道を開ける。奥から現れたファントマ。
ファントマ「私だ。なかなかやるようだなヘル・黒羽!貴君がOZ所属でなければ部下に欲しくて堪らないところだよ」
黒羽「私もあなたがスパイダル軍人でなければ是非ご依頼をお請けしたいところですなあ。だが部下に…ってのはゴメンだ……行き先を言いつけられるってのだけはゴメンだぜ」
ファントマ「ヘル・赤星の言いつけならば聞くのかね?」
黒羽(チッチッチ)「お前さんとあのバカを一緒にしてもらっちゃあ困るな。お前さんもリーダーとしちゃ大したもんだ、暗黒次元では1番かもしれん…だがその腕前は日本じゃあ」(2本指)「2番目だ…」
ファントマ「なるほどヘル・黒羽…貴君を雇おうと思ったら、今の貴君の仕事が終るのを待たねばならないという訳か。しかし困った…貴君の仕事を終らせるにはスパイダルは壊滅せねばならないという事だ。それは出来ない話だ…この葛藤貴君には分かるまい、宮仕えはどの次元でも大変な事なのだよヘル・黒羽」
黒羽「残念…そりゃあ分かりたくもないな。ところで参謀長殿、オレの前で出待ちしてる連中を一つどけちゃあもらえないか。今からアジトを調べて、街で愛機の修理をしてやりたいんだ」
ファントマ「それは心配には及ばないよヘル・黒羽。OZの…いや貴君の愛機オズドリーンは我々が探して改修する予定だ。オズドリーンは実に高性能な戦闘機だ、人工知能さえ解除してしまえば我々スパイダルの戦力となる。ゆくゆくは地上侵攻のため量産するつもりだ」
黒羽「なんて可哀想なことを。あいつを量産なんてゾッとしねえぜ」
ファントマ「その点も安心したまえ。貴君がその光景を…オズドリーン大編隊を見ることはない。今から私は自らの手を下さず!貴君を串刺しにして殺すと予告しよう!」
黒羽「何っ!?」
指を鳴らすファントマ。中央で二つに割れる橋。
落ちていく黒羽と数人のアセロポッド。
ファントマ「アウフビーダーゼーエン(さよならだ)、ヘル・黒羽」
基地内部に帰っていくファントマ・ガンガディンたち。
谷底の尖った岩に、黒いものがいくつか突き刺さっている。
赤いものが飛び散って、激流を流れていく。
白いギターが流されていくのが見える。
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