第22話 遊園地でドッキリ!乗っ取られたヒーローショー!
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スパイダル秘密基地。BIが光洛園遊園地のパンフレットの束を見ている。一番上の紙には「忍風戦隊ハリケンジャー vs 龍球戦隊オズリーブス」とある。すぐ側にゴリアント。脇にシェロプとスプリガンが控える。

BI「で、ゴリアント。お前の手下が集めてきたこのデータの意味は?」
ゴリアント「へえ。文字の解析はもう済んでましてね。オズリーブスとハリケンジャーってのの決闘が時々ここで行われるらしいんで」
スプリガン「ハリケンジャー? そりゃなにもんだ?」
ゴリアント「それも調査済みさ。前回の決闘の時、ちょっとアセロポッドを下見に入れてみたがな。オレっちモンスター軍団に似たやつが、オズリーブスと戦ってたぜ。へっへっ‥‥ モンスターってのはどの世界でも役に立つって証拠だなぁ!」

シェロプ「ほう‥‥で、勝敗はどうだったんだ?」
ゴリアント「そ、それは‥‥」
シェロプ(バカにした声で)どの世界でも負け犬‥‥の間違いじゃないのかな?」
ゴリアント「やいっ そのひん曲がった口、もっと‥‥!」
BI「ひかえい! 二人とも! それで、ゴリアント、策は?」

ゴリアント「せっかくオズリーブスの対抗勢力があるんなら利用しない手はねーでしょうや。敵はハリケンジャーだけと思ってるところに、オレたちが加勢すりゃ、絶対だ。で、そのハリケンジャーってヤツは、ジャマになったらぶっつぶしゃあいい」
BI「なるほど、ゴリアント。その作戦、面白い。見事、やってみせい!」


===***=== タイトルIN「遊園地でドッキリ! 乗っ取られたヒーローショー!」===***===


良い天気。午後の「森の小路」。黄龍、ボックス席で新聞を読み、瑠衣はポトスの枯れ葉をとって巻き直してる。輝は入り口のガラスを拭き、赤星はTVを見上げながらぼーっとグラスを磨く。要は、ヒマそうな4人。
と、ドアの外側に、輝より頭ひとつ近く小さなショートヘアの女性。ぴったりしたスリムジーンズに、芥子色のだぼっとしたトップ。長すぎる袖を少しまくり上げている。

(ドアを内側から開けて)「あ、ごめんなさい。いらっしゃいませ!」
茜「すみません。こんちには! 竜くん!」
赤星「え‥‥? あ、あれ、義姉さん!?」

思わず席から立ち上がる黄龍、瑠衣。カウンターに歩み寄る茜
茜「ちょっと近くまで来たから寄っちゃった! 元気?」
赤星「うん。まあね。あ、みんな、紹介するよ。俺の兄貴の奥さん」
(ぺこりと頭を下げる)「赤星茜と申します。いっつも義弟がお世話なって‥‥」(カウンターから出てきて3人を紹介しようとする赤星を遮って)「あ、わかるわよ! もちろんこちらが桜木瑠衣さんで、黄龍瑛那さん、そしてあなたが翠川輝さんよね?」

瑠衣「初めまして! あの、お正月のお料理! すっごく美味しかったです!」
(歩み寄って茜の手をとり)「リーダーにいっぱいお世話になってるのこっちなんですっ。オレも、あのお料理とっても美味しくて、それに嬉しかった!」
茜「よかったー! 一生懸命作った甲斐あったわぁ!」

黄龍「どーも。いやー、なんか、イメージぜんぜん違ってたな」
(背の高い黄龍を見上げる。その身長差30cm!)「え? どんなイメージだったんです?」
黄龍「だって、赤星さんとあの親父さんのいる家ですよ。もっと厳しそうな人じゃないとやってらんないかなーと思ってたけど、こんな可愛らしい人だとはねー」
茜「うれしー! 聞いた、竜くん?」

赤星「黄龍、お前、人見る目、無い。こー見えて、実は、すっげーおっかねー‥‥」
茜、いきなり赤星の肩のあたりを掴んで引き下げ、背伸びして思いきり頭をぶったたく。
赤星「‥‥ほらな‥‥‥‥」
頭をさすりながら、涙目の赤星。笑い声で満たされる森の小路。

===***===

光洛園のヒーローショー。土曜日で満員になっている会場。ステージには赤、青、黄の3人の戦士と二人の怪人、ステージの端には人質に取られた子供3人。本気で泣いているので、実はちょっと困っている戦闘員マゲワッパ!
怪人1「ハリケンジャー! お前達が動けばあの子供の命はないぞ!」
怪人2「はっはっはっ! どうだ、手も足もでまい!」

ハリケンレッド「きさまらっ」
ハリケンブルー「子供を人質にとるなんて、卑怯よっ」
ハリケンイエロー「あんなに泣いてるじゃないかっ」
怪人2「こら! マゲワッパ! 泣かす奴があるかっ」
マゲワッパ1(小声で子供に話しかける)「泣かないんだよ。すぐ助けがくるから‥‥」

響き渡る声「ジャカンジャ! 卑怯なマネは許さん!」
ステージ3階に登場する5人の戦士。
怪人「なにものだっ」
レッドリーブス「レッドリーブス!」
ブラックリーブス「ブラックリーブス!」
イエローリーブス「イエローリーブス!」
グリーンリーブス「グリーンリーブス!」
ピンクリーブス「ピンクリーブス!」

レッドリーブス「地球の平和と光洛園の平和は、俺達が守る!! 龍球戦隊っ!」
5人「オズリーブス!」
5色の煙玉が爆発。飛び降りてくる5人。レッド、ブラックが戦闘員を倒す間に、イエロー、グリーン、ピンクが子供達を救助。

レッドリーブス「ハリケンジャー! これで遠慮はいらんぞ!」
ハリケンレッド「助かったぜ、オズリーブス! よーし! みんな、いくぜ!」
突然響き渡る拍子木の音。どこからか和傘を持ち出してくる3人。ハリケンジャーのキメポーズに入る。
ハリケンレッド「風が泣き、空が怒‥‥ おいっ どうしたっ!」

怪人1(突然頭を押さえて暴れ出す)「うわあああっ」
ハリケンレッド「なにー、どうなってんの?」
レッドリーブス「こんな台本、なかったろ?」
ハリケンブルー(中に入っている男性の声で)「ま、まずいんじゃないのか!?」
怪人2「おまえら! とめろ、とめるんだっ」

怪人2、8人の戦士、戦闘員たちで怪人1を止めようとするがだめ。会場は怪訝な面持ち。そこに慌てまくっている館内アナウンスが流れる。
アナウンス「も、申し訳ありません! 本日のヒーローショーは中止いたします。別会場で振替のチケットをお渡ししますので‥‥


パニック映像がTV内の映像に切り替わる。ニュースアナウンサーの声がかぶる。森の小路内のTV。ボックス席を寄せてサンドイッチなどつまみながら見ている4人+茜。
「速報です。本日、昼過ぎ、光洛園遊園地の子供向けのアトラクションで出演者の一人がいきなり暴れ出すという事故がありました。幸い観客にけが人はありませんでしたが、取り押さえようとした他の出演者3名と演出助手が打撲等の軽いケガを負い‥‥」

黄龍「ヘンな事故だな。暑くて頭おかしくなるよーな、陽気じゃねーしー」
輝「行った子供たち、なんか、がっかりしそう‥‥。可哀想だなぁ‥‥」
茜「がっかりなんてもんじゃないわよ。帰りなだめるの大変よ。子供って『じゃ、来週ね』なんて通用しないものね。このショーって会場入るまでが大変だし、親の疲労も三倍増ね」

瑠衣「へー、茜さん、行ったことあるんですか?」
茜「去年、竜樹が、ああ、うちの息子なんだけど、ガオレンジャーにはまっちゃったの! あれ、動物がやたら出てくる上に、レッドが獣医さんだもんで、もー、ダメで! で、2回ぐらい連れってたのよ。後楽園のショーに。面白かったけど、疲れたわー」
赤星(笑って)「竜樹、ほんと、動物好きだもんなー」

茜「ロボットがねー、みんな動物なの。おかげで、まだ4歳になってないけど、動物の英語名いっぱい覚えちゃったわ」
瑠衣「すっごーい! え、じゃあ、キリンとかゾウとかも?」
(くすくす笑いながら)「今度連れてくるから聞いてみてよー。『ガオジュラフ』とか、『ガオエレファント』とか答えてくれるから‥‥」
黄龍「なんか、いー話だねー! その"ガオ"って付いてるのがさ!」

茜「そーなのよー! いっそ、まんまにしてくれたらいいのにね。ガオマジロなんて、本気で、間違って覚えちゃいそうよ‥‥」
赤星「まったヘンなものを‥‥。まさかセンザンコウとかいねえだろうな」
茜「あ、でもガオハンマーヘッドはいるわよ!」
赤星「シュモク‥‥。ちょっと、どーでもいいけど、義姉さんのほうがはまってない?」
(ぺろっと舌を出して)「バレた? 小さい頃、弟と一緒に結構見てたのよね、あーゆーの!」

茜、急にマジメな顔で身を乗り出す。
茜「でもね‥‥。私、ちょっと気になるのよ。このショー、一週間前にもヘンなことがあったの。今日のも昼過ぎってことは2回めだから、一週間前にヘンなことがあった演目と同じ、『ハリケンジャー対オズリーブス』ショーのハズで‥‥‥‥」
4人(声を揃えて)「オズリーブス・ショー!!?」
茜「え、みんな、知らなかったの、自分たちのショーやってるって?」
4人、ふるふると首をふる。

茜「あのね、光洛園のヒーローショーって土日は1日4回やるんだけど、先々週ぐらいからかなー。1日のうちのどっかで1回、オズリーブスが飛び込んでくるようになったの。スケジュールは割に近くにならないと決まらないんだけど、それがもうすっごい人気なの!」
瑠衣「なんか、うそみたい‥‥」
輝「ホントにヒーローになっちゃった‥‥」

黄龍「赤星さん、いいのかよ? それ、ちょっと、まずかねー?」
赤星「確かにな‥‥。警察からひとこと言ってもらって‥‥」
茜「えー! だめだよ、竜くん!」
赤星「でもな、義姉さん。俺達、一応、秘密部隊なんだし‥‥」

茜「それはわかるわよ。わかるけど‥‥。子供たちにとって、オズリーブスって、やっぱり凄いヒーローなのよ! ショーって言っても、見てきた人の話じゃ、アクションにちょっと絡むだけみたいだし。それにあんなショーより、口コミのほうがよっぽど凄いわよ。はっきり言って5人の武器も乗り物も、完璧に把握されてるもの」
黄龍「た、確かに‥‥。オレがフリスビー使うって、えらい早くからしっかりバレてたもんな」」

茜「竜樹だって、ハリケンジャーはまだよくわかんないけど、オズリーブスには会いたいって、このショー、行きたがってるくらいなの。叔父さんがレッドリーブスだなんて知ったら、まず間違いなく15分は固まるわね」
赤星「‥‥‥‥‥‥頼むから、ぜったい言わないでよ!」
茜「ばかね。言うわけないでしょっ!」

瑠衣「それより茜さん、先週あったヘンなことってなんなんですか?」
茜「あ、そうそう! 先週はね、なんか強くておかしな戦闘員が二人ぐらい出てくるって、ヘンな演出があって。でも急に決まったのか、出演者の人がワタワタして、すごく不自然だったんだって。見てきた人から聞いた話で、ニュースにはならなかったんだけど‥‥」
輝「‥‥‥‥それって‥‥」
黄龍「‥‥‥‥やっぱり‥‥」
瑠衣「‥‥‥‥あれよねぇ‥‥」
茜「あれって‥‥?」

黒羽(いきなり割り込んでくる)「もちろんスパイダルですよ、茜さん」
赤星「黒羽! いつの間に!?」
茜「やだー! びっくりしちゃった! ご無沙汰してます。黒羽さん!」
黒羽「いえいえ、こちらこそ。で、ご一同、さっきショーで暴れた出演者に会ってきたぞ」
赤星「早ぇーっ!」
黒羽「当然だ」

輝「で、どうだったの、黒羽さんっ?」
黒羽「リハーサルの時なんかはまったく問題なかったらしい。で、暴れ出す直前に、電流が流れたような感じがあって、あとはまったく覚えてないらしい」
赤星「1週間前のヘンな戦闘員ってのは?」
黒羽「幸いそのスタントマン、その時も現場に居合わせててくれてな。やはりアセロポッドだったよ。なかなか倒れずに出演者一同えらく困ったが、そのうち楽屋に引っ込んでくれたそうだ。終了後、誰がやってたのかぜんぜんわからなくて、皆でかなり不気味がってたらしい」
赤星「そうか‥‥。ショーの中で見たからホンモノの化け物だって思わなかったんだな」

瑠衣「でも子供向けのアトラクションでそんなことするなんて、何、考えてるの?」
黄龍「ま、暗黒次元にゃ、あんなショー、ないっしょ。ホンキにしたんじゃねーの?」
瑠衣「それにしても常識ってもんがないのかしらっ!」
黄龍「だっ‥‥だからさー‥‥」

赤星「義姉さん。そのオズリーブス・ショーってやつ、明日もあるのかな」
茜「確かあったわよ。HP見ればすぐわかるわ」
黄龍、立ち上がってノートPCを持ってくるとざっとアクセスする。
黄龍「3回目の13:30〜のがそーなんじゃねー?」
赤星「じゃ、調査の時間も含めて10:00ぐらいに入ろうか」
茜「甘いっ 全員光洛園の入り口に8:30に集合!」

赤星「な、なんでそんな早く‥‥?」
茜「だって、ヒーローショーに入り込むのが目的なんでしょ。それに前の席のほうがいいわよね? そのためには若い整理券を手に入れる必要があるから、ゲートのできるだけそばにいて、開場と同時に整理券配布所まで走らなきゃ! でその前に入場券買う列もあるし‥‥」
頭をかかえた赤星。帽子を深く被り直した黒羽。きょとんとしてる輝。瑠衣と黄龍は状況が掴めたようで頷いている。

黄龍「茜さん。じゃ、こーしたらどう? 光洛園の前売り入場券、今日中に俺様が手に入れとく。そうすれば、行ってすぐに、門の方に並べるんだろ?」
茜「あ、えらい! 黄龍さん、貴方、わかってるわ! それなら9:00で大丈夫かも」
黄龍「‥‥そ、それでも開場の30分前に行かなきゃだめってワケ?」
茜「ダメ」
(深い溜息をついた赤星と黒羽を見ながら)「なんか、凄いことになっちゃったね‥‥」


===***===

翌日。早朝の森の小路。5人、食後のコーヒーor紅茶を思い思いの場所で飲んでいる。
瑠衣「あたし、なんかワクワクしてきちゃったなー!」
輝「オレもっ!」
黄龍「テルー、お前、ホントお子様っつか? ひきかえオジサンたちは朝から疲れてるぜ」

赤星「俺、人混みキライなんだよなー。めんどくせー。上空で待機しててイザとなったら飛び込むってんじゃダメかな」
黒羽「お前さん、どうしてそう短絡的なんだ? 物事には手順ってもんがあるんだよ」
赤星「だって、昨日の話、聞いてたらさぁ‥‥。黒羽、お前、よく平気だよな」
黒羽「ま、耐えるのも商売のうちですからね。旦那ももう少し精神修行するんですな」

いきなりからんからんとドアベル。
理絵「おはようございます。店長、どうかなさいましたか?」
カウンターの椅子からずり落ちてる赤星。黒羽も思わず帽子のつばをあげている。他の3人も目を丸くして理絵を見る。
赤星「り、理絵さん? 今日、店、休みだけど?」

理絵「いえ、一昨日マンデリンが無くなりかけてましたでしょう? 昨夜、偶然に炒りたてを見つけたので買ってしまったのです。2袋だけですが。いけなかったでしょうか?」
赤星「い、いや、ぜんぜん! 助かったよ」(レジの方にいく)「いくら?」
理絵(カウンターに豆を置き、赤星にレシートを渡しながら)「1600円です」
黒羽「へえ、これはありがたい。理絵さんが買ってきてくれなかったら、今日、明日、オレはお気に入りにありつけないところでしたよ」
理絵(軽く会釈するようにうつむく。ごくかすかに頬が染まっている)「いえ‥‥」

理絵(すぐにいつもの静かな表情で顔をあげ)「ところでみなさん、どこかにお出かけですか?」
瑠衣「あのね! 光洛園遊園地に遊びに行くの!」
理絵「それは‥‥また‥‥‥‥。きっとこれは何かの思し召しですね」
瑠衣「はあ?」

理絵「店長」
赤星(代金を持ってきながら)「は?」
理絵「これを差し上げましょう」
赤星「なに? ‥‥‥わっ」(理絵の差し出した券を避けるように両手を上げ、金を取り落とす)
輝「マスターってば、どうしたのさっ」

輝駆け寄って赤星の落とした金を拾い、理絵の手元を覗き込む。
輝「東海道四谷怪談? これ‥‥もしかして、お化け屋敷‥‥?」
理絵「はい。大学の教授が光洛園のお化け屋敷の入場券を2枚下さったのです。で、先日行ってみたのですが、演出もセットもそれなりによくできていました。もちろん、やや作り込みすぎてリアルさに欠ける部分はありましたが、周りの人たちの反応からして、制作者側の意図の反映と興業とのバランスもよく‥‥」

理絵、輝から視線を戻すと、赤星は既に一番奥の壁にはりついている。
赤星「り、理絵さん! そ、それはぜひ、理絵さんがもう一度、行ってきて! な? お、俺は遠慮しとくよ。輝、そのお金、理絵さんに渡して! その券はいいからっ」

理絵(いきなりすっと赤星に詰め寄り)「店長」
赤星(思わず固まって姿勢を正す)「は、はいっ」
理絵「店長は他のことに関しては臆病ではありません。むしろ勇敢な方とお見立てしています」
赤星(頭を掻きながら)「い、いや‥‥それほどでも‥‥」
理絵「ですからその弱点は必ず克服できるものと考えます。人の話を聞いているだけですと、想像の余地が入ってしまうので、余計怖いのだと思われます。ですから、まずはこのように完全な作り物とわかっているものから慣らせばよろしいのです」

赤星「な‥‥なるほど‥‥‥‥」
理絵「わたくし、作り物にこのような効用があるとは、いままで思ってもいませんでした。それで耐性を作っていけば、実際の場合に応用できるかと‥‥」
赤星「実際の場合ぃーっ!!??」
理絵「幽霊の苦手な方がどうやってそれを克服するか‥‥わたくし、非常に興味を持っております」
赤星「お、俺を実験台にせんでも、いーでしょーがっ」
理絵「いえ、店長ほど興味深く、また反応がわかりやすいケースは少ないと思われますので」

横からすっと手が伸びて、理絵の手からチケットを抜き取る。
黒羽(笑いをこらえながら)「わかりました、理絵さん。これはありがたく頂戴しておきます。オレが責任を持って、コイツをここに放り込みましょう」
黄龍(爆笑しながら)「で、結果報告書は俺様が書くよ〜!」
赤星「お前らなーっ!!」


===***===

光洛園の入り口。開場前。5人ぐらい並べる手すりのガイドに沿って長蛇の列。その中に既にうんざりした表情の赤星。帽子の鍔を深く引き下げている黒羽。逆にウキウキしてる輝と瑠衣。わりに真剣に状況を考えてる様子の黄龍。

赤星「‥‥義姉さんの言ったこと、ホントにホントだったんだ‥‥」
黄龍「テール。整理券もらう場所って、ちゃんと覚えたのかよ。お前と瑠衣ちゃんが頼りだぜ」
輝「まかせてよっ。だーっと行って並んじゃえばいいんだろっ」
瑠衣「で、みんな、間違えないでね。もらうのは3回目の整理券よ」
黒羽「はしゃぐのはいいけど、あんまり人様にめーわくかけんで下さいよ。二人とも」

(のびあがりながら)「でーもー、状況がぜんぜん見えないー!」
黄龍(爆笑したとたんに輝にパンチをぶち込まれて)「いってー! なにすんだよっ」
赤星「しっかし、マジなんもわかんねーな。よし、輝、ちょっと乗ってみ」

赤星、両手を組んで少し腰を落とす。輝そこに足をかけ、赤星が手を上げる反動で、肩の上に立つ。少し様子を見て、ぽんと飛び降りる。驚く周囲の人たち。ただでさえ、ヒーローショーを見に来るにはヘンな取り合わせ。
輝「ゲートは10個ぐらい開くから、瑠衣ちゃんとオレ、分散したほうがいいみたい。瑠衣ちゃんはこっからできるだけ近い8番前後のどっか行って」
瑠衣「おっけー♪」

開場アナウンス「本日は光洛園遊園地にご来場、ありがとうございます。ただいまよりゲートを開きます。1列方式になっておりますので、前から順番にランプのついたゲートに進んで下さい。小さなお子様がたくさんいらっしゃいますので、くれぐれも押し合わないようにお願いいたします。それでは光洛園遊園地、開場です」

上からの俯瞰。長い待ち行列の端から、次々にゲートに散らばって人たち。まずゲートを抜けた瑠衣、軽いステップで人をかわしながら一目散に走っていく。が、その脇を輝がものすごいスタートダッシュで抜いた。人混みの中でわたわたしてる赤星、黒羽、黄龍もなんとかその後を追っていく。

===***===

休憩所で適当にくつろいでいる5人。輝と瑠衣はご褒美の3段重ねのアイスクリームを舐めている。
黄龍「すっげー。この番号なら最前列間違いなしって。さっすがテル〜!」
輝「へっへー!」
赤星「集合時間の12:50まで3時間。とにかく手分けして、楽屋の状況とか調べるか」
瑠衣「ねー、赤星さん。瑠衣、ちょっとだけ乗り物乗りたい! ほら瑛那さん、あたしの分、ちゃんと乗り物券付きの入場券にしてくれたの」
赤星「いいんじゃないか。時間まだあるし。先に行っといで」

黒羽「旦那も先にお化け屋敷行ってくるか?」
赤星「げ‥‥。る、瑠衣! お前、お化け屋敷も行く気ない?」
瑠衣「だめだよー! だってそれ、赤星さんのだもん!」

やいのやいのと言い合う5人の元に、光洛園のスタッフジャンパーを着た二人の男が近づいてくる。
AD「あ、あの人ですよ、きっと!」
演出家「君たち!」
驚いて振り返る5人。演出家、だだだっと輝に近寄ってその手をとり、両腕を掴み、頭に手を置く。輝、あまりにびっくりしてされるがまま。

演出家「す、素晴しいっ これは天の助けだっ!」
輝「お、おじさんっ な、なんなのっ?」
演出家「君! 頼む! 今日、ヒーローショーの3回目に出てくれないかっ」
5人「はあっ!?」

演出家「実は昨日スタントマンがケガをして、ピンクリーブスの着ぐるみをやる人間がいなくて、すごく困っていたんだよ! そうしたら入場者の中に、えらく身軽で小柄な人がいたと聞いて、探し回ってたんだ!」
輝「ちょ、ちょっと待ってよっ オレ、そんなの、困るよーっ」
演出家「大丈夫だ! リーブスのアクションはそんなにないし、ちょっと飛び降りるぐらいだから、きみなら絶対大丈夫だよ!」
あぜんとする赤星、黒羽。目をまんまるくしている瑠衣。そしてベンチから立ち上がって、爆笑する黄龍。
黄龍「いーじゃねーかよ、テル! ピンクに入れるなんて、お前しかいねーって!」

まだ笑い続ける黄龍。が、今度は演出家ががばっと黄龍の腕を掴んだ。
演出家「見つけたー!!!!」
黄龍(驚きまくって、強く咳き込む)「な、なんだっつーのっ!!」
演出家「この背の高さ! 手足の長さっ 完璧だっ 今日はなんて凄いんだっ 頼むっ 君はイエローリーブスにはいってくれっ イエローの役者も体調を崩してるんだっ」
黄龍「ウソだろーっ」

赤星、黒羽、瑠衣、顔を見合わせる。
赤星(小声で黒羽に耳打ち)「これって、かえって好都合ってやつ‥‥?」
黒羽(やはり小声で返す)「たぶん‥‥」
瑠衣(小さく)「でも、いいのかしら‥‥?」



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