第19話 正体見たり!!燃えよ探偵怒りの鉄拳
<前編> (後編) (戻る)

夜、家路につくサッカー少年たち。
少年1「メチャクチャ暗くなっちまったなー」
少年2「延長しまくったもんな!」
少年3「でも信也のシュート凄かったよな、あれがありゃ都内予選も楽勝だぜ!」
信也「へへっ、まあな」

十字路で別れる少年たち。一人走って帰る信也少年。角を曲がったところで、誰かに腕を掴まれる。振り向いて驚愕の表情。
信也「うわあーーっ!!」
曇った夜空に響く信也の悲鳴。




町を歩いている赤星ら5人。買い物袋を抱えている赤星、翠川。楽しそうにあれこれと店先を見て回る瑠衣と黄龍。後ろから歩いてくる黒羽。

赤星「まだ買い物する気かぁ?」
翠川「なんかこういうの久しぶりだなっ、オレも家にいた時はよく妹たちと買い物したっけ」
赤星「よくあんなに見るもんがあるよ。飽きねえか、輝」
翠川「全然!」

赤星、黒羽に振り向く。

赤星(げんなりした顔を作る)「んん〜?」
黒羽(両手を広げて顔を横に振る)「んん〜」

突然、道の先から何かが派手に壊れる音。事務所らしき所のドアをぶち破って吹き飛んで出てくる、ガラの悪い男。咄嗟に注目する5人。


壊れたドアの向こうから突き出ている、ライダーグローブをはめた正拳。横のドアから慌てふためいて飛び出してくるヤクザ風の男たち。計8人。突き出た正拳が中に引っ込む。次に白いジーンズの足が出てきて、全身。白ジーンズに青いブルゾン、ライダーグローブという出で立ちの佐原瞳!
 
道の向こうで驚く5人。

ヤクザたちに囲まれていながら、余裕の笑顔の瞳。

瞳 「どう?まぐれじゃなかったでしょ」
ヤクザ1「うるせえ小娘、やっちまえ!!」

背後のヤクザ1、ナイフの刃を出すが、その瞬間瞳の後ろ回し蹴りが飛ぶ!顎にヒット、吹っ飛ぶヤクザ1、気絶。左腕を振りかぶって、反転の勢いでヤクザ2に右掌打。みぞおちにパンチ二連打。ヤクザ3のパンチを受け止めて、その力を利用して投げ。投げ飛ばされたヤクザ3の足が4の脳天にヒット、折り重なってダウン。逃げるヤクザ5の襟首を捕まえて両首筋に手刀。さらに回し蹴りから飛び蹴りに持ち込んで8人全員倒す。瞳、軽く髪を整える。

瞳 「さてと…あとはお上に任せて、退散と行きますか!」

横に停めてあった大型バイクにまたがる瞳。

黒羽「瞳ちゃん!」
 
駆け寄ってくる5人。気付く瞳。

瞳 「健さん!」

明るく手を振る瞳。
  

タイトルin 『正体見たり!!燃えよ探偵怒りの鉄拳』



佐原探偵事務所。応接用のソファに座っている赤星たち。ブルゾンと手袋、ヘルメットをフックにかける瞳。横に黒羽の帽子がかかっている。

瞳 「待ってて、今飲み物持ってくるから」

瞳、奥の部屋に引っ込む。入れ違いで出てくる佐原のおやっさん。

佐原「やあ、いらっしゃい」
赤星「お邪魔してます」
黄龍「ちーぃス」
翠川「初めましてっ、オレ翠川輝って言う者です!」
瑠衣「あたしも初めまして、桜木瑠衣です」
佐原「初めまして。ここの所長の佐原だよ」

佐原と黒羽、目が合う。わざとらしく笑み交わす。

黒羽「おやっさん、只今戻りました」
佐原「はいはい、只今…じゃないよ健。お前はね、ただでさえ一旦出てったら戻ってこないんだから。まあ今は赤星君のところにいるそうだからいいんだけど、いや良くはないが…」

ドアが開き、瞳が出てくる。手にいくつもコップの乗った盆。

瞳 「お父さん!もういいじゃないその話は。赤星さんに悪いわよ」
赤星「すみません所長、いつもいつも迷惑ばっかり…」
佐原「いや、構わんよ赤星君は。いくらでも使ってくれていいんだよ、悪いのは健なんだから」
黒羽「なんで?」
佐原「いいからお前は報告書の整理でもしなさい!書類だけでも山積みなんだよ、もう」
黒羽「手当てはいかほど……」
佐原「あのねえ健、わたしはおやっさんですよ」

佐原と黒羽の間に割って入る瞳。

瞳 「健さんの負け!書類の整理なら見ただけでできるでしょ、はいお仕事っ!」
黄龍「所長と瞳ちゃんには頭上がんねーんだよねー、あの黒羽が」
佐原「黄龍君、君もね」
黄龍「えっ」
黒羽「はっはっは」

罵りあいながら仕事部屋に引っ込む黒羽と黄龍。代わってソファに座る佐原と瞳。飲み物を配る瞳。

瞳 「どうぞ。輝君と瑠衣ちゃんは、ジュースにしといたわね」
翠川「えっ?」

笑い出す赤星。笑いをこらえる瑠衣。

瞳 「えっ…どうかした?」
赤星「瞳さん、こいつこんなんだけど、実は21なんだよ」
瞳 「ええっ?……やだ、私より1つ上じゃない!」

むくれる翠川、笑う赤星。やっぱり笑う瑠衣。

翠川「何だよリーダー!瑠衣ちゃんもぉ〜」
瞳 「ご、ごめんなさい!えーと…翠川さん!」
翠川「あっ、い、いいんです瞳さん!オレよく間違われるから…」(ジュースの入ったコップを持って)「それにオレ、コーヒーよりジュースの方が好きだから」
佐原「ははは…瞳も、まだまだ人を見る目がないなぁ」(電話が鳴る)「ちょっと失礼するよ」

電話に出に席を立つ佐原。

瞳 「ホントにごめんなさいね、翠川さん」
翠川「いいですよ、慣れてますもん。でも瞳さんスッゴイですよねっ!黒羽さんから聞いてたけど、こんなに凄いとは思いませんでした!」
瑠衣「瑠衣も!憧れちゃうなぁ、あんなに強いなんて」
瞳 「や、やだ、そんなことないって!」(両手を横に振る)「ホントに、あれは相手も少なかったし…それに大概が見かけ倒しだったのよ。それに私くらいで驚いてたら、健さんの仕事ぶりなんかとてもじゃないけど信じられないわよ」
瑠衣「え?」
瞳 「えって、健さん、OZの護衛……あ、瑠衣ちゃんは別にOZの職員じゃないもんね。健さん今、OZの人の生き残りの護衛をしてるのよ」
翠川(赤星に耳打ち)「護衛って?」
赤星「ここでは、そういうことになってるんだ」
瞳 「何か?」
赤星「いや、ちょっとな!ははは…」
瞳 「そう。…それにしてもOZと言えば、最近評判のオズリーブスよね〜」

思わず顔がひきつる赤星ら。

瞳 「ねえ赤星さん、どうにかならないかしら?あの5人」
赤星「えっ?」
瞳 「知り合いのカメラマンがあの5人が戦ってるとこでずーっとカメラ回してたのよ。この前見せてもらったけど、あれ危ないわよ」
赤星「危ないって…そりゃ危ねえだろうな、あんな化け物と戦ってるんだから。あ、俺は下っ端で、何も教えてもらえねえんだ」
瞳 「そうじゃないのよ。もちろんそれもあるけど、あの人たち自体のこと。あのスーツって総合的な運動能力なんかをすごく高めるんでしょ?確かに力とか瞬発力はものすごいけど…それを差し引いて見てみたらとんでもないわよ!OZに勤めてる赤星さんにこんなこと言うのは悪いけど…ううん、だからこそ言わせてもらうわ。スパイダルって連中相手の特殊部隊って触れ込みだけど、あいつら特殊部隊どころか素人よ」
赤星「え……?」
瞳 「確かに単純な攻撃力とかスピードは凄いわ、でも動きが全然なっちゃいないのよね。パッと見はハデだし、事実化け物たちを倒してるから分からないけど…あれは訓練を受けた戦闘ができる人間の動きじゃないわ。隊形も取れてないし、断続的で隙だらけよ。赤星さんなら気がついてるでしょ? あの…黄色と緑とピンク! 付け焼刃もいいところだわ」

衝撃を受ける赤星ら。静かにコーヒーをすする瞳。

瞳 「ヒーローだって持てはやされてるけど、私はなーんか信用できないな。…赤星さん」
赤星「…あ、ああ」
瞳 「こんなこと言って悪いと思ってるわ、でもいつか言おうと思ってたの。あのスーツが条件に合う人しか使えなくて、その条件っていうのが割りと『普通の人間』だっていうのは知ってるわ。でも……」

瞳、カップを置いて笑う。

瞳 「ごめんなさい!しょうがないわよね、こんなこと言っても。実際成果上げてるんだから、それでいいわよね。戦ってくれてるんだから感謝しないとね。私、自分が少し格技をやってるからって口が悪いわ。赤星さん、気にしないで!」
赤星「いや、いいよ。本当に…俺だってちょっと気になってたんだ」
瞳 「ありがと。OZの人たちは頑張ってるんだもんね。…そういえば、瑠衣ちゃん?」

少し意地悪そうに笑って、瑠衣の顔を覗き込む。

瑠衣「はい?」
瞳 「OZの人じゃないのに、健さんと仲良しね〜。…どういう関係?」
瑠衣「えっ…………ち、違います!瑠衣と黒羽さんはそういうんじゃ………。あ!あの、もしかして瞳さんと黒羽さんて………ご、ごめんなさい!ホントに違うんです!」
瞳 「…………瑠衣ちゃんったら」

大笑いする瞳。赤星も爆笑。

瑠衣「えっ、あの…」
瞳 「あははは、はー、ごめんね瑠衣ちゃん。違うのよ」
瑠衣「ええ?」
瞳 「そういうんじゃないの。健さんは私のお兄さんだもの」
瑠衣「ええっ?じゃあ、ご兄妹………。でも黒羽さんって…?」
瞳 「違う違う、お兄さんみたいな人ってこと」
瑠衣「そっか、黒羽さんはOZに来るまでここで暮らしてたんですもんね」
瞳 「ええ。だからって訳じゃないけど、健さんは私のお兄さんよ」
瑠衣「いいなぁ、黒羽さんがお兄さんなんて。瑠衣一人っ子だから、あんなお兄さんが欲しかったんだ。…じゃあ瞳さん、瑛那さんのことは…」
瞳 「黄龍さん?……あら、瑠衣ちゃんってひょっとして」
佐原「瞳!」(受話器を置く)
瞳 「はい!」
佐原「今からお客さんが来るんだが、ちょっと迎えに行ってくれないかね」
瞳 「分かった、行ってくるわ」(赤星らに)「健さんと黄龍さんがサボらないように見張ってて!」
  
ヘルメットを取る瞳。

佐原「ああ、私の車で頼むよ」
瞳 「ええ」

ヘルメットをかけなおす。ブルゾンの代わりに少し改まったジャケットを取る。

赤星「大変だな、気をつけて」
翠川「行ってらっしゃい!」
瑠衣「行ってらっしゃい…あの、瞳さん?」
(くすっと笑う)「年上の弟!心配しなくてもそれだけよ、黄龍さんは。じゃ、行ってくるわね!」

出て行く瞳。赤星と翠川、顔を見合わせる。


仕事部屋から出てくる黄龍。手に書類。

黄龍「あのさー所長、これ訳わかんねーんだけど」

黄龍の後ろでまたドアが開く。ドアに後頭部を叩かれ、そのまま壁に激突。
   
黄龍「はぶっ」

黒羽が出てくる。

黒羽「おい待て瑛ちゃん。…ん?どこだ瑛ちゃん。逃げたんじゃねえだろうな」
黄龍(ドアの向こうから出てきて)「ここだよ!どこに目ぇつけてんだ!」
黒羽「ここ」(自分の目を指差す)
黄龍「見りゃ分かるってーの、ったくどーゆー耳してんの」
黒羽「こうゆう耳」(耳を指差す)
黄龍「あーっ振るんじゃなかった!俺様のバカ!」
黒羽「おお〜分かってるじゃないか。その通りだ」
黄龍「うるさいっ!!!」
黒羽「うるさいのはお前だよ、少々書類が分からんくらいで。見せてみろ、ん?」(書類を取り上げる)「こんなもんも分からんのか。これは”あ”だ」
黄龍「読める!!」
黒羽「じゃあ読めばいいだろ。読めるものなら読んでみろ」
黄龍「頼むから俺に話をさせてくれよ!!」
黒羽(書類を佐原に差し出して)「おやっさん!瑛ちゃんめはこれの意味が分からんそうです」
佐原「どれどれ」
黄龍「俺様はまだ何も言ってね〜っ」
佐原「あー、これはねえ」

ソファに座る佐原。

佐原「実はまだ公表されてないんだがね、ここ2日で都内の10歳前後の子供が6人もいなくなってる。それに関して調べていたんだよ。報告書の中に紛れ込んでたらしいね」
赤星「子供が失踪…!?」
翠川「たった2日で、6人も!?」
瑠衣「そんな事件が起きてたなんて…」
黒羽「だからそう言おうと思ったのに、こいつは」
黄龍「じゃ言やいいじゃん」
黒羽「言う前に出てったんだろ」

黄龍、黒羽のスカーフを引っ張ろうとする。黒羽、その隙を突いて腹にパンチ。

佐原「よしなさい」

気をつけの姿勢をとる黒羽と黄龍。

赤星「でも、そんなこと俺たちに言っていいんですか?」
佐原「健と黄龍君が連れてきたんだからね、それだけで十分信用できるじゃないか」
赤星「所長……」
佐原「それに言ってしまえば引っ込みがつかなくなって手伝いくらいはしてくれると思ってね」
赤星「所長……」




ドアが開いて瞳が帰ってくる。

瞳 「ただいま。来てもらったわ」

瞳の後ろから30歳そこそこの夫婦と、10歳くらいの少年。

佐原「いらっしゃい。あ、こちらへどうぞ」

ソファから立つ赤星ら。夫婦と少年、佐原と瞳が座る。

佐原「中川さんでしたね。ご用件はお電話の通りで…」
中川父「はい。どうかこの子を、信也を守って頂きたいんです」

軽く頭を下げる信也少年。

中川母「夕べもサッカーの帰り、黒い服の男に狙われたんだそうです。その時も偶然人が大勢来て助かったそうなんですけど…またそんなことがあったら…」
佐原「その前はご自宅のの前で狙われたんですね。ご住所も知られているという事でしょう……できればこちらで信也君をお預かりして護衛したいのですが、構いませんか」
中川父「ええ、それは電話でもお話した通りです。信也もいいと言ってくれましたので。な、信也」
信也「お願いします!」
佐原「そうですか。それでは…」

信也の目線の高さに身をかがめる瞳。

瞳 「信也くん、大丈夫よ。お姉ちゃんたちが必ず君を守ってあげるから」(頭を撫でる)「ご安心下さい、信也くんのことは私たちに」
中川父「ありがとうございます。こちらが都内で有数の事務所と聞いて来ましたので…」
佐原「そこはもう。大丈夫です、ご心配なく。一流の探偵ばかり揃えておりますので」

驚く黄龍のアップ。

中川父「それじゃあ信也、探偵さんたちの言う事をよく聞くんだぞ」
中川母「母さんたちは行くけど、無事でいてね」
黒羽「なるべく頻繁に電話を入れてあげて下さい」
中川母「はい。信也のこと、お願いします」

出て行く信也の両親。信也、瞳に連れられて奥の部屋に。

黄龍「…ねえ所長、一流の探偵って、所長と瞳ちゃんと黒羽の3人だけで『揃えて』ってのは、ちょ〜っと誇大広告じゃないスか?」
佐原「誇大広告?人聞きの悪いことを言うんじゃありませんよ」
黄龍「………ていうか俺様のことも?」
佐原「そうですよ、早く素直にそう聞きなさい」

黄龍の背中を叩く黒羽。

黒羽「という訳だ。オレたちはそっちには行かんよ」
黄龍「わりー赤星さん、連絡はすっからさ」
赤星「いや、そっちが本業なんだからな。頑張れよ」
黒羽「もちろん」





スパイダル基地。司令室に四天王とBI。四天王に振り向くBI。

BI「見事だシェロプよ。2日でこれだけの優れた材料を集めるとは」
シェロプ「はっ。…まあ、これが優れた血筋の者のなせる技という訳ですな」

後ろの他3人を見て嘲笑。舌打ちするスプリガン、地団駄を踏むゴリアント。思い切り不機嫌なアラクネー。

BI「体力、知能指数など突出して優れた人間をさらい、我がスパイダルの改造兵士に仕立て上げる! しかも順応能力に優れた子供を使い洗脳を施せば、3日もあれば完璧なスパイダルの兵士となる…… 素晴らしい計画だ。シェロプよ、現在の状況は!」
シェロプ「はっ。すでに最初にさらった子供は80%ほど進んでおり、あと1日あれば改造、洗脳ともに完璧!他の子供も順調に進んでおります。全てはこの……」

闇から出てくる陰。丸い体に棘のついた巨大な腕、触覚……

シェロプ「我が暗黒怪魔軍最強の戦士、マルキタガメロスの力!!」

怪人の全身が登場。テロップ(暗黒怪魔人 マルキタガメロス)

シェロプ「こ奴の腕の棘から出す毒液は、人間の体に入り込むとその肉体を暗黒次元のものに変えてしまう。注入されて約3日で、個人の差はあれど順応能力の高いものは完全に暗黒次元の怪人に変わり、体力の低い者順応できない者は生命力を吸われ死んでいく……。人間の子供をさらい改造するという私の計画にマルキタガメロスが加われば、正に完璧でございます!!」

小声で言い合う他3人。

ゴリアント「何言ってやがる、その計画はオレっち3人が考えた……!!」
アラクネー「いつの間にスパイを放っていたのか……なんという奴!
 八つ裂きにしても飽きたりぬわッ」
スプリガン「侯爵の野郎おぉ……だがもう遅い、これが成功したら完全に奴の手柄だぜ、ちくしょう!」

歩いてきて、3人の横で立ち止まるシェロプ。

シェロプ「いや、諸君が羨ましい。作戦指揮でしかも戦果を上げているとなると、無駄口を叩いている暇もないのでなあぁ…くっくっく、フハハハハハハハ!!!」





夜、無人の森の小路。帰ってくる赤星、翠川、瑠衣。買い物袋を大量に抱え込んでいる。

赤星「すっかり遅くなっちまったな」
翠川「それにしても、瑠衣ちゃんいっぱい買い物したなあ」
瑠衣「うん♪ 晩御飯のお蕎麦もおいしかったわ」
赤星「黒羽のお墨付きだからな。あそこの親父さん、黒羽のこと気に入っててよ」
翠川「すんごいマケてくれたもんねっ」
瑠衣「いっぱいお話できたし……」(電話が鳴り出す)「あっ!はーい、今出ます」

受話器を取る瑠衣。

瑠衣「はい喫茶森……あっ、お姉さま! 内線?……はい、今行きます」

受話器を置く瑠衣。

瑠衣「特警から連絡があったらしいわ」
赤星「そうか、ベースに行くぞ!」
翠川「ラジャー!」

スタッフルームに入る3人。



オズベース、司令室。入ってくる赤星たち。

赤星「よお、有望」
有望「今特警本部と繋がってるわ。モニターに映すわよ」

モニターにスイッチを入れる有望。画面に男の顔が映る。

有望「田口さん、来ました」
田口「そッスか、どうも!」
赤星「赤星です。え〜と……」
田口「どうも、自分が特警の田口了です!初めてお目にかかります」
赤星「そうですか、隊長の赤星です。こっちがピンクの桜木瑠衣で、グリーンの翠川輝」
田口「データで見たッスよ。手短に用件だけ言いますね、本部長から伝言を承っております! えーと…あ、これッス。………豚コマ300g。ネギ1束。卵2パック。包帯。マキロン。日刊馬」
翠川「そ…それってどういう暗号ですか!?」
田口「あー、これは柴田さんから頼まれた買い物リストッスね。本部長のはこっちッス」
翠川「本部長さんの買い物リストですか?」
田口「さあ、自分もまだ読んでないスから。あっ!」

モニター画面、横から飛び出てきた手に田口の通話機が奪い取られる。画面に柴田登場。

柴田「何やってんだバカ!」
田口「連絡ッスよ」
柴田「そりゃオレのメモだよ!どこまで読んだ」
田口「日刊馬」
柴田「豚コマで気付け!!」

田口の頭を殴る柴田。

赤星「あの」

柴田、我に帰る。通話機を握り締めモニターからこっちを指差し、

柴田「いいかL部隊!今回の児童失踪事件、オレたちだけじゃ全部はさばききれねえ!! アセロポッドの連中消しても消してもいくらでも出てきやがるんだぞ、てめえらのノロマにゃ呆れたぜ!! 分かったらさっさと行動開始!!以上!!」

ブツッと切れるモニター。

赤星「特警が………あの子供失踪事件、スパイダルだったのか!!」
瑠衣「大変、黒羽さんたちに連絡しなきゃ!!」





佐原事務所。寝室。電気が全部消えている。秒を刻む秒針、動く長針。10時ちょうど。天井の角の暗闇、家具の影が動く。3人のアセロポッド出現。ベッドに子供と思しき小さなふくらみと頭が見える。頷きあうアセロポッド。布団をはがす。が、そこには丸めた布団と短髪のカツラ。突然背後から腕が伸び、抱え込まれるアセロポッド。スープレックスをかけられ頭を強打、消滅。立ち上がったのは瞳! もう一人のアセロポッドにキック、吹き飛ぶアセロポッド。立ち上がると誰かに肩を叩かれる。振り向くと黒羽! 思い切り殴りつけられ消滅。3人目、瞳に襲い掛かるが避けられ、背後からゴルフボールが投げつけられる。振り向いた顔にさらにゴルフボール。部屋の隅でゴルフボールを手に立っている黄龍!

黄龍(ボールを軽く投げて受け止める)「大事なボール…所長に怒られるね」
アセロポッド「ヒィーィッ!!」

それを合図に次々と湧き出るアセロポッド。

瞳 「あんたたちスパイダルね? 最近仕事でよくバッティングするじゃない」
黒羽「ほう、顔馴染みで」
瞳 「馴染みたくもないけど! 幸い消えちゃうから後片付けが楽ね」
黄龍「うーわ、頼もしいお言葉…」

隊列を組んで身を低く構えるアセロポッド隊。

瞳 「いいわね、行くわよっ!!」
黒羽「行きましょう。瑛ちゃんっ」
黄龍「あいなァ〜」  

数人編成で別々の部屋に入り込もうとするアセロポッド。それぞれドアの前に立ち、それを阻む3人。瞳、アセロポッドにキック。ハッと窓の外を見る。

瞳 「危ない!!」

黄龍の前に飛び出す。肩に大きな棘が刺さる!

黄龍「瞳ちゃん!」
瞳 「く……」

肩を押さえて膝をつく。

黒羽(アセロポッドを殴り)「瞳ちゃん!!」
瞳 「大丈夫、それより………健さん後ろっ!!」

黒羽、背後に気配を感じ振り返る。影の中に蠢く黒い巨体。

黒羽「怪人かっ!!」

腕の一撃を跳んでかわす。床で一回転、受身を取って立ち上がる。

黄龍「チッ…!」

リーブレスに手を持って来て着装しようとする黄龍。

黒羽「待て!!瞳ちゃんが…」

慌ててリーブレスから手を離す黄龍。その姿が影に覆われる。怪人の一撃で吹っ飛ぶ黄龍。壁に激突。

黒羽「くっ!!」

信也少年が隠れているクローゼットに駆け寄る黒羽、何とか立ち上がった黄龍。その前にアセロポッドの生き残りが立ちはだかる。アセロポッドたちを片付ける黒羽と黄龍。

怪人「そこかぁあ!!」

腕でクローゼットを引き裂く。壁にへばりついて震えている信也少年。アセロポッドたちに阻まれて動けない黒羽と黄龍。

黒羽「信也君!!」
黄龍「逃げろーっ!!」

信也をさらって、窓ガラスを破って去って行く怪人とアセロポッド隊。黒羽と黄龍、窓の桟に足をかけて追おうとするが、怪人たちは家の屋根を飛び移りながら消えていく。呆然と立ちすくむ黒羽と黄龍。電気をつける黄龍、惨憺たる有様の部屋が照らされる。家具が壊れ、窓ガラスは割れ、クローゼットは引き裂かれている。
   
黒羽「はっ…瞳ちゃん!」

肩に棘が刺さったまま倒れている瞳。抱き上げる黒羽。瞳、気を失っている。蒼白い顔。

黒羽「瞳ちゃん、しっかりするんだ!……瞳ちゃん…」
黄龍「瞳ちゃん、瞳ちゃん!くそっ!」

突然電話が鳴る。飛びつくように取る黒羽。

黒羽「はい佐原探偵事務所!…………」

帽子を取って溜息。

黒羽「ご忠告ありがとう。気をつけるよ」



<前編> (後編) (戻る)