紙飛行機 1
 
「あれ? ビーデル、買い物かな?」
めずらしく午後早い時間に大学から帰宅した悟飯が、とんと庭の敷石の上に着地する。家の中から一歳になった娘の泣き声が聞こえるのに、妻の気が感じられない。だけど、その替わりに‥‥。

「父さん!?」
ドアを開けると同時に娘の泣き声が響き渡って、負けまいと思わず大声を出してしまった。
「ひゃー! 悟飯〜! 助かったぁ〜!」
息子が帰ったことに気づいて玄関まで出てきていた悟空が心底ホッとした声を出した。
「ほーら、パン、どーしたの?」
悟飯は慌てて鞄を置くと父の手から娘を抱き取り、室内に入りながらその小さな身体をそっと抱きしめた。柔らかい髪に頬ずりしながら肩を包むようにぽんぽんと叩く。幼子は悟飯の服をぎゅっと握りしめると、肩に顔を埋めるようにして泣くが、それでもその声はだんだんに小さくなっていった。

息子と孫のそんな姿を見ながら、悟空が何か思い出したように笑った。
「え? 何か?」
「いや、昔のこった。おめえがこんぐらいん時、牛魔王のおっちゃんに抱かれて、
 何が気にくわなかったんか、もうぜんぜん泣きやまなかったことがあってさ。
 オラが抱くと泣きやむもんで、おっちゃんが悔しがって、えらく可笑しかったっけ」
「で、父さんも、悔しい?」いたずらっぽい顔で悟飯が聞く。
「いんや、オラは、そんなこと、ねえぞ」悟空はすました顔でつんと上を向いた。
えっく、えっくと、しゃくり上げつつも静かになってきた娘を、いきなりぽーんと放り投げるように抱きかえた。すっと両腕を伸ばし、その小さな身体を高く掲げてぐるりと回る。幼子はひょんと目をまん丸にし、次の瞬間、ころころと笑い声をたて始めた。
「パン、ほら、お姫様! ただいま!」
「ぱーやっ ぱやよっ!」
両手を自分の方に伸ばして笑う娘をもういちど胸に抱き直すと、悟飯が聞いた。
「ところで、父さん、ビーデルは?」
「チチと一緒に買い物に行っちまったんだ」
「そりゃ、すいませんでしたね」
「チチの買い物に付き合うぐらいなら、パン見てるほうがラクだと思ったんだけどなー」
頭を掻きながらそういう悟空に、悟飯は思わず吹き出してしまった。

「ぱや、こゆぇ、ぱや!」
いきなり小さな手が伸びて、悟飯のかけている眼鏡を掴んだ。反射的に目を閉じて頭をそらすと、眼鏡はしっかりと娘の手に奪われた。
「はいはい。じゃ、しまいしまいしよーね」
悟飯は笑って、その手から眼鏡を受け取ると大きなダイニング・テーブルの上に置いた。
「なんだ? パンのやつ、眼鏡、嫌ぇなのか?」
「いえね、僕が眼鏡をかけるのは仕事行くときだって認識らしいんですよ。
 だから帰ってきたら、すぐはずさないと、こういうことになるんです」
悟飯はくすくす笑って答えた。