4. 二人の逃避行 | ||||||||
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とっさに悟空が移動した先。 それはなんと悟飯と悟天の眠る子供部屋だった。 ほっとしたのもつかの間、自分たちの今いる場所がわかると、ブルマは悟空の腕をぶんぶんと揺さぶって、ほとんど聞き取れないほどの小声で怒鳴った。 (なんだって子供部屋なんかに飛ぶのよ!!!) (わ、わりィ。一瞬で探れたのが悟飯の気だったもんで……) 「悟空さ? いねえのけ?」 チチがドアを開けて、居間に入っていくのがわかった。 チチの声が聞こえたのか、悟空たちの気配を感じたのかわからないが、二人が立っている横で悟飯が寝返りを打つ。 「……むにゃ」 二人は声こそ出さないが、飛び上がるほど驚いた。心臓が激しく脈打ち、まるでお互いの鼓動が聞こえていると錯覚するほどに大きく耳に響く。その音で悟飯が目を覚ましそうな気さえして、悟空は思わず息子の寝顔を覗き込んだ。 (移動して! 早く!) ブルマはあまりの恐怖に、悟空の腕にすがりつくと固く目を閉じた。額に指を当てると、悟空も軽く目を閉じた。 (ど、どこにすっかな……えっと) 「……ぅぅん。……ん?お父さん?」 悟飯はすぐそばに父親の気配を感じ、重たい目をなんとか開けた。 しかし、誰もいない。 夢? でも確かに……。しかし一度瞼が閉じると、悟飯は再び深い眠りに飲み込まれてしまった。 悟空の腕をつかんだまま、ブルマがおそるおそる目を開けると、そこは明るくてにぎやかな部屋だった。二人は一段高いところに立っていて、下にはあんぐり口を開けて二人を眺めている人たちがいた。 「なにしとんじゃ? おまえら?」 亀仙人はかろうじて声をかけたが、クリリンと18号は驚きのあまり言葉を失っている。 二人が立っているのはカメハウスのリビング。しかも3人が座ってテレビを見ていた真ん前のテーブルの上であった。 「よ、よう。じっちゃん。」 「ご、悟空、ひ、久しぶり……」 「クリリン。久しぶり」 「ひ、ひ、久しぶりーじゃないわよアンタ!!! なにしてんのよ! カメハウスなんかに来たらあたしのことがばれちゃうじゃないのーっ!!!」 ブルマが悟空の胸ぐらを両手でつかみ激しく前後に揺さぶったので、悟空の頭ががくがく揺れた。 「じゃ、じゃあどこに行けばいいんだよ?」 「も、もっと人里離れた、ばれない場所!!!」 「うーん、よし。あそこにしよう。じゃあなクリリン、じっちゃん。18号も」 二人が消えると、そこには白昼夢でも見たような表情の3人が残された。 数秒後、18号がやっとのことで口を開いた。 「……なんだったんだ、今の」 「……漫才でも見せに来たんじゃろか。テーブルの上に立って」 亀仙人の答えを無視して、クリリンはつぶやいた。 「で、でも変なこと言ってましたよね。私のことがばれちゃうとか、人里離れた所に行くとか……」 「あやつら、ハヤリのW不倫でもしとるんかのう?」 「……………………………まさか」 「いいのお、若いもんは。うらやましいのぅ」 亀仙人はそう言ってズズズとお茶をすすった。クリリンと18号は、まだ驚きがさめず茫然としている。深夜番組の音だけが、カメハウスに響いていた。 チチは居間の明かりをともした。そこに悟空の姿はなかった。 「なんだ悟空さ、こんな夜中にどこ行ったんだか……」 そうつぶやいて寝室に戻ろうとしたそのとき、チチの目にあるものが飛び込んできた。テーブルの上に、まだ湯気を立てている湯飲みが二つ。食べかけの肉まんが一片。 ゆっくりと忍び寄るようにテーブルに近づくと、チチは食べかけの肉まんをそっと拾い上げた。白い皮に、ピンクベージュの口紅が残っている。 チチは長い間、それを手にとって見つめていた。 次回、第5話「乙女心」! |
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