3. 発覚寸前




「まったく、ひでえよなぁ」

 悟空はもう一度言った。ミニサイズのブルマを肩に乗せたまま、台所を漁っている。
「だから悪かったってば、あたしだけ寝て。でもしょうがないじゃない。あたしだって、昨日の夜はベジータと喧嘩しちゃって、一晩中泣いててほとんど寝てないんだから」
 うそばっかり。と思いながらも、またいろいろ言われるとめんどくさいので悟空は黙って食べ物を探した。
「あっ、肉まんみっけ。2個あるけど、おめえその身体だったら少しですむんじゃねーか?」
「さぁ? でも食事くらい実寸サイズで食べたいから、元に戻るわ」
「ちぇっ。オラ1個じゃ足りねぇなぁ」
 悟空は不満そうに唇を尖らせたが、素直にブルマをテーブルに降ろした。すぐにミクロバンドを押して元の大きさに戻ったブルマは、テーブルに腰かけたまま大きく伸びをした。
「はーっ。小さくなってるとなぜか肩こるのよねー。やっぱりこの大きさが一番」

「だったら早く家に戻れよ」

 そう言いながら、悟空が肉まんを差し出すと、ブルマは首を横に振りながらそれを受け取った。
「いやよ。まだまだ戻らないんだから」
 熱いお茶を入れ、二人は明かりもつけない暗い台所で、テーブルに座って肉まんを食べ始めた。すぐに食べ終えて物足りない顔をしている悟空を見て、ブルマは自分の肉まんを半分にわけて、大きい方を悟空に差し出した。

「お、サンキュ。でもよぉブルマ、戻らないっていっても、そのうちベジータが来るだろ。おめえの気を探せばすぐにいる場所わかるだろうし」
「それがね、小さくなってるときは居場所が分からないらしいのよ。夕食のとき、悟飯くんも言ってたじゃない? 段々気が小さくなって、感じなくなったって。たぶん体のサイズに合わせて気ってやつが縮んで、ミニサイズのときには感じ取れないんだわ」
「今は元のサイズだからベジータにもわかるさ」
「あいつこんな時間まで起きてないから大丈夫」
「でもブルマがここに来るときは小さくなかったよな? やっぱりベジータもここがあやしいと思うだろ」
「ま、いいじゃない。そういうときのために孫くんのとこに来たんだもん。あんただったらベジータがブチ切れても対抗できるしさ。私が小さくなって気を消して、孫くんが知らないって言い張ればベジータも帰るしかないでしょ」
「そうかぁ? オラ、ただでさえベジータに嫌われてるからなぁ。これ以上あいつに目のカタキにされても嫌だしなぁ……。そんなに見つかりたくないなら、知り合いがいないとこに行ったほうが良かったんじゃねえか?」
バカねぇ。このか弱いあたしがミニサイズになって誰の助けもなく生きていけると思う? 移動も食事もままならないし、危険な目に遭ったらどうすんのよ。だいたい誰も知らない場所に雲隠れしたら、本当の家出みたいじゃない」
「家出みたいって、家出じゃないんか?」
「これはね、プチ家出。ちゃんとそのうち帰るわよ。ただ、今はベジータにいっぱい心配させて、反省してもらいたいだけ」
「…………あっそ」

 そのとき。


「悟空さ?」


 その声がお気楽な雰囲気の二人を一気に恐怖に突き落とした。寝室から、チチの声がする。


「悟空さ? 起きてるのけ?」


 チチがベッドから起きてくる気配がした。

 もうだめだ。
 チチに嘘ついたりして、しかも夜中に肉まんなんか食って、めちゃくちゃ怒られるかもしんねえけど、こうなったら素直に話して謝るしかない。冷汗をかきながらも心を決め、何か答えようと立ち上がろうとしたそのとき、悟空は横からブルマにガシっと腕をつかまれた。

 二人の視線がぶつかる。薄闇の中で、すがるように見上げるブルマの眼差しが光った。

 彼女の唇がわずかに動く。

 声はしない。けれど悟空はブルマの唇の動きから、その言葉をまるで耳で聞いたかのようにはっきりと認識した。


「瞬間移動」



次回、第4話「二人の逃避行」!


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