1. 復活。黄金コンビ




 静かな午後だった。日差しは暖かく、草原を抜けていく風は優しく、鳥の声だけがどこまでも響く。
 今日は口うるさいチチも、なにかと厳しい悟飯も、やんちゃな悟天もいない貴重な日。もちろん家族は大切ではあるけれど、お父さんはたまには一人になりたいこともあるのだ。悟空とて例外ではない。悟空の場合、一人になりたいのならどこかへ飛んで行けばいいと思われがちだが、家のことを手伝わず修行ばかりしているとチチに怒られるし、どこに行ったって悟飯たちに探し出されてしまう。だから気兼ねなくのんびりできるのは、今日のようにみんな出かけたときだけである。

 今日しかできないことをしよう!

 そう思った悟空がとった行動は、修行でもお出かけでもない。ただの昼寝。
 家の前の木にハンモックを取り付け、寝転がってのんびりと空を眺めているうちに、ものの数分で彼は眠りについていた。


 数時間後。


 敵は火を噴く巨大な怪獣である。街は破壊され、人々は逃げまどっていた。その巨体は雲をつくほどで、今まで戦ったどの敵よりも大きい。
「みんな、オラが助けてやるから待ってろよー!」
 悟空は舞空術で怪獣の顔の位置まで飛び上がると、両手を構えた。
「かーめーはーめー波ーっ!!」
 しかし、怪獣はかめはめ波を一蹴すると、悟空をはたいた。
「うわーっ!!」
 地面にたたき落とされた悟空の身体を、すさまじい衝撃が貫く。
「いててて。ちくしょー。今度は10倍かめはめ波を受けてみろ!」


 腰をさすりながら身を起こすと、目の前の巨大怪獣は、ブルマの姿になって仁王立ちしていた。
「なぁーにが『10倍かめはめ波』よ」
「あれ? 怪獣がブルマになってる」
「いつまで寝ぼけてんのよ、バカ! しかも夢でまで戦うなんて、ほーんとサイヤ人て頭どうかしてるわよ、絶対」
「夢? そっか。オラ夢見てたのか」
 何のことはない。ハンモックで夢を見ていたら、ブルマに揺さぶられて落下しただけのことである。
「それにしてもすっげー敵だったなあ。もうちょっと戦いたかったのによぅ。いいとこで起こすなよ。あれ? ところでおめえなんでここに居るんだ?」
「えっ。そうそう。今日はさぁ、ちょっと孫くんにお願いがあって……」
「お願い?」

 ブルマは両手を後ろに回し、身体を左右に揺らしながら、とっておきの上目遣いで照れ笑いをした。
「それが…その…実は……ちょっと泊めてくんない?」
 男性にお願いするときに効果てきめんのポーズなのだが、お願いの相手が悟空だということをブルマはド忘れしている。
「え? なんで? あ、わかった。またベジータと喧嘩したんだろ?」
「う、うっるさいわねー!! 泊めるの、泊めないの!?」
「いいけど、ちょっと待っててくれ。瞬間移動で、チチんとこ行ってくる」
「な、なんで!?」
「ブルマが泊まるんだったらきっと晩飯の献立も違うだろうからさ。帰りに街で買物してくるっていってたから、早く知らせた方がいいだろ」
「ちょっと待って!」
 瞬間移動のために額に当てられた悟空の手を、ブルマはあわててつかんだ。
「チ、チチさんたちには、内緒で泊めてほしいんだけど……」
「内緒ーっ!? そんなの見つかるに決まってるって。無理無理」
「それがそうでもないんだなあ。ジャジャーン! これ見て!」
 そう言って突き出されたブルマの腕には、奇妙な時計がはまっている。
「なんだそれ?」
 きょとんとしている悟空を見て、ブルマはあきれ顔で言った。
「なによー忘れっぽいわねぇ。ミクロバンドよ! 昔、レッドリボン軍とドラゴンボールを取り合ってたとき、これをつかって私が協力してあげたことで、あんた全てのボールを集めることができたんじゃない! 覚えてないの?」
「あー! 思いだしたぞ! オラはいいっていうのに、それを使っておめえが無理矢理ついてきたせいで、おめえを助けるのにえれぇ手間がかかって大苦戦したときの、あのミクロバンドか!」
「ちょっと! 何が大苦戦よ! あんたの記憶、事実とかけ離れてるわよ!」
「ま、まあまあ。それ亀仙人のじっちゃんにあげなかったっけ?」
「うん。壊れちゃったから返されたの。それを直して持ってきたわけ」
「……まさか、それで小さくなって、チチたちから隠れるつもりか?」
「正解! あたしってホント頭いいでしょー?」
「そ、そんなんで大丈夫かな?」
「大丈夫よ〜。孫くんさえ上手くやってくれればね。頼りにしてるわよ」

 そのとき、不意に悟空は赤く染まりはじめた空を見上げた。
「やべっ。もう帰ってきたぞ。あいつらの気がすぐそばまで来てる」
「じゃ、さっそく小さくなるわね」
 スイッチを押し、手のひらサイズになったブルマを拾い上げると、悟空は昔のように胴着の懐に彼女を入れた。
「孫くん、頼んだわよ」
「あ、ああ」

 遠くの空で、チチを乗せたジェットフライヤーが夕焼けを映して赤く染まって見える。横を悟飯と悟天が悠々と飛んでいる。
 あわてて顔を引っ込めたブルマを見ながら、そういえばブルマの晩飯どうするんだろう、と悟空は思っていた。

次回、第2話「後悔だらけの夜」!


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