キミの隣 3



いつかこういう日が来るって
必ず来るって思ってたのよ

気持ちのいいこの星で
晴れ渡った広い空の下で
みんな声を上げて笑う日が
きっとくるんじゃないかなって
信じてたのよ

この草原は風が強いのね
ほら 髪の毛ぼさぼさよ

そういって振り向いたら
風に乗るみたいに みんな
高く 高く
空へ飛んでいってしまった

ベジータも未来のトランクスも
孫くんも悟飯くんもヤムチャも
クリリンもピッコロも
みんなみんな
見えないぐらい高く

待ってよ
あたし飛べないのよ

おいてかないで

おいてかないで



「ブルマ」


ベジータ 戻ってきてくれたの?
あたしを連れてってくれるのね

抱き上げようと彼が手を伸ばした

……かと思ったら、
その手で私のほっぺたを力一杯つねった。


   ‥‥……━★

「いったぁ〜い!! なにすんのよ!!!」
 あまりの痛さにブルマは悲鳴にも近い叫び声を上げ、ベジータを思いっきり突き飛ばした。
 だが、突き飛ばされてブルマの前に尻餅をついたのは、ベジータではなく、孫悟空だった。

「だ、だってよお、おめぇ気絶してて呼んでも揺すっても起きねえから、そーっとつねってみたんだけど、痛かった?」
「全然そーっとじゃなかったわよ!! 加減しなさいよ、バカ!」
 わりぃわりぃ、と頭をかく男。ブルマはじんじん痛む頬をさすりながら、ちっとも変わらない悟空を眺めた。だが頭の上には、しっかりとワッカが浮いている。やっぱり死んでるのよね。

「来られたのね、あたし。中間地点ってヤツに」
「ああ。一体なんだってここまでしたんだよ? おめえには相当しんどかったろ?」
「死ぬかと思ったわよ」
「ははは……さっきまでうなされてたもんなあ」
「あれは、違うわ。夢をみてたの。あたしだけ飛べなくて、おいてかれて……。現実と同じよ」
「へ?」
「孫くんはあたしの言葉を勝手に解釈して勝手に死ぬし」
 そう言って悟空を見上げたブルマの大きな瞳には、信じられないことに涙が浮かんでいた。長いまつげが、こぼれ落ちそうな涙をかろうじてせき止めてはいる。
「なっ、なに泣いてんだよ!」
「あたしだって泣くことぐらいあんの!」
 かわいげのない口調ではあるが、涙でうるんだ瞳ゃ色づいたほほ、さらりと肩に落ちて影をつくる髪がなんともいえぬ色香を漂わせていた。

 あちゃ〜、こいつがこんな顔することあるんだな。涙をいっぱいに溜めた目でにらまれると、いくら鈍感な悟空でも言葉を失う。喜怒哀楽の激しいブルマだが、悟空は喜怒楽の部分しか見たことがない。ベジータもきっとこんな顔をされてその気になっちまったのかもな。そのときのベジータを想像するとおかしくなって、悟空はついニヤついてしまった。
「なに笑ってんのよ! いっとくけど、あんたのために泣いてるわけじゃないんだからね」
 はかなげな姿とは裏腹に、口調はどこまでもブルマである。死ぬような目にあって、思いっきり後悔して、あげくの果てにつねられて、そのせいでちょっともろくなってただけよ。ブルマは心の中で自分を奮い立たせて涙を引っ込めた。

「あたし今、幸せなの。自分だけ幸せだなんて罪悪感わくじゃない。あんたが死んで、チチさんと悟飯くんは相当悲しかったでしょうに。しかもそのきっかけをあたしが作ったなんて寝覚めが悪いじゃない。一点の曇りもなく完璧な幸せを手に入れるために、あたし、ここに来たの」
 言い切ったブルマはすくっと立ち上がった。もう涙なんてどこへやら、自分の言葉に酔いしれている。

 悟空は座ったまま、ポカンとした顔をしてブルマを見上げた。ふふ、さすがの孫くんも感心してるわ。そう思って彼を見下ろすと、悟空はこう言った。

「バッカだな〜おめぇ」

「はっ!?なんですって!?」




前へ 次へ
一覧へ