キミの隣 2



「孫悟空に会わせてほしいの」

 誰もいない荒野。毎度のことながら辺りには重たい雲がたちこめて、まるで夜だ。
 ブルマは神龍を呼び出していた。誰にも知られたくない、悟空の死にこんなにこだわっていること。とくに、ベジータには。その強い気持ちから、西の都から遠く離れた荒野へと降り立ったのだ。

『不可能だ。孫悟空はもう生き返ることは出来ない』
 神龍は低い唸りとともに言った。
「生き返らせてなんて言ってないわよ。ただ、ちょっと話したいのよ。孫くんは肉体を持ったままなんでしょ? だったら話ぐらいできるでしょ?」
『界王を通してなら可能だろう。では界王に呼びかけるか?』
「だめよ。誰も通したりしないで、向かい合って話したいのよ!」
『……占いババという者に頼めば、死人が一日だけこの世に戻ってくることは出来るが』

 ……だめだ。それは死んだあとたった一度しか使えないはず。そのたった一日を自分のために使わせることはさすがに出来なかった。

「あたしが……あたしが行くことは出来ないの?」
『生きている者はあの世には行けん』
「じゃ、じゃあさ、あの世とこの世の中間でもいいわ! ちょっと仮死状態になってさぁ! ダメ!?」
『……可能かもしれんが、危険なことだ。その場所にたどり着くのはお前にとっても孫悟空にとって苦痛となる。とくにお前のような普通の地球人にとっては』
「危険でも……いいわ。きっと大丈夫よ。どうしても会う必要があんの」
『では孫悟空に聞いてみよう。ヤツが拒否すれば会うことは叶わん』
 そう言うと神龍は静かになった。

 きっと孫くんに交信してるんだ。孫くんは嫌だって言うかしら? ううん、きっと言わない。私の頼みだもの。そう確信しながらも、神龍の黙り込む数分がブルマには何時間にも感じられたのは、今回の件で悟空との信頼関係に一抹の陰りを憶えたせいだろうか。

 そのとき、神龍が夢から覚めたようにブルマを見た。
『孫悟空が会うと言った。今からお前をあの世でもこの世でもないところに送るため、仮死状態にする』
 その返事を聞かされたブルマは、ほっとして思わずため息をついた。
「ありがと、神龍。よろしく頼むわ」
『では始めよう。つらいと思うが殺すわけではない。安心しろ』

 直後、神龍の言葉の語尾がまだ空気中から消えもしないうち、激しいめまいに襲われてブルマは座り込んだ。
 頭痛と吐き気。視界が一気に狭くなる。

 なによこれ!? ホントに死なないの?

 そう思ってももう声を出すこともできない。座っていることもできなくなり、ブルマはバタリと大地に倒れた。身体全体から血の気が引いていくようだ。動かない手足はもう自分のものとは思えない。

 何重もの苦しみの中で、トランクスとベジータの顔が思い出された。後悔の気持ちがわきおこるとほぼ同時に、ブルマは苦痛のあまり意識を失っていた。




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