9 苦悩と苦難



 そのとき、トランクスの思考とは無関係に、ブルマがジャッキを放り出して言った。
「あーやめやめ! とりあえず朝ご飯にしましょ。あたし汗かいちゃったからシャワー浴びてくる。トラン、先食べてて」
 彼女は立ちつくすトランクスを放ってすたすた歩き出した。

 熱めのシャワーで汗を流すと、ブルマは脱衣所のシャワーの前に立ち、ため息をついた。本当は知っていた。あのとき彼がどんな顔でブルマを見ていたかを。愛しさと憂いの入り交じったような表情。そのままいたら何かが起きるような予感があった。具体的にはわからないけど、とにかく起きてはならないことだ。ブルマは良心の呵責に耐えかねるように、反射的に立ち上がり、彼の前から立ち去っていた。

 ねえトラン、あなたはいったい何者なの?
 あなたは他の誰とも違う気がする。
 あなたに抱いてる感情は特別。
 その理由をあなたは知ってる気がする。


 トランクスはリビングで朝食を前にして座っていたが、まだ一口も手をつけていなかった。あのとき、ブルマを抱きしめたいと思った。

 どういう意味で?

 チンピラから救ったときにブルマが抱きついてきたのと同じような感謝の気持ちか、それとも一生懸命な少女がただ愛おしく思えたのか、それともまさか、恋愛感情?
 どれも当たりのようなハズレのような、複雑な気持ちだった。

「なにやってんだ、オレは〜」

 テーブルにひじを突いてくしゃくしゃと頭をかきむしると、部屋にメイドロボットが入ってきた。

「オキャクサマガイラッシャイマシタ」
「え?お客って、ブルマはまだシャワーだけど」
「シタノろびーニオイデデスノデ、イラシテクダサイ」
「オ、オレが!?」
 思わず立ち上がったトランクスを無視して、ロボットは部屋を出ていった。
 仕方がないので食事もそこそこにトランクスはロビーに向かった。

「まさかヤムチャさんじゃないよな……」
 でも万が一ヤムチャさんだったら……いきなり謝っちゃおうか(それじゃかえって誤解されるかもな)、超スピードで逃げちゃおうか(タイムマシンを置いて逃げられないよな)、それともオレを見る前に気絶させちゃおうかな……などとメチャクチャな策を練りながらロビーへの自動ドアを抜けると、そこには少女が3人立っていた。

 少女達はいっせいに彼を振り返り、顔を見合わせてからかん高い声で叫んだ。
「ほんとにいたー!!!」
「????」

 派手な格好の少女たちが駆け寄ってきたので、思わず後ずさりするトランクス。苦難はまだ続きそうである。



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