5 ひとつ屋根の下



「あの……開いたけど?」

 うしろでブツブツ言っているブルマに、トランクスは控えめに声をかけた。

「えっ!? あっ、あー……燃料タンクね。どれどれ」
ブルマはずずいと前に出て、タンクを覗き込んだ。シャンプーの匂いが、トランクスの鼻をくすぐる。

「ねえ、これってカプセルコーポレーションて書いてあるけど、うちの商品なの?」
「あっ!! あのー、……どうなのかな。良く知らないけど」
「こんなのあったかなー。父さんが昔作ったものかしら? あたしは知らない型だけど……ずいぶん変わった乗り物ね。それにものすごい構造してる。うーん、ここがこうなってて、それでエネルギーを作ってるのね」

 ブルマはトランクスを値踏みしていたことも忘れて、タイムマシンの分析を始めた。機械のこととなると没頭するのはどうやらこの頃かららしい。タイムマシンということがばれやしないかと、トランクスはさらに汗をかくばかりである。

「すごい……半端じゃない燃料食う機械じゃない、これ!」
「ぅ、うん」
「充電式みたいね。でもこれほどの燃料どうやって充電すれば……。とりあえずこれ専用の充電器をつくるしかないけど、どっちにしてもすぐには飛び立てないわよ。あんたどうすんの?」
「とりあえず、待つけど」
「お金は?」
「持ってない……」
 ブルマは思わず苦笑した。
「お金も持たないでめちゃくちゃ遠くから来るなんて、不用意ね〜」

 だってほんの一瞬の旅のはずだったんだと思っても何も言えず、うつむきながら、この家の経済事情を熟知している彼は、図々しいことを控えめに言った。

「泊めてもらっていいかな?」
「……いいけど、こんな魅力的なギャルと二人きりになって、トラン理性を保てるかしら?」
 ブルマはわざとそんな風に言って、彼の反応を見て楽しんでいる。

「えー!? 二人きりって!? おじい……いや、キミの両親は!?」
「父さんが北の都の学会に出るので二人とも観光気分でそっちに行ってんの。2週間は帰ってこないかな」
「……ヤ、ヤムチャさんは!?」
「あたしに出てけって言われて家出したの、あいつ。そんなにあっさり出ていくなんて、きっとやましいことがあるからに決まってるわ! ……って、トラン、ヤムチャのことも知ってるの?」

 きっとケンカ中なんだ、若い頃からヤムチャさんの浮気のことでしょっちゅうケンカしたって母さん言ってたし! トランクスはブルマの疑問も耳に入らないまま、わらにもすがる思いで聞いた。

「ほ……他に誰か住んでないの?」
「プーアルはヤムチャについてったし、ウーロンと二人きりだとあたしの身が危険だから、ヤムチャと一緒に追い出したの。だから今あたし一人」

 こんなに若い、しかも何も知らない、この破天荒な母親と二人きりだなんて、大丈夫なんだろうか、オレ……。でも他に頼る人はいないのだ。彼女は事情を知らないのだから、自分さえしっかりしていればきっと乗り切れる、だろう。

 とにかく意識しない!
 接近しない!
 親しくなりすぎない!

 3ヶ条を堅く心に誓うトランクスであった。



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