4 お買い得



「実は、オレは、すごく遠いところから来たんだ」

「遠いってどこよ。ユンザビット高地?」
「いや、その、どこかは言えないんだけど……とにかくめちゃくちゃ遠いところからきた。あの、庭に停めてあったマシンで。でもあのマシン燃料がなくなって帰れなくなったんだ」
「じゃあ飛行機を貸してほしいのね」
「そ、そうじゃなくて! あのマシンでないと帰れないんだ!」
「……ふーん。なんだか要領を得ない話ねぇ」

 ブルマにちらりとにらまれて、トランクスはあわてて額の汗を拭いた。何と言われようが、タイムマシンと自分の正体だけは明かすわけにいかない。

「ま、それじゃとりあえず燃料を入れてほしいってことか。簡単じゃない」
「そうなんだけど……そう簡単には、いかないと思うよ」

 二人はまたも連れだって庭へ出た。
 ブルマはタイムマシンを見上げてつぶやいた。
「へんな乗り物ねぇ。こんな形じゃ空気抵抗も多いし、安定して飛べないんじゃないの?」
 まぁ、飛ぶ必要はないからね……と心の中でつぶやきながら、トランクスは彼女の横に立った。
「ちょっと下がって。燃料タンク開けるから」
 彼はバサリと上着を脱ぐと、マシンの下部をさぐった。

 紺色のタンクトップ一枚になると、彼の肩から腕にかけてがあらわになった。引き締まった筋肉と程良く日焼けした肌。印象は良いところのおぼっちゃん風だが、顔に似合わず身体は逞しい。

 あれだけ鍛えてるヤムチャよりも引き締まってるんじゃない? ブルマは値踏みするように彼を眺めた。

 なんであたしはこんな絵に描いたようなお買い得品をただながめてるんだろう?
 いつもだったら得意のお色気作戦で落としにかかってるところなのに。しかもこのお買い得品のほうから、あたしに近づいてきたというのに。彼を恋人にしたらみんなめちゃくちゃうらやましがるだろう。浮気者のヤムチャだってさすがに妬くに違いない。なのにあたしはさっきからお色気どころか、まるで家族に接するように素っ気なく話している。頭では彼がいい男だってわかっているのに、心が違った捉え方をしているかのように。




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