3 ブルマさん



 ブルマは変なヤツに対しては免疫がある。孫悟空を代表として変な仲間が沢山いるからである。しかしそれにしても、目の前の少年に対しては「なんなんだコイツ?」という気持ちがあとからあとから湧いてくる。
 今日も学校をさぼって早めに帰ってきたブルマは、家の門をくぐったところで、変な乗り物が突然現れ、中から少年が降りてくる一部始終を目撃したのだ。

「あんたうちの庭でなにしてんの?」
「えっ!?あっ…あの……えっと……」

 少年はカプセルコーポマークの服を着ている。

「父さんの知り合い?」
「あっ、いや……そういうわけでは……」

 わざわざうちの庭に現れたのだから、誰かを訪ねてきたのだろうけど、それにしては少年はさっきから、赤くなったり青くなったりして、全く要領を得ない。
 めったに見かけない、ブルマと同じ藤色の直毛。鋭い目をしているが顔立ちはいたって端正だ。かなりいい男だといってもいい。いつものブルマだったらこんな詰問せずにさっそく親しくなろうと飛びついて話しかけるところだ。しかしいい男を見たときにはいつも起こる衝動が、彼には湧かない。彼に対して感じるのは深い親近感。あるいは好意といってもいい。突然現れてあたふたするばかりの怪しいヤツだが、疑う気持ちは起きない。

「名前は?」
「えっ!? あっ、ト…トラン…」
「トラン?」
「そっ、そう!トランです、トラン」
 トランクスは額の汗を拭った。危うく本名を名乗るところであった。
「ふーん。変な名前ね。歳は?」
「じゅ、17です」
「へー。あたしより一つ上ね」
 ブルマはエアバイクを庭にとめると、あごをくいっと動かして家を示した。
「きなさいよ」
「え?」
「何か用があるんでしょ。お茶ぐらい出すわよ」
「あっ……は、はい!」

 トランクスは不思議な気持ちで母の後を追った。さばさばして、状況順応力が高いのは昔からだったんだな、と思いながら。
 それにしてもどうしてこんなに過去に飛んでしまったんだろう。設定がずれていたのかもしれない。そういえば今回はただ5分移動するだけのつもりだったから、帰りの燃料を積んでいないのだった!どうしよう……。
 トランクスは前を歩く華奢な少女の姿をそっと見つめる。何十年も後のこととはいえ、あのマシンを作ったのは正真正銘この人なんだから、この人を頼るほかない。

「ブルマさん、あの……」
 おそるおそる話しかけると、ブルマは振り向いて、はっとしたように立ち止まった。
「どうしてあたしの名前知ってんのよ……?」
 し、しまった〜!!! トランクスは頭を抱え込みたい衝動を賢明に抑え、言葉を選びながらゆっくり説明した。
「ええとですね……孫、孫悟空さんに、ブルマさんのことを聞いて、そ、それで来たんですよ」
「え? 孫くんの知り合いなの?」
「は、はい、実はそうなんです!」
 リビングにつくと、トランクスは促されるままソファーに座った。

「じゃああたしを訪ねてきたわけ?」
「はい、あのマシンのことでブルマさんに相談があって」
 ブルマはそのへんにあったコップにジャポジャポとコーラを注いで、ドンっと彼の前に出した。

「ねぇ、どうしてトランのほうが年上なのに敬語使うの?」
「えっ!? そっ、それは…………」

 常日頃、実の母に対しても丁寧に話しているトランクスにはそれが当然である。

「そ、そうだよね……ブルマさんのほうが年下だもんね」
 タメグチにしてみたものの、不自然さは拭えない。ブルマは何も言わず彼を眺めてから自分もコーラをラッパ飲みして、言った。

「ブルマでいいわよ」

 ブーッッッッッ!と、トランクスは口に入れたコーラを吹いてしまった。
 母親に対して「ブルマさん」でも充分恥ずかしいのに「ブルマ」なんて考えただけで赤面である。しかし母に怪しまれないためにも、ここは自然に振る舞う必要がある。とにかく怪しまれずに、さっさと燃料を何とかして帰らなければならない。
「ブ、ブブブブルマに、た、頼みがあるんだけど」
 トランクスの顔は真っ赤。言葉はどもりまくり。クールな顔立ちとは裏腹なその態度に、ブルマは思わずクスリと笑った。



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