その6:地球在住怪獣対策

前回このコラムでは巨大ロボットの難しさについて語ったのだけど、今度は「怪獣」について。
最近夫が昔のヒーロー番組を集めている関係で、昔のウルトラシリーズを時々見るのだが、「その怪獣、あっさり倒していいのか!」と思う回は少なくない。

「地下で寝てたら、地下工事のせいで起こされて‥‥」出てきて暴れてはウルトラマンに倒されてしまう怪獣‥‥。それって、それって、その怪獣、ただそこで生きてただけじゃないのか? それは「悪い」といえるのか? そんなシチュエーションで起こされたら私だってビックリして暴れる(笑)
 前に、ウルトラマンシリーズは「自分たちの星を守るのに宇宙人の手を借りなければお話が成立しない」というジレンマを抱えていると書いたけれど、もう一つのジレンマはこのパターンの怪獣だと思う。
ただ「生きて」いるだけの怪獣を殺すことは正義なのか。

野生動物がいきなり都会に迷い込んで暴れたら、やっぱり最初は麻酔でなんとかしようとか思うだろう。毎回カラータイマーはピコピコし、危機は訪れるとはいえ、ウルトラマンには凄い力があるんだから、もう少しなんとかならないかなぁと思ってしまうわけだ。

ウルトラセブンにはその意味での名作がたくさんある。怪獣を倒した側が後悔と罪の意識を持つことも一度や二度ではない。まあウルトラセブンは基本的に地球侵略を企む宇宙人との戦いのドラマであって、地球に住んでいた怪獣と戦うケースは少ないので、なんとも言えないが‥‥。

その意味でも初期ゴジラシリーズは凄いドラマだと思うが、地球在住巨大怪獣に対する素晴らしい解釈&解決法の一つとして、私は、島本和彦氏のマンガ「ワンダービット」第1巻「東京大パニック」前後編をあげたい。基本的にはギャグなんだが、これはすごく面白かった。

東京湾に怪獣アスキングが上陸する。で、都会を壊しまくり、政府は天才科学者首藤レイに相談に来る。すると首藤レイは言う。「地球上の全ての生物には意味がある。あの怪獣の存在目的も分からないうちに殺すわけにはいかない」と。
そのあとの畳みかけはもう島本氏ならではで、「ミサイルで吹っ飛ばしたら病原菌がたくさん詰まっているかも」とか「海中の魚に酸素を与える役目をになっていたら‥‥」といった、怪獣をあっさり倒すことのできない仮説を並べ立てる。

そして彼が提案するのが「人間が巨大化して戦う」ことなのだ。「人間ならファジー感覚はバツグンだから、怪獣を殺さずに疲れさせて海へ追い返せる」というのが理由だ。結局巨大化光線の制限事項により女子プロの選手が選ばれて(当時、島本氏は女子プロにはまっていたらしい)、アスキングと戦うことになるのである。

怪獣と女子プロ選手の60分一本勝負は引き分けに終わり、二人は握手して、戦いに疲れたアスキングは無事、海に帰っていくのであった‥‥。まあ去り際にアスキングがマイクに向かって叫んだ一言が、ラストのオチになっていくのだが‥‥。

我が家では大ウケにウケた作品だ。なんだかとってもすっきり気分だった。女子プロvs怪獣の戦いを描きたかったんだろうなぁと言えばそれまでなんだが、地球在住怪獣問題の解決方法としては、実に奥深くも痛快だったと思うのである。

ちなみに「ワンダービット」は天才科学者首藤レイが、時には主役、時には語り部として登場する、他ではあまり見られない形の短編集だ。ちょっぴりギャグを交えた短いストーリーの中に島本氏の思いのようなものが見え隠れして非常に面白い。

それぞれの回で、色々な絵の描き方をされているのがまた興味深い。絵本のような構成や絵柄のものから、映画のスクリーンが続いていくような形のもの、スケッチ風のものなど、島本氏の画力も楽しめるのがポイント。オススメの一品である。
2003/06/02
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background by Little Eden