第23話 甘い誘惑・夢織姫の紡ぐ夢幻の罠
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暗闇の空間。浮かび上がる黒衣の華奢な肢体。球形のカプセルを持つ白い手。カプセルが割れると煙とともに怪人が現れる。テロップ 「暗黒妖夢族怪人スピンドル」

アラクネー 「スピンドル。ウィーヴィング・グラスを‥‥」
スピンドルが両手をあげると直径5cmぐらいの白い不透明のガラス玉が生まれる。アラクネーの手から7色の糸が放たれてガラス玉を覆うと、糸が溶け込んで、虹色に変化する。

アラクネー 「わかっているわね」
スピンドル 「ははっ」


===***=== タイトルIN 「甘い誘惑・夢織姫の紡ぐ夢幻の罠」===***===


午後の森の小路。カウンターの中で 「猫の手帳」を読んでいる理絵。ボックス席で新聞を読んでいる赤星。そこに帰ってくる瑠衣。
瑠衣 「ただいまー」
赤星 「おかえり」
理絵 「おかえりなさい、瑠衣さん」
瑠衣 「あ、理絵さん! お疲れさまでした。あと、あたしやりますね」
理絵、エプロンを取りながらカウンターから出てきて、初めてレジの台に貼ってあるポスターに気付く。
理絵 「‥‥‥あ‥‥、店長、これは?」
迷い猫探して下さいのポスター。キジ模様のネコの写真。青い首輪。名前はカベルネ。

赤星 「昨日、近所の家で、迷子になっちゃったらしくてさ。貼ってくれって頼まれたんだ。乳離れする前から育てた子だから、飼ってる女の子がすっかりしょげちゃってて‥‥」
瑠衣 「早く見つかるといいわよね。美雪ちゃん、泣きそうだったもん‥‥」
理絵 「人は猫を産まないし、猫も人は産まないですよね‥‥‥」
赤星・瑠衣 「はあ?」

理絵 「違う種類なのに家族同然というのは、不思議な感覚と思っていましたが‥‥」
赤星、瑠衣、ひたすらに目をぱちくり。理絵、ふっと表情を和らげて‥‥
理絵 「それが‥‥。自分で飼って、やっとわかりました。私も、マンデリン、トラジャ、モカマタリのどれか一匹でもいなくなったら、とても寂しいと思います」

赤星、瑠衣、嬉しそうに笑って
赤星 「みんな元気?」
理絵 「はい。とても可愛いです」
瑠衣 「三匹とも真っ黒でしたよね。マンデリンは金目。モカマタリは青目。トラジャは緑!」
赤星 「トラジャだけオスで、シッポ、短かったっけ? あいつの前足ぶっとくて、でっかくなりそうだったよな。あとは二匹とも長シッポで‥‥」

理絵 「お二人ともたった1日見ていただけなのに、よく覚えてますね」
瑠衣 「だってとっても可愛かったんですもの。名前付けも楽しかったわよね!」
赤星 「あの黒羽がさ、いきなり、これは絶対マンデリンだ!って言い張ったの、おかしかったよな」
理絵 「おかげであとの子もコーヒーの名前になって‥‥。みんな、とてもいい名前です」

やいのやいのと猫談義をしているとドアベルの音。
小さな女の子(田尾美雪10歳)とその両親が入ってくる。美雪、うつむいている。

赤星 「あ、田尾さん、美雪ちゃん」
田尾 「ああ、赤星くん、このたびはうちの子が色々面倒かけたね」
赤星 「いえ、ただポスター貼っただけですから。何か、わかったんですか?」
田尾 「だめだったんだよ‥‥。車にひかれていたと保護センターから電話があって‥‥」

田尾夫人 「あの通り、カベルネの行動範囲じゃなかったんですけど‥‥。なんであんなとこまで行ったのか‥‥」
美雪 「あたしのせいよ‥‥」
赤星 「美雪ちゃん。違うって。この前もそう言ったろ」
美雪 「あたしが‥‥グルナッシュを拾ってきたから‥‥」

美雪泣き出す。赤星、美雪の前に膝をついて、手をとる。
赤星 「あのね。男の子の猫は冒険したくなることがあるんだよ。美雪ちゃんの家の周り、車、少なかったから、カベルネも大きな道のことがよくわかんなかったと思うしね」
赤星に抱きついて泣きじゃくる美雪。少女の背中をそっとさする赤星。
赤星 「カベルネはグルナッシュが来たから遠出したわけじゃないんだって。それに、美雪ちゃんが拾わなきゃ、グルナッシュはきっと死んじゃってたぞ?」

美雪 「‥‥グルが来て、ルーはきっと寂しくて‥‥。あたしがもっと‥‥」
赤星 「グルナッシュ、赤ちゃんだったんだから、手がかかるのは仕方ないだろ? 美雪ちゃん、きちんとやったんだから‥‥。それに、ほら、メルロはグルが来ても大丈夫だったじゃないか。な? カベルネが遠出したのは偶然だって‥‥」

なだめられてなんとか泣きやむ美雪。瑠衣が外したポスターを母親に渡す。礼を言って立ち去る親子。見送る3人。涙目の瑠衣。ふと見上げると赤星の目もちょっと赤い。
瑠衣 「赤星さん‥‥?」
赤星(苦笑して目をこする) 「‥‥俺、動物死んじまう話って、弱いんだよ‥‥」
瑠衣 「‥‥‥怪談より?」
赤星 「怪談の方がマシ。悲しいよりコワイ方がぜんぜんマシ」

理絵 「店長。あの猫や飼い主の人たちとは、お知り合いだったんですか?」
赤星 「2年前に美雪ちゃんがカベルネとメルロを拾った時、ちょうどでっくわしたんだ。で、なんか、ミルクのやり方とか教えるハメになって、それでね」
理絵 「グルナッシュというのも猫ですか?」
赤星 「うん。去年の年末、やっぱりこんなちっちゃいの拾ったんだって」
瑠衣 「猫って、後から子猫が来ると嫉妬するって聞いたことあったけど、ホントなんだ‥‥」
赤星 「まあな‥‥。カベルネは、ガキん時から妙に感情豊かなトコがあったんだよ‥‥」
瑠衣 「‥‥美雪ちゃんもカベルネも、可哀想‥‥‥」

理絵 「あのご両親は‥‥娘さんが心配でついてきたのでしょうか?」
瑠衣 「優しそうなパパとママですよね。でも、この時間にパパがいてくれるって、めずらしい‥‥」
赤星 「‥‥あ‥‥。田尾さんって研究者で‥‥その‥‥」
瑠衣 「ああ、時間の融通きくんだ。うちのパパもそうだったもん‥‥」

理絵(意外そうに) 「瑠衣さんの親御さん、研究者なんですか?」
瑠衣 「あ、はい。ママもそうだったんです。‥‥二人とも事故で死んじゃったんですけど‥‥」
理絵、一瞬、目を丸くして瑠衣を見るが、すぐ目を伏せる。
理絵 「‥‥そうだったんですか‥‥‥‥」

赤星(わざと明るく) 「あ、瑠衣! そういや、博士のクルミケーキあるぞ!」
瑠衣 「わあ! じゃ、生クリーム、ホイップしていい?」
赤星 「もちろん! 理絵さんも、食べてかないか?」
理絵 「はい。ではマンデリンを淹れましょう。瑠衣さんは紅茶がよろしいですね」
台所とカウンター内で準備を始める三人。


===***===

夕方。あるマンションの屋上。スピンドルがウィーヴィング・グラスをばらまく。公園で遊んでいた子供達。帰ろうとして虹色のガラス玉に気付き、拾って眺める。何人もの子供がそれを持って帰る。

港で堤防に腰掛けてハーモニカを吹いている少年(佐川茂)。ハーモニカをポケットに入れて帰ろうとしたとき、ガラス玉に気付く。夕日に少し透かしてからポケットに入れる。

あちこちでポスターの回収をしてきた田尾親子。マンションの入り口でガラス玉に気付く美雪。やはりそれを拾う。

夜。寝ている子供達。机の上や棚の上などに、ガラス玉が置いてある。そのガラス玉が光り始める。

マンションの屋上。怪人スピンドルの後ろに黒衣の姿が現れる。
アラクネー 「首尾は?」
スピンドル 「かなりの数の子供たちがウィーヴィング・グラスを持ち帰りました。あれは子供達の楽しい夢の脳波に反応して発光する。その光を浴びた者はその夢から抜け出せなくなります」
アラクネー 「夢に閉じこめて洗脳し、子供たちにスパイダルに対する忠誠心を植え付ける。そうすれば、大人達がどう騒ごうが、自ずとこの国は墜ちるわ。この実験がうまくいったら大規模に作戦を展開する。期待しているわよ、スピンドル」
スピンドル 「ははっ」

===***===

翌朝
目覚めない子供達を起こそうとして青ざめる母親たち。子供達はみな微笑んで眠り続ける。
茂のいる施設。茂と同じ部屋の子供も起きない。施設の職員たちが大騒ぎ。
美雪の両親もやっきになって美雪を起こそうとするがだめ。

眠った子供をつれた親たちで混乱する西都病院の外来病棟。
人の出払っている執務室から電話をかける洵。

洵 「あ、洵です! なんか大変なことが起ってるみたいなんだ!」



オズベースのコントロールルーム。緊迫した雰囲気の5人と葉隠。葉隠が受けている電話の内容は外部スピーカーでモニターされている。

葉隠 「で? 脳波の状態は?」
洵の声 「完全なレム睡眠状態なんだ」
葉隠 「レム状態なら眠りは浅いはずじゃ。なのに目覚めんのか?」
洵の声 「だからおかしいんだ! 絶対に考えられないよ。睡眠障害の経験なんてない子ばっかりなんだよ? それもこんなに大勢が、いきなり‥‥」
葉隠 「脳波のデータが見てみたいの‥‥」
洵の声 「FAXで送る?」
葉隠 「いや、直接そっちに行こう」

葉隠、電話を置く。
黒羽 「あと‥‥運び込まれた子供の共通点を調べる必要がありますね」
赤星 「黒羽、病院の方、頼むわ。俺、マドックス使って、患者の属性の方から分析してみる」
黒羽 「任せろ」
葉隠 「では、黄龍君、輝君、瑠衣ちゃん。黒羽探偵長のご指示に従おうかの」
黄龍 「‥‥なんかろくでもない探偵事務所ってカンジ‥‥」

黒羽、黄龍の耳を引っ張ると、葉隠に道を譲ってから部屋を出る。黄龍、輝、瑠衣、後に続く。赤星は端末の前に座ってキーボードを叩き始める。


===***===


洵と一緒に本部棟の事務室に行く黒羽、黄龍、翠川、瑠衣。部屋に入ると特警の竹本が事務員に色々聞いている。
黒羽 「竹本さん?」
竹本 「よう。お疲れさん。お前さんたちがお出ましってことは、やっぱりかい?」
黒羽 「今、葉隠博士が先生たちと詰めてますがね。ま、99%、そうでしょうね。で、ちょいと共通点の洗い出しに入りたくて、周辺の聞き込みをしたいんですが」
竹本(苦笑して) 「ったく‥‥。刑事顔負けだねぇ」(4人の前に住所の一覧リストを広げる) 「ちょうどよかった。こっちも人手が足りねえんだよ。じゃあ、この病院の患者は頼むわな」

輝 「ね、ねえ、黒羽さん。聞き込みって‥‥、オレたち、なんて名乗ればいいの?」
竹本 「警察庁特命課でいいさね。ちょいと身分証を出してごらん?」
OZの身分証を出す輝と瑠衣。竹本、輝の身分証を手にとる。

竹本 「最初のこれはOZの身分証だろ。次はユネスコの職員証明。そしてこれは、お前さんたちが特命課の特別職員であることを示してる。ほら、桜のマークが入ってるだろ?」
(身分証を覗き込んで) 「すっごい‥‥」
輝 「うそみたい‥‥。‥‥こ、これ‥‥あんまり真剣に見たことなかった‥‥」

竹本 「やれやれ。赤星のヤツ、説明しとらんのかい。とにかく国連の職員ってのは重いんだぞ。吹聴して回るこっちゃないが、どうしてもって時は使うといい。逮捕されそうになった時とか」
輝 「‥‥たっ たいほ‥‥?」(洵と輝と瑠衣、その言葉に顔を見合わせる)

黒羽 「すみませんね。オレも忘れてましたよ。しかし身分証使うなんざ、慣れんぜ‥‥」
黄龍 「俺様、それ、部屋に置いてあるケド?」
黒羽 「‥‥‥‥実は、オレもだ‥‥」

竹本(ずっこけて) 「ま、まあ、いいだろ、黒羽と黄龍は本職の方法で。ただ‥‥瑠衣ちゃんは聞き込みはムリかな。身分的にはそうでも未成年だしなぁ」
瑠衣 「‥‥え‥‥?」
黒羽(優しく笑いかけて) 「瑠衣ちゃんはここで患者や保護者の様子、さりげなく集めてくれるか?」
瑠衣 「‥‥あ‥‥はい‥‥」
黄龍 「んなこと言って、テールは大丈夫なのかよ‥‥いてっ」(輝に腕をつねられてる)
黒羽(その二人を引き離して、背中から押すように) 「よし、行くぞ」

ちょっとだけしょげて皆を見送る瑠衣。元気づけるようにその肩に手を置く竹本。瑠衣、竹本を見上げて気恥ずかしげに微笑む。

===***===

西都病院の応接室。院長の李畝(りせ)、神経科の医局長である秋山、そして葉隠。
李畝 「葉隠博士に来ていただけるとは、心強い限りです」
葉隠 「いや‥‥儂も門外漢の身じゃが‥‥。状況がわからんと対応がとれませんでな。それに毎度毎度、洵を勝手に借り受けて、こちらこそ申し訳ないと思っとりますぞ」

李畝 「いえ。お若い方々が命を賭けておられるのですから。それに、ご子息は非常に広くて深い知識を持っておられるし、まさにうってつけですよ。で、申し訳ありませんが、あとは秋山とよろしくお願いします。こんな状況ですので、私は‥‥。」
葉隠 「お忙しいところ恐縮でした」
李畝、挨拶をして部屋を出る。

秋山 「運び込まれてから、REMに特有の低振幅パターンが1時間以上続いてるんです。検査をした7人のクランケが全て同じでした。家族の話から判断すると、かなり長時間、この状況が続いていると考えられます」
葉隠 「何か外部から操作した可能性は? たとえば薬物とか‥‥」
秋山 「海馬の活性状態やアセチルコリンの濃度が低すぎるような気はします。ただ、薬物反応はまったく無いんですよ。いったいどうやったら、こんなことが起こせるのか‥‥」

突然ドアがあいて、田尾が入ってくる
田尾 「本当なのか、秋山!」
秋山 「た、田尾!? お前、どうして?」
田尾 「娘が‥‥やられて‥‥。薬物系の反応かと思っていたのに‥‥」
秋山 「な‥‥。美雪ちゃんが!? ‥‥あ、あの、葉隠博士、これは私の友人で‥‥」

葉隠 「大脳生理学の権威、国立生命工学研究所の田尾博士ですな。存じておりますぞ」
田尾 「は、葉隠博士!? こ、これは失礼を‥‥」
葉隠 「今はそんなことを言っとる場合じゃない。田尾博士、早速ですが、素人考えを述べさせてもらってよろしいかの?」
田尾 「何かお考えが?」

葉隠 「ある夢を見ている時に、外部から電気刺激を与えて、シナプスを強化したらそれを固定化させられませんか?」
田尾 「それは‥‥精神病の治療のために現在開発中の技術です‥‥。外部刺激を与え続ければ夢を見せることは可能ですが、外部要因を取り去った後も固定化するのは‥‥」
秋山 「田尾。今現在、クランケに対して、なんの電気刺激も加わってないのは事実だぞ」

葉隠 「秋山先生。田尾博士。犯人‥‥いや、敵はこの世界の存在ではない。大脳生理学的にそれが可能であるなら、十分に考慮の必要があるじゃろう」

葉隠、通信機を取り出す。
葉隠 「みんな、儂じゃ。ここ数日のうちに、子供達が妙なキカイを寝室に持ち込まなかったか、確認して欲しいんじゃ。どんな形状かはわからんが、電磁波刺激を与えた可能性がある」
5人の声 「了解!」


===***===


外来で被害者の家族を装いつつ、患者の親の話を聞いている瑠衣。目の前を通った担架に驚く。
瑠衣 「茂くん!」
担架を追うように少し脇を歩く。茂、とても幸福そうな表情。
瑠衣 「茂くんまで‥‥」

瑠衣、また一人の母親の元に駆け寄る。
瑠衣 「美雪ちゃん!?」
田尾夫人 「あなたは、たしか‥‥森の小路の‥‥?」
瑠衣 「美雪ちゃんも、起きないんですか?」
田尾夫人 「ええ‥‥。今、夫が、ここの神経科の先生の所に行ってるんです。夫は大脳生理学の専門で、何か役にたてるかもしれないと‥‥」

瑠衣 「あ、あの‥‥おばさん。美雪ちゃん、昨日なにか変わったものを貰ったりとかしませんでしたか? 景品とか‥‥。あと‥‥変わった花を摘んだとか‥‥!」
田尾夫人 「あ‥‥そういえば、何か、綺麗な石のようなものを拾って‥‥」
瑠衣 「ど、どんな?」
田尾 「このくらいの丸くて白い石なんです。光の加減でいろんな色になって、ちょっとホワイトオパールに似てるんですけど、あんなの見たことなくて‥‥。あんまり綺麗なので、美雪が、机の上に飾ってたと思いますが‥‥」
瑠衣 「‥‥ありがとうございます!」

瑠衣、外来棟から出て、物陰でリーブレスで通話。
瑠衣 「みんな! 病院の方、美雪ちゃんや、茂くんも運ばれてきてるの! で、美雪ちゃんが、直径5cmぐらいの白くて光の加減でいろんな色になる不思議な丸石を拾ったそうなの! 他の子はどうか、聞いてみて下さい!」

そのまま本部棟の葉隠の元へ駆けていく。

2002/5/26

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