第20話 さらば瞼の母!哀しみの健
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どことも知れない荒野で馬に乗っている黒羽。
急に暴れ出す馬。

黒羽「どうしたカゲスター!」

カゲスターの睨む方向を見やる黒羽。ふと厳しい目。

黒羽「んん…?」



   タイトルin「さらば瞼の母!哀しみの健」



スパイダル基地。
BIと四天王の作戦会議。

BI「なるほどスプリガンよ。つまりこれ以上我々の軍事力を疲弊させる事なく日本を攻略するには、影響力の大きい政治家及び財界人を意のままに操り、日本の政治経済を支配し自滅に追い込めば良いと言うのだな!」
スプリガン「はっ。文明破壊はそれからでも遅くねえでしょう」
BI「よかろう!手は打ってあるのだな」
スプリガン「既に的を絞り込んでおります。今回は搦め手で行こうかとね」
BI「面白い。今回の作戦お前に一任する!」
スプリガン「アイアイサー」

他3人、極端につまらなそう。




山道を走る高級外車。それに群がるアセロポッドたち。
車内から引きずり出される和服の女性。

女性「な、何をなさいます!うっ」
 
女性に当身を食らわせ気絶させるアセロポッド。女性を担いで走り出す。
そこに突然ギターの音色。立ち止まり辺りを見回すアセロポッド。

アセ「あ、あそこだ!」

指差す先にギターを爪弾く黒羽。

アセ「貴様、何者だ!!」
黒羽「人に名前を聞くなんざあ紳士なこった。ご婦人に手荒な事をする虫ッケラが言う台詞じゃねえ」
   
ギターを放り投げ、枝に引っ掛ける。襲い掛かるアセロポッドを畳む黒羽。
剣を抜くアセロポッド。剣を奪う黒羽。アセロポッドの首に切っ先を突きつける。

黒羽「危ねえ危ねえ、人斬り包丁なんか使うもんじゃないぜ」

立ち去るアセロポッド。
   
黒羽「おいおい待ちな、忘れもんだぜ!」

剣を投げる黒羽。
手を振って見送ってから、倒れている女性の所に駆け寄り抱き起こす。

黒羽「さ、もう大丈夫ですよ。しっかりして下さい」

目を覚ます女性。

女性「ああ…助けて下さったのですね」
黒羽「いえいえ……。!」
 
改めて女性の顔を見て、驚く黒羽。
女性の顔を凝視。

女性「…あの……何か?」
黒羽「…………はっ、ああ、いえ別に…」
女性「あの、本当にありがとうございました。お礼は主人の方から後ほど…」

車に乗って去って行く女性。呆然と見送る黒羽。





町を歩いている赤星。どこかから呼ぶ声。辺りを見回す赤星。
隣の車道から、バイクが歩道に乗り上げて停車。  
ヘルメットを取ると、佐原瞳。

(敬礼もどき)「おっす」
赤星「なんだ、瞳ちゃんか!久しぶりだなぁ」
瞳「赤星さん全然気付いてくれないんだもん。さっきからずっと呼んでたのに」
赤星「ワリワリ…どこ行くんだ?」
瞳「帰り。今日は練習があったからね、コレの(バイクを叩く)
赤星「腕は上がったかい?」
瞳「まあ、まだまだグランプリには遠いわね」
赤星「そっか…お、後ろの落ちたぜ」

シートの後ろに止めてあった紙袋が落ちる。
拾い上げる赤星。

赤星「はい」
瞳「ああ、ありがと!せっかく買ってきたのに、すっかり忘れてた」
赤星「えらく軽かったけど、そりゃ何だい?」
瞳「ああこれ?今日お母さんの命日でね。お墓参りの花」
赤星「そうか、今日か…」
瞳「そう神妙な顔しないでよ。私は写真でしか知らないんだから…」
赤星「ん、ああ。いや、俺も瞳ちゃんとおんなじだからさ」
瞳「そうだっけ」

赤星「思い入れがねえのが申し訳なくてな…」
瞳「赤星さん大家族だもんね…まあしょうがないわよ、死に別れなんだから。それより赤星さん、どこ行くの?」
赤星「ああ、行き着けの武具屋さんに顔出そうと思ってよ」
瞳「確か鷹山ってとこでしょ。乗ってく?」
赤星「いいよ別に、2人乗りは…」
瞳「いいわよ。けっこう歩くでしょ。それ持ってて!」
 
花束を持たせ、赤星の腕を取って無理やり乗せる。有無を言わさず発車。

赤星(苦笑)「しょうがねえな…じゃあ頼むぜ」

しばらく走って、後ろの赤星を振り返る瞳。

瞳「あっ、ごめーん赤星さん!」
赤星「なんだ?」
瞳「こんなとこ星加博士に見られたら大変!」
赤星「なっ、なんだよ別にそんなもん…ま、前見て前!」
瞳「あはははは」



公園に差し掛かる瞳と赤星。
急停車。つんのめる赤星、瞳の背中にぶつかる。

瞳「ちょっとどこ触ってんのよ、ホントに博士に言うわよ」
赤星「急に停まったのはそっちだろー!……何かあったのか」
瞳「あれ健さんじゃない?」

指差す瞳。
白いギターを持った黒い服、帽子の男。

赤星「うん、ありゃどっからどう見ても黒羽だ」
瞳「何やってんのかしら」

バイクから降りる赤星。黒羽に駆け寄る。

赤星「おーい黒羽ー!何やってんだよー」
瞳「あっ、ちょっと待ってよ……しょうがないわね…先行くわよー、じゃあねー!!」

軽く溜息をついて走り去る瞳。


黒羽のすぐ後ろに駆け寄る赤星。

赤星「黒羽」

ぼんやりと公園を眺めている黒羽。
公園では幼い子供と母親が遊んでいる。

赤星「黒羽!」

数秒おいてからハッとなる黒羽。少し明後日の方を向いてから、赤星に振り返る。

黒羽「ああ、お前か」
赤星「どうしたんだよ、ぼーっとして。お前らしくないぜ」
黒羽「ああ…」

急に笑顔の黒羽。

赤星「?」




別な高台の公園。振り返る黒羽。

黒羽「そう!あれがオレのおふくろ様。お母さんって訳だ。はっはっは」
赤星「お前、疲れてるんだよ。その人は財界の有力者の鶴間隆三氏の奥さんの冴さんで、一人娘の雪子さんってのがいるそうじゃないか」
黒羽「おお、それじゃオレの妹じゃないか」
赤星「お前……じゃ、間違いねえのか!?それじゃあお前、のんびりしてらんねえじゃねえか!」
黒羽「あん?」
赤星「お前なあ、20何年ぶりなんだろ。プレゼントの一つも持ってかねえと親不孝じゃねえか!」
黒羽「おお、そうだ!いいぞ旦那、今日は冴えてるな」
赤星「俺たち天才ブラザーズだ」

浮かれ気味に走り出す2人。


高級デパートで奮闘する2人。店頭のマネキンを見ながら、
赤星「コレ!これなんかどうだ!」
黒羽「いきなり振袖買って持ってくのかお前は」


スカーフを見ながら
黒羽「スカーフと言えばコレしかないんだがなあ」
と、真っ赤なスカーフを広げる。
赤星「おめーの趣味で選んでどうすんだ!」


宝石店で、
赤星「おおー!これなんかいいんじゃねえか?」
店員「さすがお目が高い!」
黒羽「あっ、あーすみません、そっちのを見たいんですがね」
店員「はい、少々お待ちください」
赤星「なんだよ、これダメか?」
無言で値札を指差す黒羽。
顔を見合わせて素早く立ち去る2人。


食料品売り場。
赤星「ハムとかどうかな」
黒羽「お中元じゃないんだから」





  
夜も間近な夕方。森の小路に帰る2人。
歩道に人は少なく、車道もまばら。
弾んだ足取りで口笛を吹きながら歩く黒羽、その後ろから疲れきった赤星。
 
赤星「結局デパート7つもハシゴしちまったじゃねえか…」
黒羽「まだ選び足りねえくらいだがな。まあ、お母様をお待たせする訳にもいかんだろ」
赤星「買い物ってな疲れるモンだなあ…瑠衣のヤツ、たびたびよくやるぜ」
黒羽「女の子ってのはオレたちとは出来が違うのさ」
赤星「今日のおめえもだよ!」
黒羽「特大のカーネーションの花束も注文しといたし、あとは…」
赤星「もういいだろ」
黒羽「妹のプレゼントは少し安いが、気を悪くせんかな」
赤星「はい…はい…」
黒羽「妹と言えば瞳ちゃんにも何か買ってやろうかな、なあ!」
赤星「カンベンしてくれよ!」



夜の森の小路。カウンターで酒を飲んでいる赤星。隣に有望。

赤星「へへへへ〜っ」
有望「どうしたのよ、さっきから…何かいいことでもあったの?」
赤星「へへっ、まあな」
有望「変な男ね。疲れて帰って来たかと思ったら…」
赤星「ん、まあ…いろいろな!」
有望「何があったのよ」
赤星「それはまだ秘密!でも事が済んだらすぐ教えてやるよ。これは絶対まだ秘密なんだぜ」
有望「あらそう」
赤星(心の声)「振り回されて疲れちまったけど……あんな黒羽初めて見たぜ…」
  
   
オズブルーンの操縦席に寝転がって、一輪のカーネーションを持つ黒羽。

赤星(心の声)「よっぽど嬉しいんだろうな。23年間、生き別れだったんだもんな…」

オズブルーンのランプが点滅。

黒羽「ん?これか…」

起き上がる黒羽。

黒羽「こいつはカーネーションって言ってな。お母さんにあげる花なのさ」

ランプ、速い点滅。発信音。

黒羽「お前も欲しいのか? だーめ、これはおふくろの花なの」

不服そうに点滅するランプ。やがて静かになる。





翌日、鶴間邸。
鶴間冴に花束を渡す黒羽。

冴「まあ…これは」
黒羽「受け取って下さい」
冴「私の方がお礼を申し上げるはずでしたのに」
黒羽「いえ…。……あの」
冴「どうかされました?」
黒羽「あの……」

言葉に詰まる黒羽。

黒羽「あの、これは……」
冴「はい?」
黒羽「……黒羽健という名前に、覚えはありませんか」
冴「え…?」
黒羽「23年前、あなたが家出した時まだ4歳だった…健です」
冴「………まあ……」
黒羽「思い出して頂けましたか、お母さん!」

その時、扉を開けて入ってくる少女。
ハッとなる冴。

冴「…ともかくおかけ下さい。雪子、いらっしゃい」

不思議そうな表情で歩み寄る雪子。軽く黒羽に会釈する。

冴「何のおつもりか存じませんが、私の子はこちらの雪子一人です。おかしな言いがかりはよして下さいまし」

黒羽「え…?」


2002/5/12

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