第12話 坊や涙!クリスマスイブの暴魔獣
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スパイダル基地。ゴリアント作戦司令室。
ゴリアント 「アラクネーめ!!」
機械を殴りつけて壊す。火花が散る。

ゴリアント 「てめえの怪人持って勝手に三次元に行っただあ?ふざけんじゃあねえぞ小娘!!」

背後に気配。咄嗟に振り返るゴリアント。目の前にスプリガンの首だけが浮いている。
スプリガン 「落ち着け、ええゴリさんよ」
ゴリアント 「これが落ち着いていられるかてんだ!あの女、手柄ぁ横取りする気でいやがるぜ!!」スプリガン 「だったらどうする?斬り込み隊長ゴリアント様となれば」

靴音。スプリガンの体が歩いてくる。首がふわりと飛んで体に戻る。スプリガン、顎を数回動かして首を180度一回転させる。
スプリガン 「先回りすりゃいいんだ。知ってるぜ、お前さんの細胞と他の怪人の細胞で密かに作り出した暴魔獣を三次元に送り込んだってな」
ゴリアント 「てっ、てめえどこでそれを!!」
スプリガン 「今日、次元回廊から出てったって科学者どもが言ってたぜぇ」
ゴリアント 「何い、今日!?」
スプリガン 「何だ知らなかったのか、自分で命令しといてひでえ将軍だよ。ま、どっちにせよすぐバレるこった」
ゴリアント 「ケッ!…だが!これで奴が動けば、てめえもアラクネーもシェロプの野郎も出る幕はねえぜ!」

突然ブラックインパルスの声。
BI 「頼もしい言葉だなゴリアント」
と言ったあと、壁の向こうから現れるBI。

ゴリアント 「し、司令官!」
BI 「貴様の生み出した新たな暴魔獣、私も見せてもらったぞ。その自信、確かであろうな」
ゴリアント 「ヘイ、もちろん!」
ゴリアント、自信たっぷりに手振りを交えて話し出す。
ゴリアント 「OZの野郎ども、どうもくだらねえ心やら人情やらが好きみてえですからね。そこでヤツでさあ! ヤツは我が暗黒暴魔獣最強の実力を持っていながら、中身は赤ん坊も同然!そんな奴が来たらオズリーブスめ、あの甘ちゃんども、戦いにも身が入らねえでしょう! しかしヤツはオレっちの言うことだったらなぁんでも聞きまさあ!!」
スプリガン 「なるほど!」(指を鳴らす) 「この怪人はいい怪人かもしれねえと油断させたところで始末させようって訳だな。考えたじゃねえかゴリアント。しかも三次元じゃあ今時分はクリスマスとか言うガキじみたお祭り騒ぎ……。ヤツならまさにうってつけだ」
ゴリアント 「どうでがしょう司令官?」
BI 「面白い、貴様にしては素晴らしい策略だ………よかろう!今回の作戦、貴様に一任する!!」

===***=== 第1話 タイトルIN 「坊や涙!クリスマスイブの暴魔獣」===***===


街を歩く笑顔の翠川。店先に大きな日めくりカレンダー『12日22日』ジングルベルの曲が流れ、店先にツリーが飾られイルミネーションが光る。街行く人々は笑顔で大きな買い物袋を抱えている。子供たちも楽しげ。後ろから肩を叩かれる。振り返ると紙袋を抱えた洵。

洵  「やっ」
翠川 「あっ、洵先生!仕事終ったの?」
洵  「ああ」

並んで歩き出す2人。
洵  「ご機嫌そうだね、輝君」
翠川 「うんっ!オレ、クリスマスって好きなんだ。おいしい物食べられるし、それにみんな楽しくなるもんなっ。そういえば、どうしたの?それ」(洵の紙袋を指差す)
洵  「ああ、これね」(紙袋を抱えなおして) 「博士に頼まれたケーキの材料」
翠川 「そんなにっ?やったあ! 博士のクリスマスケーキ、楽しみにしてたんだっ」
洵  「あんまりおだてちゃダメだよぉ。開発ほったらかしても知らないからね〜」
笑いながら森の小路に向かう2人。


森の小路、店内。カウンターに瑠衣と黄龍。他に店に比べて、クリスマスらしい飾り気がない。ドアベルが鳴ってドアが開く。飛び込んでくる翠川、その後ろから洵。

翠川 「ただいまーっ!」
洵  「ただいまぁ」
瑠衣 「あっ、おかえりなさい!」
黄龍 「おかえんなさーい」

厨房から出てくる葉隠博士。手にボールと泡だて器。
葉隠 「おお、やっと来よったか洵! ホレ、早く材料!」
洵  「はいはい、行きますよ!みんな、ケーキ待っててねぇ」
葉隠 「ケーキじゃない、ブッシュ・ド・ノエル!」
洵  「はいはいブッシュ!」

厨房に引っ込む葉隠・洵。カウンターに座る翠川。
翠川 「ねえ、この店は何かしないの? クリスマスツリーとか、電飾とか!」
瑠衣 「そうそう、瑠衣たちで何かしよっかって、今も話してたの。ね、瑛那さん」
黄龍 「それそれ。でもマスターの赤星さんが何もしねーんだから、しょーがねえかなって」
翠川 「えーっ!?なんでかな〜リーダー……あ、きっと忘れてるんだな!どこにいるの?」
瑠衣 「ベースじゃないかしら」
翠川 「オレ行ってくる!クリスマスっぽくしようって言ってくるんだっ」

張り切ってスタッフルームに入る翠川。

ベースの扉が開く。長い廊下を歩く翠川。横の通路に曲がるが、すぐ戻ってきて、周りを見回してから通路をまっすぐ進む。ドッグに到着。勢いよく入る翠川。
翠川 「リーダーっ!」

ドッグ内を小走りに探して回る翠川。
翠川 「リーダー、いないのかな…あっ」
遠くに田島発見。仕事用のサングラスをかけている。何人かの科学者・技術者とこちらに斜め後ろを向いている。田島に駆け寄りながら呼びかける翠川。

翠川 「たじ……」
田島(翠川に気付かず) 「ジェットが右に3度ズレるな」
技術者1 「連結部そのものの強化は終りましたが…」

立ち止まる翠川。
科学者1 「ランドのリーブ粒子調整で何とかなります」
科学者2 「しかしこれ以上粒子を増やすと…」
田島 「私が何とかする。腕回りの補修は済んだな」
技術者2 「はい!」
田島 「よし、あとはスターの補強だ!作業にかかってくれ」

バラける科学者・技術者たち。田島、設計図を見ながらこちらに歩いてくる。翠川に気付く。
田島 「翠川君じゃないか」(サングラスを取る) 「何か用かい?」
翠川 「あ、あの…リーダー、います?」
田島 「赤星か。いや、こっちには来ていないよ」
翠川 「そうですか…あっ、ありがとうございますっ」
 
慌てて去っていく翠川、後ろから田島が呼びかける。
田島 「ああ、翠川君」
立ち止まって振り返る翠川。
田島 「赤星に、あとで来るように伝えてくれないか。たぶん格納庫にいると思うよ」
翠川 「は、はい!」

さらに慌てて逃げるように去る翠川。

格納庫。オズブルーン操縦席に座る黒羽、機体によりかかる赤星。翠川が顔を出す。
翠川 「リーダーいる?」
赤星 「おお、輝!」(片手を上げる) 「どうした?」
翠川(ゆっくりオズブルーンに歩み寄る) 「うん………あの、田島さんがあとでドッグに来てって」
赤星 「そうか。ありがとな」
 
翠川、オズブルーンに手を置いたまま黙り込む。
黒羽 「どうした坊や。言うことを忘れたか?」

翠川、顔を上げる。
翠川 「ううん。オレ…リーダーにさ、もっとお店、クリスマスらしくしようって言おうと思ってたんだ。でもさっき田島さんたちがリーブロボ修理してて、クリスマスだから何だっていう感じで……ねえリーダー」
赤星 「なんだ?」
翠川 「やっぱりオレも、クリスマスだからって浮かれてちゃダメかな。田島さんたちみたいに真剣にやんなきゃダメかなっ」

赤星、翠川の肩を叩く。
赤星 「真面目だな、輝は。でもな、そんなにガチガチになんなくてもいいんだ。祝いたいならどんどん祝え! それにな、田島さんたちはクリスマスだからどうとかじゃなくて、仕事が好きだからやってるんだ。だから気にしなくてもいいさ」
翠川 「ホント!?じゃあリーダー、お店もっと飾りつけしようよ!ツリー出して、電飾つけて…」
赤星 「え…ええ?別にいいけど、俺はそういうのよく分からねえし……く、黒羽!どうしよう?」

黒羽、ちょっと赤星を見て、翠川に視線を移し微笑む。
黒羽 「坊や、そういうことは瑛ちゃんや瑠衣ちゃんと一緒にやった方がいいんじゃないか。リーダーから許可は下りたんだ、好きにやるといい」
翠川 「はいっ!じゃあオレ、行ってきます!」

走って帰っていく翠川。
赤星 「クリスマスかあ…あんまり考えたことなかったなあ。なあ黒羽、やっぱりそんなたいそうな事なのか?」
黒羽 「景気のいい話じゃねえか。現代の文明の産んだ、哀しい虚飾だな」
赤星 「またそんな事言うだろ。あ〜あ、なんかカヤの外だな、俺たちは。黄龍辺りだったらきっと楽しみ方も分かるんだろうが…」
黒羽 「お前にゃ無理って事だ。な、オズブルーン」

黒羽、オズブルーンのコクピットをコンと叩く。オズブルーンの人口知能ランプが光り、発信音。

オズブルーン(ピピーッ、ピ・ピ…)
黒羽 「なに、お前は祝いたい? そうかぁ…」



再び街を歩く翠川。大きな袋を2つ両手に抱えている。
翠川 「へへっ、電飾とモール、飾りつけっと!こんなに種類あったなんて知らなかったな〜」
公園の横に道にさしかかる。横切ったところで立ち止まる。バッと振り返る。
翠川 「あれは…!!」

公園で遊ぶ4、5歳の子供たち。だがその中に巨大な枝分かれしたツノを持った鹿のような姿の怪人が! 子供たちを頭に乗せたりしている。

翠川 「待てっ!!」
その前に立つ翠川。
翠川 「みんな、すぐ離れて!!」(怪人を指差して) 「お前、スパイダルの怪人だなっ!子供たちを放せっ!!」

しかし、怪人の周りに集まる子供たち。
女の子 「お兄ちゃんひどい!」
男の子 「そうだ、何だよお前!」
男の子2 「トナカンダーをいじめるなっ!」
翠川 「え…?」

翠川を睨む子供たち。肩の力が抜け、立ち尽くす。
翠川 「ど、どうなってんだ…?」


ブランコに並んで座る翠川と怪人。周りに子供たち。
翠川 「そっかー、トナカンダーは怪人だけど、いい怪人なんだ!」
トナカンダー 「オレ、今日いきなりここに連れてこられた。こんなとこに放り出されて何がなんだかさっぱり分からねえけど…この子たちが友達になってくれたんだ」
翠川 「ふうん、スパイダルも大変なんだな…」
トナカンダー 「アキラも連れてこられたのか?」
翠川 「ははっ、オレはもともとここにいるんだ。買い物の帰りにここに来ただけさ」

男の子がトナカンダーの肩に乗ってくる。
男の子 「トナカンダーはサンタさんのところから来たんだよね!」
トナカンダー 「サンタ?」
男の子 「うん!だってトナカンダーってトナカイでしょ?」
翠川 「トナカンダー、知らないの?」
トナカンダー 「初めて聞いた」
翠川 「サンタってのはクリスマスイブの夜に、いい子だけにこっそりプレゼントくれる人なんだ。空飛ぶソリに乗ってくるんだけど、そのソリを牽いてるのがトナカイなんだよ」
トナカイ 「………オレか?」

首をかしげるトナカンダー。突然悲鳴。駆け寄ってくる女性たち。
女の子 「あ、お母さん!」
男の子 「どうしたの?ママ」
母親 「そ、そこから離れなさい!」
母親2 「そーっとよ、そーっと!早く!」

母親の1人が走ってきて、素早く子供を抱きかかえ逃げていく。それに続いて全員子供を連れて逃げてしまう。子供たちの声が遠ざかっていく。手を伸ばしながら2、3歩追いすがるトナカンダー。立ち止まり、うつむく。

翠川 「トナカンダー……」
翠川、トナカンダーの背に手を置く。
トナカンダー 「アキラ、みんなどうして逃げる? オレ、あの子たちの敵じゃねえのに」
翠川 「トナカンダー…」

トナカンダー、ブランコの囲いに腰を下ろす。隣に座る翠川。
翠川 「トナカンダーが悪いんじゃないんだ。あのお母さんたちは…いや、この世界の大人たちは、トナカンダーみたいに自分たちとちょっと違うと怖いんだよ。オレも最初、そうしちゃっただろ」
トナカンダー 「でも、オレは怖くねえ。あの子たちもオレのこと怖がらねえ」
翠川 「オレだってだよ」
トナカンダー 「じゃあ、あの人間たちどうして怖がる?オレ、あの子たちを攻撃しねえ」
翠川 「…………」

言葉に詰まる翠川。向こうから人の声。
女性 「あっちです!あっちに怪物が…」
女性2 「男の子が一人残ってるんです!」
男性 「分かりました、公園の中ですね!」

立ち上がる翠川。
翠川 「大変だ!トナカンダー、あっちに行こう! このままじゃ危ないよ!」
トナカンダーを立たせる。
トナカンダー 「危ねえ?」
翠川 「オレと一緒に来て!森の中に洞窟があるから、そこに隠れよう!」
トナカンダー 「な、何でだ?」
トナカンダーの手を引いて走っていく翠川。


ブランコの前にやってきた2人の女性と警察官2人。辺りを見回す警官。
警官 「……何も、いませんが……」
女性 「変ね、確かに…ねえ」
首を傾げる女性2人、顔を見合わせる警官2人。


洞窟の中。奥深く、日があまり届かない。声を潜める翠川とトナカンダー。
翠川 「……おっかけて来ないみたいだね」
首を伸ばし、洞窟の外の様子を伺う翠川。
翠川 「ここだったら大丈夫だよ!繁みで隠れてるし、こんな森の奥まで誰もこないからさっ」
トナカンダー 「アキラ、オレ、オレが人前に出てはいけねえってのは分かった………でも……」

顔を覆っておいおい泣き出す。
トナカンダー 「オレはあの子たちと遊んでいただけなのに……何であの人間たちはオレのこと敵みてえな目で見るんだぁ……」
翠川 「トナカンダー………」

翠川、何か決意したような顔でトナカンダーの肩を抱く。
翠川 「大丈夫!オレに任せて」
トナカンダー、顔を上げる。その目に大粒の涙。
翠川 「必ずお前が平和に暮らせるようにする!それで、またあの子たちと遊ぶんだ! だからちょっとだけ、この洞窟の奥でガマンしててくれ」
トナカンダー 「オレが、この世界でか?」
翠川 「ああ!」(立ち上がって) 「よおし、見てろよ!………………ああ!」
トナカンダー 「どうした?」
翠川 「飾りつけ!放り出したまんま忘れてたぁ」



オズベース。シミュレーションルーム。シミュレーション用ジェットドラゴンコクピットから出てくる赤星。ヘルメットを取って汗だくの頭を振る。

赤星 「ああ〜、疲れた!無茶言うよな田島さんも!」
有望 「文句言わない! それに田島博士は無理なんか一つも言ってないわよ。あなたの操縦技術に問題があるって言っただけ」
赤星 「それにしたって、スーツ着装して操縦するところを生身でやれなんて……勘弁してくれよお」
有望 「適切な処置だと思うわよ。生身でジェットドラゴンを乗りこなせたら、着装後はもっと楽になるわ。それに瑠衣ちゃんはもう通った道なんですからね」

ガバリと起き上がる赤星。
赤星 「なっ、何だって!? 瑠衣がこんな…」(ヘルメットとコクピットを見比べる) 「大丈夫なのか?」
有望 「まぁったく問題ないわ。ま、瑠衣ちゃんはもともと操縦のカンがいいらしいのよね。オズファイターも軽く乗りこなしたし、何て言っても黒羽君のお墨付きですもの」
赤星 「黒羽の奴…あ、あいつもやったのか?」(ヘルメットを軽く持ち上げる) 「これ」

有望(くすっと笑う) 「やれって言う前にね」(シミュレーターを指差す) 「これを見つけるや否ややりだしたらしいわ」
赤星 「あいつらしいぜ。………そうだ有望、クリスマスなんだけどよ」
有望 「えっ?」
赤星 「何か特別なことやるのか? 輝が言ってたんだけど、店に飾りつけしたいらしいんだ」
有望 「え、ええ…それくらいは、やってもバチは当たらないんじゃない?」
赤星 「博士はケーキ焼いてるけどよ、瑠衣や黄龍も何かやりたがってるんじゃねえか。俺はそういうのさっぱりだからな〜!」
有望 「ふふっ、そうね」
赤星 「黒羽なんか」(少し口調を真似て) 「現代文明の哀しい虚飾だな、なんてよ。カッコのつけ方としちゃ新手だよな」

笑う赤星。苦笑気味の有望。
赤星 「それでよ、あいつほんとにオズブルーンと仲いいんだ。ちょっとした発信音でもオズブルーンの言ってることが分かるんだぜ!その話だってさ……」

黒羽について話す赤星。有望の苦笑が少し沈む。笑顔で話す赤星を見ながら、
有望(心の声) 「仲がいいのはあなたたち。ちょっと妬けるわね、黒羽君に…」
有望、軽く溜息。突然赤星のリーブレスに通信。少しビクリとなる有望。
赤星 「赤星だ!……ああ、博士。え? ブッシュがどうかしましたって? 味見?…え?」(有望を見て) 「何か知らんが、とにかく店に来いってよ。行こうぜ!」

ヘルメットを置いて部屋を出て行く赤星。苦笑をもらして歩き出す有望。


スタッフルームから森の小路店内に入ってくる赤星・有望。カウンターに黄龍・瑠衣・洵。時計の針が8時をさしている。
赤星 「うわーっ、腹減ったと思ったらもうこんな時間か!」
有望(カウンターに向かってだ誰にともなく) 「博士は?」
洵  「もう出てくるよ」(厨房を指差す)

厨房から出てくる葉隠。手に持っている大きなブッシュ・ド・ノエル。
葉隠 「でーきたぞ〜い!」(カウンターに置く)
黄龍 「おっ、待ってました博士!」
瑠衣 「うわあ、おいしそうっ」
洵  「僕、端っこ取った!」
葉隠 「ホレ何やっとるんじゃ2人とも!はよう座らんか」

慌ててカウンターに座る赤星・有望。
赤星 「味見ってこれのことですか?」
葉隠 「そうじゃよ。久々の自信作じゃあ!」(切り分けながら)
有望 「でも、クリスマスにはまだ3日も…」
葉隠 「なーに、こりゃ練習じゃよ。明日明後日と試験的に作ってみて、本番に出すのは儂オリジナルのブッシュ・ド・ノエル葉隠スペシャル! 言うてみりゃこりゃプロトタイプじゃな」
黄龍 「カッコいー!じゃこれ1号って訳?」
瑠衣 「いーっぱい食べられるねっ」
赤星 「明日明後日……!」

スタッフルームから現れる黒羽。
葉隠 「おお、来たな黒羽君!」

帽子を取って目礼し、フックにかける黒羽。手袋も取って肩章にとめながら、
黒羽 「赤星! 坊やはどうした」
赤星 「いないのか?」
黄龍 「あいつならクリスマスの飾りつけの買出しに行ったぜ。時間かかってんじゃねえの?」
黒羽 「かかりすぎだ」(チッチッチッと指を振る) 「それに坊やはもうとっくにおうちに帰ってる時間だ」(その指で赤星を指差して) 「暗くなっても帰ってこないとお父さんにお尻をペンペンされるぜ。オレはそんな光景は、とてもじゃねえが見ていられねえ」
赤星 「お前な、7つの子じゃねえんだから」

ドアベルが鳴る。紙袋を抱えて飛び込んでくる翠川。
翠川 「ただいまっ!遅くなってゴメン!」
黒羽 「坊や!こんな時間までどこで遊んでたんだ、野球の延長か」(翠川の頭をかきまわす)
翠川 「ごめんなさーい!あの、…つい、店で悩んじゃって。いいのいっぱいあったから!」(紙袋を持ち上げてみせる)
黄龍 「それにしちゃ服!ずいぶん汚れてんじゃ〜ん?」(翠川のパーカーを指差す)
翠川 「あっ!やっべえ」
有望 「着替えてらっしゃい。博士のケーキがあるわよ」

葉隠、小声で『ブッシュ・ド・ノエル』と抗議。横から小さく『もういいって』と洵。
翠川 「ホント!?オレ、着替えてきます!エイナ、これ頼む!」
翠川、紙袋を黄龍に押し付けて引っ込む。
黄龍(紙袋を覗き込む) 「うわっ!マジかあいつ〜っ、買い込みすぎなんじゃねえの?」
瑠衣(横から顔を突き出して) 「すっご〜い!これだったらいっぱい飾りつけできるわね!」

赤星の横の1番端に座る黒羽。
黒羽 「やれやれだぜ」(ふと頬杖をついた手を見る) 「…………?」

奇妙な毛が指の間についている。さっき翠川の頭を撫でた映像がフラッシュバック。その毛を見つめ、瞳を横に滑らせて考えこむ。
黒羽 「……赤星」
赤星 「なんだ?」
黒羽 「いや…。あとで有望さんも、ちょっと」(親指でベースの方を指差す)



テロップ(翌日)紙袋を抱えて森の中を走る翠川。辺りをキョロキョロ見回している。誰もいないのを確認してから洞窟の中へ。奥まで走っていく。
翠川 「トナカンダー!食べ物持って………あっ」

昨日の子供たちと遊んでいるトナカンダー。
トナカンダー 「おお、アキラ!」
男の子 「お兄ちゃん!」
翠川 「み、みんなどうして……」(駆け寄る)

翠川の手を引っ張って連れ込む子供たち。
男の子(声を潜めて) 「絶対秘密だよっ。ボクたちね、お母さんに内緒でトナカンダーのこと探したんだ」
女の子 「さっき見つけたの!」
女の子2 「大人が見つけたらトナカンダー、ホケンジョに連れてかれちゃうんでしょ?」
男の子2 「だからオレたち、ここにトナカンダーの家、作るんだ!」
翠川 「みんな…」

翠川、子供たちの肩に手を回す。
翠川 「すごいよみんな!オレも協力するよ、な!みんなで、トナカンダーが平和に暮らせるようにしよう!」
トナカンダー 「アキラ、オレ…本当にみんなと暮らせるようになるか?」
翠川 「大丈夫!オレには仲間がいるんだ。まだ話してないけど、話せばきっと力を貸してくれるさ!」(紙袋の中身をあけて) 「ほら、食べ物!いっぱいあるから食べて!」
トナカンダー 「食べ物、みんなもくれた」

チョコレートやクッキーなどのお菓子を取り出すトナカンダー。
男の子3 「ボクこれ持ってきたの!」(たくさんの果物を示す)
トナカンダー 「オレ、それが1番好き」
翠川 「そっか、トナカンダーは果物好きなんだ。オレが好きな果物はさ…」
果物の話で盛り上がる。やがて日が暮れ、渋々帰っていく子供たち。見送る翠川、トナカンダー。

翠川 「なあトナカンダー!せっかくトナカイなんだからさ、クリスマスにはみんなにプレゼントあげないか?」
トナカンダー、少しキョトンとするが、前脚の蹄を打ち付ける。
トナカンダー 「サンタか?」
翠川 「そうだよ!オレ、サンタの役やるからさ。オレの知ってる人で、お菓子作りの上手い人がいるんだ!その人にケーキとかいっぱい作ってもらって、みんなにあげよう!」
トナカンダー 「みんな喜ぶか?」
翠川 「喜ぶよ!トナカンダーも、みんなに食べ物もらって嬉しかっただろ?」
トナカンダー 「嬉しかった、どれも美味かった。オレが食べるとみんなも笑う。オレも楽しい。みんなも、オレと同じ気持ちになる」
翠川 「決まった!………そうだトナカンダー、これ!」

ポケットから金色の小さなベル。
トナカンダー 「なんだ?」
翠川 「昨日話したろ、クリスマスツリーの飾り。これ、トナカンダーに渡そうと思って」
ベルを手渡す翠川。不思議そうに見つめるトナカンダー。
トナカンダー 「光ってキレイだ」
翠川 「サンタのトナカイも、そういうやつを首につけてるんだ」
トナカンダー 「そうか…」

突然立ち上がるトナカンダー。洞窟の外に歩き出す。
翠川 「だっ、ダメだよトナカンダー! 誰かに見つかったら…」
洞窟入り口の繁みにしゃがみこんでいたが、すぐに戻って来るトナカンダー。手に植物のツルを持っている。
トナカンダー 「これでできるか?」
ツルとベルを翠川に差し出す。それを受け取って考え込む翠川。

翠川 「………できるかって………あっ!」(ツルをトナカンダーの目の前に持って来て) 「これで首につけるのか!」
トナカンダー 「そうだ、そうだ!」(しきりに頷く)
翠川 「トナカンダー、あったまいい〜!ちょっと待ってて!」
ベルの鎖にツルを通し、トナカンダーの太い首に結びつける。

翠川 「できた!」
トナカンダー 「ど、どうだ?」
翠川 「うん、いいよ、似合ってる!本物のサンタのトナカイみたいだ」
クリスマスのことやこれからのことについて話す2人。日が沈み、また夜になってしまう。


夜の街を走る翠川。
翠川 「まずいなあ、昨日より遅くなっちゃった…怒ってるだろうなー…早く帰ろ!」

スピードアップ。すぐに森の小路前に着く。ドアノブを回すが、ガチャガチャ言うだけで開かない。
翠川 「そりゃこの時間だしな…」
 
裏手に回って、ベースの入り口から入る。ベース内の廊下を歩く翠川。突然横の部屋の中から黒羽の声。
黒羽(声だけ) 「坊やが暗黒次元の生物と接触したのは間違いなさそうだ」

驚愕して立ちすくむ翠川。続いて赤星の声。
赤星(声だけ) 「一体何があったんだ…そんな奴がウロついてたら騒ぎになるはずじゃねえか。だいたい輝は何も言ってなかったぜ」
黒羽(声だけ) 「人間か…犬猫なんかの動物に化けているかもしれんな」
有望(声だけ) 「輝君は気付いてないようだけど…帰ってきたら詳しく聞いてみましょう。心当たりがあるかもしれないわ」
赤星(声だけ) 「黄龍と瑠衣に探索にあたってもらおう。あと佐原さんたちにも協力してもらって…。こういうことはあの人たちが専門だ」
黒羽(声だけ) 「いずれにせよ危険には違いねえぜ。被害が出る前に見つけ出して始末せんとな…」

2、3歩あとずさる翠川。絶句して立ち尽くす。
翠川(心の声) 「いけない…このままじゃトナカンダーが!!」 
突かれたように走り出す。


早朝、森の洞窟。飛び込んでくる翠川。
翠川 「トナカンダー!!」
眠っていたが、飛び起きるトナカンダー。首元のベルが揺れる。

トナカンダー 「ん…あ、アキラ。なんだ?」
翠川 「早く目え覚まして!逃げよう!」
トナカンダー(目を大きく見開いて) 「え?逃げる!?」
翠川 「そうだ!このままじゃ危ない!来て!」
トナカンダーの手を引いて洞窟を出る翠川。森の中をひた走る。

翠川 「さっ、早く!」
トナカンダー 「ちょっ、ちょっと待て!!」
トナカンダー、翠川の手を振り払う。
トナカンダー 「何があったんだ?オレ、あそこにいろって言うからあそこにいたのに…」
翠川 「それは…」

突如上空からエンジン音。オズブルーンが木々の間を掠めて頭上を滑空。映像変わってオズブルーン操縦席。着装済みの4人。

ブラック 「オズブルーン!GO!!」

交差するように回転しながら飛び降りてくる4人。レッドを中心に着地。
レッド 「ついに見つけたぞ、スパイダル!」
ブラック 「坊や、着装だ!」
翠川 「み、みんな…!!」

立ち尽くしたまま動けない翠川。
トナカンダー 「ア、アキ…」
 
翠川に近づくトナカンダー。
レッド 「危ないっ!リーブライザー!」(手に装着) 「とおっ!」

トナカンダーを殴りつけるレッド。よろけるトナカンダー、だが態勢を立て直してツノを振りかざす。弾き飛ばされるレッド。
レッド 「なんてぇ力だ…!」(トナカンダーのツノ攻撃) 「危ない!!」

翠川を抱えて転がるレッド。間髪入れずブラックチェリーをかまえるブラック。
ブラック 「ブラックチェリー! とりゃあっ!!」

レッドを翠川が距離をとったところで矢を放つ。トナカンダーの体の表面で爆発。が、ダメージは少。
トナカンダー 「グオオオオオッ!!」

トナカンダーの突進。寸でのところで避けるブラック。前方に立ちふさがるイエロー・ピンク。
ピンク 「これくらい平気よっ!」
イエロー 「オレたちに任せろ!」
イエロー・ピンク 「ダブルトルネードキック!!」
トナカンダーに飛び蹴り!が、かまわず突進するトナカンダー。吹っ飛ぶイエロー・ピンク。
イエロー 「うああっ!」
ピンク 「きゃあっ!」

地面に投げ出される2人。歩前に出ながら拳を固め、叫ぶレッド。
レッド 「イエロー!!」
ブラック(同じ動作でレッドの後ろで) 「ピンク!!」

再度レッド中心に集まる4人。戦いを見つめながら何もできない翠川。

ブラック 「接近戦はだめだ!」
レッド 「よおし、4人で行くぞ!リーブラスター!」
4人 「リーブスプラズマシュート!!」

集めた銃口に、4色の星が集まり発射。トナカンダーに命中。
翠川 「トナカンダーっ!!」
が、致命傷は与えられない。

レッド 「やっぱり4人じゃ無理だ!輝、早く!!」
翠川 「…………!!」
立つすくむ翠川。

ブラック 「くっ、こうなったらオズブルーンで……」
口元にリーブレスを持ってくるブラック。その時!

子供の声 「待って!!」
向こうから走ってくる子供たち。トナカンダーの周りに集まる。
男の子 「トナカンダーは悪くないんだ!!」
女の子 「トナカンダーをいじめないで」

手を伸ばし、動きが止まるレッド。
ブラック 「離れるんだみんな!」
ピンク 「逃げて!危ないわ!」
レッド 「待てブラック、ピンク!!」

一歩前に出るブラック・ピンクの前に手をかざすレッド。
トナカンダー 「うおおぉぉぉ………」
苦しみの声をあげながら、逃げ去っていくトナカンダー。

男の子 「トナカンダー!」
女の子 「待って!!」
追いかけていく子供たち。が、姿を消すトナカンダー。すがるような目の翠川のアップ。


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