第1話 OZ本部 応答せず!
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ある喫茶店。「CLOSED」の札のかかったガラスのドア。「森の小路」と書いてある。中はカウンターの上の小さな明かりだけで薄暗い。黒羽がそこでロックを飲んでいる。時計は深夜1:00。ドアの開く音に振り返る。
憔悴した表情の赤星、入って来るなりカウンターの一番端に座り込んで突っ伏す。黒羽、カウンターの内側に入るとタオルを絞り、広げて赤星の頭にばさっと投げる。赤星、のろのろと身体を起こしタオルで顔を拭くと、それを無言で黒羽に投げ返す。

黒羽、ロックグラスにストレートでウイスキーを入れながら、左手でタオルを受け止める。
黒羽「天下の赤星さんが、ひでえツラだぜ」
黒羽、グラスを赤星に滑らせる。赤星、それを一気にあおり、酒のキツさに顔をしかめる。
赤星「お前ほどじゃねーよ」
黒羽、フンと鼻をこする。その顔も疲れきっている。

有望「憎まれ口が言えるくらいは元気なのね、赤星?」(テロップ「星加有望博士」)
赤星「ゆ、有望!?」
有望がいたことにまったく気づいていなかった赤星、イスから落ちそうになるぐらい驚く。有望、かまわず赤星の隣に座り、カウンターに両肘をつき赤星を見つめる。
有望「今日の事件で、OZの本部は壊滅してしまったのね。で、あなたはこれからどうするの?」
赤星「お、お前‥‥!」
有望「あなたが言いたがらないから、今まで何も知らないフリをしてたけど‥‥。私だって科学者の端くれよ。あなたがOZがらみの仕事をしてたことは知ってたわ‥‥」

赤星、顔を背ける。黒羽、腕組みで戸棚に背をもたせかけ、伏し目で話を聞いている。
有望「何回か実験の依頼してきたって、理由はごまかしてばっかり。なんで正直に言ってくれないの? 私だって何か手伝える‥‥」
赤星「ダメだ! 絶対ダメだ! もう、いいから、帰れよ!」
黒羽「おい、そんな言い方があるか!」
赤星「黒羽、お前に関係ねえっ! 有望、頼むから帰ってくれ! 俺、今、お前のこと考えてる余裕がねーんだよっ」
黒羽「赤星!」

有望「いいのよ、黒羽くん。この人、一度言い出したら、きかないから‥‥」
有望、立ち上がって、さっきまで座っていたテーブルから車のキーを取り上げる。ドアに向かって歩きながら、赤星の後ろで立ち止まる。赤星、背中を向けたまま。
有望「赤星、これだけは覚えておいて。私、あなたに、私のことを考えて欲しくてわざわざ来たわけじゃないのよ‥‥。とにかく、ムリしないでね。お休みなさい」
有望、出ていく。目を閉じてドアベルの音を聞いている赤星。

黒羽「おい、赤星‥‥」
赤星(言葉を振り切るように立ち上がる)「俺はベースに行く」
黒羽、肩をすくめ、画面OUT。

===***===

テロップ「一週間後」 オズベースのコントロールルーム。モニターを見ながら。

葉隠「ここ一週間、あの飛行物体の解析をしてみたが、あれは明らかに異次元の存在じゃ。ちょうど上空のこのあたりが、通路のようなものになっていたんじゃ」
赤星「この次元の切れ目ができる時、特殊な電磁波が観測されるんだ。天文台や気象台のデータ調べまくったら、ここ1年の間に3回、同じ電磁波が観測されていた。で、これがUFOの報告数。ほら、電磁波が観測されてる時、多くなってるだろ」
黒羽「ってことは、何者かが、調査をして‥‥4回めに襲ってきた‥‥と? これから先も、また来る可能性があるんですね?」

葉隠「唯一の救いは、次元の切れ目はなかなか発生しないし、使える時間も短いことじゃ。惑星の位置関係その他、様々な要因から分析したんだが。あと1年ぐらいの間は頻繁には開くことはないと思われるんじゃよ」
黒羽「1年たったらどうなるんです?」
赤星「条件がそろって、かなり自由に行き来できるようになっちまいそうなんだ‥‥」
黒羽「その1年の間に、敵さんが無理矢理その通路を確保する可能性は?」
葉隠「それもないわけではない‥‥。だがあの攻撃してきた飛行物体の科学レベルから考えると、まず大丈夫だとは思うのだが‥‥」
黒羽「1年がオレ達にプレゼントされた時間ってわけか‥‥。でもここはメカの格納がメインで本部みたいにはいかんのでしょう? スーツも完成してないし、人は足りないし‥‥」

葉隠「のう、竜、お前、たしか以前から、国立物性研究所の星加博士に実験を依頼しておったな。あのスーツの開発には物性のエキスパートが必要なんじゃ。なにより彼女なら信頼できる。彼女に本格的に手伝ってもらうわけにはいかんのか?」
赤星「ダメです! あいつは俺と違って、ちゃんと自分のやりたいことがあるんだ。今の研究所でもちゃんと認めてもらってるし、今、研究中のモノもあって‥‥」
葉隠「国立物性研究所の久保田所長とは馴染みだし、彼もOZには理解がある。所属はあっちのままで、オズベースの方を手伝ってもらうことも可能だと思うがのう」
赤星「そんなことしたら有望は自分の夢捨てても、こっちのことやっちまう。あいつも綾博士とおんなじなんですよ。本当にマジメでなんでも一生懸命で‥‥。だから‥‥」

黒羽「赤星、お前、みんなの死に様見て、怖くなっちまったんだろ?」
赤星「なんだとっ」(黒羽を睨み付ける)
黒羽「有望さんがあんな目にあったらと思って、ブルッちまってんだよ!」
赤星「黙れっ」(いきなり黒羽に殴りかかる)
黒羽(その拳を掌で受け止めて)「図星だな」

睨み合う二人。が、赤星先に視線をそらし、手を下ろして横を向く。
赤星「‥‥あいつの邪魔したくなかったのもホントさ。どうしても力借りたい時だって、できるだけハナシ切り分けて、長引かせない形で依頼してきたんだ‥‥。でも、今回のことで、もう絶対に有望は巻き込まない、なんにも頼まないって決めたんだ。あの綾さんが、あんなむごい姿になったんだぞ‥‥。怖くて‥‥悪かったな! 自分勝手だってんなら、その通りさ!」

黒羽「それで当たり前。"怖くない"なんて、ツッパったガキのセリフさね」
赤星、ハッとして黒羽を見る。にやりと笑った黒羽、赤星の胸をとんとつく。

黒羽「お前さんのホンネが聞きたかっただけさ。悪かったよ。だがな、赤星。あの連中が本気で侵略者ってやつなら、どこにいたってああなる可能性はある。守ってやりたいんなら手元においとくんだな。自分のそばが一番安全だって豪語すんのが、いつもの赤星竜太だろう? それともオレは、お前さんのこと勘違いしてるのかな?」

赤星、しばらく考え込んでいるが、何か決心したように黒羽の顔を見る。

===***===

夕方。喫茶「森の小路」の前に車一台。運転席から赤星、助手席から有望が降りてくる。二人喫茶店の中に入っていく。中に黒羽がいる。

黒羽「おや、ご両人、おいでなすったね」
有望「黒羽君、この間はごめんなさいね」
黒羽「いえいえ、詫びの言葉はぜひこっちの旦那から聞きたいもんですね」
にやりとした黒羽にぐっと詰まった感の赤星。が、気を取り直して

赤星「有望‥‥。この間は俺が悪かった。謝る。それで、改めてお前に‥‥いや‥‥」
赤星、有望の正面に立って、まっすぐにその顔を見る。
赤星「星加有望博士。OZ日本本部、オズベースの所長代理として正式に依頼したい。どうか我々に全面的に協力していただけるよう、お願いします」
頭を下げた赤星。目を閉じてうなずく黒羽。微笑んでいる。
有望は両手で口元を覆う。涙がわき上がる。赤星、顔を上げて有望の涙に気づき慌てる。

赤星「あ、ゆ、有望っ イヤなのか!? イヤならイヤで忘れてくれっ 気にしなくていいからっ」
有望「‥‥いやなわけ‥‥ないでしょう? あなたって人はホントに‥‥」
赤星「本当にイヤじゃないんだな? ムリしてないな?」
有望、涙を拭いて、何度も頷く。
赤星「よかった‥‥。じゃ、オズベースに案内するよ。こっちだ」

赤星、喫茶店のStaffOnlyと書かれたドアを開ける。
赤星「ここはドアノブで指紋照合してる。登録されてない人間が入ろうとしても開かない」
三人中へ入る。赤星、左手奥の大きな鏡に近づくとその飾り枠の一部に親指と人差し指、中指をあて「赤星竜太」と名前をゆっくりと言う。壁が開いてスコープのようなものがでてくる。赤星がそこを右目で覗くようにする。

有望「アイリス認証‥‥。三重のチェックね」
黒羽「本部が爆撃されたとき、正確にOZの研究室のある棟だけ狙われたんですよ」
有望「内通者がいたってこと‥‥?」
赤星「その可能性も疑わないとな。ほら、こっちだ」
鏡ごと壁が内側に少しへこみ、横にスライドする。流石に驚いた表情の有望、赤星の後に続いて秘密通路に入る。黒羽、最後に通路に入り、入り口が閉まるのを確認する。

コントロールルーム。笑顔で三人を迎える葉隠。
有望「葉隠博士‥‥!」
葉隠「星加博士。お待ちしとりましたぞ。その様子だと、この朴念仁は、きちんとご依頼申し上げたようじゃな」
有望「はい。正式にお受けいたしますわ。ただ所属の移管に関しては‥‥」
葉隠「いやいや‥‥儂はこう見えても、君の所の久保田君とは親しくしておってな。君の望む形で計らってもらうつもりじゃよ」
有望「そうでしたの。ではまた所長と相談してお返事いたします。ああ、でも葉隠博士と研究できるなんて光栄です! 私、博士の書かれた『超強磁場における物性の一考察』、本当に感動したの、よく覚えてますわ!」
葉隠「そうか、そうか! あれはな‥‥」

話に弾む二人を見ながら、黒羽、あんぐりと赤星の顔を見て‥‥
黒羽「お、おい、有望さんって‥‥」
赤星「すげえだろ? 俺も、あそこまでいっちゃうとぜんぜんわかんねー」
黒羽「これはたしかに綾博士を思い出させますねぇ‥‥」
赤星(時計を見て)「あ、おい、黒羽、時間、時間!」

赤星、葉隠と有望の間に割って入って‥‥
赤星「あー、博士。まだ有望には色々見せたいんで‥‥。連れて行きますよ?」
葉隠「ああ、かまわんよ。じゃ星加君、これからよろしくお願いしますぞ」
有望「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
赤星「よし、じゃ、有望、今度はこっちだ、こっち」

赤星、黒羽、有望を引っ張るように出ていく‥‥
葉隠「なんじゃ、あいつら‥‥」

二人が有望を連れてきたのはオズブルーンの格納庫。
有望「すごい‥‥! こんなものまで‥‥?」
赤星「ここはもともとメカの格納のために作られた基地だったんだよ」
黒羽「お二人さん、急いで急いで。こっちだ」

オズブルーンのコックピット。嬉しそうに操縦桿を握る黒羽。
有望「ど、どこへ行くの?」
赤星「もうすぐ、獅子座流星群、ピークだろ。日本じゃまだ明るくてよく見えないけど、太平洋まで出ればきっと見られると思ってさ」
有望「えーっ そんなことに使っていいの!?」
黒羽「いいわけないでしょうねぇ。でもここにいる所長代理さんが言い出しっぺですからどうぞご安心を。じゃ、いくぞ。ベルトはきちんとお締め下さいよ」

===***===

コントロールルーム
田島「博士! オズブルーンが発進しました!」
葉隠「わかっておる。たぶん、流星でも見に行くんじゃろ」
田島「え? あ‥‥。す、すぐに呼び戻します!」
葉隠「ほっておけ。あいつらはまだ若い。そういう時間も必要じゃろ。その代わり、帰ってきたら、竜に儂の部屋にくるように伝えてくれんか」
田島「は、はい‥‥」

オズブルーンが既に暗くなっている太平洋上を飛んでいく。コックピットの三人、外を指さして笑い合っている。そこに葉隠の声かぶる。

葉隠「あの子達が頼りじゃ。妙なしがらみを持たず自分の見たものを信じて進むあの若さが。何が起ろうと、心の中の熱い正義ために‥‥。あの子達ならきっと‥‥」

   (エンディング)

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