理絵さんの夢織劇場
<1> (2) (3) (4) (5) (6) (7) (戻る)
その1 お兄ちゃんが出かけた日

むかしむかしある次元に黄龍瑛那と瑠衣という夫婦が住んでおりました。正直者で優しい二人は色々な理由で親のいない子供達を引き取って育てておりました。

今の黄龍家の長男はブラックインパルスといい、時にはお父さんより落ち着いて見える優秀な男の子です。次男はスプリガン。身体が鋼鉄であるために捨てられてしまったのではないかと思われますが、もちろんお父さんもお母さんもそんなことは黙っています。次が長女のアラクネー。ちょっと不思議な受け答えをしたりしますがよく勉強する大変真面目な子です。怪談が大好きで怖い話を集めていますが、お母さんがよく協力してあげているようです。三男はゴリアントといいぱっと見た目はは虫類のようですが、幸い近所のみどり幼稚園が受け入れてくれました。今、3年保育の年長さん「ひまわり組」にいます。そしてついこのあいだ引き取った男の子の赤ちゃんはシェロプといいます。

ある日のことです。黄龍家の玄関先で長い髪を一つにまとめ、大きな鞄を持った長男ブラック・インパルスが、お母さんに挨拶をしていました。
「それではお母さん行って来ます」
「気をつけてね。ブラック・インパルス」
お母さんの瑠衣はエプロンで手を拭きながら言います。
「忘れ物ないかなぁ、やっぱりもう一度確認を‥‥」

鞄に手を伸ばすお母さんを、お兄ちゃんは止めました。
「お母さん‥‥。もう17回も確認したでしょう?
そろそろ行かないと飛行機が出てしまいますよ」
瑠衣お母さんはちょっと寂しそうに手をひっこめました。

と、そこに黄龍お父さんの声が聞こえてきます。お父さんは車をガレージから出して準備していたのです。
「お〜い、早くしないと間に合わないぜ〜?」
「お父さん、すぐ行きますよ!」
そう答えたブラックインパルス少年は、慌ててお母さんに頭を下げました。
「じゃお父さんも呼んでるし、もう行きます。手紙書きますね」
「気を付けてねvv」


それから数時間後、瑠衣お母さんは次男のスプリガンに声をかけました。
「いい? お母さんはゴリアントを幼稚園に迎えに行って来るから、アラクネーとシェロプお願いね。
 ついでに夕御飯の支度も頼めるかな? スプリガンなら包丁で手を切る心配もないし」
「いいよ、やっとく」
スプリガンはゲームをやりながらそう答えました。お母さんはでかけ、ゲームオーバーしてしまったスプリガンはエプロンを着けました。
「さてと、始めるか」
そこに奥の扉から長女のアラクネーが顔を出しました。
「お兄ちゃん。手伝う事ある?」
スプリガンお兄ちゃんは少し考えてから言いました。
「こっちはいいからシェロプと遊んでやって」
アラクネーはこっくりと頷いて引っ込みます。

スプリガンは台所に行き、冷蔵庫からお肉を出し、ニンジンとジャガイモを洗いました。どうやらカレーを作り始めたようです。鼻唄を歌いながら人参を刻んでいると、シェロプのぐずる声が聞こえてきました。
その直後、微かに聞こえた空を切る音に、スプリガンがだっと台所を飛び出しながら怒鳴りました。
「アラクネー! やめろ! シェロプが死んじまう!」
アラクネーとシェロプのいる部屋に飛び込むスプリガン。

本気なのか単にあやしてたのか、今にも糸を使ってシェロプを切り刻みそうだったアラクネーを無理矢理台所まで引っ張ってきて、スプリガンは言いました。
「やっぱり子守はいいや、こっち手伝って」
二人で順調に夕御飯の支度を進めていると電話がかかってきます。スプリガンが出るとそれはお母さんからでした。
「ごめんね。ゴリアントが喧嘩して尻尾がちぎれちゃって、今日は病院に泊まる事になりそうなの。
 もうすぐお父さん帰って来るから、明日までいい子にしててね」
「うん。わかった」




さて、翌朝。
瑠衣お母さんがシッポの生え替わった三男ゴリアントを連れて帰りました。シッポが完全に生えるまではバイキンに気をつけないといけません。病院に居た方がよいというお母さんの判断は適切だったようです。

お母さんが家に入ると、なぜか黄龍お父さんとスプリガンとシェロプしか居ません
「あら、アラクネーはどうしたの?」
なぜか落ち込んで喋ろうとしない黄龍お父さんに替わって、スプリガンが話し始めました。

「昨日の夜ね、ごはん終わってもアラクネーがなかなか寝なかったんだよ。
 オレも早く寝ろよって言ったのにダメで。で、父ちゃんが、お皿洗ったあとで
『BI兄ちゃん居なくて寂しいなら、お父さんが一緒に寝てやるぞ?』って言ったの。
 そしたらアラクネーが、すっごいヤな顔してさ。父ちゃんショック受けるし‥‥」
「まあ、で、アラクネーは?」
「それがさぁ、空間に歪み作って兄ちゃんとこに行っちゃってさ。オレ、追っかけていって
 連れて帰ろうとしたんだ。でも兄ちゃんがいいって言ったから置いてきた」

瑠衣お母さんはカミナリにうたれたようにショックで固まりました。黄龍お父さんが心配して声をかけます。
「だ、大丈夫か、瑠衣!」
「あ‥‥あなた‥‥。なんてことなの!」
「いったいどうしたんだ?」

「空間歪められるなら、飛行機代、節約できたのに!」


   チャンチャン♪
夢見:理絵/文:管理人 2003/9/2

<1> (2) (3) (4) (5) (6) (7) (戻る)