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前略


あれからもう、7年になるんです。




唐突だけれど、僕は今少し困った事に遭遇している。
大声で泣いている目の前のこの少年は、7歳になる僕の弟だ。
今日は天気がいいからと、パオズ山からちょっと離れたこの場所に
やってきたのだが、数時間もしないうちに、この光景に行き当たっている。
「悟天・・・いつまでも泣いてたってしょうがないだろう・・?」
なだめてみたり、物でつってみたりと色々試してみたのだが、
一向に泣きやんでくれる気配がない。
「だって・・っ!!せっかく捕まえられたのにっっ!!
 お母さんにっ見せたかったっっのに・・・っ!!」
夢中になってやっとの事で捕まえた蝶を、
滑って転んで逃がしてしまった・・・・・らしい。

まったく、この泣き虫ぐせは誰に似ちゃったんだろうね。
お父さんも僕の小さな頃には、こんな苦労をしていたんだろうか。
そう思うと何となくおかしくなって、知らずに顔がほころんでいた。

「あのね、悟天。」

体を低くし、視線を合わせる。

「虫も、・・・花もね」

「そこにあるから綺麗なんだよ」

昔々、小さな自分に父が話したそれと同じように。

「だから、むやみにそこから引き離したりはしないで欲しいんだ。
 ・・兄ちゃんの言っている意味、解ってくれるか?」
「・・・・・・うん・・・。」
ポンポンと、音をさせながら背中をたたいてやる。
そうしているうちに彼はまた、何事もなかったかのように走り出していった。


元気があふれだしそうな、その背中を見送っている。



お父さん   見えますか?


あなたが残していってくれた、あの子の成長した姿が。


そして、僕自身がほんの少し  大人になった姿が。



「にいちゃーん!!見て見てっ!この花!きれいでしょう?」
小さなその手に握りしめられた、オレンジ色の 花。
「あっ!僕がとったんじゃないよ!!
 僕と同じくらいのね、女の子にもらったんだ!」
「え・・・・・?」
「お花をもらうと元気になるんだってさっ!
 だから、兄ちゃんにあげる!!」
「・・・・・・。」
「・・・兄ちゃん?どうしたの?」

この時僕が感じたことは、驚いたとか 不思議だとか
そういうものでは なかったと思う。

「いや・・。兄ちゃんも、この花が大好きだからさ。」
僕の言葉に、彼はとても満足そうに、にこにこと笑っている。
そして、つられるように 僕も。



この笑顔が大切だと   守りたいと、そう思う。


あなたがこの子にしてあげたかった事も  言ってあげたかった事も


あなたの分まで、僕がしてあげたいと  そう思うんです。



「あー!!悟天!そんなに走るとまた転ぶぞ!」
「うわーっ!!・・・えーん!!痛いよー!!!」
「あぁあ・・・。ちょっと待ってろ!」
駆け寄って、そして抱き上げる。
まったくこの子もいつの間に、こんなに重たくなってしまったのか。
泥だらけになってもまだ、しっかりと握りしめられている、右手。


現実の幸せは、こんなにも  近くに。




お父さん



あれからもう、7年になるんです。




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