DB的眠り姫もどき童話風味 I
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 『魔物にさらわれた眠り姫を救い出し目覚めさせた者に 
  莫大な賞金を与える』
 
  
 ある日、その国ではあちこちの広場に、そんなおふれの書かれた不必要に大きい看板が立てられました。何事かと、人々はその看板に集まってきます。そんな民衆の中に、ある異国から来た王子一行がおりました。
「何だ、これは」
 逆立った髪。つり上がった眉の下には天を射抜くかの如く鋭い眼光が光っています。
 煌びやかな衣装に身を包み、白馬にまたがった異国の王子ベジータは、たった一人のお付きの者にそう尋ねました。
「は。どうやらこの国の姫が何かとてつもない魔物にさらわれたようですな」
 お付きの者は、頭に触覚をもち肌は緑色、指は四本。眉の無い顔には始終厳めしさがつきまとっています。ベジータ王子の従者ピッコロは、馬を引いていた手を止めうやうやしく答えました。
「この国の姫はその名世界の隅々まで轟くほど美しく、高貴な姿であると噂される人物で御座います」
「ふん」
 王子はお付きの者の言葉を鼻先で笑い飛ばしました。鷹のような瞳が立て看板を射抜きます。
「姫などに興味はないが、莫大な賞金と書かれている。修行にて培ったこの力、試してみても良いかも知れんな」
「しかし従者は私一人。魔物相手には少々心許無いかと・・・」
 控えめにそう提言したお付きの者に、王子は冷たい視線を向けました。
「ならば調達すれば良い」
 言い捨て、王子はその場に集まっている人々に向き直りました。
「貴様等!俺はこれから魔物を退治しに行く。ついて来い!」
 突然の事に、周囲は静まりかえりました。ついでざわざわと騒ぎ始めた民衆達に、お付きの者は慌てます。
「王子!それはちょっといきなりな注文なのでは・・・」
「やかましい!とっとと来んか、馬鹿共が!」
 当たり前ですが、ついて来る者は一人もおりません。しかし王子ベジータは、祖国ではそれはそれは気が短いことで有名だったのです。
「煮え切らない奴等め・・・!」
 苛立たしそうに言うと、王子は強行手段に出ました。王子が右手を差し出すと、その掌に光の玉が生まれます。
 それは一直線に立て看板に向かって打ち出されました。爆光と爆風が、普通の看板よりひとまわりもふたまわりも大きなそれを一瞬にして打ち砕きます。お付きの者と群衆達は、目を丸くしてその場に立ちすくみました。
「ついて来ん奴や逃げる奴が居たら、今のを浴びせるぞ!解ったらさっさとついて来い!俺だって暇じゃ無いんだ!」
 まことに自分勝手な言い草ですが、逆らえる者は誰もおりませんでした。王子の言葉が冗談などではないと本能的に悟った民衆達は、否応なしに魔物との戦いに巻き込まれることになってしまったのです。 
(すまん、民達よ・・・・・・お前達は運が悪かったのだ)
 お付きの者は心の中で涙を流しましたが、彼も王子には逆らえない者の一人でありました。
「良し!行くぞ、野郎共!」
 とても王子とは思えないスラングを使って民衆達を鼓舞すると、彼は先頭に立って歩き始めました。お付きの者と、千人を越す(何故たった一つの広場に千人も人が居たのかは不明ですが)人々は、さながら古墳建設の為に徴収された農民の如く引き連れられ、行列となって魔物の住む洞窟へと歩き始めたのでした。
 


 というわけで、王子一行は魔物の棲む洞窟へたどり着きました。三日間、食わず眠らずの強行軍であった為、ここに来るまでに既に半数以上の人々が脱落しておりました。 
 妙に元気な王子とお付きの者、それに何とかついてきた500人足らずの人々は、いきなり洞窟の入り口にて立ち往生しました。それは何故かと言いますと、
『ウオオオオオオ・・・』
『ギャギャギャギャギャ・・・』
 等、如何にも「ここには恐ろしい魔物が棲んでいます」と言わんばかりの奇怪な鳴き声が、洞窟の中からもれなくエコー付きで聞こえてくるからです。
 人々が恐れおののきざわめく中、ベジータ王子はひらりと華麗に馬から飛び降り、中の様子を窺いました。
「・・・・・・」
 しばしの沈黙の後、突然王子は500人の群衆達に向かって言いました。
「おい。お前等の先頭から100人位、中へ入って様子を見てこい」
「・・・・・・・・・・・・」
 もちろん、誰も逆らえる者はおりません。指名された不幸な100名は、泣く泣く洞窟の中へ入って行きました。するとさもありなん。
『うわああっ!?』
『ぎゃああああっ!』
『助けてくれーっ!!』
 入って行った100人の、世にも恐ろしい悲鳴が響き渡りました。
「・・・・・・!!?」
 残った人々に戦慄が走ります。そしてその声は段々弱々しくなってゆき、ついには消えてしまいました。後にはただ、不気味な静けさが残るのみ。
 青くなっている従者ピッコロと残り四百人を後目に、王子は何やらしきりに納得しているようでした。
「良し、そろそろいいだろう。では貴様等、俺の後に続けっ!」
 何が『良し』で『そろそろいい』のかは解りませんが、とにかく王子はそう言うと、先陣を切ってつかつかと洞窟の中へ入って行きました。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 民衆達は身の不幸を嘆きながらも、王子の後をついて行きました。その一番最後に、お付きの者が胃の辺りを手で押さえつつ、洞窟へと入って行ったのです。



 入ってすぐに、外までも聞こえたあの鳴き声が、場違いな侵入者達を迎え入れました。ただ連れて来られただけの一般市民達は、おびえて言葉も紡げません。しかし王子は意にも介さず、腰にはいていた剣(王子と言えば勿論レイピアです)を抜き放ちました。
「ふん、雑魚共が・・・」
 言うが早いか、その剣は飛びかかってきた魔物の一体をいとも簡単に切り捨てました。しかし魔物は一匹だけではありませんでした。彼等は王子のみならず、後ろのお付きの者や民衆達にも無差別に襲いかかって来ます。しかしベジータ王子は、か弱い一般市民を守ってやろうなどと言う殊勝な気持ちは欠片も持ち合わせておりません。お付きの者も奮闘しましたが、魔物の数はどんどん増えてゆきます。
 怒号と悲鳴が交錯する中、王子の忍耐は早くも限界に達しました。その間10秒。短い平和でありました。
「・・・だああああっ!こんなもん使っていられるかっ!!」
 そう叫び、王子はあっさり剣を投げ捨てました。その手を掲げ、またも出るは光の玉。
「くらえっ!」
 王子の掌で、光球は実に数十に分裂し、魔物達めがけて軌跡を描きました。ひとたまりも無く打ち据えられる魔物達。王子はそれは偉そうに言いました。
「ふっ・・・・・・この俺の手にかかればこんなものだ」
(最初からそうすれば良かったんじゃ・・・・・・)
 王子以外の誰もがそう思いましたが、当然ながらそれを口に出すほどの勇者は誰一人としておりません。かくして王子一行は、更に奥へと進んで行きました。



 枝分かれした洞窟にさんざん迷いまくった挙げ句、一行はやっとの事で最深部へと辿り着きました。しかも王子が片っ端から罠に掛かったり魔物を挑発したりした為、お付きの者&その他の人々の苦労は無限大です。行き倒れ、迷子、その他諸々の事情により、人数は王子とお付きの者も含めて100人程度にまで落ち込みました。しかし、王子に全く気にした様子はありません。民衆達は(自分たちが徴発された意味はあったのか?)とそれはそれは悩みましたが、やがて王子の頭の中が何者にも測り知れない事に気付き、彼等は真実を追い求めることを諦めました。
 奥は行き止まりです。そしてそこには、石の棺がありました。人々は「これでやっと帰れる」「助かった!」等、喜びに涙しました。王子は棺の前に立ちました。
 ここで、他の王子であれば(あるいは王子で無くとも)手で棺の蓋をずらし、ゆっくりと開けるところです。しかし、流石は我らがベジータ王子です。
 彼は何の躊躇いも無く、がん!と音を立てて石の蓋を一気に蹴り開けました。全員の視線が棺の中に集中します。 
 そこには美しい姫が眠っておりました。
 端正な顔立ちに銀の長い髪。無数の花に埋もれたその姫は、ただ昏々と眠り続けています。
「・・・・・・・・・・・・」
 その場は沈黙に包まれました。剛胆を誇る王子でさえも、他の人々と共に硬直しています。やがて、後ろに控えた人々の間から、ひそひそとさざめきが漏れ始めました。
(・・・・・・確かに、美しいが・・・・・・)
(・・・・・・なんと言うか・・・その・・・体格がいいと言うか・・・・・・)
(って言うか、男なんじゃないのか?)
(だって『姫』って・・・)
 確かに顔は美しいのですが、衣装や花弁の隙間からのぞく首筋や胸の上で組まれている両手は、どう控えめに見ても『これで女性だったら世の中なんか間違っているんじゃないのか?』的にごつかったりします。美形だけどごつい。この姫の名はトランクスといいました(勿論青年版です)。
 民衆達の声を後ろに聞きながら、お付きの者は王子に言いました。
「王子。さあ、目覚めのキ・・・」
「その単語を口にするなっ!!!」
 王子はお付きの者の顎に向け、瞬速のアッパーを繰り出しました。正確に入ったその証拠に、鈍い音が辺りに響きます。沈黙した(と言うかさせられた)お付きの者に、王子はきっぱり言いました。
「その案はたった今却下されたっ!」
「はあ」
 お付きの者は顎をさすりながら身を起こしました。民衆達は王子の言葉に、(そういう展開にならなくて本当に良かった・・・!)と、心の底から安堵しました。
「貴様、どうにかしてこいつを起こせ」
「は・・・・・・私・・・ですか?」
 戸惑いつつも、お付きの者は棺の側に立ちました。少し考えてから、彼はおもむろに姫の襟首をつかんで引き起こしました。
 ぱぱぱぱぱんっ!
 景気の良い音が、洞窟の中にこだまします。姫の両頬に往復平手打ちを喰らわせたお付きの者は、
「起きませんな・・・・・・」
 そう言って王子を振り返りました。
「貸せ!俺がやる」
 いきなり得意分野になったのが嬉しかったのでしょう、王子は先程までとはうって変わって意気揚々と姫の襟首を掴みました。「それにしても目つきの悪い姫だな・・・」自分の顔を棚に上げてそう呟いてからそれを思い切り前後に揺さぶります。
「こら!起きろ!起きろと言ってるだろうがっ!」
 姫は振り子の虎の如く頭をかっくんかっくんさせましたが、一向に起きる気配がありません。王子は「思い切り」を通り越して全力で続けました。恐ろしいほどのパワーとスピードに前後だけでなく上下左右も加わって(3次元)、振り子の虎はプロのバーテンの振るシェイカー状態となりました。しかし、姫はそれでも起きません。ここでまた、王子の幅の狭い忍耐メーターがあっさり振り切れました。広い額に青筋を立てて姫を放り出すと、王子はその両手を高々と掲げます。民衆達は嫌な予感を覚えました。
「てめえなんぞにこれ以上つき合っていられるかっ!殺すぞっ!!!」
 お付きの者が止める暇もありませんでした。王子は生まれ出た爆光を、思い切り目の前の姫に叩き付けようとしました。
 
 その時です。
 
 姫の瞳が、かっと見開かれました。反射的に身を起こします。そしてそこには王子の頭が在りました。
 ごんっ!
 物凄まじい音がしました。頭をぶつけたと言うよりは、コンクリート同士をぶつけた時のそれに近い音です。双方共に、もの凄い石頭でありました。
 正に青天の霹靂です。お付きの者と他(約)100名は、思わぬ出来事に呆然と突っ立っておりました。当の二人は、同じような格好で地面にしゃがみ込み、額を押さえて必死に痛みに耐えています。やがて王子が涙目になりながら叫びました。
「・・・・・・てめえ!いきなり何しやがる、馬鹿が!!」
 どちらが悪いかは一概には言えないものの、姫は王子の突然の物言いに、明らかに腹を立てたようでした。
「・・・そっちこそ!そんな大きい頭をしてっ!」
(・・・・・・声も男だ)
(男だ)
(男だわ!)
 再びざわざわと騒ぎ始める民衆達。王子は「大きい頭」というフレーズに、はっきりと反応しました。
「・・・・・・・・・なんだとぉ!?貴様!!ガキの分際で!!」
 実は密かに気にしていたようです。王子の額に、また一つ青筋が増えました。同じく姫も、「ガキ」という台詞に相当『むかっ』と来たようです。怯えた民衆が、ずざっ!と一斉に一歩退きます。
 どうやらこの二人の間には、一線が引かれてしまったようでした。どんなに埋めようとしても無くならない、それは深い深い溝です。すなわち・・・・・・
(こいつ、気にいらねえ!!)
「ガキですって!?貴方こそ、『王子』って歳ですか!?王子王子と連呼して、恥ずかしい!!」
「貴様こそ髪伸ばして不幸面で女性ファン増やしやがって!!恥を知れ!恥を!!」
 何か違う話をしているような気がしないでも無かったのですが、とにかく両者の溝は更に深くなってゆくようでした。お付きの者はこれまでに無い不安を感じ、慌てて止めに入ります。
 頼む!我らが希望の星!!何としてもあの二人を止めてくれ!!!
 民衆の、口には出さねど期待を込めた眼差しを一身に背負い、従者ピッコロは二人に向き直りました。心無しか、腰が少し引けています。
「・・・王子・・・・・・姫・・・・・・」
 お付きの者は勇気を出して言いました。
「・・・・・・・・・・・・目つきの悪い者同士、仲良くして下さい」
 次の瞬間、彼はダブルで放たれた気功波に、敢え無く撃沈されました。勿論民衆達は、『ありがとう!ありがとうピッコロさん、そしてさようなら!!』などとは欠片も思いませんでした。彼の要らぬ一言で、二人の仲は更に険悪になっています。もはや一触即発。彼等を止めることの出来る者は、もはやこの世に存在しません。人々の目には、確かに二人の間に走る火花が見えました。
 王子と姫、二人は互いをぎん!と睨みつけました。細かい瓦礫が空中に浮かび、次々と弾けては塵に還ってゆきます。そして。
 彼等は、互いに全く同じ瞬間に、これ以上無いほどはっきりと、こう、叫んだのです。
 「このオカマっ!!!」
 「Mの字ハゲっ!!!」


 今。
 世界の終焉が始まろうとしておりました・・・・・・。
 

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