エンジェルダブル   (戻る)

気がつくと、そこはだだっ広い荒野だった時の気持ちっていうの…わかるでしょうか?あたしはもう、慣れっこなんですけど…。いいえ、慣れないとやっていけないのかしら?あたしの場合…。
今回も、そんな感じだったんです。遮るものはなにもなくって、押しつぶされそうなくらい圧倒的に迫る星空が頭の上にありました。そして、そんな光景を一緒に見ていたのは…。
「久しぶりだな、あなたに会うのは…。」
「まあ、天津飯さん。」
もうひとりのあたしが、大好きで大好きで…いとしくってたまらないひと。
よかった、会えたのね。
あなたがここまで素直な気持ちになれるひとって、この人しかいないものね。
どんなことをお話したのかしら?
ちゃんと、言いたいこと言えたのかしら?
ぎゅって抱きしめてもらったのかな?
からだに触れてくれたのかな?
あなたが望む言葉を、ささやいてくれたのかしら?
あなたが…。
あなたが、のぞ、む…?

「おい、どうしたんだ…?」
「え?」
気がついたら、ランチの顔は涙で濡れていた。彼女は一瞬、またもうひとりの自分と入れ替わったのかと思うくらい…気がついていなかった。
無意識のうちに、涙が流れていた…。
「あら、どうしたのかしら…・」
目の前にいる天津飯はとっても困っている。
どうして、あたしは泣いているのかしら?
悲しくて?
それとも、嬉しくて?
せっかく、もう一人のあたしが嬉しい時に…どうしてこんなに泣いているのかしら…?
あら?
もうひとり…?
「…違うわ。わかった…。」
「ん?」
「あたしも、もうひとりのあたしとおんなじくらい…いいえ、それ以上…あなたに会えて、とっても、とっても、とーっても…嬉しいんです。」
彼女はまつげに涙の粒をためて、それでも精一杯笑顔を作って、愛しい人の方を向いた。

ランチは天津飯の手をとって、口づけながら自分の頬にくっつけた。
「もうひとりのあたしは…あなたに何を望んだのかしら…?」
「…わからない、のか?…もうひとりがしていたことは…?」
「うふふっ。」
彼女は、頬にくっつけていた天津飯の手をぎゅっと抱えた。手のひらから、彼女の心臓の音を感じることができた。
とくん…とくん…とくん……
正常なリズムで、彼女の音が伝わってくる。
「…わかっちゃったら、嫉妬で気がくるいそう…。あたしが、あなたに望むことは…。」
もっと、側でおしゃべりしてたい。
もっと、手に触れていたい。
もっと、もっと…。
「あたしのこと、ふたりぶん…あいしてくれますか?」
あたしと、もうひとりのあたしと…ふたりぶん。
あたしのこと、すべて…。

天津飯はくすっと笑うと、彼女の手に包まれてる自分の手を離してもらって、両手で彼女の顔をすっぽり包んだ。
自分への返事は言葉では返ってこなかった。
代わりに返ってきたのは、優しい口付けの雨。
母親が子供にするような、甘くはないけど優しいキス。
そして、彼女の体を思いっきりキツく引き寄せた。彼女が一瞬、息ができなくなるくらい。
「…オレは、あまり気の利いたことが言えなくてな…。」
「うふふっ……。じゅうぶんです…。」
言葉はいらないけど…。
側にいるだけで、…あたしは、二人分欲張りだから、満足にはならないから。
「ねえ、天津飯さん。」
「なんだ…?」
「うふっ…。」
側にいるだけじゃ、十分じゃないから…。今度はわたしがあなたをあいしてあげますね。

優しく、ね。


2001/07/01
   (戻る)