アフタヌーンティ(恋心)   (戻る)

とっても楽しそうにおしゃべりしている二人の姿。
近くにいるのに、並んで座っているのに、わたしだけカヤの外みたい。
(わたしの所だけ見えなくてぶ厚いカベがあるみたいだわ・・・。)

ビーデルは悟飯とピッコロの姿をみつめながらそんなことをふと思った。ガラスのテーブルの上にある悟飯のアイスティは、さっきから減ってない。ピッコロに今日あったことを話すのに夢中になっているからだ。
彼女のアイスティは3杯目。ぐーっと飲み干しても、ポポがすぐに気が付いて注いでくれる。4杯目まであと少しだ。
今日は二人でデートっぽい感じだったのになあ・・・。
こんな事だったらイレーザの買い物につき合ってあげれば良かったかな?

わたしったらなにやってるのかしら?


「良かったじゃない!悟飯くんとデートなんでしょ?私のことはいいわよ。シャプナーあたりでもつき合わせるからさ、一緒に遊びにいってきなさいよ!」
「ちょちょちょ、ちょっとイレーザ!ま、まだデートって決まったわけじゃ・・・。」
「なにいってんのよ。」
イレーザは人なつこい、青い瞳をくるくると動かしてぱっちりとウインクした。ちょっと下がったチューブトップの上着に手をつっこんで定位置に直すと、ビーデルを食い入るように見つめた。

「あんたさあ、悟飯くんと知り合ってから一体何年たつと思ってんのよ。どこまでいってんのよあんた達の仲は?」
「え、えっ、どどどどどこまで・・・って。・・・・・・・・・・・・あの。」
「どーせ『ほっぺにちゅ』ぐらいでしょうが。初々しいにもホドがあるわよ!」
彼女は、ちょっとだけ眉間にしわをよせてじいっと見つめるイレーザに返す言葉もなかった。たしかにその通りなのだ。

高校の時に知り合って、今は大学生。イレーザの言葉を借りればこの歳でここまで清いつきあいしているヤツらなんて、自分達以外いないかもしれない。
「今じゃビーデルに言い寄る男も、悟飯君の事を捕まえようとしてる女もいないわよ。ライバルがだれもいない、しかも周りに公認されてんのにさ。ビーデル達ったら清すぎだってば。これをいい機会にして、少しどーんといってみなさいよ!」
「う・・・うん・・・。」
そうそう、その調子よ〜!と学食のデザートをおごってくれたイレーザだったが、ライバルは空の上にいるなんて言っても信じてくれないだろう。

遙か天空にいる、神様の後見人。しかも女だったらまだいいが男だったりするのだ。
言ったら信じてくれそうにないどころか、笑われるのがオチだろう。
自分でも笑いそうになる。
何が悲しくて男なんかに嫉妬しなくてはいけないのか。

今日はどこいくの?と言った自分がバカだった。彼が自分の手を引いて連れて行ってくれた所は空の上にふわりと浮かぶ神殿。それが見えて来た所から、彼の目に自分は映ってない。頭の中にあるのは子供の頃から大好きな宇宙人の師匠のことだけだ。

「・・・だったよね、ビーデルさん!」
「えっ、あ、は・・・う、うん。」
急に自分に矛先が向き、ぼうっとしていたビーデルは訳も分からず生返事をしてしまった。
悟飯はしどろもどろになっているビーデルをきょとんとして見つめ、ピッコロの方はというと彼女の方をちらりと見てすぐに視線をはずした。
ふうっ・・・とちょっと低い、宇宙人のため息が聞こえてきた。

あたしってば、本当に、なにやっているのかしら?
悔しいなあ・・・。すっごく悔しい。
いつもだったら口答えできるんだけどなあ。今日はどうしたんだろ?
・・・悔しいなあ・・・。

ビーデルの様子がちょっとだけおかしい事に気が付いた悟飯だったが、彼よりも先にこの神殿の主が声をかけた。
「ビーデルさん。」
「神様。」
彼女は腰掛けているイスから視線を上げると、ニッコリした神様の顔があった。向かい合わせに座っている宇宙人とそっくりな顔形で、笑うと鋭い八重歯が見える。だが、お互いが出している雰囲気はまるで正反対だった。
刺すような雰囲気のピッコロと、柔らかくて優しい雰囲気の神様。
顔は似ているのにどうしてここまで違うのかしら?

「・・・よろしければ、ボクにつきあっていただけませんか?」
神様はいつも遠慮がちに言葉を選びながら話す。
(よく気のつくひとだな、神様って。)
悟飯くんと足して2で割ったらちょうどいいかもしれないわ、と思いつつビーデルは返事を返した。
「ええ。悟飯くん、それじゃちょっと行ってくるね!」
「あ、は、ハイ!」

あっさり『ハイ』なんて言わないでよ、もう!

ビーデルは手を後ろで組んで、神様の後ろについて行った。


神様が連れて行ってくれた所は柔らかい光のさす中庭だった。大きな木があり、まわりには可憐な花がいっぱい咲いている。たしか階段を降りていって奥に来たはずなのだが、なぜ太陽光がこんなところまでさしているのだろう?

「ボクにもよくわかりません。この神殿はまだまだボクの手におえるものじゃないんです。」
「そっかあ・・・。」
ふとつぶやいた自分の疑問に、神様はちょっと高めの声で返答してくれた。
重そうな椅子とテーブルを引っ張り出してくれて、彼女に座るよう勧めた。そして、彼が指先をくるりと回すと二人分のティーセットがでてきた。
ちょっと香りが強い紅茶のようだ。

「ボクに、ビーデルさんの事をなにか手助けする事ができたらな、と思っているんですけど・・・。」
神様はビーデルの方の紅茶にレモンを浮かべて差し出した。
「あの、神様!」
「なんですか?」
ビーデルは意を決して神様を見つめ、ちょっとだけ頬を赤くした。

「そ、その・・・神様やピッコロさんって・・・恋、しないんですか?」
「え?」
神様・・・デンデは唐突な彼女の質問に、口を開けた。な、なぜビーデルさんはそんなことを聞くのかな・・・?ほかにもっと聞くことがあるような気がするんだけど・・・。
「な、なぜそんなことを聞くんですか?」
「たとえば、素敵な女の子を見ると、ドキドキしたりしませんか?ずーっと側にいたいなあ、って気持ちになりませんか?」
「ぼ、ボクは下界にあまり行くことがありませんから・・・。それに」
「じゃあ、ピッコロさんはどうなのかしら?たとえば、今つき合っているひととかいるのかな?女性に興味がないとか?だから悟飯君にばっかりくっついているとかっ!?・・・・・・あ。」
ビーデルはまくしたてるようにしゃべった自分の顔をポカンと見ている神様にようやく気がつき、『ご、ごめんなさい・・・。』と紅茶を口にした。

「それに、ボク達は地球でいう性別がないんです。だから、ボクもピッコロさんも男性じゃないし女性でもないんです。」
「・・・・・・へ?あ、わたしてっきり男のひとだとばっかり・・・。」
両性具有というのはよく絵本や小説にでてくる。そこにでてくる曖昧な性別を持つ者達の姿は、大抵儚げで美しい姿だ。
背が高く、がしりとした体型のピッコロはぜったい男だとばっかり思っていたのだがどうやら違うらしい。
「だから、ボク達は女性や男性に特別な興味を持つ事はありません。」
「だけど。」

そんなことがわかっても、当の大好きなひとはピッコロしか見ていないように見えるのだ。
ボクが子供だったころに強くなるために修業につけてもらったとか、とっても素敵なひとなんだよとか。
「わたしと二人になるとピッコロさんの話ばっかりなの、悟飯くんたら・・・。もう少し、他の話題とか・・・。」

もっとわたしの事を聞いてくれてもいいじゃない、って思っちゃう・・・。


「ビーデルさんは、本当に悟飯さんのことが好きなんですね。」
「ん・・・うん・・・。」
「ボクも悟飯さんのことはとっても大好きです・・・。とっても優しくて、側にいると心地よくなるんです。」
神様は、ビーデルが(このままだと)一生言えそうにない言葉を、表情ひとつ変えずにすらすらと口に出して見せた。
「ピッコロさんのことも大好きです。ポポさんの事も。二人ともあまり表には出しませんが、とっても誠実なひと達です。そして、皆さんとおなじくらいボクはあなたの事も好きですよ、ビーデルさん。」
思わず目が丸くなったビーデルに、神様は「ああ。」と少し上目遣いになった。
「ビーデルさんの言ってる『恋』じゃないんです・・・。こればかりはわかりたくてもわからない感情なんです。」
「・・・。」
神様はちょっと冷めた紅茶に手をかざした。ふたりの紅茶がふわりと暖まる。

「けど、ビーデルさん。ボクは・・・その、個人的な考えなんですけど・・・。」
「なんですか?」
「悟飯さんがあなたにピッコロさんの事をお話すること自体が、あなたを特別に思っている証拠だと思いますよ。」
「え・・・?」
神様は自分の耳を両手できゅっと引っ張って、額からつきだしている触角に触れた。そして『イーっ』とネコのような八重歯を彼女に見せた。

「地球には色々なひと達がいますけど、ボクみたいな恰好の人達はいません。緑の肌に尖った耳の人なんて他にいませんよね?」
彼はふふっと笑って自分の言葉を確かめるように頷いた。
「あなたの通っている学校に入るまで、悟飯さんがピッコロさんの事を話す事ができたのは、チチさんや悟天さん、それにボク達くらいなんです。」
「・・・そうなの?」
「ええ。」

悟飯は子供の頃から最前線で戦っていたも同然だった。普通の子供のような生活が出来なかったし、そのために学校に通って友達を作るという当たり前のこともできなかった。
自分が神としてここにやってきたときに喜んだのはミスター・ポポだけではない。悟飯も相当喜んでいた。

これからもずっとここにいてくれるの!?
ねえ、今日はなにして遊ぼっか?
また遊びにくるからねーっ!!

そんな、子供が言う当たり前のセリフを悟飯がようやく言えるようになったのは、デンデがいるからだよ、とクリリンがあとから教えてくれた。

「大好きな人のことを、大好きなひとに伝えることができるって、すてきなことだと思いませんか?」
「・・・神様ってやっぱり神様なのね・・・そこまで考えるまでに、わたしは時間がかかりそうだわ。」
ビーデルはちょっと苦笑しながら、前髪をかき上げた。


『少しどーんといってみなさいよ!』
明るい友人の声がどこからか聞こえてくる。
力はとても強いはずなのに、悟飯が目の前だとどうしてこんなに臆病になってしまっていたんだろうか。
ちょっとは考えるけど、その前に行動するのが自分だったはずだ。

「よ、よ〜っし!!」
ビーデルはがたっと立ち上がると、神様の両手を自分の手でひっぱるようにして包み込んだ。
「び、ビーデルさん?」
「こんなのあたしらしくないっ!どーんといってみる!」
「へ?あ、あの・・・?」
「神様っ!」
彼女は未だに子供のような神様の手を抱えたまま、神様の前にひざまずくと自分の額に彼の手をくっつけた。
「神様・・・勇気をくださいっ。」
瞳を閉じて祈る少女に神は小さく声をかけた。

「・・・あなたに加護がありますよう、ボクが祈ります。」



空が青と橙に染まってゆく頃に彼らは帰っていった。
ビーデルがデンデにぱっちりウインクしたのを見たピッコロは、怪訝そうな顔で彼の顔を見た。
「あいつと何を話していた?」
「色々と勉強させていただいていたんです。一番大切なものって、やっぱり立ち向かう勇気ですよね!」
「なんだそれは?」
「ボクとビーデルさんとの秘密です。ピッコロさんには絶対ないしょです。」
デンデはニッコリ笑いながら神殿に向かっていった。


素敵な後日報告になることを祈ってますよ。神として、悟飯さんとあなたのお友達として。

おしまい。


2001/10/3
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