アフタヌーンティ(ちびセレブ)
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ブルマに引きずられるようにして連れ戻されたブラとベジータだったが、ブラは彼女と一緒に自分の部屋に連れて行かれた。

ベジータはというと・・・。
「あ・ん・たはお客さんの相手っ!」
と、お菓子を持たせたパンを押しつけられるようにして抱かされると、部屋の外に押しやられてしまった。
パンはベジータの腕からぽん、と降りると彼の顔をじいっと眺めた。
やはり目つきが(かなり)悪い。
おじいちゃんは、『ベジータはいいヤツだぞー!』なーんてわらいながらゆってたけど・・・。
やっぱいちょっとこあい。
「・・・なんだ?」
「おじちゃんは、ブラちゃんのこと・・・きやいなの?」
「な、なぜそんなことを聞くんだっ?」


「どーしてそんな事聞くのよ、ブラ?」
同じ時間に、ドアごしで全く同じ会話が繰り広げられていた。
ブラはすっかり冷め切った紅茶のかわりに、ブルマが買ってきてくれた缶のレモンティを口にした。
その唇はぷくっと尖らせて、下を向いている。
「・・・パパ、あたしのこと・・・きやいだからそらをとばせてくえないんだわ。」
「なに言ってんのよ〜。いっつも、アンタの言うこと聞いてくれてるじゃない?それにね。」
ブルマはきれいな歯を見せて微笑むと、レモンティのプルトップを『プシュ』と開けた。

「そえに?」
「空を飛ばせないのは、ブラの事が心配だからよ。スキだからこそ『ダメだっ!』って言ってんの!ね?」
「・・・・・・じゃあ、ごはんおじちゃんはパンちゃんのこと、しんぱいしてないの・・・?」
「あそこんちは、ちょっと心配しなさすぎなのよ!」
ブルマは声を出して笑うと、レモンティを飲んだ。

ブラはブルマの・・・母親の笑い顔がとてもスキだった。父親は笑う事なんて滅多にないし、いつも笑う彼女と釣り合いがとれてるのかもしれない。
だが、今日は彼女の笑う顔が不快でしょうがなかった。
この感情が何といっていいのか、彼女はまだよくわからなかったが・・・。

ブルマは、紅茶の缶を握りしめてまたうつむいてしまった娘の顔をのぞき込んでみると、まつげが涙でにじんでいた。

「ど、どうしたのよブラ!何泣いてんのよ・・・?」
さすがのブルマも娘の涙にちょっと慌てて、向かいあわせになっていたイスを彼女の方にずらした。
「どうしたの・・・?」
「・・・・・・ママは、パパのこと、好き・・・?」
「へっ?」


「な、何を言いだすんだあいつは?!急に泣き出したかと思ったら、あんな事口にしやがって。」
「しーっ!おじちゃんたや、こえおっきいよ!」
目に見えてあわてふためくベジータを、パンは彼の膝をつついて静かにするよう、促した。
ドアの隙間は、ちょうど良い具合に中の二人の様子だけ見えないようになっている。ベジータとパンは、そこから彼女達の声を拾い上げるようにして聞いていた。
ひくっ・・・ひっく・・・とブラのしゃくり上げる声だけが聞こえてきて、ベジータは、心臓が何かに引っかかったかのように重くなった。
こんなに罪悪感を感じるのも久々だ。
くそ。

「・・・もちろん、スキよ・・・。大好き。けど、どうしてそんなこと聞くの?」
ブルマはゆっくりと、彼女の瞳を見つめて丁寧に答えた。
「パパは・・・ママのこと、すきでしょ・・・?」
「た、多分ねえ?あまり口には出さないけど・・・。」
ブラはその言葉を聞くと、目玉のような大粒の涙がぼろっと落ちた。
「パパは、あたしよりも・・・ひっぅっく、ママのほうがすきなんだわ・・・。」
「・・・ブラ?」
涙はとどまる事を知らず、彼女の頬を伝ってはチェックのスカートにぼろぼろ落ちる。スカートごしに足も水で冷たくなる。

「ひっ、ひっ・・・きゅ、パ・・・パはあたしのこときあいなのよ!おそらのとびかたも、ふらに、おしえてくえないし、ママとばっかいおしゃべいするし!」
「ぶ、ブラ・・・そっか、アンタ・・・。」
「あたしは、パパのことが!せかいで・・・いちばんすきなのに!パパ、あたしのこときあいなんだわっ!!」
いつのまにか、彼女の手から離れていたレモンティの缶は、フローリングの床に中身と共にぶちまけられていた。
「・・・よしよし・・・。」

ブルマはブラの顔を自分の胸に押しつけると、ぎゅっと彼女を抱きしめた。ブラは赤ん坊みたいに顔をすりよせて、遠慮なしに涙と鼻水をブルマのスカーフでごしごしと拭いた。
「ばかねえ、あたしみたいな美人とアンタみたいな可愛い子、選べるわけないでしょ・・・?」
「ひ・・・っく、う・・・ひ、ひ・・・。」

そうかあ・・・この子は。



「え、エディ・・・?なんだそれは?」
「エディプスコンプレックス・・・っていうの。Oedipus complex・・・。精神分析学上、男の子が母親を慕って・・・父親に反感を持つことなの。」
女の子の場合はエレクトラコンプレックス(Electra complex)っていうんだけどね、とブルマはベジータにコーヒーを入れながら説明した。

泣き疲れたブラと、つられて泣いてしまったパンは、ベジータ達の隣のソファで二人仲良く肩を並べてぐっすり眠っている。もう夜も遅いので、パンはこのままここに泊まらせる事になった。

「ブラ、あたしに嫉妬してたのよ。アンタの事でね。」
「な、なんだと?」
声をちょっとだけ殺して笑っているブルマを後目に、ベジータはブラの寝顔をみた。
「そ、それと空を飛びたいのと、なんの関係があるんだ!?」
「静かにしてよ・・・。そんなの、アンタにかまってもらいたかったに決まってんじゃない。」
「な・・・?」
「恋する女の子は、相手の気を引こうと色んな事をするモンなのよ。」
ブルマはコーヒーを片手に、ベジータの隣にどかっと座った。ごつい作りのマグカップを彼に手渡して、その中に砂糖をざらざらと入れる。

「手取り足取り、教えてもらって一緒に飛びたいのにアンタは『ダメだ!』の一点張り。孫くんとこに行こうとしても止められる・・・。そしてなぐさめてくれるのは、ほかでもない・・・恋敵のアタシ。」
「・・・・・・。」
「女の子にとって、サイアクなシチュエーションよね?いくらなんでも、アンタでもそう思うでしょ?」
ベジータは、黙って砂糖入りのコーヒーをすすった。
自分はただ、彼女の事が心配で、そう思って言っていただけのことだったのだが。彼女がそんな想いを抱いていただなんて、知らなかった。

「口に出さないとさ、わかんないことっていっぱいあるわよね・・・。」
ブルマは膝を抱えて、マグカップを抱きしめるように両手で包んだ。
そして口紅がちょっとだけついたカップを、ベジータの口になでつけた。
「たとえばさ、『愛してる〜!』って言いまくるオトコにロクな奴はいないっていうけどさ、言わなきゃわかんないじゃない?でしょ?態度でわかるような理解力を持つアタシは別だけど・・・。」

ベジータは『ちっ』と舌を鳴らして、マグカップを持つ彼女の腕を取った。
「・・・言って欲しいのか?お前は?」
「それを、今夜はあの子に言ってあげなさいよ・・・。」
ブルマはソファから立ち上がると、肩にかけていた白いストールを彼の膝にかけた。
「フフ。ゲストルームに、パンちゃん・・・連れていくわね。」
「ブルマ、お前は・・・?」
「今日は、アンタの隣はブラにゆずったげる。」

ブルマは面白そうに、パンを抱くとゲストルームの方へ消えていった。
「じゃね、色男さん。」
「フン。」


広いリビングはベジータとブラの二人だけになった。白色電球の光がステンドグラスのかさでちょっとだけ優しくなり、娘の顔を照らしていた。
ちょっと前まで、小さくて弱々しい赤ん坊だったというのに今ではブルマにそっくりになっていた。
自我なんてない、と思っていたのにいつのまにか恋心なんていう、いっちょまえの感情まで持つようになっていた。


「・・・・・・ブラ。」
「んにゃ・・・。」
「・・・・・・ ・・・・・・ ・・・。」

彼女の耳に自分の唇を近づけて、人前だったら絶対に口に出さない言葉をささやいた。
彼女だけに聞こえるように、小さな声で、優しく。


はつこいのキスのあじはレモンだって、だれかがゆってたっけ?
あたしのはつこいのあじはね、
おさとうがたっぷりはいった、コーヒーのかおりがしたようなきがする・・・。


おしまい。
2001/8/28

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