sunshine HEAVEN!
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喉が渇く。
強烈な渇き。
唇が熱い。喉が熱い。指先がだるくて、火照る。

唾を飲み込むたびに、喉がふるえる。
悪い毒を飲まされたみたいに喉が疼く。
意識とは関係なしに、自分の体がどんどん、どんどん、熱くなってゆく。

「・・・・・・あつ、い・・・っ!」
珍しく、弱音を吐いたのはピッコロだ。今まで経験したことがないような体のだるさに、彼はたまらず目を開けた。
今は夜。神殿の住人達はすでに眠っていて、起きているのは自分だけのようだ。上着の裾から手をつっこんで鎖骨に触れると、じっとりと汗をかいている。彼は、星の光が緑の汗を照らしているのがわかると、軽く舌打ちをしてのろのろと寝床から這い出た。

体がだるいのはなんとか押さえられるが、喉の渇きだけはどうしようもない。
渇いた喉を潤したい。
ナメック星人にとっては、本能といっても良い感情だ。
ピッコロは水を求めて神殿の中を、体を引きずるように歩き出した。

一体、自分の体はどうなってしまったのか?病気などしたこともないピッコロは、原因を色々と考えてみたが思い当たる事はなにもない。
寒さに強い自分達は、風邪を引くようなことはあるまい。
いつかの悟空のように、ウイルスに感染するような事もないだろう。地球人とは根本的に体のつくりが違うからな・・・。
「・・・・・・。じゃあ、一体なにが原因だ?」
いくつか理由を考えたが、すべて理屈をつけて片づけられる。
それよりも今は水だ。水が飲みたい。

先ほどから歩き回っているが、水が置いてある部屋に一向につかない。いつもならわかるはずの神殿の間取りが、さっぱりわからなくなっている。
手に取るようにわかる神殿の中が、恐ろしく広く感じる。
星の明かりで白くなった回廊のカベに手をつき辺りを見回すと、神殿がふざけた迷路のように見えた。 
なぜ、オレがこんな目にあわねばならんのだ。

「くそ。」
不平を口に出した瞬間、視界がぐにゃりと曲がった。
目がくらむように、視界が暗く陰り、ピッコロは思わずその場に膝をついた。
「・・・なんだ、コレ・・・は・・・?」
彼は、戦い以外で膝をつくような事は絶対ない。そんな自分がこともあろうに立ちくらみを起こして、神殿の回廊の端で膝をついてうずくまるハメになるとは。
今が夜で本当に良かったと、彼は少し安堵した。こんなみっともない姿をさらすようなマネだけは絶対にしたくないからだ。辺りを見渡そうと頭を少し振ったが、それだけでめまいがひどくなり、息が荒くなった。
「ぜえっ・・・ぜえ・・・。・・・っう。」
「・・・ピッコロさん・・・?」

自分の荒い息の間から、子供のように高い声が聞こえた。ガラス同士を軽くぶつける時に出来るような、きれいな音で作られている声。
ピッコロは面倒くさそうに顔をあげると、ふわふわとした人魂のようなものが浮いていた。『人魂』も彼に気がついたらしく、「ぴゃっ」と驚いたような行動をとってから、声の主の所に戻っていった。
人魂・・・ホタルランプの主はデンデだ。少し大きめのローブの袖を手のひらでちょっとつかんでミトンのようにしている。彼はホタルランプに「こっちにおいで」と話しかけると。一直線にピッコロの元へ駆けてきた。

ランプに照らされている神の体はとても大きく見えた。
普段なら、自分の方が彼に目線をあわせるために顔を下に向ける。
だが膝を折っている今は立場が逆転してしまっている。
ピッコロは今の状況を苦笑いしながら「ちくしょう」とつぶやいた。

「だ、大丈夫ですか?ちょっと待ってて下さい・・・。」
デンデがピッコロに手をかざすと、ふわりとした光が彼の体を包み込んだ。
いつもなら優しい光で、すっかり癒されるはずなのだが手に力が入らない。
指先と足の先に血液が通ってないかのようにだるく、喉がますます熱い。
神がかりの治癒の力が、今日に限ってなぜか効かない。

「くそったれが・・・。どうかしたらしいな、オレの体は・・・っ!」
「そ、そんな・・・、こんなことが。こんな・・・。」
「熱い・・・。」
デンデは自分の治癒能力が何故か彼に利かない不安と、彼がめったに口にすることのない弱音を聞いて、自分の唇が恐怖で震えているのがわかった。
なんで、どうして・・・?どうして今日に限ってきかないの?
「そ、そんなことはもう・・・どうでもいい、デンデ、水を・・・。」
「ピッコロさん・・・?あ。」

彼は低く呻いたと思った瞬間、自分の体が大理石の床に崩れるのがわかった。
頬が床についた、その時の心地よさを何と表現したら良いのだろう?喉の渇きも、自分の体裁も、もはやその冷たさの前ではどうでもよかった。
床が体の熱さと自分の意識を吸収していく合間に、デンデの悲鳴に似た声が頭の遠くで聞こえていた。

恐ろしい吐き気と、睡魔が交錯して彼は瞳を閉じた。


***===***===***

ピッコロが次に目覚めた時、彼は絹のシーツの上にいた。あれほど水を求めていた喉は潤っており、体も普段よりは熱いが、この間ほど火照ってはいない。
どうやら自分の寝室のようだ。
いつもより少し重い頭を右にむけると、ミスター・ポポが「気がついたか?」とほっとした表情で自分を見ていた。
彼の側のテーブルに顔をうずめて眠っているデンデの姿も見えた。

「・・・オレは?」
「よかった、ピッコロ。3日も起きなくてみんな心配してた。」
「そうか・・・。」
ピッコロが体を起こしてベッドから起きようとすると、黒い手のひらがそれをさえぎった。
「まだ動くのよくない。ゆっくりねてる。それ一番いい。神様も心配する。」
デンデの目の前で倒れた事を思いだして、ピッコロは素直にポポの手に従った。彼はというと、テーブルに突っ伏したまま起きようとしない。規則正しい寝息が聞こえてくる。

「神様、ピッコロの事心配してずっとずっとずっとずっと看病してた。」
「なるほど・・・。」
眠っているのは治癒能力の使い過ぎのようだ。目の前でぶっ倒れて、しかも十八番の治癒能力もきかず、さぞかし驚いた事だろう。
能力が効かず、不安だっただろう。
「・・・すまなかったな。」
「あ、そうだ。もうすぐ悟飯とビーデルが来るぞ。」
「なんだと?」
先ほどの優しい声とは打ってかわって、いつもの声にさらにドスがきいた声を出してしまった。

そしてピッコロは眉間にしわが寄ったのがわかった。ポポもわかっているだろうが、彼はそんなことはかまわずに話を続けた。
「昨日、二人で遊びに来てピッコロが倒れた事をきいてすごくすごく心配してた。また来る、言ってた。」
「・・・・・・〜〜〜〜〜。」
彼は少し頭が重くなった事を感じた。はっきりいってこんな情けない姿、弟子にだけは見られたくなかった。そのガールフレンドにも。
「ふたりとも、おみやげいっぱい持ってくる、言ってたぞ。」
「そ、そうか・・・。」

ポポは硝子の瓶を手に持ち、まだテーブルに顔を埋めているデンデに浅黄色のストールをかけた。ピッコロに「起きるのダメ。」と厳命して部屋から出てゆくと、ようやく部屋の中はピッコロと眠っているデンデだけになった。
ぐっすり眠っているデンデの体はストールにつつまれて、それが上下に規則正しく動いている。

彼はむにゃむにゃと唇を動かして、よくわからない寝言のような事をつぶやいている。
地球は広いが、こうして神に看病してもらうやつなんか、オレと悟空達くらいのモンだ。
誰にでも慈悲深くて、地上の人間達が求める典型のような優しい神・・・。

ピッコロは思わず苦笑しながら彼の方を向いて、ようやく『あること』に気がついた。

デンデの体がやけに小さいのである。視線を落とすと、彼の足は床についてない。宙ぶらりんでイスの脚にちょっとぶつけている。
まるで、ナメック星で初めて出会った時のように縮んでしまっているのだ。
たしかに彼の体は小さいが、このごろはようやく背も少しずつ伸びてきている。イスに座っても、たしかつま先くらいは床にくっつける事ができたはずだ。

「ばかな。・・・これはっ・・・!」
そして、ここでようやくピッコロはデンデの『気』ではないことに気がついた。
自分ではそれほどでもないと思っていた熱は、どうやら相当重症らしい。
彼は今まで気がつかなかった事をちょっと悔やんで、舌を鳴らした。
そしてポポの厳命を無視してベッドから飛び起きると、『そいつ』の体にかかっているストールをがば!とはぎ取った。

中から出てきたのは、デンデによく似ているが『気』は違うナメック星人の子供だった。
緑色の肌に、2本の触覚、尖った大きな耳に4本指。爪は漆のように黒く、尖っている。
どこからどう見ても、ナメック星人だ。デンデにちょっと似ているかもしれない。
邪悪な『気』ではない。

「しかし・・・だれだこいつは?」
デンデの知り合いか?しかし、ナメック星人に、しかもこんなガキに瞬間移動なんぞ出来るのか?
そんな訳ない。
一体・・・こいつは・・・?

「あ、気がつかれたんですね!よかった!」
頭の中が整理しきれてないピッコロの元に駆け寄ってきたのは、当の本人のデンデだ。ポポも側に付き添っていて、硝子の瓶に水をたっぷり入れて、抱えるようにして持ってきている。厳命を破ったピッコロをちょっとだけじーっと見ていた。
「で、デンデ・・・ききたいことが」
「よかった、3日も目が覚めないから本当に心配したんですよ!本当によかった・・・。」
「その・・・あいつは一体」
「あとで悟飯さん達も来られますから!きっと喜んでくれますよ、それに」
「デンデ。」
ピッコロは、いつまでも話が終わりそうにないデンデのローブを引っ張るとようやく彼の話はストップした。

「・・・あいつは、一体だれだ?お前の何だ?」
「え?」
デンデは大きな目をきょとんとさせて、ポポと顔を見合わせると「ああ、そうかあ。」とくすくす笑って両手をあわせた。
「あんまり痛かったから覚えてないんですね・・・。」
「な、なに・・・?」

デンデはいつも通り、邪気のない笑顔で彼にこう話した。
「ピッコロさんの、お子さんですよ。」

急に、耳鳴りがした。きいー・・・ん、という音。

自分の周りが白くなったような、音が遮断されたような、強いて言えば急に『精神と時の部屋』にぶち込まれた感じがした。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

デンデもポポもにっこり笑って、彼の次の言葉を待っている。
と、その瞬間彼らの後ろで物音がした。


べしょっ・・・・・・。

凍り付いた表情の悟飯と、状況が把握しきれてないビーデルだ。彼らの腕にはたくさんのウォーターパックがあった。
きっとパオズ山の湧き水をたくさん汲んできて、ピッコロを喜ばせようとしたのだろう。
ビーデルはかろうじて腕の中のパックを持っているが、悟飯の方のパックはどんどんと腕から離れてゆく。本人もそのことに気がついていないようだ。
悟飯の瞳はこちらをみているが、多分彼の目にピッコロは映っていない。

ビーデルは、ちょっと深呼吸をしてから頬をぱしぱしと手のひらでたたいて、悟飯の方を向き直った。
「ご、悟飯くんたら・・・?」
彼女が悟飯の腕をちょん、とつついたが彼の反応はない。
固まっている。

彼女は『コホン』と咳払いをして、一応は笑顔を作って、精一杯にっこり笑うと、こうつぶやいた。
「ピッコロさん・・・その子のお母さんはどなたなんですか?」
ぷつん・・・と、なにかがきれる音がピッコロの頭の中で響いた。

「アホンダラーっ!!そんなわけなかろうが!オレは子供なんか作った覚えもないし、ましてや誰かに作らせた覚えもないぞ!!」
ピッコロは血管を浮き上がらせて怒鳴ったが、ビーデルは一歩も引いてない。ずんずんと彼に詰め寄り、固まっている悟飯を後目に彼を見上げるように『きっ!』と睨んだ。
「そ、それってどうしようもない男が言うセリフですよっ!!ぴ、ぴ、ピッコロさん、誰かを泣かせて、子供を押しつけられたんでしょっ!!」
「違うと言ってるだろうが!!オレ達はつがいでは増えんのだぞ!!」
「なによそれ?!下手な言い訳して!!ピッコロさんてばやっぱりそういう人だったのね!」
「『そういう人』とは一体なんだっ!!?」

デンデは言い争っている二人の間をすり抜けて、相変わらず固まっている悟飯を、話題の中心になっている『ピッコロの子供』の隣に座らせた。
「ご、悟飯さん・・・これ、水です・・・。置いておきますね。」
「・・・・・・・・・・・・あ、うん・・・。で、デンデ、ピッコロさんは、性別がないからお父さんでお母さんで、・・・あれ?」
「落ち着いて・・・。びっくりしちゃったんですね。」
彼は、まだ気が動転している悟飯を落ち着かせるようにして、自分は傍らに立った。悟飯はというと、デンデが入れてくれた水を一気に飲んで、ようやく瞳がもとに戻った。
少しだけ落ち着いた悟飯は、隣で眠りこけているナメック星人の子供をじっと見た。
「この子・・・ホントにピッコロさんのこどもなの?」
「いえ、それが・・・。」

「悟飯くん!こんな人がお師匠さんだなんていいのっ!?人として最低のことしてるのよ、このひと!!」
「悟飯!この娘にオレ達の繁殖方法をわかりやすく教えてやれ!!」
「え、ええ?」
だんだんと矛先が悟飯に向いて来た。

まだ頭の中を整理しきれてない、悟飯は二人の顔を交互にみつめて、ちょっとだけ後ずさりをしたい気持ちになってきた。苦笑いを口の中でしてから、デンデの方を助けを請うようにじっと見つめた。
「で、デンデどうしよう・・・?」
「二人とも、人の話ぜんぜん聞かないから、こじれちゃうのに・・・。」
悟飯とデンデがため息をつくと、それを聞いていたかのように、話題の張本人がむくりと起きた。

「あ・・・。」
「む?」
ちっちゃな子供の頃のデンデにそっくりな顔をしている『張本人』は、ネコのようなもったいつけたあくびをして、瞳をこすりながらピッコロ達の方を向いた。
口をもごもごと動かして、また小さくあくびをする。
「ムニャムニャ・・・。」

ピッコロは腕を組み、また戻して、そして顎に手を置いて、・・・意を決してデンデもどきのナメック星人に声をかけた。
「・・・お、お前は何だ?」
「おまえこそ、なんだ?わからないのか・・・?」
デンデもどきは瞳を丸くして、しかもちょっと大人びた口調でピッコロに言葉を返した。彼は頭をぽりぽりかいて、ちょっとあきれたように『はあっ』とため息をついた。
「オレが産んだガキなの・・・か?」
「おまえがうんだのはまちがいないが、わたしはおまえのこどもというわけではない。」
デンデもどきはここまで言うとイスからぴょん!と飛び降りて、デンデの方に駆け寄った。そして、彼の両手をきゅっとつかむとにっこり微笑んだ。

「ずいぶん、おおきくなったなデンデ。めいわくはかけていないか?」
「もちろんです・・・。」
デンデはちょっとはにかんで、瞳を細くしてデンデもどきに笑いかけた。
デンデもどきの顔が、本当にデンデそっくりなのはムリもない話なのかもしれない。探った彼の『気』がなつかしかったのも、ムリもない。
このガキはもしかして・・・もしかすると。
ひょっとしなくても。

「また会えて嬉しいです。・・・ネイルさん!」
微笑み、見つめ合う二人のナメック星人とミスター・ポポ以外の者達は、その場に固まってしまった。またパックが落ちる音が聞こえてきた。

べしゃ・・・。


2001/09/05

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