スノウフレイク
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簡易テーブルの上は、たくさんの料理と大きなケーキ、そのまわりには色とりどりの甘い香りのお菓子がならんでいた。
「わあ、すっごくおいしそう!ねえ、おかあさん、さいしょにケーキとっちゃダメ?」
「ダメダメ、悟天・・・。まだだべ。お料理食べてから、だ!」
悟天はちょっとだけむくれたが、ケーキと同じくらい魅力的な料理を見つめると機嫌が直ったらしい。トランクスの手を引いて、大きなお皿に料理をたくさんもりつけ始めた。
「ねえ、トランクスくんはどれから食べるの?」
「オレ、肉から食べる!!腹へってんだもん!」

「ハイ、ピッコロさん。デンデも。」
悟飯とビーデルが皆の輪から少し離れている二人の所に、グラスに入れた水を持ってきた。残念ながら良い香りの料理も、甘いお菓子もナメック星人達には必要がない。
「ビーデルさんや、お母さん達が作ったものをピッコロさん達は食べられないんだもんね。」
「そっかあ・・・食べる必要がないんだもんね。残念だわ。」

グラスのミネラルウォーターごしに、綺麗に飾られたケーキを見たピッコロは『フン』と鼻を鳴らして、唇をつけた。
「ええ、それはちょっと残念ですけど・・・とってもキレイですよ。ビーデルさんが作ったクッキー。」
「あはは、最高のホメ言葉ね!ありがとう、神様。」
クリスマスの模様の入ったクッキーを見つめて、ビーデルとデンデはくすくす笑った。
悟飯は、おいしそうに料理をほおばる弟達がこちらに向かって手を振っている事に気が付き、軽くうなずいてビーデルの肩に手を置いた。
「ねえみんな、あっちでお話してきましょう?」
「そうそう、楽しまなくちゃ!」
ね?と見つめる悟飯とビーデルに引っ張られるように、二人は悟空達のそばに行った。


「やっほ〜、おふたりさんっ!神殿、貸してもらっちゃってありがとうね〜!!!」
ピッコロは思わずもといた場所に戻りたくなった。ブルマの息が酒くさい。
デンデは思わず苦笑いをして悟飯の後ろにそおっと隠れたが、ちょうど向かいが彼女の席だったので、顔をつきあわせる事になってしまった。隣にすわっているピッコロの前はおいしそうに食べ物をほおばる悟空。
ブルマと悟空は一番長いことつきあっている二人だけに、その身もフタもないコンビネーションがかみ合う時は、おそろしいパワーを発揮する。
「これ、ブルマが作ったのか?いや〜いつもながらすっげえうめえなあ。チチの料理もふまいけど、これもいけうなあ。」
「そーでしょうっ?!やっぱ孫くんてばわかってるわね〜!!!さっすがあ!!あっはっはっは!!これも飲んでみてよ、これも〜!!」
ブルマが丁度良い位置にすっとさしだしたシャンパンを、悟空はまるでお茶を飲み干すようにぐーっと飲み干した。普段は酒なんかぜったい飲まない彼がである。
「ご、悟空さんてばお酒のんでるわよ、大丈夫なの、悟飯くん?」
「だ、だ、だめだ・・・。雰囲気に酔ってるんだよお父さんてば・・・。」
ため息をつく悟飯を後目に、シャンパンの泡が彼の喉を音を立てて注がれる。
グラスをたたきつけるようにテーブルの上に置いた悟空は急に下を向き、・・・沈黙が続いた。
「うぶ・・・ぅえ。」

すう・・・ぐう・・・ぐごごっ。がっ。

気持ち良さそうな悟空の寝息が聞こえてくる。
彼は大食らいだが、酒に強いわけではない。ニガイものは苦手らしく、酒にちょっと舌をつけただけで『うえっ』と吐き気をもよおす彼にとって、グラス一杯のシャンパンでも十分に眠りに誘うには良い量だったのだろう。
瞳を閉じてぐっすり眠りこけている。
「そ、孫く〜んっ?なーによもうダウンしちゃったわけえ?よっわいわね〜・・・。」
彼女はくるり、と視線をテーブルの向こうに向けると、端で肉をほおばってるベジータの姿があった。ニッコリ笑って、皆の顔を見渡してから席を外した。
シャンペンとグラスをふたつ、持って。
「かわいそ・・・今度のターゲットはあのひとかあ・・・。」



「あれ、悟空さってばもう寝てるだか?『たくさん食うぞ〜』とか言ってただに。」
悟天とトランクスに付き添って、皿に料理を盛るのを手伝っていたチチは、もうぐっすり休んでいる悟空を怪訝そうにみつめていた。
「お母さん、お父さんブルマさんにお酒飲まされちゃったんです。だから寝ちゃって・・・。」
「そうなのけ。・・・今度からウチもそうしようか?そしたらちょっとは食事代が浮くかもな〜。」
彼女はけらけら笑いながら、悟空の顔についたたべかすを指でとってぺろりとなめた。
「おめえらは、まだ未成年だから、お酒なんか飲んじゃいけねえぞ。」
ビーデル、悟飯、デンデの順に指さしながらチチは微笑んでケーキを切り分けた。ビーデルもさりげなくお皿をとって、彼女の手伝いをしている。

「そうだ、聞きたい事があったんですけど・・・。」
ケーキを取り分けて、悟飯の前に差し出したデンデが彼に質問を投げかけた。
「何?デンデ?」
「あの・・・くりすますって何なんですか・・・?」
「え?」
「こうやって、ご飯をみんなで食べて、パーティするのがくりすます、なんですか?」
悟飯は思わずピッコロの顔を見た。
え、デンデが地球に来てから一体何年たったっけ・・・?今までなんでピッコロさん、教えてあげなかったんだろ・・・って。
「そんなこと知ってるわけないか・・・。」
「どうした、悟飯。」
「え、あ、いえ・・・。」
「あのね、サンタさんがプレゼント持ってきてくれるんだよっ!」
いつのまにやらビーデルの隣でケーキをほおばってた悟天が口出しした。
「そうそう、良い子にしてたら枕元にプレゼント、ひとつだけ置いてくれるんだよ!」
「ほう・・・そうなのか?」
ピッコロは悟天とトランクスの説明に、思わず首を傾けた。

「良い子にしてた、小さな子供だけにサンタは来るんですよ。」
サンタクロースの正体を知っている悟飯は。弟達を夢を壊さないように説明を付け加えた。悟天もトランクスもくすくす笑っている。
「じゃあ、大人になったら来ないんですか?」
「うーん・・・大人まで手が回らないんじゃないかなあ?だって1人で世界中まわってさ、枕元にプレゼント置かなくちゃいけないんだよ。大変じゃない。」
「ひとりで・・・。」
ピッコロとデンデは目をまるくして顔を見合わせた。そして2人とも同じ事を思ったらしい。ピッコロが疑問を口に出した。
「よほどの速さで飛ばないと、一晩ではこなせないぞ。」
「違いますよーピッコロさんてば。舞空術じゃなくて、そりに乗っていくのよ。」
「雪のないところはどうするのだ?」
「だから・・・。」
悟飯とビーデルはそばで聞いてる弟達のためにも、なるべく夢を持たせてかつ、師匠と神が納得するような説明を急に強いられてしまった。
2人はちょっと冷や汗をかきながら、けど楽しそうにサンタクロースの概要をひとつひとつ話して聞かせた。





「はあ〜。まいっちゃった。お父さん達はぐっすり寝てるし、悟天達も食べるだけたべたらすっかり眠っちゃって。」
「アハハ、けど楽しかったよ。悟飯くんて子供にお話聞かせるの上手よね。」
「そりゃ、弟がいるからね。」
2人はくすくす笑って、神殿のヘリに腰掛けていた。足を空に投げ出すとかすかに見える下界の光が足につく。
神殿にあてがわれた部屋に酔いつぶれた大人と、遊び疲れた子供を入れて、中途半端な子供達は空を見ていた。
粉雪はいつの間にか降るのをやめて、星だけが光っている。

「私ね、悟飯くんがお話してくれたようなサンタさんは一度も来たことがなかったわ。」
「え、そうなの?」
悟飯は意外そうに、ビーデルの顔を見た。ブルマには負けるが金に困ることはないサタンだ。夢いっぱいの仕掛けを、彼女にしてやっていたとしてももいいと思うのだが、ちょっと意外だった。
「うん・・・。パパがとびっきり大きなぬいぐるみを買ってくれたり、絵本を買ってくれたりしたけど、そんな夢のあることしてくれなかったなあ〜。」
「ふうん・・・。」
悟飯はニッコリ笑って、彼女にこうつぶやいた。
「きっとさ、サンタってのは自分を気遣ってくれるひとなんだろうね。」
「え?」
彼はちょっと照れたように頬をひっかいて、また彼女の顔を見た。

「プレゼントってのが間にあるけどさ、だれかが自分を好きでいてくれるのがわかるじゃない。サタンさんだってそうだよ。サンタクロースの格好はしてなかったかもしれないけどさ、くれたプレゼントはビーデルさんのためだけに、探してくれたものでしょ?」
「・・・・・・!そっかあ。」
パパはほとんど外に出ている事が多かったけど、クリスマスだけは一番に帰ってきてくれたっけ。手にとびっきりのプレゼントを抱えて。
世界チャンピオンの娘って事で、プレゼントをもらう機会はとても多かったけど、なぜかこの日のパパがかかえてきたプレゼントボックスは特別に見えたっけ。
「フフっ。悟飯くんたら優しいんだから。ここでパパの肩もたなくてもいいのに。」
「ううん、サタンさんはもっと優しいよ。ビーデルさんの事に関してはなおさらね。」
「・・・そうなの?」
「?どうしたの?・・・ビーデルさん。」
急に淋しそうな顔になったビーデルに、悟飯はちょっと慌てて彼女の顔をのぞき込んだ。



ビーデルは急に悟飯の首に巻かれているマフラーをひっぱると、ほんの一瞬だけ2人の影がくっついた。
ほんの一瞬だけ、唇が溶けた。


「・・・・・・・・・・・・あ、ビーデるさ。」
「さ、寒そうだったから・・・。悟飯くんのクチビル。」
うわずった調子の悟飯の声にかぶせるようにして大声を出した。平然を装っているが、顔が目にわかるくらい赤い。酒が回っているかのように赤くした顔を手で包んで、彼女はくすくす笑った。
「プレゼントだよ、サンタだったらくれないモンね。子供だったら照れちゃうもん。」
「・・・ボク。」
悟飯は彼女の腰を自分の方に、ちょっとぎこちなく抱き寄せると、彼女の髪の香りを吸った。花畑の香りがする。
彼女の体温がジャケットごしに伝わってきて、すごく暖かかった。心臓の動悸は不順だが、なぜだかとても安心した。
「今年のプレゼントは、お父さんにもお母さんにも、悟天にもナイショにしておきますね。」
「パパにも内緒にしとく。秘密だよ。」
2人はまた離れて、くすくす笑い、だんだん大声で笑いはじめた。






2人とも・・・プレゼントは見せびらかしちゃダメですよ。
デンデはくすくす笑いながら、神殿の窓から2人の様子を面白そうに眺めていた。
恋人達を祝福するように、雪花がまた舞い降りる。
「さて、・・・おやすみなさい。ピッコロさん。」
「・・・・・・。」

神が手をひらひらさせて出て行った後には、悟飯とビーデルの幸せそうな笑い声だけがこの部屋に響く。
ピッコロは柱と柱の間から見える2人を切り取るようにして見つめる。
面白くなさそうな顔をしていた自分に、はっと気がつくと誰も見てないのに表情をいつもの顔に戻して、
・・・ちょっとだけ笑ってため息をついた。
「カゼひくなよ・・・。ふたり、とも。」


聖夜に雪が舞い降りて、恋人達を祝福する。
指先に溶ける雪は優しくて、世界中に平等に降り積もる。
今日は大切な人達の幸せを願ってゆっくり、休もうか。

     (おしまい)
2001/12/24

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