まどろみ
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消え去ったナメック星から、ポルンガにより地球に運ばれてから、ちょうど1ヶ月たった。ナメック星人たちはブルマの家に居候中だ。
まだ、ポルンガが復活するまでもう少し時間がかかる。

『お父さん』に早く会いたいのは山々だったが、デンデと遊んでいたり、博識な最長老様から色々なお話を聞いてるのも楽しかったので、悟飯はちょっと複雑な気分だった。
ポルンガが復活する時は、彼らと別れる時だったから。
「やめたっ。考え出すととまらないもん。」
「…どうした?」
「あ、なんでもないですピッコロさん。ゴメンナサイ…。」
「そうか?」

今日は、ピッコロが自分を気遣って遊びに来てくれている。本人にそんなことを言ったら、怒って帰るのが目に見えているので何も言わないが、悟飯はそんな師匠がとてもスキだった。
野原は夏の風が吹き、向かい合って瞑想している最中の彼らの間を吹きぬけた。

ナメック星で『ネイルさん』と融合してから、ちょっとだけだが彼が変わったように悟飯は感じていた。きりきりとした、殺伐な空気があまり感じられなくなったように思えるのだ。
どういえばいいのか…?彼に言ったらまた怒られそうだが、ちょっとだけ柔らかくなった、ような気がする。
どっちでもいいや。ピッコロさんはピッコロさんだもんね。
悟飯はちょっと笑って、彼の顔を見た。
相変わらず瞳を閉じて、瞑想を続けている…かのように見えた。

そう、彼の変化はこれだけではないのである。
「……ピッコロさん?」
「…………、む。」
師匠は勿体つけるかのように、ゆっくりとまぶたを開いた。夏の強烈な日差しが彼の目に飛び込む。
「…もしかして、眠っていたんですか?」
「そんなことはない。」
ウソだ。ピッコロさんはウソを言っている。
悟飯はすぐにわかった。彼が即答するときは大抵ウソなのだ。
「も、もしかして、修行のしすぎで疲れているんじゃ…?」
「違う。よけいなこと言ってないでさっさと続きをしてろ!!」
久々の彼の怒声が野原中に響き、悟飯は『ハイっ!』と言うとまた黙って目を閉じた。

ピッコロが、こともあろうに居眠りするようになったのだ。
前のピッコロだったらそんなことは絶対に、考えられない。自分の前では常に『師匠』として立ち振る舞い、日常的な空気をあまり感じることはなかった。
居眠りするピッコロに、なんだかとっても親近感を感じる悟飯だったが、一方でちょっと心配だった。
自分にも手加減を知らないピッコロである。本当に修行のしすぎで自分にこんな所を見せるほど、疲れているのか…。それとも…?


「え?おひるねですか…?」
「うん、ナメック星人のひとたちって、ひるねするのかなあ、と思って。」
西の都のブルマの家で、悟飯はデンデにこんな問いかけをした。ピッコロの居眠りの事が気になって、同じナメック星人の彼に話を聞いていたのだった。
「あ、ナメック星っていつも昼だったもんね!ゴメンゴメン…どういえばいいのかなあ?」
「それって、お仕事の合間にお休みを取るってことですか?」
「うーん…そう、なのかなあ…?」
首をひねる悟飯に、デンデはニッコリしながら答えた。
「それだったら、みんなで眠って疲れをとりますよ。」
「ホント?ねえ、ネイルさんもおひるねしてたのかなあ?」
「え?え…?ど、どうなんでしょう…?あまりそんな風には見えませんでしたけど…。」

そうかあ、と悟飯はブルマが持ってきてくれたサイダーに口をつけた。
ピッコロさんは宵っ張りだから、…もし、融合したネイルさんがおひるねする人だったら、きっと居眠りの原因はそれだよね、と悟飯は考えたのだ。
しかし、考えてみたら『最長老様を守る、唯一の戦闘型のナメック星人』である彼が、居眠りしてるヒマなどなかったに決まっているのだ。
「じゃあ、どうしてピッコロさんはあんなに眠そうなんだろ…?」


とっぷりと日が暮れて、そろそろ帰らないとお母さんに怒られる時間になってしまった。
「悟飯くんたら、泊まっていけばいいのに。デンデ君達も喜ぶわよー。」
藤色の髪をかきあげて、ブルマが残念そうにつぶやく。
「いいえ、お母さんに怒られちゃう。」
「残念だわあ、ねえあなた?」
「うん、そうだなあ…。」
ブルマの母とブリーフ博士も名残惜しそうに、悟飯を見つめている。まるで自分の孫のように彼を可愛がっている二人だったが、悟飯はちょっと苦手だった。
ホンワカした二人の空気はスキだったが、どうにもニガテだったのだ。
そのことは身にしみて理解しているブルマが、彼に助け舟をだしてくれた。
「さっ、パパもママも。悟飯くんが困ってるじゃない。空飛べるとはいっても遅くなっちゃったらこっちも心配よ。」
ブルマは悟飯にウインクをして『チチさんによろしくね。』と言い、彼を飛び立たせた。
「あたし達が引き止めちゃった、ってチチさんに連絡しておくから、安心して帰んなさーい!」

悟飯はちょっと急いで、家に向かった。だんだんと空の色が濃くなってゆく。西の都の明かりがだんだんと離れて、かけらも見えなくなってきた頃、悟飯はとある『気』に気がついた。
「ピッコロさんだ!近くにいるんだあ…?どこかな… ……あれ?」
ピッコロの『気』がゆらゆらと形を変えるように変化してゆく。多くなったり少なくなったり。通常で『気』が大きくなることはあまり特筆することでもないが、変化の度合いがおかしい。
「ど、どうしたんだろ…?まさか…まさか!?」
彼は嫌な予感を頭からムリヤリ消し去って全速力で、変化を続けるピッコロの『気』の元に急いだ。

「ピッコロさあ〜んっ!!ど、どこっ…?」
相変わらず、不定形生物のようにゆらゆらと揺らめく『気』に悟飯は困惑しながらも、ピッコロの姿を探した。
うっそうとした森の中から『気』は発せられている。悟飯は木々の合間を縫って飛ぶことをやめ、自分の足で走り出した。
「ど、どこっ?どこ…?あっ!!」

森が途切れて、星の明かりだけがだだっ広い荒野に降り注いでいた。その岩場に、銀の風に吹かれてピッコロは座っていた。
先ほどのゆらめくような『気』ではなく、元に戻っている。元に…元に?
「も、もどってない…。」
悟飯の声にはじめて気がついたかのように、ピッコロは微笑んで手招きをしてきた。悟飯は一旦躊躇して、考えて、ゆっくりと彼の元に飛んでいった。
ピッコロさんの気ではない、しかし邪悪な気でもない。
姿形だけは自分の慕う師匠そっくりなのだが、気配がまるで違う。

「…ピッコロさんの姿をしたあなたは…?だれなんですか?」
悟飯はゆっくりと、しかし力強く問いかけた。悟飯のまっすぐに見つめる瞳をじいっと見てから、くす、と笑った。
「お前は、わたしの気配を覚えていないようだな…?ムリもない、あっという間の出来事だったしな…。」
ピッコロの顔でにこにこと微笑んで、爪を指でちょっと磨きながらこちらを見つめるナメック星人に、悟飯は1ヶ月前の異星の出来事がフラッシュバックした。

『ドラゴンボールでかなえらえる願いはみっつだ。お前達の願いもきっとかなえらえるだろう…。』
絶望しかかった悟飯たちに、ひとつの希望を教えたのは師匠そっくりのナメック星人のネイルだ。

「ひさしぶりだな、ソン・ゴハン…だっただろうか?すまないな、わたしもあっという間の出来事だったから、お前の名がうろ覚えだ…。」
「ね…ネイルさん…?!ど、どうして…?融合したらもう、二人にはもどれないんでしょ?」

2001/08/16

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