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「ピッコロさあ〜ん!!デンデーっ!!ポポさーん!!」
ブルマから借りたのだろう、自動操縦のジェットフライヤーに乗って、悟飯が久しぶりに神殿に遊びに来た。
よく通る高い声が神殿中に響き、ピッコロ達も手を振ってその声に答えた。
青い機体は神殿の周りをくるりと一周して、彼らの前に降り立った。ドアを力一杯開けて、悟飯が元気よく飛び出して来た。
「ピッコロさん、お久しぶりです!」
「元気そうだな。」
「ハイっ。」
相変わらずの礼儀正しい口調と、元気そうな愛弟子の姿に彼の表情は自然と柔らかくなった。
「あはっ、デンデも久しぶりだね!」
「悟飯さんも元気そうでよかった!」
二人はお互いの両手をぱちぱちと合わせて、久しぶりの再会を喜んだ。
ピッコロは悟飯がポポにも挨拶をしている間、開きっぱなしになっているドアに目をやった。

するともうひとり・・・いや、もう二人の人影が見えた。
「なるほど・・・。舞空術で来なかったわけは、あれか。」
いつもはきつくまとめている黒髪を、今日は一つにしばっている。神殿に来るのは初めてだからだろうか、キョロキョロと珍しそうに顔をあちこちに向けていた。
足下と自分が今抱いている・・・赤ん坊に、全神経を集中させて彼女は神殿のタイルに足をつけた。
「あれ〜っ・・・。すんげえとこだなあ・・・。こんなものが空中に浮いてるだなんて・・・。」
顔をキョロキョロさせながら驚きの声を上げたのは、悟飯の母親のチチだ。そして、彼女の胸にしがみつくようにして抱かれているのは、ようやく首の座った悟飯の弟だろう。
悟飯が自慢げに話してくれた、悟天だ。

「おかあさん!こっちこっち!」
悟飯はチチの手をそおっと引っ張って、ピッコロ達の側まで連れてきた。チチは楽しそうに、『こらこら』といいながら、悟飯に素直に従った。
「ピッコロさん、デンデ・・・えへへっ、ボクの弟です・・・。悟天っていいます。」
彼はちょっとはにかみながら、弟の紹介を二人にした。
悟天は、小さな手をばたばたさせてチチから悟飯の腕に抱っこされた。よく聞き取れない言葉(?)を口にしながら、悟飯にしがみつく。

「うわあ・・・。ちっちゃいなあ・・・。」
デンデは初めてみる小さな『赤ん坊』に興味津々のようだ。ピッコロはと言えば興味がなさそうに、しかしいつもよりは幾分優しい目つきで悟天の事を見つめていた。
「ねえ、デンデも抱っこしてみる?」
「ええっ?」
デンデはびっくりしてピッコロの方を向き、そしてチチの方に向いた。
「だ、だめですよそんなこと・・・。ボクが抱っこして泣いちゃったら・・・。」
「そんなことねえだよ。おめえが神様なのけ?」
チチはにっこりして膝を折ると、目線をデンデとおんなじにした。

「おら、チチっていうだ。悟飯と悟天のかあちゃんだべ。いや〜それにしても・・・神様が、こんなにちっこい子だとは思わなかっただ・・・。けど、おめえすっごく優しい子なんだろ?悟飯ちゃんが言ってただ。」
「え、え・・・・・・?」
デンデは耳まで真っ赤になっていた。チチはそんな彼の様子を見てくすくす笑うと、悟飯から悟天を抱いて、デンデの目の前に持ってきた。
「赤ん坊は、優しいひとがわかるだ。ほれ、触ってみるだ。」
「は、はい・・・。」
悟天の頬にそおっとふれると、びっくりするくらい柔らかくてデンデは思わず手を引っ込めた。
「うわあ・・・。すっごく柔らかい・・・。」
落としたら、壊れそう。力一杯だきしめたらなくなってしまいそう。
悟天のあまりの柔らかさに、デンデはそんな事を考えた。
「悟飯さんも、生まれたときはこんな風だったんですか?」
「そうだべ。地球人は、・・・悟飯ちゃんも悟天も、半分サイヤ人だけっど・・・生まれた時はみーんなこんな風に柔らかくてふわふわなんだ。」
「そうなんですか・・・。」

ナメック星人は、生まれてすぐに自分の力で立ち上がることができる。地球人も同じような感じなのかな、と思っていたデンデにとって、この悟天の弱々しいくらいの柔らかさと、ひとりではなにもできない状態で生まれてくるという事が驚きだった。
悟飯さんも、悟空さんも、ずっとずっと前はこんな赤ん坊だったのかな・・・?
強いひとも、一番最初はこんな風だったのかな・・・?



「あははっ!このベッド、久しぶりだあっ!」
悟飯は優雅なデザインのベッドに遠慮なく体重をかける。天井が高く窓も大きい、この神殿の一室が悟飯のお気に入りだった。おとぎ話のお城に出てくるような、清楚で美しい部屋。数ヶ月前と全く変わりない姿を確認しようと悟飯はあたりを見回して、いつか自分をまぶしく照らしていたアンティークランプの姿がない事に気が付いた。

「デンデ、ランプなくて大丈夫なの?」
「あは・・・。明るくって眠れませんよ。今は、あの子だけいれば十分です。」
デンデが頭上を指さすと、いつのまにか自分たちの頭の上に小さなガラス玉のようなモノが浮いていた。
ふわふわと浮きながら、ホタルのように柔らかい光を発している。『あの子』は、デンデの言葉に反応したかのように、くるくると回ってみせた。
「眠るときは、光を消してもらっているんですけどね。」
「よかったあデンデ、暗いの怖くなくなったんだ!」
まるで自分の事のように喜んでくれる悟飯に、デンデはにっこり微笑んだ。

「流れ星も、みつかった?」
「ハイ。あの日から、ずっと探して・・・つい、この間!」
「ねえねえ、何をお願いしたの・・・あっ、ダメだ。本当に叶えたい願い事は言っちゃダメだもんね。」
悟飯は唇に人差し指をあててくすくす笑い、窓ガラスから星を見た。デンデも彼の側に寄って、窓を静かに開けた。
「今日は、流れ星・・・一緒に見られないかなあ?」
「また、探しましょう。」
ふたりは、降ってきそうな勢いの星空に指さしながら流れ星を探し始めた。
そんな二人にホタルランプは気を使ったのか、部屋からすうっと出ていった。

「今日は、びっくりしちゃいました・・・。赤ちゃんが、あんなに小さなものだって思わなかったんです・・・。」
「えっ?」
悟飯はちょっと驚いた様な感じで、デンデの方を向いた。
「ナメック星のひとたちだって、たまごからうまれたらあんな感じじゃないの?」
「いいえ・・・うまれたら、すぐに立ち上がる事ができます。自分で水をすくって飲む事もできるんです。」
「そうなんだあ・・・。」

「どうして、あんな形で生まれてくるんですか?立ち上がることも出来ないのなら、危険な目にあったら逃げる事だってできないでしょ?」
デンデの疑問に、悟飯は「なるほど」と思わず納得してしまった。
たしかに、地球の動物たちは生まれたらすぐに立ち上がることができなくてはならない。それは、歩いて母親の後について歩くため、敵が来たら己の足で逃げるため・・・自然の中で生きていくための大前提が、『歩くこと』だからだ。
もっとも、この事は祖父からもらったぶ厚い事典に載っていた受け売りだが。

どうしてなんだろう・・・?
そういえば、どうして人は歩くことが出来ずに生まれてくるんだろ・・・?
どうして・・・。あっ。

デンデは、自分の問いに考え込んでしまった悟飯を見て、困らせてしまったのかな?とちょっと心配そうに彼の顔をのぞき込んだ。
「悟飯さん・・・?」
「デンデ、ちょっと話かわるけど・・・ボクが二番目に叶えたい願い事ってあるんだ!一番叶えたいことは、ナイショだけどね!」
「なんですか?悟飯さんの2番目の願いって・・・?」

「あのね・・・。」
悟飯はちょっと恥ずかしそうに、けど背筋をぴんと伸ばしてこう答えた。
「お母さんと、悟天を守れるひとになることなの。」
「えっ・・・。」
デンデは思わず言葉に詰まった。

目の前にいる少年は、この星を、実に数億人もの人間を救った者だ。その少年が・・・たったふたりのひとを守りたいと言っている。
叶えるまでもない。
すでにその願いは成就されているではないのだろうか・・・。そう言おうとしたデンデの言葉をさえぎるように、悟飯は言葉を続けた。

「きっと、赤ちゃんが歩けないで生まれてくるのは、周りの人を神様が・・・あっ、デンデのことじゃないよ。きっと、どこかにいる神様が試しているんだよ。」
「ため、す?」
「うん。お母さんのあとについて歩けないから、だれかが連れていってあげなくっちゃ。危ない目に遭いそうになったら、守ってあげなくちゃ・・・。そんな風に、まわりのひとが出来るのか、神様が試しているのかも。」
「そ、そうか・・・。」
「守って、あげたいって、そんな優しい気持ちになるように、悟天は・・・赤ちゃんは抱っこしたらあんな風に柔らかくって、気持ちいいんだよ、きっと。」

悟飯は窓の縁に腰掛けた。彼の瞳に星が映り込む。
映った星の彼方に何を見ているのだろう・・・?
デンデにも、多分悟飯にもわからなかった。

「ボクは、お父さんの分も悟天を守ってあげなくちゃ。お母さんも、助けてあげなくちゃ。そのためには、ちょっとだけお星様に助けてもらわないと、ねっ?」

にっこり笑う悟飯の笑顔を星の光が透かした。黒い髪が銀色に揺れる。
彼がここまで笑う事ができるまで、あの時からどのくらいの時間がかかったんだろう?
笑うことが、もしかして重荷になっていないのかな。
ボクは今・・・悟飯さんにむかって笑いかけても、いいのかな・・・。

悟飯の微笑む笑顔が強烈に痛くて、デンデは胸がつかえたように苦しくなった。
いつもはセーブしているはずの共感能力がなぜか働いて、彼の心が容赦なく自分に流れてきた。
「きっと、どこかにいるもうひとりの神様は、今・・・ボクのこと、試しているんだね。」
デンデは毛布を頭からかぶって、悟飯のとなりにがばっと座った。

神殿からの星空は、今日もいつもと変わりがない。
だけど、明日は変わっていてほしい。
このひとの願いが、叶うように・・・。

願いが叶って、このひともどうか幸せになるように。

「ボクも・・・どこかにいる神様と、星に願います・・・。悟飯さんのお願いが・・・かないますように。」
デンデは、乱暴に毛布の下にある自分の顔をごしごしと拭いて床に放り投げると、悟飯の手を引っ張り宙に浮いた。
「さっ、そしたら屋根の上のほうが星は良く見えます。流れ星・・・探しに行きましょう。」
「あははっ、そうだねっ。」
二人は窓を全開に開け放すと、手をつないで星を探しに出ていった。

ボクの一番の願い事って、なにかわかるかな?おとうさん?
おとうさんに近づきたいっていうのもあるんだよ。
だけど、おとうさんはおとうさんで、ボクはボクだもんね・・・。
今、一番の願い事はね、
神様・・・
大好きな人たちのそばに・・・
ずっとずっといることを・・・願っても、いいですか・・・?


2001/08/06
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