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デジャ・ヴュの風景(エメラルドアイズ)前編

サヤの目の前が急に霞んだ。まるで故郷の春霞のように、空気が薄紫に染まったような感覚に襲われた。
ふわりとまつげにかかるのは、いつも自分を抱きしめてくれる人の髪の『切れ端』だ。
メディを庇ったシャラに覆い被さるようにして倒れているローレは、動かない。
彼女自慢の髪の毛は閃光で焼かれて、肩のところでばさりと落とされている。きれいな服もだんだん赤く染まってゆく。

「しゃ・・・シャラ兄ちゃん、姉ちゃん・・・姉ちゃん・・・、おねえちゃん・・・。」
たかだか人間二人の体重がこんなにも重かったのか。だんだん、姉の手から温かさが抜けていく。
髪と肌は引き裂かれて血があふれ、彼を庇うために地面を削った爪ははがれて無残な姿だというのに、それでも自慢の姉は美しかった。
「ねえ、シャラ・・・。ねえちゃんっ・・・な、うっ・・・くう。」
メディの声が呻きに変わる。人前で泣くことなんか絶対ない彼の目からばらばらと水があふれる。彼は腕をできるだけ伸ばして、シャラとローレの体を抱き寄せた。
最後に姉の体に触れたのはいつだっけ・・・?
冷たくなってゆく二人の手を、自分の手と重ねてメディは呻いた。
うっ・・・うっ、うっ、・・・ううう・・・。

「馬鹿なヤツ・・・。そんなヤツを庇うくらいなら、さっさとドラゴンボールをよこせばいい話だったのによ。」
「ば、ばか・・・?」
目の前で起こった出来事に頭がついてゆかず、呆けていたサヤはそこでようやく顔をあげた。

「そうだ、お嬢ちゃん。お前もそう思うだろう?大事なのは、てめえ自身だ。オレには理解できないね。」
「ばか・・・?ローレをばかって言ったわねっ!!」
サヤは、自分の二倍、3倍はあろうかという男の前に立ちはだかった。
青い髪に、それよりももっと青い瞳、3つの瞳・・・。姿形だけは、それだけは、シャラに瓜二つだというのにどうしてここまでなにもかもが違うのだろう?
サヤの黒い瞳からは、今にも涙があふれそうだったけど、どうにかこらえた。

今泣いたら、ローレに怒られちゃう・・・。我慢、我慢しなくちゃ。

「取り消してっ・・・。ローレにあやまって!」
「死にかけのくそがきが・・・。お前も死ぬか?」
「あやまって・・・ふたりを元にもどしてよっ!!」
男の瞳が少しゆがむと、その瞬間に彼の蹴りがサヤの顔に直撃した。彼女はかわす間もなくまともに喰らってしまい地面に転がったが、彼女の瞳はそれでもぎらぎらと睨み付ける。
「あやまれっ・・・。」
「お前は一撃では殺さない。どこまでバラバラになったら死ぬ事ができるか、わかるのが楽しみだろ?」


はあっ・・・はあっ、はあっ・・・

ど、どうしたんだろう・・・?あたしのからだ・・・。息が、息が・・・。

「本当なら、あの女の方がばらしがいがあったんだがな。引き裂いたのは背中だけか・・・?」




ぷつん


「あやまれっつってんのよっ!!!」

地面に巻き上がる衝撃。
急にゆらめく空気にメディはようやく正気を取り戻した。
だが、彼が見たサヤはサヤではなかった。

いつもの人なつこい瞳は急に鋭く輝き、黒い目は色素が薄れてエメラルド色になった。
猫っ毛の髪の毛は風にあおられてか、ふわりと逆立つ。電流のような物が全身から放電しているかのように、ばちばちと彼女の体を包む。

男は急変した彼女に少しだけ後ずさりしたが、それ以上足が動かない。いや、動けなくなっている。
彼女の周りに風が舞い上がったような気がした。

少し前までサヤだった者がニヤリと笑うと、エメラルド色の瞳は水に濡れているかのようにぎらりと輝いた。





「・・・・・・あ。」
「どうした・・・?ローレ?」
「今、急に思い出しちゃった。エメラルドのサヤちゃん・・・。」
カプセルコーポレーション内にあるガラスの温室にいる二人だが、今日はちょっとだけ寒い。静かな雨が彼女たちの会話に気を使ってか、降り方がゆっくりになっている。
雫がガラスをつたって、西の都をゆがませる。

「エメラルドのサヤだって?なんだそれは・・・?」
「メディが言ってたの。サヤちゃんの目がエメラルド色になったんですって。」
「あの時・・・か。」
「ご、ごめんねシャラ・・・思い出させちゃって・・・。」
シャラはクスクス笑うと、ローレの側の花に触れた。

「オレのことは気にすることないよ、ローレ。それより急に・・・どうした?」
「サヤちゃんね、夢をみることがあったんだって、自分の目がエメラルド色になる夢・・・。その夢を見ると、あたしのベッドにもぐりに来たわ。あのサヤちゃんがよ!」
サヤは女の子がイヤがるような、虫やは虫類にも平気で触れる事ができるし、暗い闇もまったく大丈夫だ。ひとりでいることもあまり苦ではない。
大きなキリギリスを捕まえてきて、ローレに悲鳴をあげさせた事もある。

「サヤが・・・。相当不安なんだろうな。」
「瞳がエメラルドに変わる、かあ・・・。あたしはけっこうスキなんだけどな。」
「なんだそりゃ・・・?」
ローレはくるりとシャラの方に振り返り、彼が触れていた花の鉢植えを手に取った。
「ちょっとロマンチックな感じがしない?埃の中から現れたのは、エメラルドの瞳を持ったかわいらしい勇者!!」
ちょっと芝居がかって、両手を空に向かって投げ出しながらセリフを言うローレにシャラはちょっとあきれて、しかし笑ってつぶやいた。
「そうやって、ローレみたいに考えることができないんだよ、サヤはさ。」
「なぜ?」

「なぜって・・・そうだろ?自分では記憶にない事を夢に見るんだぜ。誰だって怖いさ。楽天家のサヤでもな。違う誰かが、自分の中にいるような感じがするんだろうな・・・。」

「そんなの・・・。ねえ?エメラルド色の・・・緑に託された言葉って、シャラ知ってる?」
「いきなりなんだよ?」
「緑はね、『あなたの力になりたい』っていうのが花言葉みたいな・・・色言葉なの!ね?エメラルドのサヤちゃんにピッタリだと思わない?」
ローレはニッコリ微笑んで、鉢植えの葉にそっと触った。

彼女の瞳がエメラルド色に変わった後のことは彼女自身もメディもあまり覚えてないらしい。サヤは本当に、なにも覚えてないようだがメディの方は頭が思い出すのをイヤがっているんだと彼自身が言っていた。
気がつくと、彼女のエメラルド色の瞳はすっかり元にもどっており、ローレ達を殺した男は跡形もなかった。所々に彼の物だと思われる服の切れ端や、肉が飛び散っていた。

サヤは返り血で真っ赤に染まっていて、クレーターのようになった地面の真ん中にぼうっと座って、目をつぶっていた。メディが抱えるとようやく目を開けた。


返り血に染まったサヤなんて見たくない。
その話をメディから聞いたシャラは正直言って、自分が死んでいて良かったと少し本気で思ったのだ。
だが、ローレはあっけらかんと『エメラルドのサヤちゃんも大好きだよ。』と言ってみせた。
彼女が持つ緑色の瞳を輝かせて。


「君のそんな所を、サヤはスキなんだろうな。楽天ぶりは、サヤ以上だよ。」
「あら?だからメディがいるんじゃない?あのこがあたし達を心配する役なのよ。バランスとれてるでしょ?」
悪意のない顔でニッコリ微笑むローレにシャラは苦笑しながら、なぜメディがあんなに心配性で思いこみが激しくなってしまっているのかが、わかった気がした。彼が姉とガールフレンドのせいでいかに苦労しているのかも。

「シャラも、私たちを心配する役よね?」
「君のことはいくら心配しても足りないよ、ほんとにね。」
シャラは微笑んで、ローレの肩に手を置いたがその瞬間彼女は実にありがたくない言葉を言ってくれた。

「シャラって私のお兄ちゃんみたい。歳、1コしか違わないのに不思議ね、とーっても頼っちゃうの!」
「へ・・・?」
「あたし、とってもカッコイイお兄ちゃんってのに憧れてたのよね!」
「そ、・・・あ、そう・・・。」

「さ、パパが焼いてくれたケーキ、食べに行きましょうよ!」
彼はローレに腕を引っ張られてちょっと苦笑しながら、そして目が痙攣するのを押さえながら彼女の後ろを歩いていった。
(は、早くも見込みなしだな・・・。)



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