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デジャ・ヴュの風景(セッケンドール)後編

「はっくしゅんっ!」
サヤがむき出しになっている肩を両手で抱えて、本棚の上でクシャミをした。口を押さえてなかったせいで、彼女のツバがミスター・ポポの頭に降り注いだ。
「大丈夫ですか?サヤ?湯冷めしたんじゃないですか・・・?」
「ご、ごめんなさい・・・。」
サヤは昨日、広々した神殿のおフロからあがってからずっと濡れた髪の毛のまま星空を眺めていたのだ。後から神様とピッコロにひどく怒られたのだが。
「けど、今急に鼻がむずがゆくなっちゃって・・・。」
「ふうん・・・?噂でも、しているのか・・・な?」

メディはムスっとしながら、一応は瞑想を続けていた。目の前のピッコロは息さえしてないように見えた。まるで人形のように目を閉じている。
息をしているのか?
眠っているのか?
ど、・・・どうなんだろ・・・・・・?
メディはゆっくりと、彼にそうっと近づこうとしたがピッコロの瞳はホラー映画の如く、急にかっと開いた。

「うわああっ!!」
「なにがうわあ、だ。真面目に修行しろ。」
「だ、だ、だって、急に目え開くんだもん!!」
「・・・・・・つっ。」
ピッコロは舌を鳴らすと、メディの背中を捕まえて神殿の端の方に持っていった。だんだんと空と神殿の境界線が近づく。

「な、なんだよ、ピッコロさんてば!!」
「今日の修行は変更だ。舞空術にする。」
「はあっ!?な、ちょ、ちょっと!!わああっ!」
メディの体はピッコロの腕によってかろうじて神殿とつながっている、と言わざるを得ない。彼の体は空にあった。もしピッコロが手を離したら・・・。
「ここから、地上まではかなり離れているからな。まあ、遺書を書き留める時間くらいはありそうだぞ。」
「ふ、ふ、ふ、ふざけないでよ!!!オレまだ13なんだぜ!!死にたかねえよ!!」
「知るか。助かりたかったら飛べ。」

ピッコロは冷たく言い放つと、手の力を緩めた。重力に従って、メディの体はまっさかさまに聖地カリンに向かって落ちていった。
「・・・すごいな、まるで弾丸のようだ。」
「うわあああああああっ!!!いやだああああああああっ!!!」
「さあ、なんとかしないと地面にたたきつけられるぞ・・・、む。」
「死んじゃうううううううう・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

悲鳴が急に途切れた。どうやら気絶してしまったらしい。
このままだと本当に地面にたたきつけられそうだ。やはりサイヤ人ハーフの弟子とは違う。潜在能力を使いこなすことさえ、メディにとってはまだまだ難しいようだ。
「まずいな・・・。聖地が血に染まるぞ。」
ピッコロは舌をまた一回鳴らすと、今度は自分が弾丸となり聖地に向かっていった。


「ピッコロ・・・だめだぞ、少しは程度ってモンを考えてやらニャいと・・・。」
「オレが少し過大評価しすぎていたようだな。」
「違う。」
気絶して、目をまわしているメディを抱えて神殿に帰ろうとしたところを呼び止められた。ふわふわの茶色の毛につつまれた仙猫のカリンだ。
カリンはピッコロをちょっとにらんで(しかし、もともとネコの顔をしているので、あまり迫力はないが)、メディの方を見た。
「力というものはだな、時と場所が引き出してくれる・・・。お前らもそうだったじゃろ?」
「・・・そうだったか・・・?すっかり忘れてしまった・・・。」
「まったく。」
カリンはシッポをひゅるんと体の前に移動させて、メディの顔を見た。
「いや〜、ここまで先祖にそっくりだと驚嘆を越えて笑えるのお。」
「・・・こいつはオレと話をすることさえ、イヤがっているようだからな。」
「ああ、そういえばピッコロはこいつにキラワレとるな・・・、ムリもニャいが・・・。」 


メディが次に目を覚ますと、丸くて澄んだ黒い瞳が自分の顔をのぞき込んでいた。
「どわあっ!」
「目がさめたか?よかったよかった・・・。」
「ぽぽぽぽ、ポポさん・・・。」
ミスター・ポポのどアップは、寝起きがあまりよくないメディの眠気も、一瞬にして吹っ飛ぶくらいのインパクトがあった。
「心臓に悪いよ、まったく・・・。」
「メディ!目がさめたの?よかったあ。」
丸い瞳のポポの横で、彼が目覚めたのを喜んでくれたのはサヤ。ぱちぱちとながいまつげを何度もばたつかせて「よかった、あんまり起きないんだもん!」と彼の手をにぎって、喜んでいた。
メディはちょっと赤くなって、サヤの手を自分の手からそうっと外すと、彼女達から少し離れて神様とピッコロが立っているのが見えた。

「ぴぴぴぴピッコロさんのばかっ!!ほんとにぐれてやるぞオレっ!!」
「メディ・・・気持ちはわかりますけど、どうか怒らないで。」
「どうしてだよっ、神様っ!オレもう少しで死ぬとこだったんだぞ!!」
「ピッコロ、神様からもカリンからもお咎めを受けた・・・。そんなに怒るな。」
メディはムスっとしながら、自分の体にかかっていたブランケットを腰に巻き付けた。
サヤはといえば皆の顔を交互に見て、「わかった、メディ!」とブランケットをひっぱった。

「なんだよサヤ?」
「だいじょうぶよ、ピッコロさん優しいもん!最初っから助けてくれるはずだったんだわ!」
ピッコロはちょっとだけ肩を落とした。
いつも威厳ある態度をとっているハズなのだが・・・。サヤに、メディと同じ方法で舞空術を教えることはできなくなってしまった。
「先手を打たれた感じですね・・・。」
「やかましい。」

メディはというと、そんなサヤの言葉にまた頬を膨らませてタイルの上にどかんと座った。
「ピッコロさん、オレの事キライなんだろ?あーんなヒドイ目にあわせるなんてさ。」
「それはこちらも聞きたいぞ・・・。なぜ、お前はオレにつっかかる?」
「そ・・・れはあ・・・。」
メディはサヤの方をちらっと見て、またピッコロの方に向き直った。
「それよりも、こっちが先だって!!オレのことキライなんだろ!!」
「キライだったら、強くするか。弱いまま聖地カリンにたたきつけてればいい話だろうが。」
くそったれ、ガキじゃあるまいしそんなことくらいわかってるっつの。オレがいいたいのは・・・その・・・。

「もう!!」
珍しくサヤが怒った大声をあげた。神様もポポも、もちろんピッコロもメディも彼女の方に振り向いた。
「二人ともケンカばっかり!!なかよくしないとだめだよ!!」
サヤはいつもはピンク色の頬をちょっぴり上気させて、ピッコロとメディに向かって怒鳴った。『なかよくしないとだめ!』は彼女の祖母がよく言っていた言葉らしい。おかげで彼女は外見にとらわれることなく、初対面の者の内面まで自然と見抜ける事ができた。

しかし、他人の内面はわかってても自分の事はわかってないらしい。
神様とポポはくすくす笑い、ピッコロは皆を見渡してサヤを見た。メディは顔を真っ赤にして肩をプルプルと振るわせている。
「あのなあっ!!ケンカばっかりって、何が原因かわかってんのかよ!!」
「なに?」
「そ、それは・・・。」
メディは言葉に詰まった。『お前のせいだっつの!!』というのは簡単だったが、そんなカッコわるいことは自分のプライドが許さない。うぐぐぐぐ・・・と歯ぎしりしたあげく、彼女に背を向けて座り直した。

「とにかく!お前には関係ねーだろ!!」
「あるもん。これから2年一緒なんだよ!ずーっとこんなんじゃイヤだよ。」
「ふんだ。」
神様は「はあ〜っ・・・。」と深いため息をついて、「ベジータさんにそっくり・・・。」と思わず漏らした。
「だれ?だれなのそいつ・・・?」

「昔の・・・知り合いだ。」
「ねえっ?そのひとって、もしかしてメディのご先祖さまなの!?」
サヤはまるで自分事のように瞳をきらきらさせて、ピッコロの側に駆け寄った。メディもちょっとあわてて彼女の後についた。
「ど、どんなひとだったのさ?オレのご先祖様って・・・。」
「・・・・・・知りたいか?」


自分の先祖の概要を知ったメディは、がっくり落ち込んで膝を抱えて座り込んでしまった。サヤの先祖と比べると、あまりにあんまりだったから。
「・・・・・・オレ、ヘコんだ・・・。」
「め、メディ、そんなに落ち込まないで・・・ね?」
普段は自分に意地悪な事ばかり言ってからかう神様も、気を使って慰めてくれた。
「・・・オレのご先祖様って、神様を蹴り飛ばしたんだぜ・・・。バチあたりにも程ってモンがあるだろ・・・?」
「そ、それはわたしが子供のころの話ですし。」
「何?!そんなちっちゃいガキの神様を足蹴にしたわけ!!?ま、ますます最っ低じゃねーか・・・。」

何を言ってもムダとは正に今の状況の事を言うのだろう。神様は余計な事まで口にしたピッコロを、恨めしそうにちょっとだけ睨むと、ため息をつきながらこう答えた。
「けれど、あなたのご先祖様がいなかったら、この地球はなくなっていたかもしれませんよ。」
「・・・ほんとう?」
「殺伐としていたあいつが穏やかになっていったのは、お前のもう一人の先祖のおかげだしな。」
「え?もう、一人・・・?」
神様はニッコリして彼に教えた。
彼の姉の容姿にそっくりな、藤色の髪をした好奇心旺盛な女性の事を。
「愛情は、人を変えることが出来るという良い見本です。」
「あ、ああああ愛・・・?え、う・・・?」
メディは『愛情』という単語に反応して、顔がまた真っ赤になった。

「ほら!おばあちゃんのいってたとおりだわ、メディ!」
サヤはメディの手とピッコロの手を引っ張って、両方の手を重ねると自分もその上に手のひらを乗せた。
「メディのご先祖様みたいに、仲良くしないと楽しくないよ!」
彼女は彼らの手をムリヤリ握手させて、満面の笑みを作った。

サヤは敵という言葉をずっと知らないで過ごしていた。そのせいで、その意味がわかった瞬間、すさまじい力が引き出されたのだが。後にも先にも彼女があんな恐ろしい形相になったのは、あの一回きりにしてもらいたい。
恋敵とムリヤリ握手させられて、メディはちょっとむくれたがすぐに(一応は)平静さを装って、ピッコロにガンをつけた。

「い、一時休戦って事でいいぜ、オレはよ・・・。サヤの頼みだしよっ!!」
「だから一体どうしてそんなことになるんだ、お前は・・・。何が『一時休戦』だ。」
ピッコロの手を渾身の力を込めてにぎったメディは、「ふふん。」とまた鼻で笑った。のだが。
「あっづ!!熱いっ!!」
ツメを立てそうな勢いで握りつぶそうとするメディの手に、ちょっとだけだが『気』を発してヤケドを負わせた。
「さて、修行の続きだ。サヤも一緒にな。」
「うんっ!」
サヤは上機嫌でピッコロのマントの端を掴んでいる。
「ちょちょちょ、ちょっとまてよなんだよっ!!大人げないぞっ!!ピッコロさんのばかっ!ホントにぐれるぞ!!」
「メディ、ケンカばっかりするのだめって言ったじゃない!」
「ううう〜〜〜っ!!な、なんでオレばっか・・・!!」


『一時休戦とか言っていたけど、そんなことを約束できるほどメディは大人なわけない。それは、ピッコロさんにもちょっと言えることだけど・・・。明日からはまた、同じような光景が見られそう・・・。』

神は優雅な翼のついた羽ペンで日記をつづりながら、楽しいため息をついた

    (おしまい)
2001/08/17

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