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デジャ・ヴュの風景(セッケンドール)前編

メディとサヤが天界に行ってしまってから、1年と少しが過ぎた。変わったことがたくさんある。
料理を大量に用意しなくても済むようになったし、自分とローレの間をジャマするヤツもいなくなった。そのかわりに、ケンカ仲間も自分に甘えてくる子もいなくなった。
「ようするに、寂しいんでしょう?シャラ・・・?」

優しく甘い声で自分に話しかけたのは、この家の娘のローレだ。
フロ上がりの白い肌がちょっと上気していて、指先が染めたように赤くなっている。腰まである長い髪を砂漠地方の人々のように、タオルでくるりと巻き付けている。ちょっとだけアルコールが入ったドリンクの缶を、自分の方にひょいっと投げつけてきた。
ローレはシャラの隣にそおっと座ると、柔らかいソファがふわりと沈んだ。

「いつもいつも、飽きないでメディとケンカばっかりだったもんね。」
彼女はニッコリしながらプルトップの缶をプシュっと開けた。
藤色の、まっすぐに切りそろえられた髪の毛から良い香りがする。同じ色の瞳は缶に印刷されたロゴを見つめていて、唇がアルコールで少し濡れてつやつやしていた。

弟のようなメディとケンカする原因の大半が彼女だった事を、彼女は多分知らない。
行動的でけっこうズバズバと物を言い、周りの事に関しては敏感だというのに、自分の事となると途端にドンガメのように鈍くなる。
そんな彼女のことを、シャラはとても好きだった。

「君も、寂しいだろ?」
「そうね。サヤちゃんが修行に出てから、お風呂に入る時間も短くなっちゃった。あの子のシッポと髪の毛を洗うの、とってもスキだったのに・・・。」
「おいおい、弟はどうしたんだよ?」
「あのこは大丈夫よ。一応は、常識ってやつを知ってるし。サヤちゃんはカワイイ上に世間知らずだから心配よ。」
「そうだな・・・。」

シャラは自分の金色の弁髪を指先でいじると、三つの青い瞳がちょっと曇った。今は肩までの長さになっているが、元はヒザまでの長さだったのだ。
生まれた時から一度も切ったことのない、自慢の弁髪をちょんぎったのはほかでもない、サヤだ。『髪の長い人は、おんなのこなんでしょ?』と言い、気がついたら弁髪の半分は彼女の手のひらにあった。
あまりのショックで、シャラはそれからの丸一日分の記憶が飛んでしまっている。
「あれはまいったよ・・・。」
「髪の毛が長いひとはおんなのこだ!って固定観念があったからね、サヤちゃんは。ほんっとに世間知らずで・・・。この西の都で、彼女が唯一好きになった物と言えば、おふろとセッケンくらいね。」
「なんか心配になってきたぜ、おれ。」
「大丈夫かしらサヤちゃん。と、メディ・・・。」


「ねえ?メディ、どうしていっしょにおふろ入ってくれなかったの?」
「い、いっしょになんて入るわけねーだろ!!」
「ちょっと前だったら、いつもいっしょに入っていたのに・・・。」
「いーの!オレは一人で入るから!!」
メディは、カゼをひいた時のように頬を真っ赤にして自分の部屋に行ってしまった。
この頃、メディはいつもいつも機嫌が悪そうだ。自分を目の前にするとすぐに真っ赤になって、つっけんどんな態度をとる。

山育ちで、野生児という言葉そのままのサヤが、西の都で唯一スキになったのは、お風呂とセッケンだけだ。ふわふわのベッドはあまりスキではなく、車に乗っても走った方が速い。
『お湯につかる』ということだけ、とってもたのしくて大好きになったのだ。そして、いつも良い香りがするローレの手が『セッケン』で洗われているのを知ってから、自分もそれで洗うようになった。それを泡立てるのが大好きで、ローレが買いおきしていた良い香りのセッケンを、何個もダメにしたこともある。

「メディ、このごろおかしいの。あたしの顔を見たらすぐカゼ引いたみたいにまっかになるのよ。」
「それは、大変ですね・・・。風邪薬でも作りましょうか?」
神様とポポはにっこり笑いながら、彼女の話を聞いていた。
彼らは今、ちょっとカビくさい書庫の中にいる。3日ほど前から書庫整理を彼がしていたのだが、今日はサヤも手伝ってくれているのだ。普通は、ホタルランプを頭上にともしているのだが、夜目のきくサヤにはそれが必要ない。神様の取ってきて欲しい物を、場所さえ指定すればすぐに取ってきてくれる。

「ねえ、神様?メディってピッコロさんのことのキライなのかな?」
「さあ・・・?どうでしょう?なぜ、そんなことを聞くのですか?」
サヤはぴょんっと、本棚の上に腰掛けて肘をついた。
「だっていつもケンカばっかりなんだもん。」
「お前、ほんとローレによく似てる・・・。」
「ホントに?ポポさん!あたし、ローレににてる?!わあっ!」
彼女は『うれしいな、セッケン使ってたからかな?』と言いながら、本棚の中で横倒しになっている本を縦に並べ始めた。

サヤは、ピッコロとメディの(一方的な)ケンカの原因が自分のせいだと、まるでわかってない。『恋』という単語を理解するまで、まだ多少の時間がかかるにしても、いくらなんでも鈍すぎる。
「さて・・・あのふたりは大丈夫なんでしょうかね・・・?二人で修行なんて出来るのかなあ・・・?」
「うーん。」


神様とポポに心配されている二人組は、瞑想をしていた。お互い、向かい合わせになって瞳を閉じている・・・のかと思ったのだが、『ガンの飛ばしあい』と言った方が良いかもしれない。
ピッコロが瞳を閉じて見本を見せると、メディはぱっちり目を開けて彼の顔をギロリとにらむ。それに気がついて、ピッコロが瞳を開けるとメディは閉じる。
「・・・やる気あるのか?」
「おう、やる気マンマンだぜ!!」
「だったらオレの言うとおりになぜできない?」
「ちゃんとやってるじゃねえかよ。」
やってないだろ・・・と、ピッコロは心の中でつぶやくと『はあっ』とため息をついた。

顔を見合わせたら、いつもケンカばかりの二人がどうして二人で修行が出来るだろう?こんな組み合わせになってしまったのは、悪気のないサヤのせいなのだ。

三日前に書庫整理を手伝ったメディは、カビくさいに加えて換気もあまりよくない書庫の空気にすっかりまいってしまって、今日の手伝いはちょっと渋ったのだった。
「あそこ、空気悪いからなあ・・・、まいったなあもう。」
「そうですか・・・。そしたら、サヤ?手伝っていただけませんか?」
ポポと手合わせ遊びをしていたサヤは、ピッコロの方をちらっ、と振り向いた。
「かまわん。明日やる修行を2倍にすればいい話だ。」
「うん!神様、あたしてつだうわ!」
「ちょちょちょっと待てよサヤ!オレ、ピッコロさんとふたりで修行なのお?」
本人が目の前にいるというのに、心底イヤそうな顔をしたのを見て、神様もさすがにあきれてため息をついた。
「そしたら、メディがまた手伝ってくれますか?」
「オレ、サヤとふたりで手伝うって!」
「あそこの通路は狭いから、3人が限度なんです。昨日やってくれたから、わかっていると思いますけど・・・。」
「あ、そ、そうだった・・・。ぐううう〜〜〜っ!!」

書庫の整理は4人でできない。
ピッコロと二人きりになって修行するのもイヤだ。
しかし、ピッコロとサヤを二人きりにさせるのは、もっとイヤだ。
彼は今、正に究極の選択をしている。
そして、結果は・・・。

「真面目に修行をせんか!!教えている身にもなれ!」
「だからあっ!ちゃんとマジメにしてるじゃねえか!!その目つき悪い目でよっく見てろよ!!ったくう。」
「してないからこうして言っている。少しはサヤを見習え。」
サヤ、という名前がピッコロの口から出てきたのを、メディはムスっとしながら聞いていた。

とんがった耳に、緑の肌。4本指にネコ科の動物のように尖った黒い爪がついている。目つきは悪く、黒い瞳はどこをみているか自分では見当もつかない。
でっぱりのあるマントを翻して歩くシルエットは、どこかの騎士のようで、認めたくないがカッコよかった。
「けど、顔はオレの方が絶対イケてるよな…。」
「どうした?」
「なんでもないっすよっ!!」

メディは『フン』と鼻を鳴らして、足を組みなおした。
なんでこんなバケモンみたいな人になついてんだろ…?サヤは…?
これじゃ、シャラ兄ちゃんになついてる方が、いくらかマシだぜ…まったく。

サヤは山育ちにプラスして、育ててくれた『おばあちゃん』が一足先に逝ってしまったために、『男』という存在を知らなかった。自分が『女』っていうのはかろうじてわかっているようだが、いくらなんでも世間知らずにもほどがある。

「だから、こんな趣味悪い人をスキになるんだよ、サヤってよ…。」

2001/08/14

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