セレブレーション 2
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目の前にいる女性は、明日結婚する…というには、ちょっと幼い顔をしていた。いつもならきれいに化粧をしてくるのだが、今日はなにもしていないのがデンデにもわかった。あごの線でそろえた髪を、ピンでいっぱいに留めている。
ちょっとだけつやつやした唇が上向いて、自分達の名を呼んだ。
「神様、ピッコロさん、久しぶりですっ!」
手を振りながら駆けてくるビーデルは、幸せいっぱいの顔をしていた。笑顔がとってもまぶしい。
そんな彼女と対照的な顔をしているのは…やはりピッコロだ。
「お…お久しぶりですね、ビーデルさん。このたびはおめでとうございます…。けど、いいんですか?明日の用意とかで、忙しいんじゃ…?」
「大丈夫よ、衣装あわせも何もかも終わったし。あたしの準備は万端なの!」
「よかった…それは…なによりです…。」
デンデは、後ろにいるピッコロが一体どんな顔をしてビーデルを見ているのか、とてもじゃないが振り向いて確かめるようなマネは出来なかった。
彼女をそれとなく、うちに帰そうとしたがちょっとムリのようだ…。
ビーデルはそんなことは露知らず、ピッコロにも声をかけた。
「ピッコロさんも、お久しぶりですね。」
「…明日会えるのに、なぜわざわざ来た?」
な、なんでそういうこというのかなあ、ピッコロさんは…。
デンデは思わず頭を抱えてため息をついたが、ビーデルの方は大して気にもせずピッコロに話し続ける。
「あは…、今日じゃなくちゃダメだったんです。悟飯くんの方はてんてこまいだから、絶対にここには来られないし。ピッコロさんと二人でお話したかったんです。」
二人で話がしたい、というセリフにデンデは思わず「ええ?」と言ってしまった。
(サシで勝負と言ってるのか?この娘は?)
(なっ…!そっ…そんなわけないでしょうっ!!ピッコロさんと勝負したって、ビーデルさんが勝つわけないじゃないですかっ!?)
(うむ…それもそうだな。)
二人のナメック星人がテレパシーで会話が出来る…というのは、悟飯に聞かされているので、ビーデルももちろん知っている。
急に顔を見合わせて、慌て始めた二人をクスっと笑うと、「神様、いいですか?」と言い、神殿のタイルの庭にはピッコロとビーデルだけになった。
向かいあった(…といっても、かなりの身長差があるのでピッコロが上から目線で押さえつけているようだ。)二人の間に風が吹いた。

普段は心地よいそよ風さえ、決闘前の一陣の風のように見えてしまう自分の頭を抱えながら、デンデは心配そうに二人を眺めていた。


「オレに話とは…なんだ?」
「コレです。」
ビーデルは桜色の封筒をピッコロに差し出した。
彼は素直に受け取って、中を開けると明日の日付で結婚式の招待状が入っていた。
「…これは?」
「結婚式の招待状です。神様にも渡したんですけど、どうしても直接手渡ししたくって。前に来た時、ピッコロさんがちょうどいなくて…。」
そういえば、そうだ。
彼は悟飯たちが来た気配を感じて、神殿を離れた時があったのだ。
…そこまでして、オレは悟飯がだれかのモノになるのがイヤなのか…?
ピッコロは自分のした行動にさすがに呆れて、ため息をついた。
「……ピッコロさんは、悟飯くんがあたしに取られると…思っているんでしょ?」
「おまえは心が読めるのか?」
「読めなくたって、わかりますよそのくらい…。」
そう。ビーデルじゃなくても、ピッコロ以外の者ならだれだってすぐにわかるだろう。
ピッコロが悟飯のことになると、途端に冷静さを失って感情に素直になることくらい。
絶対に、彼だけにしか話されることのない、優しい声があることも。
ビーデルは、長いまつげをぱちぱちさせてにっこり笑った。
「悟飯くんて優しいし、カッコイイし、面倒見もいいですから…。女の子にすごくもてるんですよ。」
「………。」
「でも、あたしは悟飯くんに話しかけてくる女の子達よりも、だれよりも、嫉妬していた人がいます…。わかりますか?」
「…さあな?」
「あなたです、ピッコロさん。」
ピッコロは思わず目を見開いて、やっと彼女の方を見た。


「だって、悟飯くんたらピッコロさんの話ばっかりしてて。しかも、すっごく楽しそうに!ふたりがお話しているときも、あたしが入れない空気があって…。」
ピッコロさんが、あたしの知らない悟飯くんをいっぱい知っているのが、すごくすごくくやしかった…と、ビーデルはすこし頬を赤くして、つぶやいた。
「好きなひとのことなら、どんなことでも知りたいのに、そのスキなひとは別の人の話ばっかり!!しかも、その別の人とは、あたしには絶対に入れないような絆があって、とってもつらかった。なんでよりによってピッコロさんなのか。…今、思えばほんとにバカみたいなんだけど…。」
彼女は手を合わせてくすくす笑いながら、ピッコロの方を見た。
ピッコロは、少女の悩みのタネに自分がなっていた事に少し驚いていた。そんなことで、彼女がつらい気持ちになっていただなんて、今の今までちっとも知らなかった。
彼と、悟飯との思い出は文字通り腐るほどある。荒野で(強制的に)修行させたこと、ナメック星のこと、地球にもどってからのこと、父親が亡くなってからのこと、そして今に至るまでずっと。
その中で、彼女が登場してきたのは、ごく最近のことなのだ。
「悟飯くんがね…プロポーズしてくれたの、ピッコロさんのおかげなんですよ。」
「ぷろぽーず…?」
「結婚してくださいってことですよっ!」
ビーデルは神殿の入り口の縁に腰掛けて、楽しそうに笑った。ピッコロも彼女のそばに来て、近くの白い柱にもたれかかった。
「あたしが、またピッコロさんのことばっかりおしゃべりする悟飯くんに怒っちゃったんです。どうして、いつもいつも…って。そしたら、ね。」

じゃあ、さ…。ボクとこれからずっと、つくろうよ。思い出をさ。今までも、いっぱい作ったけど、これからも、ずっと。その…だから…。
ボクと…。ずっと、ふたりで…。


「…って。エヘヘ…。」
「そうなのか…?」
悟飯がそんなこと言ったのか?

いつか、誰かに言われたことがある。多分こんなことを自分にいうのはブルマだろう。
『いつまでも悟飯くんが自分のモンだと思っていたら大間違いよ。』と。
まあ、たしかにそうだ。あいつだって、もう立派な大人で『誰かを守っていく』立場になってくのもわかってる。
わかっているのだが…。

「だから、今日はピッコロさんにお礼を言いにきたんです。だって、ピッコロさんが、あたしのキューピッドだもんね。」
「な、…なに?」
ピッコロから機嫌の悪い表情は消えたが、眉間にしわがまだ残ってる。
しかし、ようやく表情はやわらかくなったようだ。

二人の間に吹く風が優しくなったことを感じ取ったデンデは、そおっと外に出てきた。
「ビーデルさん、明日はボク達も行きます…。どうか、幸せになってくださいね。」
「ありがとう、神様!けど、そのセリフは…明日まで持ち越しよ!」
ビーデルとデンデは顔を見合わせてくすくす笑った。


真上にあった太陽がいつのまにか傾きかけた頃に、ビーデルは下界へと戻っていった。
桜色の招待状を残して。
「さあ、明日の用意をしましょう?マントじゃない方がすてきですよ。きっと。」
「…そうだな。」
ふたりは先ほどの部屋に戻るために、神殿の中を歩き出した。
人気がない神殿の中をふたりの靴音だけが響く。
「地球人は、驚くほど成長が早いな…。まあ、それは戦闘型のオレにもあてはまることだが…。」
「え?」
「いつまでもガキだとばかり思っていたのだが…。」
ちまっこい悟飯が、いつのまにかでっかくなって。
いつのまにか、小さな弟まで出来て兄となって。
いつのまにか、自分以外の大切なひとまで出来て…。
そして、その『大切なひと』がこともあろうに自分のことを『キューピッド』なんて言う。

わかってはいるのだ。いや、わからないフリをしていたのか…?
自分の手からどんどん離れていくのが、
とても…。

「きっとピッコロさんは、ビーデルさんとすてきなお友達になると思いますよ。」
「いきなりなんだ?」
デンデはくすくす笑いながら答えた。
「どっちも同じ位、形は違うけど、悟飯さんのことを大切に想ってますから…。同じひとを、同じくらい想えるって、きっとすてきなことですよ。」
頭についたままになっているピンクの羽飾りをいじりながら、デンデはにっこり笑った。
「さ、今度はピッコロさんの頭をかざる羽飾りをさがしましょう?明日は神の加護と、『天使』の祝福を持っていかなくては。」
「おれが『天使か』?」
「ほかに誰が?」
デンデは面白そうに笑いながら彼の手を引っ張って、先ほどの部屋に戻っていった。

明日は晴れになればいい。
大好きなひと達が幸せになるように、
今夜はずっと祈りましょう。


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