継 承 

外に出るときれいな星空だった。パオズ山の空気は、涼しくてあったかくて、いつも通りいい匂いだ。息を整えて目を閉じて、いつも観ているあの気を感じてみる。

……ありゃ、ちょっと緊張しちまってるか。明日の武道会、大丈夫かな。ま、らしいっちゃ、らしい気もすんけど。

あいつ。名前は知んねえけど、あの悪いブウの生まれ変わりってことは知ってる。ピッコロの言った通りだった。あの日からちょっと経って、あいつはこの世に生まれてきたんだ。

あいつがちいせえ時、一度だけ会ったことがある。理由はわかんねえが、あいつが暴れちまったのを止めに行ったんだ。弱いモノをいじめちゃ、ぜってえダメだって言った。暴れるんなら修行しろって。

そのあとは心配するような感じはなかった。穏やかな時の気は子どもン時の悟飯に良く似てるんだけど、強くなりてぇってガムシャラな気の方をよく感じた。そこんとこは悟飯や悟天とはぜんぜん違ってたな。

面白ぇ。いつ会えるかなって、ずっと楽しみにしてたんだ。
そうしたら今朝、天下一武道会場んとこに来てるじゃねえか。びっくりしたけど嬉しかったなぁ。そんでオラも久しぶりに出ることにしたんだ。あと、パンもな。

あ、そういやパン、もう寝たかな。ちゃーんと寝とかないと、リキが出せねえから……。お、悟飯の部屋、灯りがついてんな。

ちょっと2階の窓まで上がってみた。悟飯の奴、相変わらず机に向かって夢中だぞ。

「あれ。父さん?」
悟飯がすぐ気づいて窓を開けて、オラは部屋に入った。悟飯がベッドの上の本やら紙やらを片側に寄せてくれたから、オラはそっちに座った。
「どうしたんです?」
「いや、パンのやつ、ちゃんと寝たかなと思ってさ」
「もうぐっすりですよ。明日の道着、今から着るってきかなくて、そのまま寝ちゃった」
「はりきってんなー。でもホント、ぜんぜん緊張してねえのな」
「っていうか、まだよく解ってないんじゃないですか?」
「ハハッ どっちにしろ、いいセン行きそうだな。でもおめえも出れば良かったのにさ」
「いやー、僕、今ちょうどマトメに入ってるから、ムリですよ」

悟飯が頭を掻いて笑った。悟飯のでっかい机の上には沢山の紙がある。ベッドの上から床まで、開いた本やら紙の束やら。最近、悟飯がどこかにぶっ飛んで行っちまうことが何度もあった。調査のモレを埋めに行ってるんだと。学者の世界には「学会」っていう武道会みたいなのがあるんだけど、直前の追い込みが大変みてえなんだ。武道会みたいなもんなら直前は身体休めた方がいいと思うんだけどなー。そこんとこは違うらしい。

「しかし、おめえもよくがんばんな」
「だって、僕の一番やりたかったこと。もうすぐ軌道に乗りそうなんだもの。絶滅危惧種の個体を繁殖させるためのフィールド、これでうまく行けば、もっと大規模にできるんですよ! ブルマさんにも協力してもらってるんですけどね、ほら、これが……」

悟飯が色々説明してくれる。オラには全部がわかるわけじゃねえ。でもブルマは、歳から考えたら凄いことをやってるんだと言ってる。何よりよーくわかるのは、悟飯がどんだけワクワクしてるかってことだ。この目の輝き。気が高まってるわけじゃねーのに、悟飯の周りにふわっと光が見える気がする。オラが強ぇ奴と会った時とおんなじ……。おんなじだ。

「おめえ、今、ホントに楽しいんだな」
悟飯の話が一段落ついたトコでそう言うと、悟飯が嬉しそうに笑った。
「はい」

良かった。
良かった、ほんとに。

これが悟飯の道だ。悟飯の生きてく道だ。

ワクワクすること、やっていけるのが、一番幸せだかんな。

「あ、でも、もちろん明日は絶対見に行きますよ」
「おう。応援に来てくれっか」
「パンの応援ですからね」
「あいつ、応援なんか無くても大丈夫だぞ」
「もう。父さんだって大丈夫でしょ?」

笑った悟飯がすっとまじめな顔になった。
「父さん。誰が来ます? 悟天から聞きました。すごそうな奴ってそれは……」
悟飯の黒い瞳が怖いくらいにオラを見つめてくる。丸い瞳の中心がぐんと深く、遠くになったような感じ……。そっか。こいつ、そんなこと心配してたのか。

「あいつは敵じゃねえ、悟飯。安心しろ」
「ほんとに?」
「おめえだってわかるだろ。武道会の会場周辺に、へんな気のねえこと」
「そうは思うんですけど……。なんかそういうの、僕、あんまり自信なくて」
思わず笑っちまう。ったく、強がりも見栄も、なんもねえな、悟飯は。

「あのブウの生まれ変わりなんだ。ピッコロから聞いたことあんだろ」
「はい。あの世でも閉じ込めておけないから、父さんの居る星にまた生まれてくるって…」
「そうだ。オラはずっとあいつを観てた。子どもんときから強くなりたいって、それだけ考えて修行して、今日、天下一武道会に出てきたんだ」
「そうだったんですか……。そういえば……」
「ん?」

「ブウが言ってたなと思って。『敵もいないのに最強になってどうするんだ』って。ブウは他人を平気で踏みにじって……。確かに悪者だったけど、何かと戦いたいって気持ちと、それに勝ちたいってことについては、純粋だった気がします」
「だな。その純粋なトコが、アイツの本質だったんじゃねえかって、オラは思うんだ。だから会えるのがすごく楽しみだ」

悟飯が黙って頷くと、ちょっとだけ寂しそうなカオをした。
「済みません……」
「何が?」
「…僕は結局、父さんみたいになれなかった。潜在能力はあるのに、修行をさぼってばかりで……」
「そうだな。ホントにおめえは、いつまで経ってもわかってくれねえ」
「……ごめんなさい」

オラは立ち上がって、悟飯が小さい時によくやったみてえに、その頭をぽんぽんと撫でた。髪が、ちょっとクセがあって柔らかくて昔とおんなじで、なんだかひどく懐かしい感じがした。

「こんだけ勉強一生懸命やってきて、あのブルマも感心するぐれえ早く学者になって、何よりそうやって目ぇ輝かせてワクワクして…。それでいいのに。そうやって謝ることなんか、これっぽっちもねえんだって、まーだわかってねえ」
「え……?」
「おめえはそれでいい。オラ、何度もそう言ってきたつもりなのにな」
「父さん……」

「なあ、悟飯。オラは子どもん時からいっつも壁とか山みたいな奴がそばに居た。最初はじっちゃんや亀仙人のじっちゃん。天津飯やピッコロ。そのあとはベジータとかフリーザとか…。一つ追いついたかなと思うと、また強ぇ奴が出てくる。またそいつを追っかける。そんなことやってる間にサイヤ人の血ってやつを抑えられて、今、こうしていられるって、そんな気がする」

「そうしながら、父さんは逆にみんなの目標になってるんですよ。ピッコロさんや、ベジータさんや……」
「そういうトコもあるかもしんねえな……。でも、目標やってるのって、退屈だよなーっ」

悟飯からがくっと力が抜けた。なに笑ってんだ。ホントに退屈なんだぞ。オラだって強ぇやつと戦いてえ。時々界王様んトコ行って他の星の困りモノ退治には行ってるけど、なかなかなぁ…。


そうだ。オラの胸ん中で、身体ん中で、ドキドキワクワクするもの。
これを解ってくれってのは、おめえや悟天じゃ無理なんだ。
ベジータのキモチをトランクスが解んねえようにな。

おめえたちに解って欲しかった気もするけど、解んなくて良かったとも思う。
かえって困っちまうコトもあるし。
でも、どっかにおんなじドキドキを持ってる強ぇ奴がいたら、それはそれで嬉しい。

それでそいつがちゃんと、弱い者にも優しくしてやれるような奴なら、

そいつが……。





ウーブ。
ああ。いい匂いのヤツだ。

このパワー。タイミングがなっちゃねえのに、これってすげえや。
動きも悪くねえ。まだムダだらけだけど。

それに何より、負けたくねぇってキモチがびんびん伝わってくる。

いいぞ。
おめえはきっと、どんどん強くなる。

オラが教えてやる。自分で修行できるようになるまでな。

おめえの壁はしばらくオラだ。早く乗り越えてけ。
そうしたらオラはまた、おめえって壁を乗り越える。

強くなれ。ウーブ。
もしオラになんかあっても、おめえが居ればだいじょぶだ。

強くなれ。
なんのためでもなく、ただそうしてえってキモチのままに。

強くなれ。



   (了)    
2006/1/3

昨年の年初短編「水浅葱」の中で、悟空にブウと自分を重ねるような発言をさせました。それで最近になって完全版のラストを読みまして(遅くて済みません)、ちょっと驚いたというか……。なので今年は、あの最後の加筆部分をテーマ(?)にして水浅葱の続きみたいな感じで書いてみました。
職人や芸人の方々もその技を子どもさんが伝承してくれるのが一番嬉しいんだろうなと思うのですが、それができない場合もありますよね。そんなことを考えつつ。筋斗雲に乗るウーブを見つめる悟空の笑顔に捧げられるお話になっていたら幸せです。
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