その道に光あふれ風満ちて
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それは子どもの声とは思えなかった。まるで獣の咆哮だった。あろうことか眼前の敵から目を離し、後を振り返った。トランクスは、そこに信じられないものを見た。
噴出する気流に流れるように天を衝く髪。周囲の空間には局所的な放電現象が生じ、近寄ることさえ困難に思えるほどだ。そんなエネルギーが一人の人間の中に内在することに驚愕し、そしてその人間が、穏やかに無邪気なあの少年であることに言葉を失う。

少年がセルに近づいたと思った刹那、クリリンの側に移動した。トランクスでさえ、捉えきれないほどのすばやい動きだった。驚いたセルジュニアが、しかし自分と同じ小さい体躯を見て、歯をむき出して笑った。少年の方は構えもしない。怪物は至近距離から苛烈な勢いで飛び込んだ。トランクスやベジータがこの怪物に手こずったのは、このスピードのせいも大きかった。
が、少年は、怪物に近い左足をもう半歩動かし、予想を裏切る速さで相手の間合いに入った。投げられたボールをたたき落とすが如く、左腕を一閃する。怪物の頭が爆ぜ、頭部を失った緑の玩具は、ひくつきながら地面に落ちた。

兄弟の一人を殺されて、他の6匹が奇声をあげて少年に襲いかかる。勝負は圧倒的だった。彼らはすべて一撃で破壊された。蹴りに腹をぶち破られたもの。肘を叩き込まれ頭部が鼻のあたりまで陥没したもの。肩から脇腹まで完全に切り裂かれたもの‥‥。少年は仙豆の袋を持った右手を使っておらず、そのうえ返り血も浴びていない。動きが早すぎるうえに、纏う気が、肉片を、液体組織を、蒸発させてしまう。一匹の怪物は、もはや怯えきって動けなくなっていた。

悟飯はそのままふわりと崖の上に上がってくると、トランクスに仙豆の袋を投げた。
「これで、みんなを‥‥」
かろうじて出しているかのような、低い声だ。必要以上にしゃべったら爆発してしまいそうに張りつめて‥‥。トランクスは袋を受け止めて、頷くのが精一杯だった。
ひいっという叫び声が上がって、呪縛が解けた最後の一匹が空に逃げた。少年が無表情にそれを見上げる。超化してさえあどけなさの残っていたエメラルドの瞳は、今は薄く白味を帯びて、どこか酷薄な印象すら与える。トランクスはその顔から目が離せない。少年の唇が弓なりに歪んだかと思うと、その躰が、だっと空に翔けあがった。

一瞬で最後のセルジュニアの前に立ちふさがる。怯えと驚愕の表情を浮かべるその眉間に開いた掌が当てられた。ふっとその掌に気が集まると、怪物は、頭部から、はらはらと蒸発し、消滅した。

***===***===***

ピッコロは悟飯のあまりに強大なパワーと、その容赦のない闘いぶりに唖然としていた。悟飯が敵を上回る力を発揮したことは今までなかったし、ましてやここまでの殺意を示したこともなかった。

闘いにおいて甘さはジャマだ。悟空も悟飯も甘いという意味では変わらない。それでも悟空は、常に持てる能力の限界をなお越えて力を出し切ることのできる男だった。コイツがいればなんとかなるという圧倒的な何かを持っている。それは誰もが認めざるを得ない孫悟空という男の大きさだった。
一方悟飯は、どれだけ闘いと修行の経験を重ねても力の全て出し切ることはなかった。優しくて強さにこだわりを持たない少年‥‥。ピッコロが悟飯に対して常に厳しい師匠であり続けたのは、持っているはずの力を生かしきれないことが、歯がゆく思えて仕方がなかったからだった。

だが、いざその弟子が、一切の甘さをかなぐり捨てて剥き出しの強さを露わにした様を見て、ピッコロの心にはどうしようもない違和感が生じている。そして、そんな自分をずいぶん理不尽だと持てあましていた。
セルジュニアを破壊し尽くした悟飯がセルに歩み寄り対峙する。肉体の疲労と痛みも忘れて、二人を見つめるピッコロの側にトランクスが飛び降りてきた。
「ピッコロさん、大丈夫ですか?」青年が仙豆を差し出した。
「すまん。他の連中は?」
「クリリンさんたちなら無事です。もう渡してきました。あとは悟空さんと父さんですね」
「悟空にはオレから渡して‥‥‥‥おい、仙豆、あと6つしかなかったろう?」
「ああ、オレはなくても平気ですから」
トランクスが仙豆をもう一つピッコロに渡しながら微笑んだが、その顔がすっと真顔になる。
「でも‥‥悟飯さん‥‥信じられません。まるで別人だ‥‥‥‥」
「ああ‥‥‥‥だが‥‥セル以上のパワーであることは確かのようだな。とにかく、おまえは、ベジータのところへ行ってやれ‥‥。あー、トランクス、おまえ、本当に大丈夫なんだな?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます、ピッコロさん」
こんどは本当に心からの笑みを浮かべて、トランクスが飛び上がった。

悟空は元の位置からあまり離れていなかった。躰を引きずるようにして崖の縁に近づこうとしている。あわてて近寄って仙豆を渡した。
「すまねえ」悟空は小さな声で言うと、魔法の豆を受け取って口に入れた。
「おまえのほうが正しかったようだな、悟空」
結局悟空の思惑通り、悟飯はその秘めたる力を顕現させた。さっきの自分の狼狽ぶりが少し気恥ずかしくなった。あの子どものことになるとどうも冷静でいられんようだと、内心苦笑するしかない。

だが、悟空は座り込んだまま、ピッコロが驚くほどの真剣な顔で、すでに闘い始めた息子を見つめている。その唇からぽつりと言葉が漏れた。
「‥‥違うんだ‥‥」
「なに?」
「あれは‥‥違う‥‥。あの気は‥‥違うんだ‥‥」
悟空が、苦しげな声で言った。

***===***===***

他人の悲鳴に耳を貸さない化け物どもが‥‥紙くずのように、くしゃくしゃと、はらはらと、消える。当然だ‥‥。当然のこと。当然のことが起こっただけ‥‥。

その怯えた顔は、後悔か、ただの恐怖か。どっちだ‥‥?
‥‥どっちでも、いいや‥‥。
おまえたちが、みんなに与えた痛みや恐怖や苦しみを、自分の身で味わって、死ぬなら。

なんでもできる気がする。ちらりと思っただけで遙かな距離も翔べる。きっとどんなものでも貫けるだろう。頭痛が無くなった。とても軽くなった。でも息はすごく熱い。躰もだ。手も足も早く速く動きたいと言ってる。大きな声を出したら、きっと爆発したように動く‥‥。

爆発して‥‥あっさりと、殺してしまう‥‥。そんなの‥‥ダメだ。

何度も何度も、頼んだ。もうやめて‥‥。やめてくれって‥‥。なのに、聞いてくれなかった。
ボクの頼みと逆のことを、わざと‥‥。どんどん、ひどい‥‥ことを‥‥して‥‥。
ぜったい、ゆるさない‥‥。自分のやったことを後悔させてやる。
おとうさんたちを苦しめたことも、ボクを怒らせたことも‥‥。


面変わりした険しい顔。薄緑の瞳がただ冷徹な光を宿して睨み付けてくる。自分の分身七体があっというまに破壊された。相手の躰にかすり傷の一つも付けられずに‥‥。ここまでの力を持っているとは予想だにしなかった。
「‥‥それがおまえの真の力とやらか‥‥」セルが少年に言った。
「さあね‥‥」荒い息をなんとか封じ込めるように、低く、短く、少年が答えた。
「では‥‥試させてもらおうか‥‥」ゆっくりとセルの躰が沈んだ。

全身のバネを最大限に利用して少年に突っ込んだ。セルの顔からは嘲笑が消えていた。セルゲームが始まってから初めて、彼は完全に集中していた。闘うために作られた生命体。ちょっとした切り替えで、躰の全ての機能は戦闘に最適な状態に調整される。本能は肉体による物理的な打ち合いを求めた。少年はセルの攻撃を次々に無効化していくが、セルのほうも今度はむやみに焦ったりはしなかった。フェイントと効果的な連携。見ている連中もその巧みさに舌を巻いた。相変わらず少年の側から攻撃をすることはない。だが、その態度は明らかに最初のそれとは違っていた。

セルの全体重をのせた頭付きが両腕でブロックされた。少年が顔の前でクロスした腕を戻した隙をついて、力のこもったストレートを叩き込む。完全に顔面を捉えたタイミングだった。が、その拳は少年の顔の寸前で止まった。引くことも、ましてや押し込むこともできない。
いっぱいに開かれた小さな左掌がセルの右拳を受け止めていた。驚いた表情を浮かべたセルは、しかしそのまま右腕を曲げ、肘打ちを叩き込もうとした。少年は受け止めた右拳を固定したまま外側にずらす。肘が伸ばされ自由がきかなくなった。動かせない拳にセルが歯がみする。信じられない握力だった。

「本気、出せよ」
拳の脇からのぞいた薄緑の瞳がセルを睨め付ける。少年の口調は低く、吐き捨てるようだった。
思わずカッとしたセルがその顔めがけて左拳に弧を描かせた。少年は掴んだセルの右拳をぐんと押しやる。セルの重心は後ろによろめき、左フックはただ宙を切った。

このガキ‥‥!
セルが両の拳を握りしめた。大きく開いた口から怒りを含んだ気合いが響き渡った。細胞の全てをフルに活性化させる。体内に蓄積したエネルギーを躰の隅々に行き渡らせた。セルの躰から放出する気がどんどん増幅していく。思わず耳をふさぎたくなるような圧力が、空間を走った。

悟飯はセルを見ている。その全ての力が発揮されるのを待っている。
今ならわかる‥‥。なぜ、おとうさんが、あのときナメック星に残ったか。なぜフリーザを自分の手で倒したかったのか‥‥。ボクもおまえを倒す。フルパワーになったおまえを‥‥。思い知らせてやる。フルパワーになっても、おまえは、勝てないんだ‥‥‥‥!

セルがゆっくりと視線を下げて、少年の顔を見つめた。
「どうだ。これが私の真のパワーだ」
「たいしたことないな」少年が答えた。
「冗談が過ぎるな。後悔することになるぞ」
「後悔するのは、おまえのほうだ」

少年以外誰も、セルの動きが見えなかった。
あっと思った時にはセルの右の拳が少年の腹部に入っていた。小さな躰がくの字に折れ曲がり、勢いで金色の髪が前になびいた。セルは右手の手応えを噛みしめた。思わずにやりと笑みが浮かんだ。

と、その笑みが途中で凍り付いた。少年がゆっくりと顔を上げる。無表情だった口元が今やはっきりと嘲笑を刻んでいた。幼い顔立ちに浮かぶその笑みが、冷たい瞳が、ひどくアンバランスだった。小さな左手がセルの右拳から右前腕を滑るようになで上げ、それが肘の位置で止まった。同時に飛び上がってきた躰がセルの肘についた左手を支点にくんっと回転する。少年の右足が無防備なセルの顎をきれいに捉えた。頭部と頸部に最も衝撃を与えるピンポイントに爆発的な蹴りが入った。

セルの視界が白い光でいっぱいになる。後ろに倒れそうになった上半身を背筋でなんとかささえ、前に重心をシフトして態勢を立て直そうとした時、胃袋が口から飛び出るような衝撃がセルのみぞおちに生じた。すでに間合いに飛び込んでいた少年の強烈な右拳が、セルの躰にめり込んでいた。子どもは手を戻すことなく、そのまま体重をのせて、拳を振り抜いた。

セルは百メートル以上も吹っ飛んで地面に崩れた。なんとか上半身だけ起きあがったものの、視界は今度は暗転していた。立ちあがろうとするが立ち上がれない。頭部への衝撃で運動中枢が一時的に麻痺していた。次の攻撃に備えなければと一瞬パニックになる。その顔に、はっきりと恐怖の表情が浮かんでいた。少年は距離を置いて、セルのその様子を、ただ見ていた。

「悟飯! イタズラに追いつめんな! おめえなら、もうカタをつけられるはずだ! ヘタに怒らせたら、何すっかわかんねえぞ!!」
少年の耳に、父親の叫びが聞こえてきた。
「いやだ! もっと痛めつけてやるんだ! みんなをあんなに苦しめたむくいだ!!」
悟飯が叫び返す。その激しさに少年を知る者全てが息を呑む。悟空は必死に言葉を重ねた。
「オラたちは大丈夫だ! だから、落ち着けっ」
「いやだっ! コイツをぜったい許すもんかっ!!」
「悟飯っ!」
「いやだぁ―――――っ!!」
咆哮と共に、少年の躰が爆発するかのようなエネルギーを放出する。それを見て悟空すら言葉を失った。その拳が蒼白になるほど握りしめられる。爪が掌を傷つけ血が滲むがまったく気付かない。

あれは怒りじゃねえ。憎しみだ‥‥。セルのことが憎くてしょうがねえんだ‥‥。

闘いの中で受ける躰の痛みはなんとかこなせる。だが大事な人間に降りかかる苦痛や死は‥‥‥。特にそれを目の当たりにしてしまった時の心の痛みは‥‥‥。悟飯は自分たちの命をエサに精神的に追いつめられ、その憎しみを極限まで増幅させてしまった。今は、ただ一つのことしか見えていないはずだ。セルを追いつめ、後悔させて殺す、と‥‥‥‥。

オラがカタをつけるか‥‥。今のセルなら、なんとかなる‥‥。
だが‥‥きっと悟飯は納得しねえ‥‥。そうしたら、アイツの憎しみは、まんま残っちまう。
あのイヤな感覚‥‥。無くすには、自分でそこまでいかなきゃなんねえ‥‥。

悟空には息子の気持ちが痛いほどわかる。フリーザにクリリンを殺された時、サイヤ人にみんなを殺された時‥‥。ただ、どちらの時も、闘いの楽しさにつられていつもの自分が戻ってきた。敵と自分を、ただ倒す立場と倒される立場として、感情を排してごく自然に捉える。悟空のあり方は常にそうだった。しかし、闘いを好まないあの子を、いったい、どうしたら‥‥‥‥。

悟飯‥‥。おめえに、こんな思いをさせちまうなんて‥‥!!

***===***===***

セルの視力が戻る。自分を見る薄緑の瞳と視線がぶつかった。一瞬でも恐怖の表情を浮かべてしまったことが許せない。究極の生命たるこの自分が、ガキに殴られて恐怖するなど!
セルが宙に飛び上がった。全身の気を集めた。地球ごと、吹き飛ばしてやる‥‥。両手を中心に膨大なエネルギーが収縮していく。もはやあのガキを生かしておくわけにはいかない。なんとしても、どんな手段を使っても殺す!

気功波を放とうとした瞬間だった。セルの目の前にいきなり少年が出現した。この爆発的な気の圧力を苦にもせず飛び込んできた。少年は輝くセルの両手に包むように自分の両手を重ね、信じられないことに、その状態から自分の気功波を打って切り返してきた。そのまま大きく後ろに離脱する。
慌てて自分の気を散じたものの間に合わなかった。暴発した銃の銃身のように、金の光がセルの両腕を裂きながら遡る。驚きと苦痛の喚き声の中で、セルの上半身は左右から大きく抉られた。
セルが地面に落ちて横倒しになった。ほとんど上下に分断されそうなほど躰を削られて、立ち上がれない。子どもは攻撃してこない。再生を待っているのだ。その態度に、怒りで目がくらむ。

なんとか再生が終了して、よろめいて立ちあがった時だった。猛烈な吐き気がセルを襲い、外から見ていてわかるほどに食道がふくれあがると、人間を一人吐き出した。18号だった。少年の与えたダメージは、もはやセルが完全体でいることを許していなかったのだ。

「なんだ、ここまでか。おまえも、もう、終わりだな」
少年が言った。容赦のない声だった。近寄ってくる。究極の生命のこのオレが、こんなガキに‥‥。それも完全にコイツのペースで‥‥! オレは‥‥!
「くっそぉおおお!」セルが絶叫した。その躰がみるみると膨らんでいく。
「なっ!?」
少年が驚愕の表情を浮かべた。セルは風船のように膨らんで、もう歩くこともできない様子だ。
「オレは自爆する! 地球を丸ごと道連れだ! おまえ達もな!」

「なんだとっ」見ている全員が驚愕する。
「そんなことさせるかっ!」少年が重心を沈め、一気に飛びかかろうとする。
「ムダだ! 攻撃したとたん自爆するだけだ! もう終わりだ! 全部、終わりだ!! 後悔しろ! このオレをバカにしたことをな‥‥!」

握りしめた小さな拳が震えた。

その震えが全身に伝わっていく。腕が、脚が、小刻みに震え始める。ブラッドシフトが起こったかのように蒼白なその顔と手。何か言いたげに口を開いたが、唇がわななくだけで用をなさない。

地球が‥‥壊れてしまう‥‥。
なんで‥‥、そんな‥‥ことに‥‥?
ボクは‥‥セルを‥‥倒せた‥‥はず‥‥なのに‥‥。

薄緑だった瞳がエメラルド色に変わり、まるで焦点が戻るように光が宿る。畏怖に満ちて‥‥。
小さな躰が、何かに共振するかのようにがくがくとおののきはじめた。耐えきれず、膝から地面に崩折れる。上半身すら支えきれずに両手を地についた。頭髪がすっと黒くなり、ぱさりと顔にかかる。
「あ‥‥。‥‥あ‥‥‥‥」
声とも息ともつかない音が、うずくまった子どもから聞こえてきた。

幾億幾兆の命集う星を破壊する。その最後の釦を押させたのは‥‥‥‥。

それは‥‥一人の人間に、背負いきれる事実ではなかった。

***===***===***

ごく自然に、そしてあっさりと、考えは決まった。

肩越しに長身の異星人を見上げる。さしものピッコロも茫然とした表情を浮かべていたが、こちらの視線にすぐに気づき、問い返すように見返してきた。悟飯のこと頼むな、と言おうとしたが、口をついて出たのは自嘲気味の言葉だった。
「ピッコロ。やっぱ、オラ、父親失格だったな」
「悟空‥‥?」

仲間に身体半分向きなおった。いい連中だった。一緒にいる時間はどんな時であれ、楽しかった。考えてみれば、ムチャなことばかりやる自分に、よくもまあ付き合ってくれたものだ‥‥。
「わりいけど、あと、頼むわ」
「おい‥‥悟空?」‥‥いちばん大事な友が、一歩、近づいてくる‥‥。

だめだ。時間がねえよ、クリリン。
でも、オラ、みんなに、すっげえ、感謝してっぞ。
「バイバイ、みんな」

「悟空っ!」
セルの気を捉えて翔ぶ瞬間、親友の声が耳を打った。


セルのすぐ側に移動した。息子が驚いて顔をあげた。その顔を心に焼き付けんばかりに見つめた。微笑んで、言った。
「悟飯、本当によくやったな」
「お‥‥おとうさん‥‥?」

怯えきった表情だ。いっぱいに見開かれた黒曜石の瞳。今にも泣き出しそうな‥‥。
大丈夫だ、大丈夫だ‥‥。もう、何も‥‥心配するな‥‥!
思いきり抱きしめたかった。この腕にもう一度、息子の躰を、声を、全てを、感じたい‥‥!!
‥‥‥‥だが‥‥‥‥。

「おめえが、大好きだぞ」
ふっきるようにそう笑うと、すっと集中した。

目の前に界王の驚いた顔があった。すまねえ、と謝ろうとした時、灼熱の圧力が襲ってきた。
それが痛みなのか熱さなのか、もう区別がつかなかった。

意識の無くなるその刹那に、悟空は静かに、だがはっきりと、息子の名前を呼んだ。




北の界王と光の子を道連れに怪物がばらばらと吹き飛んだあと、
空間には憎悪と明確な意志が残った。
小さな部品の一つが急速に活動を始めた‥‥。



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